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10 宇宙ステーション
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誰にも出会う事なく河下を抜け緑道までやってきた二人は、細い道の前方からゆっくりと向かってくる人の姿に歩みを止めた。
滅多に人が通らないと踏んでいただけに、ソモルは焦った。ここで引き返すのも、かえって怪しい。二人は、なるべく堂々と前へ進む事にした。
やって来くるのは老婆のようだ。買い物の帰路に、緑豊かな細道を選んだのだろう。老婆は二人を気に留めるでもなく、みずみずしく繁った樹々の葉を眺めながらゆっくり歩いている。
乾いた気候のマーズでは、豊かな樹々は珍しい。この辺りではソモルの暮らす小屋のある丘か、水が豊富に流れる河の周辺くらいなのだ。
二人は老婆が葉っぱに眼を奪われている間に、そそくさとその脇をすり抜け、先を急いだ。
ようやく、前方にステーションが見えてきた。
たった今発射したばかりの貨物シャトルが、轟音を響かせ二人の頭上彼方へ飛び立っていく。朝の宇宙ステーションは、非常に人の行き交いが激しい。
発射台にセットされた貨物宇宙船が何台も並ぶ中で、運び屋たちがせかせかと慌ただしく荷物を積んだり降ろしたりしている。
二人は太い柱の陰に身を潜め、広いステーションの様子をうかがった。運び屋たちに交じって、惑星警備隊の姿がちらほらと見える。
やはり、ここは一段と警戒が厳しいようだ。なんせ、巨大惑星の姫が凶悪犯と共にこの星に居るのだ。それも無理はない。
「どうすんだよ、ラオン」
参ったなあという顔で、ソモルが尋ねる。この様子では、お手上げだ。
「貨物船に乗り込むんだ」
この状況を把握している筈なのに、あっさりラオンは答えた。
「どうやって」
ソモルが呆れた声で云う。
二人の似顔絵は、もうこの星中に知れ渡っているだろう。ましてや警備隊が、その顔を見逃すわけがない。
「なんとかなるさ」
そう云うとラオンは、身を低くくして進み出した。
「おいっ」
本気なのか。あまりに無謀すぎる。
ソモルも地べたすれすれに屈み込むと、仕方なく後を追った。もう、どうにでもなれ。
荷物の陰から陰、まるで綱渡りのように慎重に貨物船に近づいていく。わずかな距離なのに、背中に冷たく汗がにじんでいく。
ネズミのような気分だった。
近づいた人影に、二人はびくりと止まる。どうやら運び屋同士のようだった。なにやら仕事についての不満をぼやき合っている。
グチるなら、何処か他でやってくれ。
二人は小さくなったまま、息を殺した。大きな体を荷物に寄りかけているらしく、木箱が動きに合わせてギチギチと音を立てる。
その度に、二人の心臓は跳ね上がった。
ひとしきりグチをこぼし終えると、運び屋たちは笑いながら持ち場へと去っていった。
気配が完全に消えた事を確信すると、二人は再び動き出した。
もう少し。後もう少しで、一番近い貨物船に辿り着ける。
後に残された距離は、約三メートル程。しかしこの先に、二人が隠れられるような物がない。
二人は、恐る恐る周囲の様子をうかがった。
やはり、居る。
作業する貨物の乗員に交じり、警備隊が三名程、見張っている。
ラオンとソモルは、顔を見合せた。
姿を見られずに近づくのは、不可能に等しかった。まさに、断崖絶壁状態。
「おいおい、こりゃまた、なんの騒ぎだ」
先程ジュノーから到着したばかりの運び屋が、物々しい警備態勢に驚いて顔見知りの同業者に尋ねている。
「なんでもジュピターの姫さんが、凶悪犯にさらわれてこの星に居るらしいぜ」
タバコを吹かしながら、尋ねられた親父が答えている。
「へえー、そりゃあそりゃあ」
関心しながらも、完全に人事の様子だ。
「けど案外さあ、あの箱の陰とかに隠れてたりしてなあ」
運び屋たちの会話を耳にしながら、ラオンとソモルは冷や汗びっしょりだった。
たのむからおじさん、余計な詮索はするな。
ははは、まさかと笑い声がする。ずいぶんと質が悪い。
この危機を、どうにか切り抜けなければ。二人が考えあぐねていた、その時だった。
「おーい、警備さぁーん!」
ステーションの大きな門の向こうから、やってくる声があった。
少年の声だ、それも数人。
しきりに、警備さん警備さん、大変だ、と声を張り上げ走ってくる。
ソモルは聞き覚えのあるこの少年たちの声に、耳をそばだてながら覗き見た。
やっぱり。
叫びながら走ってくるのは、ソモルの弟分の少年たち、キジム、ゴロー、ユンカス、そしてターサだった。
あいつら。ソモルの顔が、思わずほころんだ。
恐らく、ターサの策略だ。ステーションでの警備の厳しさを予想して、仲間たちを巻き込みラオンとソモルの助け船に出たのだ。
今警備隊をふくめ、人々の注意は現れた少年たちへと向いていた。
「見たんだよ、俺たち!」
息せき切るように、ターサと三人が話し出す。
「そうそう、俺たち見たんだよっ! あの凶悪な指名手配犯に脅されて歩いてる、ラオン姫をっ!」
ゴローがわざと大袈裟に話す。
おいっ! 凶悪は余計だろっ! それに、誰が脅した!
ソモルが、心の中で舌打ちした。
四人は次々にあらぬ事をまくし立てた。だいぶ面白がっている。散っていた惑星警備隊が、わらわらと少年たちの元へ集まってくる。
「ナイフをこう、カッと姫に突きつけてさあ」
「違うぜ、あれは間違いなくライフルだった!」
「なんだって! 犯人はライフルを所持しているのかっ!」
やめてくれ。もうそれ以上、話を広げるな。万が一捕まって誤解を解く事ができなければ、確実に牢獄行きだ。
「街の方だよ。繁華街で見たんだ!」
「ほらっ、早く行かないと、逃げちゃうよっ!」
善良なる少年たちの目撃情報に、警備隊がにわかに動き出す。完全に、ラオンとソモルの居る場所からは注意が逸れていた。
誰も、こちらを見ていない。
今しかなかった。
「走れ、ラオン」
滅多に人が通らないと踏んでいただけに、ソモルは焦った。ここで引き返すのも、かえって怪しい。二人は、なるべく堂々と前へ進む事にした。
やって来くるのは老婆のようだ。買い物の帰路に、緑豊かな細道を選んだのだろう。老婆は二人を気に留めるでもなく、みずみずしく繁った樹々の葉を眺めながらゆっくり歩いている。
乾いた気候のマーズでは、豊かな樹々は珍しい。この辺りではソモルの暮らす小屋のある丘か、水が豊富に流れる河の周辺くらいなのだ。
二人は老婆が葉っぱに眼を奪われている間に、そそくさとその脇をすり抜け、先を急いだ。
ようやく、前方にステーションが見えてきた。
たった今発射したばかりの貨物シャトルが、轟音を響かせ二人の頭上彼方へ飛び立っていく。朝の宇宙ステーションは、非常に人の行き交いが激しい。
発射台にセットされた貨物宇宙船が何台も並ぶ中で、運び屋たちがせかせかと慌ただしく荷物を積んだり降ろしたりしている。
二人は太い柱の陰に身を潜め、広いステーションの様子をうかがった。運び屋たちに交じって、惑星警備隊の姿がちらほらと見える。
やはり、ここは一段と警戒が厳しいようだ。なんせ、巨大惑星の姫が凶悪犯と共にこの星に居るのだ。それも無理はない。
「どうすんだよ、ラオン」
参ったなあという顔で、ソモルが尋ねる。この様子では、お手上げだ。
「貨物船に乗り込むんだ」
この状況を把握している筈なのに、あっさりラオンは答えた。
「どうやって」
ソモルが呆れた声で云う。
二人の似顔絵は、もうこの星中に知れ渡っているだろう。ましてや警備隊が、その顔を見逃すわけがない。
「なんとかなるさ」
そう云うとラオンは、身を低くくして進み出した。
「おいっ」
本気なのか。あまりに無謀すぎる。
ソモルも地べたすれすれに屈み込むと、仕方なく後を追った。もう、どうにでもなれ。
荷物の陰から陰、まるで綱渡りのように慎重に貨物船に近づいていく。わずかな距離なのに、背中に冷たく汗がにじんでいく。
ネズミのような気分だった。
近づいた人影に、二人はびくりと止まる。どうやら運び屋同士のようだった。なにやら仕事についての不満をぼやき合っている。
グチるなら、何処か他でやってくれ。
二人は小さくなったまま、息を殺した。大きな体を荷物に寄りかけているらしく、木箱が動きに合わせてギチギチと音を立てる。
その度に、二人の心臓は跳ね上がった。
ひとしきりグチをこぼし終えると、運び屋たちは笑いながら持ち場へと去っていった。
気配が完全に消えた事を確信すると、二人は再び動き出した。
もう少し。後もう少しで、一番近い貨物船に辿り着ける。
後に残された距離は、約三メートル程。しかしこの先に、二人が隠れられるような物がない。
二人は、恐る恐る周囲の様子をうかがった。
やはり、居る。
作業する貨物の乗員に交じり、警備隊が三名程、見張っている。
ラオンとソモルは、顔を見合せた。
姿を見られずに近づくのは、不可能に等しかった。まさに、断崖絶壁状態。
「おいおい、こりゃまた、なんの騒ぎだ」
先程ジュノーから到着したばかりの運び屋が、物々しい警備態勢に驚いて顔見知りの同業者に尋ねている。
「なんでもジュピターの姫さんが、凶悪犯にさらわれてこの星に居るらしいぜ」
タバコを吹かしながら、尋ねられた親父が答えている。
「へえー、そりゃあそりゃあ」
関心しながらも、完全に人事の様子だ。
「けど案外さあ、あの箱の陰とかに隠れてたりしてなあ」
運び屋たちの会話を耳にしながら、ラオンとソモルは冷や汗びっしょりだった。
たのむからおじさん、余計な詮索はするな。
ははは、まさかと笑い声がする。ずいぶんと質が悪い。
この危機を、どうにか切り抜けなければ。二人が考えあぐねていた、その時だった。
「おーい、警備さぁーん!」
ステーションの大きな門の向こうから、やってくる声があった。
少年の声だ、それも数人。
しきりに、警備さん警備さん、大変だ、と声を張り上げ走ってくる。
ソモルは聞き覚えのあるこの少年たちの声に、耳をそばだてながら覗き見た。
やっぱり。
叫びながら走ってくるのは、ソモルの弟分の少年たち、キジム、ゴロー、ユンカス、そしてターサだった。
あいつら。ソモルの顔が、思わずほころんだ。
恐らく、ターサの策略だ。ステーションでの警備の厳しさを予想して、仲間たちを巻き込みラオンとソモルの助け船に出たのだ。
今警備隊をふくめ、人々の注意は現れた少年たちへと向いていた。
「見たんだよ、俺たち!」
息せき切るように、ターサと三人が話し出す。
「そうそう、俺たち見たんだよっ! あの凶悪な指名手配犯に脅されて歩いてる、ラオン姫をっ!」
ゴローがわざと大袈裟に話す。
おいっ! 凶悪は余計だろっ! それに、誰が脅した!
ソモルが、心の中で舌打ちした。
四人は次々にあらぬ事をまくし立てた。だいぶ面白がっている。散っていた惑星警備隊が、わらわらと少年たちの元へ集まってくる。
「ナイフをこう、カッと姫に突きつけてさあ」
「違うぜ、あれは間違いなくライフルだった!」
「なんだって! 犯人はライフルを所持しているのかっ!」
やめてくれ。もうそれ以上、話を広げるな。万が一捕まって誤解を解く事ができなければ、確実に牢獄行きだ。
「街の方だよ。繁華街で見たんだ!」
「ほらっ、早く行かないと、逃げちゃうよっ!」
善良なる少年たちの目撃情報に、警備隊がにわかに動き出す。完全に、ラオンとソモルの居る場所からは注意が逸れていた。
誰も、こちらを見ていない。
今しかなかった。
「走れ、ラオン」
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