魔王は勇者に甘い!

志麻友紀

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魔王は勇者に甘い!

【17】勇者のためのお子様ランチ




 ゼバスティアはあわてて、ごまかすように咳払いをコホン、コホンと二度ほどして。

「我に挑みにきたとはいえ、客は客。今日はいささか作りすぎた料理があるらしいから、食べていくがよい!」

 そう尊大に言い直した。アルトルトはこてんと首を傾げる。おお~その角度も愛らしいぞ。さっそく魔界の宮廷画家に描かせて……ではなくて! 

「ふふふ、それともこの魔王の出す馳走は怖くて食べられぬか? 臆病者め」
「僕は臆病者ではない! それに食べ物を残すのは、よくないことだ!」

 しっかりと策にはまってくれた小さな勇者に魔王はニッと笑う。パチンと指を鳴らす。
 そこに現れたのはドレープとリボンとお花のクロス飾られた巨大なテーブル。そのテーブルの上にのっている、湯気の立つごちそう。
 中央に大きな去勢鳥の丸焼きの詰め物はアルトルトの大好きな米にナッツと干し葡萄だ。その周りにクリームのように絞り、薔薇の花の形に飾り付けられたチーズ入りのマッシュポテトも彼の好物。大きな肉がゴロゴロとこっくり煮込まれたシチューには、ニンジン嫌いのお子様でも食べられる艶々のグラッセに、これもグリンピース嫌いも克服できるふっくらした豆が副菜として添えられている。
 もっともアルトルトはこの一年で「ゼバスのはおいしい~」と全部克服済みであるが。
 さらには銀の大皿に盛られた舌平目のバターレモンソースがけに、貝殻を器にしたエビのグラタンと、大好きなものばかりにアルトルトの瞳がキラキラとなる。それにゼバスティアはうんうんと心の中でうなずく。
 なにしろ、この一年、執事として仕えてきたのだ。この勇者の好みはこの魔王が一番よく知っている。

「さあ、食べるがよい!」

 尊大にいいながら席についた小さな勇者の前へと、魔王自ら華麗な手つきでサーブをする。去勢鳥を素早く切り分け、その中身とともに綺麗に盛り付ける。薔薇の形に絞られたマッシュポテトももちろん添える。これも厨房でゼバスティア自ら絞り出したものだ。
 それから小骨などひとつも入らぬように取り分けた舌平目に、貝殻の容器のグラタンを載せてやる。

「いただきます」

 しっかりと手を組んで目の前の食べ物に感謝する。良い子に育ったものだ……腕を組んだままの尊大な態度ながら、執事ゼバスとしての気持ちになって、ひそかにジーンとなる魔王ゼバスティアだ。

「魔王は食べないのか?」

 傍らに立つゼバスティアを見上げて、アルトルトが言う。それに「我はいら…ぬ……」と答えかけた。散々味見はしている。

「このニンジンのグラッセ、ゼバスの味にそっくりだ」

 シチューに添えられたニンジンにぶすりと銀のフォークで刺して口に運ぶアルトルトの言葉に、ゼバスティアはまさかバレた? とドキリとするが。

「ゼバスの料理も、この料理に負けないぐらい、おいしい。おいしいけれど、ゼバスは一緒に食べてはくれない。ゼバスは執事だから……」

 使用人が主人と食卓を共にするなどあり得ない。しかし、その寂しげな横顔に、ゼバスティアの胸にもやもやとしたものが広がる。
 昼に“お手伝い”してもらった、サンドイッチは執事ゼバスとしてアルトルトの目の前で食べた。が、それは椅子に座ったアルトルトの横で“使用人”として立ったままだった。
 アルトルトにとって“一緒”とは同じテーブルの席に座り“対等に”ということなのだろう。
 父たる国王は、一度もアルトルトの住まう離宮に顔を出すことさえなかった。いつもの大臣との政の打ち合わせに忙しい……と。
 ゼバスティアはパチンと指を鳴らして、アルトルトの反対側に椅子を出すと、そこに腰掛けた。そして、小さな勇者には自ら取り分けた料理を、魔法で一瞬にして自分の前に皿を出しながら。

「このような料理など食べ飽きているが、まあ、勇者との晩餐も一興。食べてやらぬことはない」

 そんなことを言いながら、料理を口に運んだ。
 やはり魔王たる我の味は完璧! と、自画自賛しながら。



「『魔界』とはどんなところなのだ?」

 米とナッツとレーズンの詰め物を口に運んでアルトルトが訊ねる。その顔が美味しいと満足げに輝く。皮はパリパリ肉はしっとりの去勢鳥の丸焼きも美味しいが、その詰め物も肉汁をたっぷり吸い込んで美味なのだ。

「どんなところとは?」

 ゼバスティアは返した。なにを訊ねたいのやら。

「魔界は地獄そのもので、魔物同士、毎日殺し合っているときいた」
「たわけ。そんな無駄な戦いなど、我が魔王になってからは禁じた。今や部族間の争いごとは代表者を出しての決闘での決着。それも魔王たる我の認証が必要だ」

 たしかに千年前にゼバスティアが魔王になりたては、魔王の存在など無視して部族間の抗争も耐えなかった。
 が、それもほんの十日ほどで制圧したのが、絶大な力持つ、この我、ゼバスティアだ。

「なぜだ?」

 アルトルトは信じられないことを聞いたとばかり目を丸くしている。

「なぜとは?」
「魔族では力、暴力が全てだと聞いた。なのに魔王が、争いを禁じるなんて信じられない」

 まあ、人界ではそうだろう。アルトルトでなくとも、そこらへんの子供とて物心ついた頃から言われるものだ。なかなか寝ない子への脅し文句に。

『早くベッドに入らないと極悪非道の魔王が、凶悪な魔物達を引き連れてやってきて、お前を頭からバリバリと食べてしまうよ』

と。

「まったく、そのような人食いなどの児戯、人界との余計な争いごとを増やすだけだと、これも千年前に禁じたというのにな」
「?」

 きょとりとしたままのアルトルトの青空の瞳を、その切れ長紫の瞳で見つめて、ゼバスティアは「よいか」と口を開く。

「魔族同士毎日毎日殺しあいなどしていては、数が減るばかりだ。ついには最後の羽虫の一匹も居なくなるわ。それで“魔王”を名乗っても意味がない。我がたった一人の国などな」
「たしかに」

 アルトルトはあごに小さな拳をあてて、うーんと考えこむ。そんな姿も愛らしいとゼバスティアのつり上がり気味、切れ長の目尻が下がる。

「では、魔界も人間の国と同じで、商人や職人の暮らす街があり、村があるというのか? 畑を耕し、商売にせいを出していると?」
「ほう……そう思うか。確かにその通りだ」

 紫の目をすっとゼバスティアは細める。四歳といえど聡い。
 いや、賢くて当然だ! 何しろ、魔王の我自ら「良い子の王国の歴史」や「民の暮らし」「良い王様になるには」など数々の本を執筆したのだから! 
 我の教育完璧! とゼバスティアは胸を張りながら。

「たしかに我が治める千年前は魔界は混沌の地であった。そなたのいう通り、力ある者が力無き者を意味もなく虐げ、争いになにもかもを消耗する、まさしく地獄のような不毛な地であったわ」

 まあ、玉座に座っては百年もたたずに勇者に首を吹っ飛ばされる惰弱な歴代魔王の存在もあったのだが……と、ゼバスティアは心の中で付け加える。
 だから、統率のとれない魔族達は勝手に争いあっていたのだ。どころか自分が魔王になりたいと、後ろから魔王をだまし討ちにするものさえ出る始末。

「まあ、我という魔王が“出現”して、馬鹿共の争いなどすぐに止んだがな」

 ゼバスティアは長い足を組み直しふんぞり返る。青空の瞳でじっとこちらを見る小さな勇者に自慢するように。




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