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祭りの灯火
しおりを挟むすっかり真っ暗になった道を一人で歩く。すると、遠くで賑わいを見せていた。
「大宮祭り、か。」
大宮祭りは私はとって大切な思い出だ。あれは10年前の出来事。
母と逸れてどうしようもなくなった私は人影のない木の下で一人蹲っていた。
『大丈夫?』
と声がして顔を上に向けると一人の少年が立っていた。
『ついて来て。』
少し戸惑い乍も差し出された手を握るとグッと引っ張られた。
------そうだ、思い出した。
『神社の裏に行って、ここの森に入って、右に曲がって、この階段を登ると、』
『ほら、綺麗でしょう?』
真っ赤な祭りの灯火が、目の前に広がる。
『ここ、俺が見つけたんだ。二人だけの秘密。』
そう言った彼の笑顔が祭りの灯火に負けないくらい輝いていた。
いつかの日と変わらない景色が私の目を埋めていく。
「綾瀬さん…?」
聞き覚えのある声がした。
「城田君…」
不意にあの姿と重なった。
--------もしかして、城田君が…?
城田君は私の通う学校のクラスメイトだ。クラスの中でも中心で優しくて女子に噂されているのをよく耳にする。
「ああ、やっぱり綾瀬さんだったんだね。10年前の、って言われても覚えないか。」
「覚えてるよ。私にとって大切な思い出だから。」
そっか、と呟いた城田君は不思議そうに私の顔を覗く。
「突然言われても困るかもだけど、大丈夫?」
「えっ?」
「あっ、いやごめん。なんか苦しそうな顔してたから。」
気づかなかった。そんなに苦しそうな顔してたんだ。 ああやっぱり。昔からそうだった。私が悩んでいる時には母は真っ先に気づいていつも寄り添ってくれていた。
私はそうやって心配されるといつも泣いてしまう。
「お母さんが亡くなったんだ。」
静かな空間が続いた。
「ごめん。軽率だった。」
「大丈夫…だから、気にしないで。」
頭に心地よいぬくもりを感じた。その優しさに包まれていても、胸がギュっと苦しくて。
「もう、一人でどうしたらいいのかわからない。わからないよ。」
すると手が差し伸べられた。
「君は一人じゃないよ。君が一人で涙を流していたら、いつだって手を差し伸べてあげる。俺が一人になんてさせない。」
握られた手がきつく締め付けられた。
「俺は君が好きだよ。学校で君を見かけた瞬間すぐにわかった。綾瀬さんが10年前のあの子だったんだって。」
~~
その日は雲ひとつない晴天だった。俺は新しい制服に身を包み正門をくぐる。教室の扉を開けたそのとき、一際輝いて見えた人がいた。その人が綾瀬さんだった。きっとこんなことを言うと殆どの人が大袈裟だ、と笑うだろう。でも、確かにそう見えたんだ。それからは気付けば目で追ってて。感情を表に出さない人なんだなと思った。でも、その奥の表情がある気がした。そんなことを思っているうちに好きになっていた。そんな気持ちは毎日募る一方だった。
~~
「今こんなことを言うのは狡いかもしれない。でも、どうしても抑えられなかった。勿論、返事は今すぐじゃなくていい。好きって気持ちは嘘じゃ無いから。」
言葉が出なかった。正直に言うと信じられない。自分でも面倒くさい奴だと思う。こんなにも真剣に言ってくれているのに。
私が人を信用出来ないのには理由があった。''自分''を信用していないからだ。
だから正しくは信用出来ているのか、出来ていないのか分からないのだ。
母が少ししんどそうにしていて「大丈夫?」と言っても「大丈夫だから安心しなさい」そう笑顔で言うのだった。本当は全く大丈夫じゃなかった。母は癌を患っていた。病態は悪化する一方だったらしい。しかし、母は何も言ってくれかなった。
でも、一番腹が立ったのは自分だ。気付けなかった自分。母の言葉を疑わなかった自分。何も出来なかった自分。
「急に言われても困るよね。ごめん。でも学校で仲良くしてくれると嬉しいな。」
城田君は申し訳なさそうに笑った。やっぱりあまり関わらないほうがいいのかもしれない、こんな私と貴方じゃ釣り合わない。そう思った瞬間気まずい空間を破るように花火が打ち上がった。
「綺麗。」
ついぽろっとこぼしてしまった。そして城田君は
「綺麗だね。」
と返してくれた。さっきまであんな空気をつくってしまった私に、「どれだけ優しいんだこの人」と思った。まあ花火の光が映った横顔が綺麗でこぼした言葉だということは秘密にしておこう。そして、前言撤回しっかり向き合いたい。城田君とも、自分とも。逃げてばかりの自分が嫌いなのだから。
真っ直ぐな眼差しで花火を見上げた。
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