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第三章 愛した人
八
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――「拓海は、……最後まで俺を頼らなかった。理事長から聞いたんだ、拓海を大学から附属病院に推薦出来なくなったって」
秀也に拓海の近況を勝手に話してしまったが、まさか伝えていなかったとは。
南はグラスを小さく傾けて、黄金色の液体を見つめる。
その様子を見たバーのママは、お客に断りを入れてキャストをつかせ席から離れると、南のカウンター前に移動した。
「元気ないわね。なんかあったの?」
ママは心配そうに南の顔をのぞき込む。
「うーん、腹いせで自慢しに行ったのに、逆にあいつらが心配になったよ」
「タクミと秀也君?」
「うん」
「……この間タクミと会ったけど、少し荒れてたから、心配だわ」
ママは空になった南のグラスにバーボンを注ごうとしたが、それは南の手で止められた。
「今日はもう帰るよ」
「あら、明日早いの?」
「抜けた人の補充で拓海をうちの病院に入れたの良かったんだけど、前任の引き継ぎを新卒にやらせるわけにはいかないから、出勤前に少しずつ仕事を減らしておきたくて」
最近、南の仕事量は通常時の倍以上で、休む暇も無く動きまわっている。その様子を見ていた医院長が心配して無理やり休ませたのだが、南は拓海の事が気がかりで休むにも気軽に休めなかった。だから、ママのお店に呑みに来たのだが、それもやはり気分転換にならなかった。
院長に変わってもらったけど、やっぱり俺がやなきゃ。拓海をウチで雇ってくれた院長に迷惑をかけるわけにはいかないな。
ごちそうさま、と言って席から立ち上がる南にママは言った。
「南くん。……アタシはあの子の親じゃないけどさ、身内みたいに思ってるのよ。なのに、アタシみたいな職じゃあ、あの子の努力が報われるような手助けは出来ないから」
喉元で突っかかる何かを止めるように、一旦口を閉じた後、ママは続けた。
「あの子のこと、見捨てないでくれてありがとう」
ママの瞳は薄く膜を張っている。
南に背を向けると「お代は良いわ」と言って、他の客のところに行った。
「俺には到底追いつけない人だ」
南はお店を出る時、鈴の音に振り向いたママに頭を下げた。
暗い路地を抜け、ネオンが輝く道で救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。
秀也に拓海の近況を勝手に話してしまったが、まさか伝えていなかったとは。
南はグラスを小さく傾けて、黄金色の液体を見つめる。
その様子を見たバーのママは、お客に断りを入れてキャストをつかせ席から離れると、南のカウンター前に移動した。
「元気ないわね。なんかあったの?」
ママは心配そうに南の顔をのぞき込む。
「うーん、腹いせで自慢しに行ったのに、逆にあいつらが心配になったよ」
「タクミと秀也君?」
「うん」
「……この間タクミと会ったけど、少し荒れてたから、心配だわ」
ママは空になった南のグラスにバーボンを注ごうとしたが、それは南の手で止められた。
「今日はもう帰るよ」
「あら、明日早いの?」
「抜けた人の補充で拓海をうちの病院に入れたの良かったんだけど、前任の引き継ぎを新卒にやらせるわけにはいかないから、出勤前に少しずつ仕事を減らしておきたくて」
最近、南の仕事量は通常時の倍以上で、休む暇も無く動きまわっている。その様子を見ていた医院長が心配して無理やり休ませたのだが、南は拓海の事が気がかりで休むにも気軽に休めなかった。だから、ママのお店に呑みに来たのだが、それもやはり気分転換にならなかった。
院長に変わってもらったけど、やっぱり俺がやなきゃ。拓海をウチで雇ってくれた院長に迷惑をかけるわけにはいかないな。
ごちそうさま、と言って席から立ち上がる南にママは言った。
「南くん。……アタシはあの子の親じゃないけどさ、身内みたいに思ってるのよ。なのに、アタシみたいな職じゃあ、あの子の努力が報われるような手助けは出来ないから」
喉元で突っかかる何かを止めるように、一旦口を閉じた後、ママは続けた。
「あの子のこと、見捨てないでくれてありがとう」
ママの瞳は薄く膜を張っている。
南に背を向けると「お代は良いわ」と言って、他の客のところに行った。
「俺には到底追いつけない人だ」
南はお店を出る時、鈴の音に振り向いたママに頭を下げた。
暗い路地を抜け、ネオンが輝く道で救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。
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