大切なもの

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大切なもの

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私の親は、最低だ。親が子供にあげるような愛情も、何もかも貰えなかった。父親は、毎日酒に溺れ、暴力を奮ってくる。母親は、家事を放棄して、遊び回っている。家に帰ったら、父親から暴力をされて、母親は育児放棄。少し年の離れた兄がいるが、兄も同じような扱いをされている。とても辛かった。
ある日、私はいつものように父親から暴力を受けていた。だけど今日は、少し様子がおかしかった。父親がいつもよりも、すごくイラついているんだ。怒鳴っていた、暴れていた、狂っていた、何があったかわからなかった。父親は、床に落ちていた酒瓶を持った。そして、こっちに近づいてきた。目は、血走っていた。殴られて、まともに立てなくて、動けなくて。少し後ずさることしか出来なかった。怖くて、逃げたくて、助けを求めたかったけど。兄はいないし、恐怖で、声が出なくて。そして、酒瓶で殴られた。
バリン!という音とともに、頭から血が流れた。気絶する訳でもなく、意識が朦朧もうろうとして、ただただ激痛が走るだけだった。父親は、私が血を流しているところを見て、正気に戻ったのか。それとも、自分が警察に捕まると思ったのか。家をすぐに飛び出した。私は、安心した。だけど、意識がどんどん落ちていった。血は止まることはなかった。そして私は、意識を失った。

目が覚めると、私は知らない部屋にいた。体を起こして、周りを見渡すと、病室だとわかった。まだ意識は、はっきりしなかった。頭には、包帯が巻かれていた。どのぐらい、眠っていたのか私にはわからなかった。時計を見たら、5時23分だった。外を見て、夕日が差し込んでいたので、午後とわかった。何もすることがなくて、とても暇だった。暇してると、病室の扉がガラリとあいた。看護師が来たのかと思って、そちらを見た。お兄ちゃんがいた。

「目が覚めたのか、体調は大丈夫か?」

「少し…クラクラする程度……」

「そうか、無理はするな。とりあえず横になれ」

そういわれ、私は横になった。しばし沈黙が続いて、お兄ちゃんが口を開いた。

「お父さんは、警察に捕まったよ。帰ってきたら、お前が血を流して倒れていたからな、救急車を、呼んだんだ。そして、警察も病院の人達が呼んだらしい。そして、お父さんがお前を酒瓶で殴ったとわかり、虐待の容疑で、警察に逮捕されたんだ。もちろん、お母さんも育児放棄ということで、それなりの罪が課せられてる」

「そうなんだ、親がいないなら、これから私たちはどうなるの?」

「このまま、施設に入るのも嫌だろ。俺はもう働けるから、学校をやめて、俺がお前を養っていく。支援金も、貰えるしな」

私も施設に入るのは嫌だった、だから私は、お兄ちゃんと暮らしていくことに決めた。
それから数日がたち、私は、退院することが出来た。だけど、お金は大丈夫なのか?それが一番の心配だった。
「お兄ちゃんは、お金は大丈夫なの?」

「あー、それは大丈夫だよ。俺も働くし、支援金も貰える。お婆ちゃんが残した遺産が、全て孫の俺たちに渡すようにって。遺言にも言っていたみたいで、俺達が貰ったみたいだしな」

「そうなんだ、お金は問題ないとして。私達はどこで暮らすの?」

「小さいけど、お風呂もキッチンもついているアパートに暮らすよ。生活用品は、家にあったものを持ってこればいいしね」

「そうなんだね。楽しみだな」
普通に生活できそうだった、これからいつもよりも、幸せな生活が待っていると思った。
だけど、待っていたのはまた、別の絶望だった。

バシャーンと、音が響いた。私は、池に落とされていた。

「貧乏人は学校に来るな。貧乏人は貧乏人らしく、雑草でも食っとけ」

そう、私はいじめを受けていた。殴られたり、学校で悪口を言われたり、池に落とされたり、他にもいろいろだ。私の家は、貧乏だから、こうやっていじめを受ける。中学生になってから、いじめが始まった。とても辛くて、すごく怒りが湧いた。だけど、この怒りをぶつける相手がいなくて、私はお兄ちゃんに、怒りをぶつけた。

「最近、何かあったのか?なんか、辛そうだけど」

「うるさい!関係ないでしょ!あっち行け!」
お兄ちゃんは、何も悪くないのに、私は、怒りをぶつける相手がいなくて。日に日に溜まっていくストレスを、お兄ちゃんにぶつけた。
ある日、お兄ちゃんが私に髪飾りを買ってきた。だけど私は、言った。
「こんなダサいものはいらない、こんなもの買ってくるぐらいなら働け」と、そんなことを言った。
お兄ちゃんは、朝から晩まで、ずっと働いている。休みの日も、ずっと働いている。私のために、働いているのに。私はお兄ちゃんに、キツい態度をとっていた。だけどお兄ちゃんはいつも、笑っていた。私はそんなお兄ちゃんに、甘えていたのかもしれない。
夏の暑い時期に入り、私は家で暑い暑いと言いながら、寝っ転がっていた。クーラーが着いていないため、くっそ暑かった。お兄ちゃんは、珍しく家にいた。暑い暑い言ってると、お兄ちゃんがどこかへ出かけた。仕事をしに行ったのかと思い、私は気にしなかった。
数十分がたち、家に電話がかかってきた。知らない電話番号だったが、電話に出た。そこで、私は告げられた。お兄ちゃんが、事故にあって、病院に運ばれたと。私はびっくりして、思考がまとまらなかった。お兄ちゃんが、事故?どういうことだ?なんで、お兄ちゃんが事故にあったんだ?わけも分からず、私は急いで病院へ向かった。
看護師に、お兄ちゃんの病室を聞いて、すぐに向かった。部屋に入ると、医者達がいた。

「君は、この人の妹かい?親はどうしたの?」 

医者が聞いてきた。
「え、あ、親はいません。私一人です」

「そうか…残念だけどもうお兄さんは助からない……」

「え……」
私は訳がわからなかった、お兄ちゃんが死ぬ?そんなはずがない、お兄ちゃんはいつも元気で、いつも笑っていた。そんな、お兄ちゃんが、死ぬわけがない。

「コンビニで、アイスクリームを買ってきた帰りに、交差点で引かれたんだろうね」

医者は、私に袋を渡してきた。中に入っていたのは、私が好きなアイスだった。多分、お兄ちゃんは、私が暑い暑いばっかり言っていたから、 アイスを買ってきたのだろう。
「馬鹿だよ…お兄ちゃん……」
私はお兄ちゃんの方へ駆け寄った。
「馬鹿だよ!いっつも無駄なものは買わなくていいって言ったのに!なんでいっつも要らないものを買ってくるの!」
私は大声で泣いた。お兄ちゃんの手はとても冷たくて、もうすぐ死んでしまうと考えると、涙が止まらなかった。
「どうしてよ!お兄ちゃん!」
 私はお兄ちゃんに甘えていた。いっつも優しくしてくれたお兄ちゃんに、私は辛辣な態度をとっていた。私は、後悔した。もう、お兄ちゃんとは会話ができない。私のために、一生懸命働いてくれていたのに。私に、不自由させないために、きついはずなのに、私のために。
私は、その日ずっと泣いていた。

あれから数年がたった。枯葉が宙を待っていた。私の涙はもう出尽くした。お兄ちゃんが、残したお金や、保険金が入り。贅沢は出来ないけど、どうにか暮らしていけた。辛いことも沢山あったけど、私は乗り越えて、いまは幸せだ。高校では、いじめはなくなって。毎日が楽しい。
「だけど」
そして私は、お兄ちゃんから貰った、髪飾りを触りながら言った。
「お兄ちゃんがいたら、もっと幸せだったんだろうな」と……
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