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【70】チンチラちゃん包囲網!
しおりを挟む王宮から屋敷に戻った。
色々なことがあり正直疲れた。昼はけっこう過ぎていたから、食事はお茶とサンドイッチの軽食で軽くすませた。
うとうと寝ていたら、いつまにやらダンダレイスのでっかい身体に乗っかるようにして、居間の寝椅子に寝転ぶ奴の身体の上にいた。小さなチンチラではない今の自分は成人のおっさんの身体だ。これはどんな体勢だ?
「寝ていたか?」
「ああ」
「で、どうして俺がお前の上に乗っかっているんだ」
「私が運んだ」
「だろうな」
いや、だからなんで寝椅子に直接寝かせずに、お前の上にのっけて抱えているんだ? といいたい。ダンダレイスは寝ておらず、彼は片手に持っていた革張りの本をぱたりと閉じた。
「身体のどこかがしびれていないか?」
「いや」
「さすが頑丈だな」
ぺちぺち分厚い胸板を叩いていると、その手をつかまれた。じつと赤銅色の瞳がこちらを見る。モップ頭じゃなくなってよかったのは、こうして、視線が簡単に合う様になったことだ。
いや、よくないのも半分か。どうもこの瞳にじっと見つめられると落ち着かない。そこになにやら秘められた熱が。
「あなたが、ずっと一緒にいると言ってくれてよかった」
つかまれた手を口許に、その指先に口づけられる。おいおい、それはご婦人に対する礼だろう? おっさんにしてどうする? と思う。
「うむ当分世話になる」
とりあえず爵位と年金はもらうことが出来るようだから独立して暮らすにしても、当分はこの屋敷に世話になることになりそうだ。
「“当分”では無くて“ずっと”だ」
「ああ、それは長い付き合いになるだろうからな。私がこの屋敷を出ても」
「なんで出る?」
「なんでって、そりゃ爵位はともかく年金がもらえるなら、どこか小さな家でも借りてだな」
そうなるとメイドの一人や二人は雇わねばならないか? と思う。しかし、使用人というのも管理が面倒くさい。
なんなら、この屋敷から掃除人だけ寄こしてもらって、食事は外でもいいか……と考えたところで「その必要はない」と不機嫌な声でいわれる。
おや、この男でもこんな声出すのか? というか、よく見えるようになった顔も、むっつりとしている。
「あなたは私とずっと一緒なんだ。スティーブンだってこの屋敷の者だって承知している」
「そりや、お前もこの屋敷の者もかまわないというだろうけどな。しかし、チンチラのちんまい身体ならともかく、俺はこの“なり”になったんだぞ」
見た目アラフォーの髭のダンディな紳士が、いつまでも他人の家に居候とは風聞がよろしくない。
「あなたと私は他人ではない」
「そのいいかたはなにか、誤解を招きそうではあるが。しかしな、レイス。いくら勇者と聖人とはいえ、大の男が理由もなしにだらだらと、同居を続けるというのはなぁ」
「では、理由があればいいのだな」
「ん? んんんっ!」
唇が指に触れていた手をぐいと引かれて、唇を重ねられていた。間近にぼやけてみえる赤銅色の瞳。こっちも見開いているが、あっちも見開いたまま、キスのエチケットとしてどうなんだ?
「これであなたにもわかっただろう」
「…………」
たしかに十分にわかった。
「私はあなたをあ……」
と言いかけたところで、アルファードはしゅるりと縮んでチンチラになって。
逃げ出した!
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
小さなチンチラの姿で逃げてしまえば、捕まらないと思っていた。
が、広い屋敷の中、アルファードは跳び回るはめになった。
ダンダレイスの指令の元、スティーブン以下の使用人軍団によって。
『フリィは今、書斎の飾り棚の中にかくれた。カップは割っても構わないが、フリィは傷つけるな』
ダンダレイスの念話がチンチラの小さな頭の中にも響く。飾り棚の扉をひらいて、そっと入りこんでくるメイドさんの白い手。さらに震える声で「旦那様は割ってよいとおっしゃいましたが、これはモーレイ家代々、秘蔵の品で……」と言われてしまえば、出るしかないではないか! メイドさんの肩を台代わりにぴょんと跳ねて、扉の隙間から廊下へと出る。
ならば、外へと出ようとちんまりお手々で天窓をこじあけようとしていたら「ああ、アルファード様、僕には手が届きません。このままアルファードをお逃がししたならば、旦那様に……なんてお詫びを」なんて少年従者に涙目で言われてみろ。脱出するのを諦めて、するする柱を降りるしかないではないか。
しかし、ダンダレイスの奴。なんで自分の居場所がわかるんだ! 今も「フリィは二階西の階段の飾り柱のところに隠れている。薔薇のくぼみだ」なんて言い当てられてあわてて飛び出したら。
大きな手にふわりと包みこまれた。絶妙な力で脱出できない。首だけ指の間から出してにらみつける。
「捕まえたぞ、フリィ。もう逃がさない」
運ばれながら、私とあなたは繋がっているんだから場所はわかるといわれた。たしかに勇者と聖人。アルファードだって探ればダンダレイスの居場所はすぐにわかるのに、小さなチンチラの頭から吹き飛んでいた。
「だから、この屋敷から脱出して遠くに逃げても無駄だ」
にっこり微笑んでいう言葉じゃないぞ、おい! このストーカー!
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