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黒騎士(1)*
「──フィオには、好いた女性がいないのかい?」
白金髪の髪を揺らして、目の前にいる美しい顔を持った男がそんなことを聞いてきた。
「…………殿下、今は模擬戦中です。私語はおやめください」
「私の順番はまだ来ていない。このくらいの声なら聞こえないだろう?」
ルキアルゼン王太子はにこやかな笑顔のまま「で?」と催促してくる。
「…………いません」
「そう? それは残念。私はいるけれどね」
「さようでございますか」
「……そこまで興味を持たれてないと、さすがの私も寂しくなるよ。ほんと、フィオは冷めてるよね」
王太子の冷やかしに、オルフェンス・エル・ジスタルトは金色の瞳を閉じた。
ジスタルト侯爵家の嫡男であるオルフェンスは、物心つく頃から第一王子の遊び相手である。だからオルフェンスはルキアルゼンの性格をよく知っているし、ルキアルゼンもオルフェンスの不愛想な性格をよく知っていた。
(好いた女性? ……そんなもの……)
それでもオルフェンスは、いない、と即答できなかった。
長い金色の髪をなびかせた女性が、脳裏にチラついた。
名前は、イリーティア。
薔薇園にあるベンチに腰掛け、黒猫と戯れているイリーティアを偶然見かけた。
「ふふっ、一緒にこの子を可愛がりませんか?」
「…………そういうわけで見ていたのではなく……」
「でもこの間、薔薇園でこの子と戯れているのをお見掛けいたしましたわ」
「…………」
「猫、お好きなんでしょう?」
「……嫌い、ではないな」
「素直じゃありませんわね」
きっかけは些細なものだった。
だがその日から、オルフェンスは黒猫を見に行くという口実で薔薇園に通い詰めていた。そこに行けば必ずイリーティアがいる。イリーティアに会える。
「王太子殿下の傍付きなのに、意外と暇なのね?」
「なに?」
「ほら、こうやって猫を触りに来てるじゃない」
「俺の任務は、殿下が学園にいるときに護衛としてお傍にいることだからな。殿下がいない間は、ただの生徒だ」
「……じゃあ、いまは殿下ではなくわたくしがフィオを独り占めできるのね?」
咄嗟に顔をあげると、イリーティアはにこにこと嬉しそうに微笑んでいた。
美しく、聡明で。
いつも誰かに囲まれ、みなから慕われている彼女も、こんな風に悪戯っぽく笑うんだと思った。
その時には、もう。
自分は、彼女に惚れていたのだと思う。
だから。
あの行為全てが、王太子に近づく為だけにやっていた演技だと理解した時、体の奥からドロドロとした感情が湧き上がってきて……──
◇
「は、ぁ……ぁっ、あ……」
艶めいた女の声が響いている。
天井から垂れさがる鎖に囚われ、万歳された状態。ドレスは何度もナイフを突きさされたことで千々に引き裂かれ、魅惑の白い谷間も、白い太ももも、大胆に露出されている。
「きゅ、……けい、させて……」
「なんだ、もう音を上げるのか」
イリーティアの顎を黒い手袋で掴み、強引に引き寄せたオルフェンスは、冷ややかな笑みを浮かべた。
「ず、っと立ちっぱなしなの……っ」
「貴女は数時間にも及ぶダンスレッスンに文句ひとつ言わない女性だ。たかだか十分程度……ほんの少しの魔法で感度をあげて、体のラインを撫でただけで涙目になるなんて、貴女らしくもないな」
「……っだ、れのせいで……っ」
「ああそうか。それも貴女のパフォーマンスだったな」
「……っ」
皮手袋で首を掴まれ「ひゅっ」と細い息が漏れる。
「そうやって涙目になって、男を誘う。今までも、そうやってきたんだろう?」
彼は、全身から憤怒の圧を放っていた。
イリーティアには、彼が憤怒している理由について心当たりがあった。
階段から突き飛ばされた際の怪我が完治し、学園に復帰してすぐのこと。王太子との婚約を発表するその時まで、波風立てぬようにつづがなく学園生活を謳歌するつもりだったのに──
急にオルフェンスがやってきて、最近様子がヘンだと言われたのだ。
『薔薇園に来ていないから、あの黒猫も寂しがっていたぞ。まさかとは思うが、また変な同級生にちょっかいをかけられているのか?』
記憶を失ったせいで鮮明には覚えていないものの、王太子に近付くためにオルフェンスという男を利用したのだと、すぐに理解できた。
『わたくしが同級生にちょっかいをかけられて、貴方にどんな不利益があるのかしら?』
『好きな女性が困っている姿を見て、嬉しい男などいないだろう』
『ふふっ、そんなにわたくしの事が好きなの?』
『……。イリーティア、からかうな』
その場では、適当に済ませた。
王太子の心を手に入れたいま、オルフェンスの恋心はもう利用する価値がない。だがのちのち利用価値があるかもしれず、侯爵嫡男の恋心をドブに捨てるのももったいない気がして、そのままにした。
きっと王太子に見初められたと知れば、彼も諦めるだろう。
そんな計算だった。
だが、王太子と仲睦まじい様子を見せても、オルフェンスは不機嫌そうにするだけで一向に諦めてくれる様子がなかった。何だか無性に腹が立ったので、婚約発表の前日、オルフェンスを呼び出した。
『わたくしは明日、ルキ様との正式な婚約を発表するわ。だから、わたくしをこれ以上追いかけるのはおよしなさい』
『……何を、言っている? ふざけたことを言うのはよせ』
『恋人ごっこはもうおしまいよ。大丈夫、貴方に汚点が残らないように、わたくしたちが付き合っていた事はちゃんともみ消しておくわ』
もともとオルフェンスは目立つタイプではない。
一部ではオルフェンスとイリーティアが恋仲ではないか、という噂も流れていたが、あくまで噂だ。王太子から正式に婚約発表が宣言されれば、みんなそんな噂など気にも留めなくなる。
『わたくしは王太子殿下に見初められたの。貴方も、いい女性と出会えるといいわね』
ここまで言えば、物分かりの良いオルフェンスなら分かってくれると思っていた。
なのにいま──
オルフェンスの手が、イリーティアの太もも部分をさらりと撫で上げている。イリーティアの体がピクンッと反応してしまい、また喉の奥で低く笑われた。
「いい目をしているな」
「……っ……」
「そのままずっと、俺を見ていろ」
ぐっと顎を持ち上げられたと思ったら、急に唇を塞がれる。躊躇なく強引に口を割り開かれ、その隙間からぬるりと熱い舌が侵入してくる。
「っ、ん、ぅ──ッ!!」
逃げようと頭を動かそうとすれば、より深く貪られる。舌先が絡めとられ、じゅるじゅると激しく吸われる。この男の力が強いせいなのか、思考がうまく働いてくれず、暴力的なキスを受けるだけ。
流れ伝ってくる唾液は甘く……あぁそういえば、この男のキスはいつもこんな風に荒々しく獣のようだったなと、存在しないはずの記憶がふわりと舞い降りてくる。おかしい。王太子以外の男とキスなんてしたことないのに。
あぁ、そうか。
記憶を失っているだけで、王太子に近付くためにこの男とキスの一つでもしたのだろう。
(なんてこと……自分のやったことで自分の首を絞めるなんて……っ)
「……っぁ……は、ぁ……っ」
ようやく唇が解放される頃には、イリーティアははぁはぁと肩で息をしていた。
「や、め……っ」
スカートの中にある下着の上から、秘裂を指の腹で撫で上げられる。ぶるぶるとした痺れが足から走る。触れられたところがとんでもなく熱い。
「そういえば、貴女は記憶喪失になったそうだな」
上下にするするとこすられ、肉芽の上で武骨な手がトントンと刺激される。なんとかコクコクと頷いても、肉芽への刺激は続けられる。下着のシミは増していき、イリーティアはか細い悲鳴をあげた。
「俺と過ごした事も、覚えてないということだな」
「…………」
「なら俺とこんなことをするのも、初めてというわけか」
何を言おうとしているのか分かって、イリーティアは赤い瞳をこぼれんばかりに見開いた。なぜだか無性に恥ずかしくなって、とっさに目を逸らす。
「目を逸らすな」
「ぃ、ぁ……っ」
ぐちゅ……っと、粘ついた水音とともに、下着の中に指が入り込んでくる。今度は直接蜜を塗り込まれ、刺激の強さに首を振る事しかできない。
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