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第一章/第二陣 元少年、Sランクへの道!

第6話 舞姫と歌姫

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 皆が寝不足で歩き続け、最後には意地と根性が睡魔に勝利した。
 僕たちは今、街に入る前の検問で順番待ちをしている。どこの街にも検問があり、馬車は馬車専用、人だけなら人専用の検問にそれぞれ分かれる。入るときは厳重だけど出るときは何もない。
 この検問は護衛の冒険者も一緒に行けるけれど、どうやらミスティは無理みたいだ。予め前の街で、商人の数と護衛の数の証明書を発行してもらい、数が少なければ別部屋で事情聴取。多ければ入れないということになっているから。
 そして、ミスティは今頃、人専用の検問で並んでいるか、すでに街の中に抜けているだろう。人専用の方が流れが速いため、ミスティがこちらの検問の出口で待つ手筈になっている。

 馬車が次々と検問に吸い込まれていき、消化されていく。そして、やっとのことで僕たちに回ってきた。

「では、証明書をお願いします」

 検問の兵士に言われ、商店のリーダーであるお姉さんが一枚の紙を差し出した。
 それを見た兵士が、まずは人の数を確認する。そして、馬車の数……今回は馬車2台での移動だ。多いところでは10台もの馬車を引き連れると言われ、まるで大名行列だなぁと思ったことがあった。
  最後に、馬車の中身を確認する。
  一通り調べ終えた兵士が証明書に許可印を押すと、それをお姉さんに渡した。そうして、一つ目の検問はクリアだ。
 検問は二つある。二つの検問のうち、人専用の検問ならば二つ目の検問のみで終了するけれど、馬車がある場合は一つ目の検問、今しがた終えた検問を受ける必要がある。
  一つ目の検問は言わば人数と馬車のチェックで、これが一番時間がかかる。
  二つ目の検問は人数の再確認とボディチェックだ。
  この二つ目の検問を実装させるにあたり、女性から猛反発が出たらしい。それはそうだろう、知らない男性に体のあちこちを触られるのだから。
  そうしたことが理由で、王国では女性の兵士も採用されている。ただ、訓練度は相当低いらしく、このためだけの兵士と言っても過言ではないとのことだった。
  それら二つの検問を無事に抜けると、ミスティが待っていた。

 「お待たせ、ミスティ」

 「この街すっごいんだよ! お姉ちゃん! えっとね、えっとね!」

 「はいはい、それは依頼達成報告をしてからお願いね」

  ミスティの言葉を遮ったのは商人の一人だ。確かに、依頼達成報告をしてからの方が自由に動けるし、この時点で騒ぐと商店の格が落ちてしまうかもしれない。
  時には我慢も必要なのだ。
  ミスティを宥めると、他の護衛の冒険者たちと共に冒険者ギルドへ向かう。


 「護衛依頼の達成報告を頼む」

  今回の護衛冒険者のリーダーがそう言って一枚の紙を取り出して、受付の職員に渡すと、サインをして報酬をそれぞれに渡した。
  リーダーを務めると報酬が1.5倍になるけれど、今回僕は平だったので、報酬額は銀貨20枚ちょうど。Aランク依頼としては少なく、Bランク依頼と比べるとやや少なめ、Cランク依頼とほぼ同額という報酬設定になっていた。
  いかに効率の悪い稼ぎなのかということがわかる。でも、移動するのには最適なので、移動ついでに依頼を受けて手持ちの足しにするというのが、冒険者の共通認識となっているのだ。
  他の冒険者と別れ、ようやく二人きりになると、ミスティが元気いっぱいになった。

 「お姉ちゃん! この街すごいんだよ!」

 「もう、それ何回目? 同じことばっかり」

  少し冷たく言い放つと、ミスティはシュンとなってしまう。その様子が可愛らしくて、ついつい頭を撫でて機嫌をとった。

 「お姉ちゃん、この街ね、私とお姉ちゃんのこと知ってる人ばっかりなの!」

  すごいでしょ? と目を輝かせている。
  小さいから有名なことに単純に喜んでいるのだ。僕もまだ、見た目はだいぶ小さいけど。そういえば、そろそろミスティの誕生日だったかな。

  ミスティの誕生日は冬の5週目。
  この世界では、春夏秋冬があるけれど、1月、2月と言ったりはしない。一週間は7日で春の何週目、夏の何週目、秋の何週目、冬の何週目という言い方をする。全て12週で構成されていて結局は12ヶ月とほぼ同じ。そして、誕生日と言っているけれど、日にちまで正確に把握する人は皆無と言っていい。いつの何週目か、ということがこの世界では重要なのだ。
  今は秋の11週目だからもうすぐと言っても、ミスティの誕生日まではあと1月半はあるか。
  因みに、僕の誕生日は冬の12週目で年が終わる頃に生まれた。

 「なんで僕たちのこと知ってるんだろう?」

 「冒険者ギルドで『氷の舞姫』とか『癒しの歌姫』とか言われてるからだよ! 二つ名っていうのは珍しいんだってさ!」

  褒めて、と言わんばかりの目で見つめてくるので仕方なしに頭を撫でてやる。だけど、ミスティは気持ちよさそうにしてくれるから、撫で甲斐があるというものだ。

 「ちなみに、それってどのくらい有名なの?」

 「ん……っと、検問? っていうところで私のこと知ってる人いたし、街に一人で入ったら人がいっぱい近寄ってきた! 氷の舞姫はいないのか、とか言ってたよ?」

 検問は情報が集まりやすいから僕たちのことを知っていても不思議ではない。でも、街に入ってからも、ということはそれなりに広まっていると考えていいだろう。
 けれど、僕たちには誰にも言えない秘密がある。
 それを知られるわけにはいかない。
 二人きりなのを徹底的に確認して訓練する時にだけその秘密が暴かれる。
 それはまだ公には出来ないし、する気もない。ミスティにも、そのことを誰にも言わないよう言いつけてあった。
  だけど、その時が来たら、きっとすぐに広まってしまうだろう。新しい二つ名が生まれる予感もする。

 「ミスティ。あの事は絶対に誰にも言ったらダメだよ」

  僕は念を押して再確認する。

  ミスティは「わかってるよ」と口を尖らせた。
  これならきっと大丈夫だろう。ミスティは約束を守る子なのだ。

 「今日の宿、探すよ」

  僕たちは暗く前に宿を見つけ、ここ最近の野営の疲れを取るように二人で抱き合って眠った。
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