【完結】死刑執行されたら、勇者として生き返って即魔王を倒してました~さらに蘇った奴の愛人になってました。なんでだ?~

志麻友紀

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“元”魔王が他のヤツとの結婚を許してくれません!……いや、勇者もしたくないけど

第14話 史上最大のペテン その二

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 バルダーモもまた師であるグラシアンに並ぶ腕の剣士だ。
 だからこそ、周囲の声援をよそにその心は嵐のようだった。いくら打ち込もうともヴァンダリスはそれを受けて一歩も下がることはない。
 そのクセ、自分から打ち込むことはけしてない。まるで、どこかためらっているような風情だ。まったくすきのない様子も苛立つ。

「私を馬鹿にしてるのか!」

 苛立ちさけべば。「いや、違うんだが」とまったくヴァンダリスらしくもなく、歯切れが悪い。

「一騎打ちを申し込んだのはそっちだぞ! 本気で戦うつもりもないのなら、魔界に帰れ!」
「いや本気で戦うのは……ああ、本気になるのはその聖剣に対してでいいのか?」
「なに?」

 初めてヴァンダリスから打ち込んだ。しかも、なぜか聖剣にまとわせた、聖なる光を消して、剣としての武器のみでだ。
「ふざけているのか!」
 聖魔法を使わないなど! と、バルダーモは激情のままに、こちらは光をまとわせた聖剣を同じく叩きつけた。

 が。

「な……」

 バルダーモの輝く聖剣とヴァンダリスの光を消した剣がぶつかりあった瞬間、びきっとヒビがはいったのはバルダーモの剣。
 白銀の剣は砕け散り、飛んだ切っ先が広場の地面に突き刺さる。バルダーモはぼう然と、半ばから折れた聖剣を見つめる。

「俺の勝ちだ」

 ヴァンダリスはバルダーモに向かい、その剣を向けることもなかった。彼の手には新たな聖剣が無傷である。そのことが勝者の証だった。
 この一瞬の結末に周りを囲んだ者達もまた、ぼう然としている。「信じられない」「あの新たなる聖剣が本物なのか?」という声が聞こえる。「やはりヴァンダリスこそが、真実の勇者なのか」とも。

 “本物”“真実”という言葉にびくりとバルダーモの肩がはねる。そして、カラリと彼の手から半ば折れた聖剣がおちた。「私はまたも選ばれなかった……」と彼はつぶやく。

「私が真実の勇者ではないから、私は、私のすべてはいつわりだというのか!」

 バルダーモが、銀の甲胄の内側、女神の印ともにさげていた二つの革紐を引く抜く。
 そこには赤と青の石が揺れていた。彼はその二つの石を握りしめて。

「ならばもっと早く、私は、私自身の手で破滅すべきだったのだ!」
「よせ! バルダーモ!」

 彼が己の首からその革紐を引き抜き、二つの石を投げ捨てようとするのと。
 ヴァンダリスがその手を伸ばし、彼に触れたのは同時だった。
 瞬間、二人の身体が光に包まれる。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ここは? とヴァンダリスは思う。自分は聖堂広場にいたはずだ……と。
 だが、見覚えある空間でもあった。なにもなくまっ白で、そして、目の前には動く絵の様な風景が映っている。

 これは、女神の奇跡でヴァンダリスとネヴィルの魂が入れ替わった、そのときの光景を見た場と同じだ。
 また、入れ替わりが起こったのか? と思ったが、しかし、動く絵に映っているのはヴァンダリスが見たこともない場所だった。

 大きな貴族の屋敷だ。そのバルコニーに二人の少年の姿があった。片方の少年の面影には見覚えがあった。あれはバルダーモ。
 もう片方の少年には見覚えがないが、二人の少年の服装には明らかに差があった。貴族の子弟らしい服装の少年のバルダーモに対して、もう一人の少年はこぎれいではあるが、使用人としてのそれだったのだ。

 だが、二人の仲はよさそうだった。バルダーモは明日、翼の砦に向かうと瞳を輝かせ、勇者に選ばれたからには必ず魔王を倒してみせると、宣言するかのように青空を見上げる。
 たいして使用人の少年の表情は暗かった。それにたいしてバルダーモも少し悲しそうな顔で「お前とお別れだと思うと少しさびしい」と言う。そして、彼が首元から取り出したそれに、ヴァンダリスは息をのむ。

 それは革紐に通された青い石で、使用人の少年がバルダーモにうながされるようにして、その首元から赤い石を取り出した。おずおずといった風に石を取り出したのに、使用人の少年は突然意を決したように、バルダーモの持つ青い石に自分の赤い石を重ねた。
 雷に撃たれたようにはねる二つの少年の身体。その瞬間、魂の入れ替えが起こったのだと、ヴァンタリスは理解した。自分とネヴィルが入れ替わったように、やはり……彼もそうだったのだと。

 そう、バルダーモの首に赤と青の石が下げられているのを見たときから。

 だが、そこでヴァンダリスは気付く。どうしてバルダーモは赤と青の石を両方持っている? 入れ替えが行われたならば、彼は赤い石のみを持っているはずだ。

 それはまったくの偶然の悲劇だった。

 魂の入れ替えが行われた、使用人の少年の身体がぐらりとゆらぎ、バルコニーの柵に勢いよくぶつかったのだ。そのまま、その身体は柵を越えて滑り落ちて下へと。
 バルダーモとなった少年があわてて我に返り、手を伸ばす。が、彼が掴んだのは少年の身体ではなく、その首にかけられた青い石だった。

 革紐は千切れ、少年の身体は落下していった。そして、その身体は石畳の車寄せに叩きつけられて、ぴくりとも動かない。それに気がついた使用人達が慌てて数名駆け寄る。
 バルコニーに残されたバルダーモは震える手で青い石をつかんだまま呆然としていた。それも、バルコニーにいた彼に気付いた、執事らしき男がやってきて彼の肩を抱いて室内へと入っていく。

 ヴァンダリスとネヴィルのときは、互いの身体が入れ替わった瞬間、互いが互いだと思いこむ暗示がかかった。ヴァンダリスも自分が処刑される寸前まで、自分の本当の名はヴァンダリスだと思い出さなかったぐらいだ。
 入れ替わった片方が死んでしまったせいなのか。それとも赤と青の石の両方を手にしたからか、バルダーモの中には自分が入れ替わった“偽物”だという記憶が残った。

 事故とはいえ使用人の少年は亡くなり、彼はバルダーモとして生きねばならなかった。そして、勇者となって、自分が偽物でないことを証明しなければ。
 だが、そこにヴァンダリスがあらわれ、彼は勇者にはなれなかった。さらにはそのかわりとばかり与えられた枢機卿の地位によって、この世界の秘密を、勇者と魔王の戦いがすべて仕組まれたものであることを知ったのだ。
 魔王城へと向かうヴァンダリスに祝福を与えるときに、苦しげだったバルダーモのあの顔をヴアンダリスは思い出す。あれは真実を知った聖職者としてだけではなかったのだ。

 ヴァンダリスの目の前にある動く絵は、翼の砦に返還された聖剣を前にしたバルダーモの姿を映し出していた。じっと聖剣を見つめていた彼は、その柄に手をかけた。
 剣が抜けたことにバルダーモ自身が驚いていた。そして彼はつぶやく。

「私は、私は選ばれたのか? 勇者に。私は偽物ではない。本物になれるのか?」



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「……あんたが勇者となるために、どれほどの努力をしていたか、俺は知っている」

 この男がどれほど勇者として正しくあろうとしてきたかも。

 ヴァンダリスは聖堂広場に立っていた。引きちぎった石を投げ捨てようとしたバルダーモの、その拳を両手でぎゅっと握りしめて、そうさせまいと。
 過去の幻影を見たのは一瞬で、広場で周りを取り込む人々はなにも気付いていないだろう。こちらをじっと見ている真っ黒な元魔王あたりは、なにかあったとわかっていそうだが。

「だが、私は勇者にはなれなかった。まして、真の勇者となったお前に勝てるわけがなかったのだ」

 バルダーモの頬に涙が伝う。「お前も入れ替わっていたのか。それがあんな風に元に戻るとは……なんて皮肉な」と彼はぶつぶつとつぶやくのに、ヴァンダリスは蒼天の瞳を見開く。
 彼は逆にヴァンダリスの過去を見たのか。それは同じ赤と青の石をつけていたからなのか、まさか、また女神の奇跡が起こったとは思えないが。

「俺の勝ちだ。それと勝った条件を変更する」

 目の前の顔が怪訝な表情となる。騎士の決闘で、後から勝利条件を変更するなど卑怯もいいところだ。

「人界と魔界の和平を法王国は受け入れなくともいい。その代わりお前が新法王としてその責務を続けることを俺は望む」

 二つの石を投げ捨てようとした手を再びぐっとヴァンダリスは握りしめる。赤と青の石。二つの命をお前は背負っていけというように。

「修道院に籠もって隠棲なんぞ。俺は認めないからな」

 「実際、あんた以外法王やれる奴いないんだよ」ともヴァンダリスが言えば、バルダーモは大きくその目を見開く。
 法王を続けろということは生きていけということだ。「私にそれを許すのか……」と彼は苦笑し、そして、ひとすじ、流していた涙を彼は片手でぬぐう。

「みな、聞いてくれ。法王国は、これより人界と魔界との和平を受け入れる。これは女神エアンナ様のご意志。新たなる聖剣は生まれ、また勇者ヴァンダリスを選んだ」

 和平の言葉に広場には不満げなざわめきが起こったが、女神エアンナの名と、新たなる聖剣との言葉に人々は沈黙した。
 新しい聖剣なんて、大ペテンもいいところなんだけどな……と遠い目をするヴァンダリスに、人々へと語りかけていたバルダーモが、くるりと向き直る。
 彼は公明正大な騎士団長。いや、新法王としての笑顔を見せて言ったのだった。

「そして、私は希望する。人界と魔界の架け橋である勇者ヴァンダリス。あなたが新たなるゴース王となることを」
「はあああああああああっ!」

 素っ頓狂なヴァンダリスの声が、法王国の空にこだましたのだった。





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