俳句集『たらざり』

凛七星

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第十六章

『八十八夜、それから半夏生へ』

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グレートベアにならぬ給与よ春北斗




新旧の餘部並び風光る




春雨や野良猫小さき背を振るう




春鰯わしわし食べる島の猫




若芝の根を喰う虫も命あり




踏青の肌に残りし跡なぞる




雨空は記憶装置か卯月尽




メーデーもただの祝日いざ行かん




荷風忌やストリッパーの泣き黒子




みどりの日むくり巨人のごとき山




山間の底で泳げり鯉のぼり




老鶯の声や極楽橋わたる




薔薇の棘先に命を燃やす虫




衣更詠む東北は雪景色




初夏の空のもと戦地は血の腐臭




豆飯をよそう手をとめハグとキス




筍の皮めくる午後なまめく手




アイスクリーム溶け血だまりの記憶




暴行を受けホームレス髪洗う




いとわしき愛があふれて水中花




らっきょよりキムチがいいとカレー好き




早乙女やイベントだけのアルバイト




『麦秋』の知命にあらず笠智衆




傲然と小川ねこそぎ攫ふ鵜や




「売り家」の幟ゆらりと五月闇
 



入梅や酸っぱいジャムに顔曇る




なけなしの涙さみなし蝸牛




黒南風や虫コナーズは期限切れ




再リスケ蜻蛉生るる昼下がり




荒梅雨やBLACK PINKで汗流す




災害級大雨またも降る芒種




夕立や破れた傘の講釈師




時の日や何時何分何曜日




古簾一九分けの高鼾




成金の蛇殻だらけの身のまわり




べっちょりとポピュリズムてふ蟻地獄 




睡蓮の夢に眠れるスフィンクス




睦言にしとどに濡れて遠雷や




鯖折の血抜きに染まる海の水




ビール腹ここちよさげに肥満猫




病葉を摘む指を刺す薔薇の棘




梅雨晴や先を争う人夫出し




そして世の闇、闇、闇に五月闇




遠い日を問いつづけたり藻の花や




ハンカチの消えた香りと初恋と




明易し通天閣は陽に燃ゆる




怪物に誰がなるのかゆりの恋




噴水へ飛びこみ怒り冷ましたり




暗き庭はやちたちまち夏至の雨




太陽と海と詩集と黄金糖




鉢替えす底に蚯蚓の舞踏会




サングラス灼ける浜辺の気恥ずかし




パラソルとカミュの本とサングラス




ホームから水平線やサングラス




夏帽子オオタニサンに声上げる




いかづちに軒下の子ら沈黙し




グラジオラス誰の血であれ赤きこと




生ぬるい歌を詠み棄て半夏生




茅の輪にて作法ぶつぶつ言ひくぐり




インケツな日本でよいか花南瓜




否定する質疑のごとし扇風機




膕の白さにゆれる日向水




日向水めじろの次を待つ雀




土石流処理の臭いと汗拭う



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