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【6】お粗末でお粗末な陰謀 その1
では、今日はこちらの本をお借りしていきます」
代わりに女王から頼まれていた奇人館に収められている本を置いて、選んだ一冊を手にアンドレアスは、図書室をあとにした。
アンドレアスがフランレーヌに亡命してきてから、女王の図書室に招かれて、茶を飲み、互いの所蔵の本を貸し合って散会となる。女王の都合でそれはしばらく呼ばれない時もあるし、数日もおかずにまた会うこともある。
そんな関係だ。
ローランとの“本の友”ともまた違う。彼は「君の宝箱に比べたら、僕の書斎の本はおそらく君が目を通したものばかりだろうね」と言っていた。
しかし、嘘をつけと先ほどの女王の話を聞いて思う。女王の図書室が遊び場ならば、彼の個人の書斎はともかく、彼とても古今東西の本を自由に読める立場にあったということだ。
それこそ、女王の図書室には国や教会としては認められないと、禁書になったものまで収められていた。アンドレアスが今、手にしている一冊もそのような本だ。
とはいえ、ローランが奇人館で本を借りていくだけではない。外にあまり出ることのないアンドレアスの目として、新しい本の情報を仕入れてきてくれて、大変助かっている。
この間も、新進気鋭の詩人の処女作の初版本を手に入れてきてくれた。彼がサロンで発表した詩は、革命を暗喩として賛美したもので、その評価は賛否両論。
アンドレアスはローランの良い声で、その詩編を聞いたときから、興味を持ち、彼の詩集が出たならばぜひ所蔵したいと思ったものだ。“革命”という内容に「君はなんとも思わないのかい?」とローランには聞かれたけれど。
たしかに、アンドレアスは革命で国を追い出された亡命王子である。が。
「すばらしい詩と本には罪はないでしょう?」
「君らしい」
笑いながらローランは知り合いのツテ頼ったという、限定の入手困難なその本を手渡してくれた。
本日、女王に貸したのはその“革命”の詩人の本だ。ローランからもらったとアンドレアスが素直に言えば、女王は呆れたように「奇人館に贈らなければ、この本はあの子の書斎に収まっていたでしょうね」と言う。
どうやら女王の図書室の奥同様、ローランの書斎は最近の禁書であふれかえっているらしいと、アンドレアスは推察する。
今度見せてもらおう……と思う。
そんなことを考えていたから油断したのかも知れない。
柱の陰から伸びた手に、それが握りしめる布に口をふさがれる。吸い込んだ甘い香の匂いに、アンドレアスは意識を失った。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
女王の図書室は王族の暮らす奥の棟にあり、奇人館はさらに裏庭に続く回廊を真っ直ぐ抜けた先にある。奇人館もまた王族の誰かが暮らす建物だったらしいが、あまりに古くて話は伝わっていない。
宮殿の端も端にあるために、新しくもされずにそのままうち捨てられた館だった。
アンドレアスも女王の図書室のある棟の片隅に部屋を与えられていた。そのときも従者などつけずに歩いていたし、奇人館に移ったあとも王宮内の移動は基本、一人だった。
王族と選ばれた使用人以外が立ち入ることの出来ない奥。まして、自分のように亡命王子のオメガを襲う者など……。
いないはずだった。
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