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王太子*
魔法学園は、大昔の戦争で使用されていた地下牢が存在している。今では使われていないが、ごくまれに、王族への暗殺未遂などの重犯罪者が収容されることがある。
そんな場所に、一人の薄汚れた女が幽閉されていた。
イリーティアを階段から突き落とし、接触禁止と学園の退学処分を受けたにも関わらず、学園に不法侵入し、再びイリーティアに接触しようした子爵令嬢──ロゼッタ・マゼンディス。
ロゼッタはオルフェンスによって失神させられたあと、学園に駐在している騎士に引き渡され、一時的に地下牢に入れられていた。
(なんで……私が閉じ込められてるの……?)
ロゼッタは、なぜ自分が失敗したのか考えていた。
今頃は、ルキアルゼン王太子の婚約者として、自分があの場所に立つはずだった。美貌もある。マゼンディスという子爵位の娘で、家柄だってしっかりしている自分が、羨望を眼差しを受けながら王太子との婚約を発表し、ダンスを踊るはずだったのに。
(あの女…………いま思い出しただけでも腹が立つわ……!)
イリーティア・ロン・ティンゼル。
魔法の才能が全くなく、魔石に頼らなければ簡単な魔法の一つも生み出せない女。
イリーティアが編入してくるまでは、ロゼッタが学園中の注目を浴びていた。基本的な魔法四属性を使用できる稀有な少女して、みんなからちやほやされたいた。
だがイリーティアがやってきて以降、みなロゼッタを見向きをしなくなった。
(私は精霊の愛し子なのよ……!)
魔法使いは精霊に愛されていることが大前提の存在。
そして王族は、古くより精霊に愛されているか否かを重要視する。
すぐれた魔法使いの血を積極的に入れてきたため、自分こそがルキアルゼン王太子の婚約者として相応しいと思っていた。王太子妃となれると思っていた。
(あの女はオルフェンス様を騙し、ルキ様をたぶらかした。私はそれを伝えて、ルキ様を正気に戻したかっただけなのに……!)
小気味の良い足音が響いたのはそのときだった。
薄暗くてよく見えないが、鉄格子の向こう側に、誰かが立っている。ほのかな灯りによって、彼の端正な顔が浮かび上がってきた。
「ルキ様……っ!」
「やあロゼッタ嬢、ひさしぶりだね」
美しいひと。
愛おしいひと。
(やっぱりルキ様は私のことが好きなんだわ……!!)
こうやって直接会いに来てくれたのが何よりの証拠。
ロゼッタは嬉しくなり、鉄格子にしがみついて、彼の顔をよく見ようとした。
「ねえロゼッタ嬢。貴女は、私とフィオ……どちらが優れた男だと思う?」
ルキアルゼン王太子の問いかけに、ロゼッタは小首をかしげた。
なぜ急にそんなことを聞のか。
でも答えればここから出してくれる気がして、必死に口を動かした。
「そんなのルキ様に決まってますわ! 精霊王と同じ色の瞳を持つルキ様こそ、最も尊いお方! オルフェンス様は優秀な方だと思いますが、ルキ様には敵いません!!」
「ははっ、ありがとう。みんなそう言ってくれるよ」
魔法実技の成績に至っては、一番が王太子が、オルフェンスは常に二番。
オルフェンスは優秀な騎士で魔法使いでもあるが、王太子には敵わない。成績を見れば一目瞭然だ。
「まぁ私は、今まで一度もフィオに勝ったためしがないのだけれどね?」
「え、そんなはずは……」
「フィオはいつも手を抜いている。私が王太子だからね、彼は無意識に自分の力をコントールしていた。でも、それでフィオに怒ったことはないよ。私を立ててくれてるんだろうなって、思っていたさ」
「…………そ、そうだったのですね。そ、そんなことよりルキ様、私はいつになったらここから出られるんでしょうか?」
正直、今は王太子の話よりもこの暗くて淀んだ場所から出ていきたかった。
こんな場所はいやだ。
王太子の美しい瞳と目が合う。彼が真面目に話を聞いてくれるチャンスだと思って、ロゼッタは彼に訴えかけた。
「ルキ様はイリーティア様に騙されています……!」
「騙されている……。それではロゼッタ嬢、貴女の言う『騙す』というのはどういう意味だい?」
「優しい妖精姫だなんて嘘っぱちで、ひどい女だということです! あの女は、ルキ様を手に入れるためにわざとオルフェンス様に近づいたんですよ!」
「なるほど。続けて?」
ようやく王太子が耳を傾けてくれた。
ロゼッタは嬉しさのあまり、鉄格子に頬を押し付けるようにして王太子に手を伸ばした。
「わ、私は見たんです! イリーティア様とオルフェンス様が、情熱的にキスをしているところを!」
ロゼッタは演技がかった仕草で王太子を見上げた。
「きっとあの二人は、もうすでに肉体関係にあるに違いません!! なんておぞましい……尊き精霊王の身に、すでに純潔を散らした乙女が近付くなんて……妖精姫なんてとんでもない! あの女は悪女なのです!!」
早口でまくし立てたため、ロゼッタは肩を大きく上下させていた。
「確かにそこだけ聞けば、姫は相当の悪女だという話になるね。教えてくれてありがとう、ロゼッタ嬢」
「じゃ、じゃあ──」
「でも貴女は一つ、勘違いをしているよ」
そんなはずはない。
確かに見たのだ。あの憎き女が、オルフェンスと仲睦まじくしているところを。唇を合わせ、舌を絡ませ、情熱的に交わっていたところをこの目で目撃したのだ。
「私はね、姫の性格を全て知ったうえで姫を愛しているんだ」
「は……い……?」
「全部知っているよ。姫が私を手に入れたがっていたことも、フィオと付き合っていたことも、そして……フィオに純潔を捧げたこともね」
ルキアルゼン王太子とイリーティアが初めて一夜をともにした時、イリーティアはすでに処女ではなかった。
だがイリーティアは自分が処女だと思い込んでいる様子だった。
おそらく、ロゼッタに突き落とされて頭を打った際に、オルフェンスにまつわるあらゆる記憶が飛んでしまったのだろう。
ルキアルゼン王太子は、イリーティアが記憶を失ったという状況を逆手に取った。
「ねぇロゼッタ嬢。姫は、私のどんな所に惚れたと思う?」
「そ、れは……美しい声や、お顔……いいえ、ルキ様の全て、では……?」
「ふふっ、貴女は優しいね。でも答えは『ノー』だ。ティアはね、『王太子』である私に惚れたんだ。『私』自身じゃない」
「は……?」
「そしてここも彼女の可愛いところなんだけれど、ティアはね、王太子を手に入れるために近付いた傍付騎士のフィオに惚れてしまったんだよ」
うっとりとした声でそんなことを言う王太子に、ロゼッタはますます混乱した。
なぜそれでイリーティアを可愛いと言えるのか。なぜそんなことを笑って言えるのか。
「や、っぱり、ルキ様は騙されています……! あの悪女が、きっとルキ様をおかしくしてしまったんだわ!! ルキ様が、あんな悪女を愛するはずがない!」
その瞬間、ルキアルゼン王太子から凄まじい圧が放たれた。
「私には彼女の全てが愛おしい。だからこれ以上、姫を悪女と罵るのは、さすがの私も怒ってしまうよ?」
にっこりと笑ってはいるが、目が笑っていない。
ロゼッタは顔を引き攣らせた。
「記憶を無くしたのは偶然の産物だ。あくまで貴女は私の姫を階段から突き飛ばし殺そうとした罪人。退学処分ではなくて、この王太子権限でもっとひどい場所に送ってやっても良かったんだよ」
「……そんな……!」
「なのに貴女はまた私の姫に怪我をさせようとした。いい加減、良い人ぶるのは疲れてきたよ」
そう言って、ルキアルゼン王太子は手の中に炎を生み出した。
「秘密契約を結んで、貴女にはこれ以上何もしゃべれなくしてあげるから、そのあとは私の前からとっとと消えうせてくれるかな?」
──そして。
その日のうちに、ロゼッタは牢屋から出された。
鼻水を垂らしながらすごい形相で学園から去る姿が、複数の生徒たちによって目撃された。
◇
卒業パーティの日にイリーティアが拉致された事件は、ルキアルゼン王太子が根回しした事によって表向きにはならなかった。誰にも話さず、三人の間で秘密契約の魔法を結ぶことで、今回の件を門外不出とした。
王太子は今回の件について、オルフェンスに特に何も言わなかった。怒ることもたしなめることもせず、ただオルフェンスにイリーティア専属の騎士になることを任命し、引き続き自分の傍にいるように命じた。
オルフェンスは一度はその任務を拒否し、騎士自体を辞めようとした。
だが王太子が強引に引き止めた。
「私は一度手にしたものを手放すつもりはないんだよ、フィオ」
その瞳に狂気じみた執着の輝きがあった。
だがオルフェンスはその事に気付かず、その場で深く跪き、ルキアルゼンとイリーティアへの深い忠誠を誓った。
イリーティアも、オルフェンスが己の騎士となる事に反対しなかった。
「ティア」
ベッドの上でくつろいでいたイリーティアに、同じく夜着姿の王太子が近づく。その頬を撫で上げ、額を合わせた。
「あぁ、落ち着く。ティアを抱きしめている時が、至福の時間だ。公務の時間中でもティアを連れて行けないかな……」
「わたくしはお人形ではありませんよ」
「でも落ち着くんだ……」
「それは……お疲れ様ですわ。わたくしの体でよろしければ、どうぞお使いくださいまし」
「じゃあ遠慮なく」
ルキアルゼン王太子は甘く笑みを浮かべると、イリーティアの頬に唇を這わせた。そのまま首や髪にキスの雨を降らせると、イリーティアがくすぐったそうに身をよじらせる。
「この聖紋は、ティアと私の絆の証だよ」
薄いネグリジェ越しに、王太子が腹を撫で上げる。聖紋が淡く反応し、イリーティアは「ん…っ」と艶っぽい声を吐き出した。
「これをこうすると……」
「っ、あ…ぁぅ……っ」
「あぁ、私の指だけで、もうここがこんな風になってしまったんだね」
ネグリジェの隙間から、イリーティアの蜜口に指が滑り込む。前戯もしていないのに、いとも簡単に入っていくので、ルキアルゼンはいたずらっぽく微笑んだ。
「せっかくだから、フィオにも見てもらおうか」
なんと、ルキアルゼンが寝室にオルフェンスを呼んでしまった。イリーティアは目を薄く開いて驚いたものの、聖紋によって感度があがり著しく発情してしまっているため、それ以上何も言うことなかった。ルキアルゼンの体にしなだれかかり、うずつく下腹部を押さえている。
オルフェンスが隣に来たところを見計らって、ルキアルゼンがイリーティアに覆いかぶさった。
「……ぁああっ♡」
蜜壺に王太子のモノが難なく入り込んで、イリーティアは白い喉を反り上げた。
ゆるゆるろ腰を振りながら、ルキアルゼン王太子もうっとりとした息をこぼす。
「姫の膣内は、いつも柔らかくて温かくて気持ちがいい……」
「ぁ、うぅあっ、ルキ様…っ」
「うん、今日は……フィオに見てもらいながら、一緒に、イこうか?」
「ぇ、あぅんぅう、は、い♡ る、き、様♡ ぁあっ、んぅ!」
オルフェンスは無言で二人の様子を見ていた。
快楽に溺れるイリーティアの顔を愛おし気に撫でながら、ルキアルゼンが抽送のスピードを速めていく。あっ、あっ、と短く呼気が吐き出しながら、イリーティアは悩まし気に足を絡めた。うわ言のように王太子の名前を何度も呼び、舌をねだる。見られていることすら心地が良くて、夢中になって快楽を追いかける。
「あ、あっ、あっ、いイく……っ♡」
「……ッ」
グッと奥をさされて、イリーティアの体が痙攣する。
快楽が弾けて、特有の気だるさが体全体を包みこんだ。
イリーティアは幸せだった。念願の王太子妃になれた。王族として誰にも負けない権力を手に入れ、優雅な生活を送っている。そしてなにより、ルキアルゼン王太子が極上の愛を注いでくれるのだ。
(あぁ、これが幸せなのね)
悪女は、王太子の腕の中でうっとりと微笑んでいた。
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