ド“クズ”大公はハリボテ王太子に篭絡される

あまやどり

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敬愛賛美

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 赤い双眸に睨まれて縮こまるあわれな紳士。

「…お前はなぜ詳細に祈りのことを知っているんだ?」

 身構える隙も、話を取り替える手腕もないこのあわれな紳士は、たどたどしく、弱々しく、勢いのなくなった声で言葉を繋ぐ。

「え? あぁ、い、いやぁ…う、噂ですよ噂…。へ、へへ、わ、私なんかの、は、話に本気になさらないでください」

 この酒宴の生贄か、周りの紳士は固唾を飲んで彼の動向を見詰める。一言も間違えてはならない。何人も彼を助けようと声を発してはならない。彼の息を遮れば、その不快な感情の矛先は己に向かうだろうから。

「ハハハ!そうだなあ。だが、その噂は大変よろしくない」
「へ?」

 ――ただ、残念なことに。ここには心からこのあわれな紳士の心情を思いやろうなどと幻影を抱くものなど誰ひとりとして存在し得ないのだ。

「お前は今、祈りを捧げる王太子あれの姿を想像したのだろう?さらに、彼の真摯に祈りに向き合う姿を穢した発言をした。
 ――これは 大罪 だ」
「あ、ああ! どうか、どうかお許しください!!」

 きたぞきたぞ、この時を待っていた!
 祭りの盛り、ひときわ大きい花火を心待ちするように紳士の群生の心は浮き立つ。

「たとえハリボテの王太子でも、彼への不敬は我だけの特権だ。お前にはそうだなぁ、二つの罰を与え許しをやろう」
「な、なんでしょう!!なんでも致しますので!ど、どうか!どうか命と家族の命だけはご勘弁ください!!」

 大公はソファから立ち上がると尊大な態度で胸を張り寛大な心を持って温情深い眼差しを向ける。反対に、あわれな紳士は両膝をついて、両手を結び大公へ懇願する。

「ひとつ ローデリック卿の出資している高等ギルド商館の依頼人、取引先の登録名簿だ」
「そ、それは!!駄目です!い、いけません!商館の私への信用が!!」

 青ざめた顔で必死に嘆願するあわれな紳士こと、ローデリック卿。彼を離れたところから見ているだけの紳士たちは緩やかに酒宴の空気に戻っていた。

「これはひどい。あの方の悪巧みは人道を逸れている」
「だからこそ面白みがあるというものだ」
「そうだそうだ。清廉潔白な王太子派の唱えるなんと退屈な日常を我らは生きねばならんのだ」
「では、いつか貴方があちら側にいる日がきたら、同じようなことが言えるのかな?」
「それは堪らん!ああやって目に余る奴をあの方に捧げているのが愉しくて仕方がないのだよ」
「ああ、その通りだ。こたびはローデリック卿だっただけのこと」

 二人の周りでひそりとまたたくまに陰湿な口が増える。

「ククク、ローデリック卿はたしか、出資したあのギルドの経営支配権を握っておられたようで」
「どうにも彼のたらふく蓄えた肥やしの出処はそこらしい」
「……あぁ、だからですか。そういえば彼には年ごろの美しい娘がいましたね」

 紳士たちの視線はまた二人を注視する。わんわんと赤子のように泣きじゃくるローデリック卿。彼が這いつくばりながら握った、大公の絹で仕立てられた紫紺色の裾には皺が寄った。
 顔色を変えず大公はにこにこと笑みを絶やさない。恐ろしい悪魔の笑みだと呟く声も絶えずに聞こえてくる。

「ああ、お可哀想に。大事になされた娘はあわれな末路をたどるというのか」
「三〇年前のアリーン夫人という被害者がまたも…当時の彼女はまだ学生だったころだったな」

 彼らの言葉を皮切りに大公の気品ある声が響く。

「ふたつ 卿の一人娘レフィ嬢を豊穣祭まで借り預かる!」
「あ、あ、あぁ…ああああ!!!」

 堕ちた。揺りかごから、断崖から、闇の深まる谷底へ。
 ローデリック卿の金切り声はこの世の悪意を抱いてしだいに枯れていった。

「今度の哀れな卿はいったいいつまで心が保てるだろうか?」
「三ヶ月後の豊穣祭まで二〇かける!」
「おお!他には!?」
「豊穣祭までもたんだろうさ!!一〇レーノ!!」
「さあ!他にかける者は!?」
「俺も二〇レーノ! 三ヶ月は超えるさ!!」
「なんだ私は四〇レーノかけるぞ! 三ヶ月以内に大公へ泣きつくだろう!!」

「ああ!!偉大なる大公爵!!貴方様がご敬愛するハリボテ王太子の醜聞を我々は心よりお待ちしております!!!」

「豊穣祭まで三ヶ月か。さぞ我が君は美しい祈りを自然神の女神へ捧げるのだろう」

 彼の人生の愉しみは、黄昏を迎える重要な分岐点となることを、今はまだ知らない。








 ※【レーノ】金貨、通貨、貨幣 
 一〇レーノ…だいたい千円ぐらい
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