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第一章/第一陣 元少年、チートな転生!

第3話 プロローグ③

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  それから更に2年、つまり5歳となった。ミスティは3歳でまだまだ自我が芽生えてきた程度だろう。

  そこで悲劇が起こった。なんとこの何もない村に盗賊がやってきたのだ。
  村に武器はなく、農耕道具や狩りで使うちょっとした武器でちょっとした抵抗をしていたけれど、ほとんどの人が無抵抗で殺されていた。
  あまり武力に訴えるのはこの村の人はしないらしく、話し合いで解決しようとしていた。
  それでも無慈悲な殺戮は止まらなかったので、残った数人の村民がちょっとした抵抗をしたというわけだ。
  相手が獣ではなく人であったから、というのもあるだろう。

  そして、お母さんやお父さんが殺された時は涙が溢れてきて、とても堪え切れるものではなかった。
  大声でお父さんとお母さんを呼んで、それでもこちらを見て苦笑するだけだった。最後に「元気に生きなさい」と口パクで伝えてくれていることにも気付いた。
  それでも、僕の魔力は目覚めなかった。ふつふつと沸き上がる怒りを前に、異世界転生の主人公ならここで目覚めるだろう!と内心で怒鳴り散らした。
  それでも目覚めない魔力に失望し、泣くのも疲れてただただ茫然と盗賊たちの馬車に乗せられていた。

  ミスティは何が起こっているのかさえ理解していなくて、それがとても悲しくて辛くて寂しくて。
  でもやっぱり、こんな辛い思いは味わってほしくないと思いホッとした。こんな思いをするのは僕だけで十分だからだ。
  やがて馬車が止まり、盗賊たちに乱暴にアジトの奥にある牢屋のようなところへ詰め込まれた。

  ⋯⋯なんだろうこれ?

  ふと、体の内側に意識を向けてみると熱くて激しく燃え盛る炎のような暴れん坊の何かが存在していた。
  以前まで、先ほどまでこんなものは感じられなかった。
  でも僕はすぐにピンと来た。これが魔力だと。
  前世での知識、お医者さんの言葉。お父さんやお母さんの言葉を思い出してそれを操作した。
  7歳が平均で、平均よりも圧倒的に多い僕の魔力は5歳で開花するに至った、ということだろう。
  体の内側に眠っていたその膨大な魔力の奔流は怒り狂っていた。まるで僕の内心を代弁しているかのように。

 「お、おい、こいつなんかやばくねえか?」

  2人いた見張りの盗賊が僕の異変に気付いたらしく、僕の顔をまじまじと見つめていた。
  当然それには強く睨み返してやった。お前たちにやるものはもう何もないとでも言わんばかりに。
  その見張りの異変に気付いたのか、ぞろぞろと他の盗賊も牢屋の前まで来ていた。
  全員で約10人。この世界における魔法を使えるほどの魔力の保有者は割と少ないらしいから、この盗賊たちの中には1人もいないだろう。

 「こいつの目、こんな色だったか?」

  また1人の盗賊が呟いた。それに同意するように「そう言えば」という声が聞こえてきた。
  そして盗賊たちが全員こちらを見た、得体の知れないものを見るかのように、化け物でも見ているかのように。
  僕の瞳はお母さん譲りと言われ、髪色もお母さん譲りと言われた。
  ミスティも全く同じ配色だった。僕としては金色よりも銀色の方が好きだったのでとても嬉しく思っているけれど、お父さんの色も引き継ぎたかった。
  僕は、瞳の色が変わるなんてそんな馬鹿な事有り得ないと鼻で嗤おうとしたけれど、本当に変わっていたらしい。

 「いや⋯⋯そうだな、確かに変わってるぞ。さっきまでは蒼かったのに今は黄色っぽい色になっている」

  また他の1人の盗賊が解説をしてくれる。
  黄色っぽいと言えばお父さんの方だろうけど、両方とも受け継いだということだろうか?それなら髪色も変色してほしいなぁと呑気に思う。
  2人の遺伝をきちんと受け継いでいることに喜びを感じる反面、どうしてこうなっているのかと疑問が湧く。

  でも、そんなことも束の間のことでしかなかった。
  魔力は素直で目の前の盗賊たちは絶対に許さないと言わんばかりに暴れまわっていた。
  膨大な魔力をなんとか押さえつけ、暴走しないように気を付ける。ミスティにまで攻撃が及ばないようにする一番の策は捕獲することだろう。
  暴れまわる膨大な魔力を少しずつ解放していき、理に干渉するように盗賊を拘束するための魔法を明確に想像した。

 「(地面! 動いて! こいつらを捕まえろ!)」

  心の中で叫び想像を更に明確にする。言葉に出すと想像しやすいのと同じことだ。
  魔力は僕に答えてくれる。見事に地面が動いて連中の足を固定し、彼らの周囲に大きな柵が出来あがった。
  これでもう安全なはずだ。流石に、人を殺すなんてことは出来ない。僕にそんな勇気はないし覚悟もない。

 「なんだこれ!? 放しやがれ!」

  盗賊たちが喚いているけれど、やすやすとそこから出してやるつもりは毛頭ない。
  でも、流石に罪悪感が湧いてくる。これも元日本人の性というものだろうか。このまま彼らを放置すれば餓死してしまう未来が容易に想像できたのだ。
  それは⋯⋯とどうしても思ってしまう。間接的、いや、これは直接的で尚且つ残酷な殺し方なのではないだろうか?
  そんな思考が頭をぐるぐると回り続けた。
  そんな時、ミスティが泣きそうな顔で僕を見ていた。盗賊たちがこちらを睨み付けているのだから当然だろう。僕も、魔法が使えなかったら正直平静ではいられない。

  ミスティの縄をスパっと風魔法を意識して切り落とした。ミスティの手首には傷跡一つない。その気になれば回復魔法も使えるんじゃないかと思っている。膨大な魔力は次第に静まっていき、僕が悩んでいると暴れ出してしまうため、もううじうじしないでさっさとこの場を去ることにした。
  泣きそうだったミスティは手を引いてくる僕に向かって「どうしたの?」とコテンと首を傾げた。
  どうやら現状の把握が出来ていないようで、実際どうなっているのかわからないのだろう。

  ひとまずは盗賊のアジトを出ることに成功し、そこは浅い森の中にある洞窟だったみたいだ。
  森に生えている木々の隙間から覗いたのは青い空に眩しい光を放つ太陽に、高くそびえる塀だった。
  物語では王都とか帝都とか呼ばれるところにほど近いところにいるというのが定番だから、きっとそうだろうと思うようにした。
  塀から見てもそれに準ずるものだと思うしまず間違いないだろう。

  そこへ向かうことを決めた僕はミスティの手を引いてミスティのペースに合わせてゆっくりと歩いて行く。
  途中、獣やよくわからない禍々しい何かが出てきたけれど魔法で容易く屠ることが出来たので脅威ではなかった。
  道中は様々な魔法を考えて、名前もかっこいいものを考えて必殺技も考えた。

  けれど、ミスティは疲れるとすぐに眠ってしまったり疲れているのかだらけたりというようなことが多々ある。
  そのためおんぶや抱っこをしたりとても忙しい時間を過ごすこととなった。
  僕も、優しく接してくれていた村民の死を乗り越えられているかわからない。それを思い出すと自然と涙がぽろぽろと溢れてくる。
  でも今は泣いている時ではない、とちょっとでも早く街についてこんな森の中の安全が確保されないところにいては狂気に陥りそうだ。

  それでも涙は収まらないので、仕方なく涙で歪む視界の中ゆったりとしたペースで森の中を進んだ。
  でも、3歳児と5歳児では体力に限りがあるし一向に塀までの距離も縮まらない。
  それに森の外にいつ出られるかもわからない。よくこんな状況で冷静にいられるものだと自分自身に関心してしまう。
  そんなことを思いながら、歩き続けていると前方に止まっている馬車が見えた。
  周囲に獣や禍々しい何かはいないのでどうして止まっているのか気になったけれど、どうでもよかった。一刻も早く安全なところで休みたいから。
  きっとどこかの行商人だろう、そう思って馬車に近づいていき御者台まで辿り着いて声をかけようとしたところ、そこにいたのは憔悴しきったお爺ちゃんがいたのだった。

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