【R18】執愛の果テに悪女は咲き誇る 〜悪役令嬢が手玉に取ったと思い込んでいた男に捕まって逃げられなくなる話~

べらる

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最上の男






 それから悪女イリーティアは計画を練り、時には人を利用し、一年以上かけて王太子の友人枠に収まった。途中で妙な子爵令嬢に絡まれた以外は、とんとん拍子で計画が進んだ。

 ルキアルゼン王太子は、とてつもなく好みの男だった。

 今まで出会ってきたどんな男よりも所作が美しく、無駄がない。常に礼儀をわきまえていて、紳士的。かけられる言葉はいつも優しく穏やかなもので、イリーティアの高い自尊心を満たしてくれる。

 イリーティアは偶然を装って何度も王太子の腕や肩に触れた。品のない女性はそれだけで王太子の恋愛対象外だろうから、大胆過ぎずに清楚な雰囲気を心がけた。視線が合えば微笑みかけ、常に王太子の視界に映る位置に身を置いた。

「そういえば殿下は、どうしてわたくしのことを”姫”などと呼ぶのですか?」
「イヤだったかな?」
「いいえとんでもない。ただ……わたくしは下級貴族の出身。そのように呼ばれるのは、おこがましいと申しますか……」
「嬉しいか嬉しくないか、で言うと?」
「……もちろんうれしゅうございますわ」
「なら良かった」
「……殿下」
「明確な理由はあるとも。私が今まで出会ってきた誰よりも美しく、可愛い女の子に見えたからだよ」
 
 王太子との心の距離は確実に縮まっていった。
 そして、高等部二学年。
 計画から一年と数ヶ月で、イリーティアはついに王太子の心を手に入れたのだ。

 そのときイリーティアは、ルキアルゼン王太子によって学園の敷地内にある特別棟で静養していた。この棟は王族専用の寝床だ。一般生徒は入ることもできないが、イリーティアがとある人物に階段から突き落とされたため、心配した王太子が特別に便宜を図ってくれたのだ。

(あぁ……これはチャンスだわ)

 在学中の記憶を一部分だけ無くしてしまったものの、イリーティアが自分の目的を忘れてしまうことはなかった。むしろ王太子が親身になって世話してくれる状況を逆手に取り、より彼の心を手繰り寄せた。
 
 王太子は忙しい身であるのに、毎日のようにイリーティアに顔を見せ、言葉をかわした。


 そして──
 夜が更ける頃、王太子は見張りの人間を下がらせて、豪奢なベッドの上でイリーティアの体を抱き寄せていた。

「──姫……」

 悪女イリーティアは王太子の腕の中で、ひっそりと微笑む。
 わきあがる喜びが前面に出てしまわないように、何も知らない無垢な女を偽る。王太子の美しい唇からこぼれる、熱のこもった言葉を待った。

「貴女が階段から落とされたと聞いた時は、身の縮まるような想いがしたよ。柄にもなく、精霊王のご加護を祈ったさ」
「殿下、どうなされたのですか……?」
「すまない。貴女の体に触れる許可をもらいたいのだけれど……ダメかい?」

 王太子の声は掠れていた。

「殿下のご命令とあらば、どんな淑女だって首を横には振りませんわ。もちろんわたくしも」
「相変わらず姫は意地悪な言い方をするのだね……」
「ふふっ、ご機嫌を損ねてしまいましたか?」
「いいや、そんなことはないよ」

 王太子はイリーティアの腕を持ち上げると、その白い手の甲に肉厚な唇を押し付けた。

(王太子はロマンティックな男ね。……悪くない。いいえ、むしろ良すぎるくらいだわ……)

 雰囲気を重視するのはイリーティアの好むところだ。
 敬われている。
 大切にされている。
 それを感じるだけで、恍惚とした気分になる。

「私は貴女を伴侶として迎えたい」

 今度は真っすぐに見つめられ、目の前で手の甲に口づけを落とされた。
 目の前にあるのは、魔力を帯びて淡く輝く蛋白石オパールの瞳。この熱情の中心にいるのが己だと思うと、どうしようもなく高ぶってしまう。

「ティアと過ごした時間は、私にとってかえがえのないものだった。こんなに楽しい時間は生まれて初めてだよ。だからもう、貴女以外の女性なんて考えられない」

 腰を強く抱かれる。その力強さとたくましさに、甘い痺れが駆け抜けていく。湧き上がってくる官能的な炎に心地よさを感じつつも、イリーティアはゆるりと首を振った。

「わたくしは……爵位も持たない貧乏貴族の生まれ。とても殿下の隣にいるべき存在ではありませんわ」
「その点は心配しなくてもいい。貴女を妃に迎えたくてくて、宮内の人間を取りまとめたんだ。誰も反対しないし、させないよ」

 ──もっと。

「ですが、わたくしは王族の妃となる教育を受けておりません……」
「貴女は努力を厭わない素晴らしい女性だ。社交マナーの授業は常にトップの成績だったじゃないか。これからでも充分に間に合う」

 ──もっと。

「わたくしも……不相応とは分かっておりますが、前々から殿下の事をお慕い申し上げておりました」
「同じだ。私も、貴女を初めて見た時から運命のようなものを感じていたよ」

 イリーティアの腰に、ルキアルゼン王太子の手がぴったりと添えられる。ゆっくりと後方に倒されたと思えば、腰を持っていた手が、薄いネグリジェ越しに背中のラインをつつ……っと撫で上げた。

「貴女への想いは増すばかりだ」

 ──もっと。

「わたくし、だって……」
「貴女のその想いが、私と同じものなのか確かめさせてくれないか」

 ──もっと、もっと、もっともっと。

「殿下…………っ」
「殿下ではない。もし貴女が、少しでも……ほんの少しでも私という人間に興味があるのなら、嫌っていないのなら、私の事は殿下ではなくルキと呼んでほしい」

 胸の中央を飾るリボンが、くいっと引っ張られる。
 
「だがこれが私の思い過ごしだというのなら、今すぐ否定の意をとなえてほしい。そうしたら、もう二度と貴女に触れないし、近づかないことを約束しよう」
「ぁ……っ」

 あと少しで豊満な胸が冷たい空気に晒されるだろう、というところで止められ、イリーティアは熱い息を吐き出した。

「姫……教えておくれ」

 熱っぽい吐息が首にかかり、イリーティアの体がびくりと震える。

「もし……もし許されるのなら、わたくしも……ルキ様と結ばれることを夢見ておりました」
「そうか……あぁ、嬉しいよ。貴女が私と同じような事を考えていてくれたなんて……」
「ああ、そんな…………わたくし、嬉しい……っ」
「ティア……愛しているよ……今日は貴女を離したくない……」

 そうして、王太子の心を手に入れた悪女イリーティアは、一晩に渡って激しく求め合うのだった。


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