ひんぬー教の教祖、異世界できょぬーに囲まれる。

初夏終冬

文字の大きさ
2 / 6
第一章

第1話 転生

しおりを挟む


 この世界は腐っている。

「――此度の立太子の儀は、きょぬ―教司祭、ノラ・リヴィエールが執り行わせていただきます」

 俺は前世では日本で生まれ、そしてひんぬー教の教祖をやっていた。
 だが、なんだこの世界は。

「王太子殿下、ばんざーい!!」

「きゃーっ! 殿下がこっちを見たわよ!」

 一五歳で行われる王太子になる式典には、女性が多く詰めかけた。それもそのはず、王族に生まれた俺は、この世界の女たちにとっては魅力的だったのだ。
 クソみたいに太った父王と、ありえないほどの爆乳を持つ母の間に生まれた王子、それが俺だ。当然のように、俺の体もぶくぶくと太っている。世界で一番太っているのではないかと思うほどの太り具合だ。この世界の男性は、太っていれば太っているほど格好いい。

 反対に女性は、胸が大きければ大きいほど美しいとされている。

 俺は太りたくなかった。でも、太らざるを得ないのだ。
 この世界の食事が劇的にうまいというわけでもないのだが、食卓に出されたすべての食事を食べつくし、さらに間食をはさみまくるというのが公務だというのだ。それをしなければ、父王に烈火の如き怒りに晒される。
 そして、母は爆乳の持ち主であるが、俺はまったくといっていいほど興奮しない。婚約者もいるが、そいつも母並みの爆乳の持ち主だ。
 何度も婚約破棄を訴えているが、両親はまったく聞き入れてくれない。


 故に、何度でも言おう。


 この世界は――腐っている。


*   *   *


「エミリオ殿下、そろそろ起きてください。公務の時間です」

 また、あの公務の時間か。
 俺は憂鬱になりながら、ベッドから這い出る。
 体重は一〇〇キログラムを超えており、体型も俺の望むスリムなものではない。
 重い瞼を持ち上げ、メイドを見た。

「……は?」

「ッ、何か、失礼でもございましたでしょうか……?」

 心の底から疑問が沸き起こった。
 昨日までのメイドはどうした? なぜ、お前のようなやつがいる?
 そんな疑問を感じ取ったのか、彼女は自己紹介を始めた。

「ほ、本日から私が殿下の専属メイドにつけられました。よろしくお願いいたします、殿下」

 一礼し、体を震わせている彼女。
 谷間を露出せず、ぴったりと体に張り付いたメイド服はロング丈で足首まで隠れており、とてもかわいらしいフリルが満載だ。胸が強調されていない。体が震えていても胸が揺れない。
 だが、そこには確かにふくらみがあった。

 ――これだ。

 俺が求めていたのは、これだ!

「あ、あああぁぁああぁあ――――!!!」

「ど、どうかされましたか!? 殿下!」

 つい叫んでしまうほどに、感情が弾ける。
 メイドになんでもないと言いつつ、名前を聞いた。

「わ、私はユリーゼと申します」

「そうか。ユリーゼ、なぜ昨日とメイドが変わった?」

「王太子になられた殿下のお側は、代々魅力のまったくない私たち貧乳の者が担当しております……。万が一があってはならないので、胸の大きな女性は近くにやってはならない、と王憲に定められております……」

 王憲とはアレだ。
 王族に対して効力を発する憲法だ。この国の最高法規だ。初めてそれに感謝をした。
 王憲の中には、王族の公務が食事だとするものもある中で、こんな天国のようなものまであったのか。
 驚きを隠せない中、俺は確かにこの世界なら通用するのかもな、と思う。
 特に、きょぬー教の奴らが俺と同じ立場だったなら、絶対に手を出したはずだ。

「そ、それから、昨日までは成人しておりませんでしたので、母なる乳が殿下の成長を見届ける、という王憲もありますので……」

 思い出したように付け加えられる、俺の知らざる王憲。
 つまり俺は、今後毎日、このユリーゼとともに過ごすということだ。
 なんという天国。そして地獄。
 王族である以上、ひんぬーに手を出すことはできない。王憲には、ひんぬーと結ばれし王は国家転覆の罪に問われるとあるのだ。小さなころから、ひんぬーに手を出してはならないと嫌というほど聞かされている。

 それを、これから変えなければッ!

 だいたい、ひんぬーが迫害されているという状況がおかしいのだ。ひんぬーは神。そして正義だ。

「決めたぞ。ユリーゼ、俺はお前を娶ってやる。それまで待っていてくれ」

「!? いけません! そんなことをなされば王太子殿下と言えど最悪の場合、処刑されてしまいます!」

 ユリーゼが必死になって、俺を説得しようとする。

「俺は――俺はずっとずっとずっとずっと我慢していたんだぞ! この一五年ッ、見たくもないきょぬーを見せつけられ! あまつさえそれを母なる乳だという認識を植え付けられるところだったんだ!」

「そ、そんな……殿下! お考え直しください! この国の王子は殿下しかおられないのですよ!? もし王太子殿下が処刑なんてされれば――この国は終わりです!」

「――そうか。そうだったな。……つまり、チャンスはあるってことだ! どうにかして世論を動かさなければ――今後のやることが決まったぞ。ユリーゼ、俺の手伝いをしてくれ。俺はお前のその完璧で至高のひんぬーを手に入れたい!」

 瞬間、ユリーゼの顔が真っ赤に染まる。

「じょ、冗談でもダメです。そんなこと言ってはいけません。わた、私の胸にそんな魅力はないですから……」

「いや、俺が保障する。ユリーゼのひんぬーこそが正義で、神聖視されるべきなんだ」

 俺以外にもいるはずだ。この世界に。本当はきょぬーなんていらないが、この国の風潮に逆らえない者たちが。
 それに、俺はひんぬー教の教祖として、ひんぬー迫害問題を解決しなければならない。ひんぬーの地位向上に貢献しなければならない。


 俺は思いを新たに、顔を真っ赤にしたままのユリーゼを連れて公務に向かう。
 城はとても広く、俺の寝室だけでも四〇畳ほどあるのではないかと思っている。幅が三メートルあると思われる通路に出て、俺はユリーゼの後ろをのっしのっしと歩いていた。
 ユリーゼの着ているメイド服のフリルが揺れる。ミニスカだったなら絶対領域が見え隠れする。あと少しでパンツが見えそうで見えない、そんな生殺し状態に久しぶりになりたいとさえ思った。だって、相手がきょぬーではなくひんぬーなのだ。興味も出る。

「今日の公務は何がある?」

 以前までのメイドにいつも通り確認していたことを、ユリーゼにも確認を取る。
 普段通りならきょぬーの奴だが、今日からはユリーゼが専属だ。これからの毎日に身が入る。

「はい、殿下。本日は朝食がお済になられたあと、商人と会食があります。殿下が成人なされたので、殿下の御用商人を決める会食とのことです。陛下からは、なるべく年の近い者を選び、将来の側近候補とすると良い、と伝言を預かっております」

 クソみたいに太った父王か。そういえばあいつの側近の一人も、かつては一商人だったと記憶している。今は王家の財務管理をしているはずだ。王太子の御用商人は、将来王太子が王になった暁には財務管理をすることがならわしになっているのだ。
 その大切な財務管理を任せる人材を、今日決めなければならないようだ。
 大丈夫だろうか? きょぬー教の信者とは相容れない。俺は決して、きょぬーに媚びる者をこちらに引き入れたりはしないと決めているのだ。

「こちらです」

 ユリーゼが案内してくれた場所は、毎日の食事を取る場所である食堂だった。食堂の扉は大きく、到底ユリーゼが開けられるような代物ではない。もちろん、俺にも無理だ。
 扉の両脇で控えている、動けるデブの近衛騎士二人に目配せした。

「王太子殿下、入場!」

「入場!」

 こいつらは太っているにも関わらず、その動きは油断ならない。信じられないほど素早い動きをするし、パワーも凄まじいのだ。魔法的要素がない異世界に来ているというのに、魔法があるんじゃないかと疑うレベルである。
例えるなら、横綱の力に加えてオリンピック級の百メートル走者の足を持っている。
 近衛騎士が開いた扉を通り、食堂に入った。
 すでに父王と母は座っており、食事を始めている。恐れ入るほど仕事熱心な奴らだ。

「おはようございます。父上、母上」

「うむ。エミリオも元気で何よりだ。昨日はひどく疲れていたようだったが、我も成人の儀では大層緊張したものよな」

 父王が昔を懐かしむように目を細めた。
 猫の皮をかぶり、俺は父王と簡単な会話をこなす。この程度できなくては、この十五年を過ごすことなどできていなかった。

「今日もエミリオはとってもかわいいわね。あなたもわたくしのような、母性溢れる女性を娶るのよ。婚約者は決まっているとはいえ……わたくしが認めた人なら何人でも構わないわ」

「俺はただ一人を愛すると誓っています。母上には申し訳ありませんが、俺の決め事です」

「そう、なら致し方ないわ。あなたの決め事なら、わたくしは尊重します」

 つっけんどんな態度を取っているが、母はとても嬉しいに違いない。
 この世界では個人がした『決め事』というのは、時に家の掟よりも重要視される。それだけ、自分を持つことが尊いとされているのだ。日本の全体主義とは違った思想だ。ただ、そんな思想があるにも関わらず、ひんぬーの地位は低い。なんでだよッ!

 俺は父王を上座として、母の向かいの席に座って、食事というの名の公務を始めた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...