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本編
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しおりを挟む七月末日。
檜ノ山家の血族が本家に集められ、家督交代の宣言が行われました。血族上層部に動揺はありません。兄のことなので、当日になって騒がないように根回しをしていたのでしょう。
兄は十名にもおよぶ血族の長をひきつれ、本家から檜ノ山家の初代当主が祀られている檜ノ山神社に移動しました。奉告祭が行われたのち、神前で玉串拝礼が執り行われました。
無事に終了したあとは親戚一同で食事会です。規模の大きな行事は曾祖父の葬式以来のことでしたので、女衆は食事の支度に駆り出されました。むろん、わたくしもです。
親戚一同を見渡しても知り合いはほとんどおりませんでした。「千夏ちゃん」と話しかけてくださった方も何人かいらっしゃいましたが、なにせ暮らしていたのが幼少期でしたので、顔を見てもピンときません。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、ただ懸命に働こうと思って準備を進めました。
「おめでとうごぜぇます、千夏さま」
また、とわたくしは思いました。
ごく少数の方から、わたくしにお祝いの言葉がかけられるのです。最初は之真の妹だからだと思っていたのですが、どうも違うようなのです。
わたくしを取り囲むのは決まって六、七十代の老婦人方でした。彼らは、柏紋の入ったお召し物を着こなしていらっしゃいますので、檜ノ山一族の者ではありません。
この辺りで柏紋といえば、神職の前田一族です。一帯の神社と神域を守っていらっしゃる方々で、普段は山にこもっています。家を挙げての祭りや出産などに立ち会い、助言や神のお言葉をくださるのです。本日の奉告祭を全体的に取り仕切っていたのも、前田家の力があってのことなのでした。
みなさま不気味なほど両の口角をあげ、わたくしの顔や腰や尻を品定めするように触れてくるのです。
「ちとばかし細い」
「あぁ、細い」
「柳のように細い」
「これではややこが心配じゃ」
「これでは世継ぎが心配じゃ」
「赤子が姑獲鳥に取られるぞ」
「おこが天狗に攫われる」
「もっと精気を養ってもらわねば」
「もっと腹いっぱい食べてもらにゃ」
彼らの言葉はまるで呪文のようでした。
同じ言語を話しているはずなのに、長らく都会にいたわたくしは、彼らの訛りについていけなかったのです。
異様な雰囲気に恐怖を感じましたので、仕事を理由に退散いたしました。
未開の地に放り込まれたような気がします。不安です。孤独なのです。懐かしい実家のはずなのに、傍に寄り添って穏やかな温もりを共有できる方が、いないのです。
外の陽射しが強い分、邸の中では一段と暗い影が落ちている気がするのでした。
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