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子爵令嬢
卒業パーティを利用して行われたイリーティアとルキアルゼン王太子の婚約発表は、瞬く間に学園全土を駆け巡った。学園全体がお祝いムードに包まれ、祝いの言葉がイリーティアのもとに届いた。
(ふふ……っ、やっぱりこのドレスは素敵ね。王太子のセンスには脱帽だわ)
自慢の白いデコルテが見えるようなデザインになっており、肌触りだけで最高級のものが使われているのが分かる。全体的に濃い藍色に、星空が散りばめられたようなデザインは、王太子の瞳の色と同じような配色で、とても素敵でおしゃれ。
久しぶりにテンションがあがってしまい、卒業パーティが終わった後でもドレスを脱がなかった。
夜の空気が吸いたくなり、せっかくならと薔薇園へと足を進める。
「あら、こんなところに猫がいるわ」
美しく咲き誇る薔薇を眺めていると、道の真ん中に一匹の黒猫がいた。
可愛らしい姿をしていて、こちらをみゃーっと鳴く。
触れるかと期待したものの、黒猫はすぐに向こうに走り去っていく。
(残念ね。猫は好きなのに……)
ふぅと息を吐いていると、背後から足音がした。
「いい気なものね……!」
振り返るとそこに、雑巾のように薄汚れた服を着て目深げにフードを被る人物がいた。声から察するに女性。記念すべき卒業パーティ……それもここは薔薇園だ。学園の中で一番好き場所に、こんな礼儀も礼節もなっていない人間が現れるなんて。
イリーティアは不愉快な気分を抱きながら、藍色の扇を広げて口もとを隠した。
「誰かしら?」
「忘れたとは言わせないわよ! この女狐っ! よくも私からルキ様を奪ったわね……!」
改めて彼女を顔を見つめる。
肩の上で切り揃えられた髪に、丸くて大きな瞳。
顔立ちが整っているものの、服も髪も乱れていて実にみっともない姿だ。
(この学園に来てからというもの、この手の苦情は嫌というほど味わってきた)
好きだった男を取られたと思い込み、おまえが色仕掛けしたんだろうと突っかかって来るのだ。
正直に言えば、興味の無い男には本当に興味もないし、眼中にも入らない。色気を振りまいた覚えなんてなく、ましてや距離感を誤った事なんてない。そんな安い女ではない。
それに、この程度で惚れる男はたいてい見てくれの良さしか興味のない薄っぺらい男だ。
だから今回もそのどれかだろうと踏んだのだが、彼女から飛び出した『ルキ』という名前が気になった。
「もしかして、ロゼッタ・マゼンディス……?」
実はイリーティアは、階段から落ちた時のショックで、いまでも一部の記憶に不鮮明なところがあるのだ。
ゆえに、階段から突き飛ばしてきた女の顔をすぐに思い出せなかった。
ロゼッタ・マゼンディス。
貧乏貴族の生まれであるイリーティアと違って、裕福な子爵家の娘。そしてさらに、彼女には魔法の才能がある。水、土、火、風の基本四大属性を全て扱えるため《精霊の愛とし子》だと呼ばれていた。
半年前までは、ルキアルゼン王太子の婚約者候補として名前が挙がっていた人物である。
王族には魔法使いとしての優秀な後継者を残す必要がある。王太子には卒業パーティまでに婚約者を決める必要があったのだが、ロゼッタが観衆の前でイリーティアを階段から突き飛し学園を退学処分になったため、婚約者候補から抹消されたのだ。
「ルキ様は、ルキ様はっ、私の事が好きなのよ! みんな、みーんな悪女に騙されているんだわ!!」
ロゼッタは少し……いやかなり妄想癖のある娘だった。
自分が王太子に愛されていると信じ込み、イリーティアを敵対視していたのだ。
(面倒だわ……)
ロゼッタは魔法を使って階段から突き落としてきた。
対して、イリーティアは初歩レベルの魔法も回避する手段がない。携帯用の魔石があればそれなりの魔法が使用できるか、あいにく今は持ち合わせていない。
「全く──」
どうしようかと思案しているとき、どこかで聞き覚えのある低い声が聞こえた。
(な……っ!)
「──この女は、学習しないな」
ドスンッという鈍い音とともに、目の前にいたロゼッタが地面に倒れ伏した。
とっさに声がした方向を向けば、チャコールグレーの髪を持つ長身の男がいた。鼻は高く、眉はきりりと形よい。激情うずまく金色の瞳が、ゆっくりとこちらを見つめてくる。
「貴女は俺と一緒に来てもらうぞ、イリーティア・ロン・ティンゼル」
そうして、イリーティアの視界は暗転した。
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