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第二話 概要

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 川島たちは実験室へ入った。

 中にはモルモットが山のように飼育されていた。



「今、研究しているのがこれなのよ」



 ようやく口を開いた新山は川島にある資料を手渡した。




『DSGプログラム ~人格形成と性別変化~

 今回、お願いしたいプログラムは過去のデータサンプルから人格形成と性別及び身体の変化について、事細かく調べていただきたい。

 この薬のデータを持っているのは新山様だと聞いている。


 そこで、研究の第一人者としてお願いさせていただいた次第だ。

 このデータは今後、性同一性障害等の病気に非常に効果的な手段として使うかどうかが決まってくる。

 政府は新たな医療革新を目指しているため貴方のお力をお借りしたいという通達となる。

 報酬については研究結果次第で決めたいと思う。

 まずは、研究を一刻も早く進めていただきたい。

 政府 医療保護課』



「政府!? 国にまでこの研究は目をつけられてるのか? 

しかも、DSGについてって。またあの薬を研究しろって、おかしいだろう!」



 川島は声を荒げる。DSGは作ってはいけない代物だったはず。

 それなのに政府が研究を進めるようにというのだから無理もない。



「そうなのよ。でも、政府直々の願いに逆らえば私たちはどうなるかわからないわ。もしかしたら研究所自体が使えなくなるかもしれない。それだけは食い止めたいの」



 新山は苦渋の選択だが、仕事がなくなるのは困ると思うとこうするしかないと感じていたのが目に見えてわかった。



「仕方ないか……。そうだな、やるしかないんだな」



 川島は研究に力を貸すことを嫌々ながらに承諾した。

 心のもやもやは取れないが。



「ん? この用紙が入っていた封筒にまだ何か入ってるじゃん」



 川島は封筒の中を覗き込んだ。

 そこに入っていたのは一枚のディスクだった。



「これ、みんな見たのかよ?」



 三人は答えなかった。

 むしろ、答えられなかった。

 そんな三人をよそに川島はディスクをプレーヤーにセットする。

 そこに映し出されたのは信じがたいものだった。



『川島健太……木村真衣・深沢真也

 西岡美香……河井達哉・本宮サキ

 DSG服用後、人格変化・身体変化経験あり。

 この二人をサンプルとして使用すべきある。

 そうすればより豊富な研究データが取れるだろう。

 二人が拒み、データが取れなくなればこちらも手を打たせてもらう』



 ディスクに入っていたデータは紛れもなく、川島と西岡が変化する場面等だった。

 初めはどこからその映像を手に入れたのかわからなかったが、考えた末に出たのは町に付けられた防犯カメラの映像であることが判明した。

 二人には内緒と告げていたが、サンプルを取る以上、話さないわけにはいかないと新山は感じていた。

 それは信頼関係が作られているからだろう。

 そして、封筒中にはもう一枚文書が入っており、そこには驚くべきことが書かれていた。



『私たち政府はすでに人体モデルを作り上げた。

 あと、必要なのはDNAの物質と人間としての意思(感情)である。

 そこでDSGを完璧な形で我々に送って欲しい。

 人体モデルは木村真衣・深沢真也・河井達哉・本宮サキの体をベースにして作り上げている。

 あとは貴方の腕の見せどころである。

 では、また、完成したら連絡をくれ。 

 以上』



 そこに記されていたのは紛れもなく、普通では考えられないまるでクローン人間でも作るかのような話だった。

 新たな命を人工的に作り上げる。

 一体、政府はいや、国は何を考えているのか川島には見当がつかなかった。



「おかしいだろ……。真衣や真也は元々この世に存在してはいけない人だったんだ。

 それなのに科学の力を使って架空の人物を作り上げるなんてモラルも何もないじゃないか! 

 確かに俺がDSGを飲んだことに変わりはないし、真衣や真也と過ごした日々は嘘じゃない。

 でも、あいつらは自分の意思で俺のもとを離れていくことを決めたんだ。

 あいつらの痛みは俺が一番知ってる。

 それを今度は複製だと!?」



 川島はまだまだ言い足りないという感じで話を続けようとするが、新山がそれを止めに入る。



「健太、これは国からの指令なの。私たちも本当はしたくないけど、しなきゃならないことなのよ。だから、力を貸して。あなただって真衣ちゃんや真也くんと会いたいでしょ?」



 川島は考えた。確かに二人に久々に会いたい。その気持ちに嘘はなかった。

 腑に落ちない点が多々あったが、彼女の頼みとあっては断るわけにもいかず、渋々承諾した。
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