ド“クズ”大公はハリボテ王太子に篭絡される

あまやどり

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敬愛賛美

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 どうしてそこに拘るのだろう。それは三〇年も昔のことで、王太子はこの世に生まれてもいないときの事だから関係ないだろうに。ああ、先代の国王が若くして亡くなったのはアリーン夫人を奪われたから、私へ先代の恨みを晴らそうとしているのだろうか。
 それとも、この穏やかな青年は実は噂好きでアリーン夫人の噂が本物かどうか確かめたいと思っているのか。
 まあ、どちらでもいい。前者だとして首を落とされこの地で眠ることになろうが天に返されようが、後者でアリーンと笑い者になろうが私にはどうでもいい。

「だとしたら? 聖人の殿下は臣下の私にどうして欲しいのです?」
「私も同じ金髪だ」
「な、にをいって?」

 アルはその言葉に驚いて、自分を見つめる彼の真剣な表情にかかるプラチナブロンドに目が向いた。

――痛みを知らないあなたの美しい髪。私はそれを……

 その視線をジュ―リは見逃さなかったようだ。どこか満足そうに微笑みながら言った。

「彼女たち、……レフィ嬢とアリーン夫人、共通している金髪を私も持っている。あなたの趣味このみではないか?」
「あの、本当にさっきからご自分が何を仰っているのか理解ってます?」
「もちろんだ。私に手を出すつもりなのだろう? 豊穣祭まで待てるのか?」

 そんなにあっさりと言われると思っていなかったアルは彼に深読みなんて存在しないのだと改めて思いだした。自身が “ハリボテ王子” と呼ぶほど、彼は生真面目でこの世界の汚いところを知らない。いや、知らぬ存ぜぬで見ないのではなく、知ったうえでこういう直接的なアプローチをするのだから構えているこちら側は阿保を見るのだ。

――この人に構えているだけ精神の無駄使いだ。

「残念ですが、今はまだその時ではありません。それに、私が彼女たちを髪色だけで選んでいると? 金髪なんて、彼女たちには劣るが国民の大半を占めていると思うが」
「そうなのか。ではどこが」
「さあ、どうでしょうね」

 それは、ただ一つ。彼女たちに無くて王太子だけにあるもの。
 その瞳の奥の傲慢でも見栄でもない、その強情なまでの揺らぎない意志が私をつちに別れ難さを感じさせる。

「それは、あなたと関わっていれば追々分かることだ」
「……そうですか」
「そういえば、王が」
「国王が如何されました?」
「豊穣祭の前夜にパーティを開くからあなたと会いたいらしい」
「へえ。それはそれは、大変名誉でございます」
「ああ、私もいるぞ」
「……そうですか」
「嬉しくないか?」

――豊穣祭で襲おうと陰口叩いている奴とその前夜、公式で会うのが嬉しいなどとこの人は思うのか? なんて能天気な人だ。私があなたに抱いているこの心は、凡人の人間とは違うというのに。

「……殿下は私の心をよく掻き乱しますね。それも薔薇の棘のように」
「あなたの退屈そうな人生に少しでも乱れた華を添えられて嬉しいよ」

 その言葉はアルの心を擽った。過去三〇〇年。面と向かって自分にこれほどの軽口をかけた者などいただろうか? 

――ハハ、今すぐ抱いてやろうか。

 醜聞を広めるのにいい機会だと豊穣祭まで待つと決め、その間の玩具としてローデリック卿の娘を慰み者にしようとしていた予定をすっぽかしてしまおうかと欲望が決心を覆った。

「ふむ、考えが変わりました今すぐ私の鳥籠にお入り願えませんか? もちろん王族用の特別な籠を用意しますよ」

 アルはふっきれてキスをしようとジューリの顎を持ち上げた。変わらない背丈だから彼の顔を自分に向けるだけ。
 だが、彼の碧い瞳が閉じることはなかった。さらに、彼の指が自身の唇を押しのけ、ふたりの身体は離れた。

「断るよ、私にはあなたの持つ比翼の加護だけで窮屈だから。それに人は愛でられるだけでは生きていけない」

――なんだつまらない。これだけこちらの心を煽っておいて放置か。

「そうでしょうか?」
「あなたにもいつか分かると思います」

 なんだ、今夜はいやに生意気だとアルは感じた。

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