KINGDOM DESTINY

神月

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第1章、ランドール大陸

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【ランドール大陸】
 かつて、この大陸は一つの国であったが度重なる争いを重ね四つの国と分かたれた。
 民を想い、国を想い、武を思い――
 そして、誰よりも強さを求めた。

 ”国とは何か、王とは何か。これは――――運命なのか”



 天候は穏やかで、周りに人工物はない。
 木々が立ち並び、草木が生い茂り、その豊かさから自然そのものを感じる大地の中、突然発された青年の大声に枝に止まっていた鳥たちは飛び立っていった。

「まさか、今までずっとそうやって旅してきたんですか!?」

 通行するために整備されたと思われる道を歩きながら、銀髪の青年は小柄な黒い髪の少女に向け投げかけ

「俺自身、旅した事が無いので詳しくは知りませんけど、よく今まで無事でしたね!?」
「旅とはそういうものじゃ?」

 そう小柄な黒髪の少女、彩音は謳うように

「旅は道連れ世は情けって」
「何ですか、それ」
「何か有名な言葉。旅は巻き込まれてナンボ、そして世は情で動くものだから、困ってる人は助けろ的な意味だった気がする」
「本当に合ってるんですかそれ」

 二人がテンポよく会話する中、その隣にいた少女は黒い翼をはためかせ、宙を飛びながらそんな二人の会話に参加するでもなくただ聞いていた。
 語る彩音に銀髪の青年、名をギンは彩音から視線を外し

「俺からするとただの綺麗事にしか聞こえませんけど。考え無しに人助けをするなんて……」

 とギンが一度黙り込むと

「……でも、確かに彩音さんは俺達を助けてくれた。名も知らない、見返りもない状況の中……」
「…………」
「それでも、ですよ! 船に乗ってた船乗りの話を聞いたでしょう。世界の中には人でもなく、獣とも違う魔物という存在がいて人を襲うって! 仮にこの国にその魔物がいたらどうするんですか!」
「私としては……変な争いに巻き込まれるよりはそっちのほうがまだありがたいんだけど」

 と返された言葉にギンは目を丸くすると

「な、何故ですか?」
「ほら、私、人が斬れないのはギンも知ってるでしょ? けど……私、魔物の方は何度か戦ったことあるからそっちのほうが慣れてるんだ」
「えっ……」

 そう声を上げたギンに加え、それまで無気力な表情で聞きに徹していた黒い翼を持つ少女も彩音へ視線を向けると

「最初に戦ったのも魔物だったし、もし生まれる世界さえ違えば冒険者とか、魔物討伐のお仕事とかしたかったなーって思うくらいだし!」
「か、変わってますね……」

 と再び彩音に視線を向けると

「人を殺すことは出来ないのに、魔物は難なく倒せるなんて」
「…………」
「……おかげさまで、俺も人の姿に戻れましたし」

(俺達は、戦争が起きていた同じとある大陸で出会った)

 その中で俺は、とある実験の為の実験体として幾度となく実験を繰り返し、人にはあるはずのない獣の耳と尾が生えていた。しかしこの人の元に来てから数年、耳と尾は消え今は一見はただの人の姿に戻れている。

 しかし、外見は人に戻れど実験の影響は完全には消えず残っており、人よりは強い力と身体能力、そして嗅覚と聴覚を持つ。

「なので、あまり危険な事はしないで下さいよ。あんな場所で出会っておきながら、戦闘能力はあまりないんでしょう?」
「あはは……あれは私も不運が重なり巻き込まれた側だから」

 と苦笑いしながら答えており

「本当、よくそれで俺やシズクを助けよう等と思いましたよ。……俺には、彩音さんに助けられた恩があります」

 そう語る姿に彩音や黒い翼の少女、シズクが視線を向けるとギンは力を込め

「だから、戦闘は俺が引き受けます」
「え、ギンってずっと実験の相手にされてたんでしょ? 戦いの術とか……」
「はい。物心つく前からあの場に入れられ、確かな心得はありません。しかし……俺にあった猫耳と尾がなくなっても尚、その能力までは消えていないようです」

 そのことを彩音やシズクに明かすと、懐から短剣を取り出し

「なので、聴覚や嗅覚、俊敏に動ける身体能力を考え……俺には盗賊のような隠密行動が向いていると考えました」
「つまり……その短剣で戦うと。確かに、ギンから微かに獣の匂いがします」

 そうこれまで沈黙に徹していたシズクが口を開くと彩音が問いかけ

「ということは、完全に人間に戻ったわけではないんだ」
「おそらくは。なので戦闘に長けた獣族の能力もいくつか備わったままで、人体にも影響を与えたままなのでしょう」
「「…………」」
「あの大陸にいた時、あの種族は人より遥かに長い時を生きると聞いています。もしかしたら、ギンの寿命にも影響を与えているかもしれませんが……それを確かめる方法、そしてそれを戻す方法は分かりません」

 ギンを始め、誘拐したり孤児や奴隷商人から集めた人々を使った実験。
 それは、長きに渡って起きてきた戦争において、強い戦闘能力を持つ種族の能力を人間にも与えられないか、と考えた結果ある者によって引き起こされた実験だった。

 それは人間に獣の細胞を流し込むことによって無理やり変異させるというもの。
 同時に獣族に対して行われていた『自我を失い、その命尽きるまで戦わせる』という改造も合わせギンはその実験体の一人だった。
 しかし人を獣と同等の能力を持たせ、自我を失わせるという改造計画の中その第一段階、薬品とのの適合の段階で難を見せており、異族の細胞を改造した薬品に耐えきれず犠牲となった者は数知れず。

 そんな中、ギンは唯一その第一段階において暴走せず取り込めた第一成功者であり、第二段階、適合者の増産へと移行されようとしていた。
 しかし研究と実験が進み、後に別の被検体でより強い薬品の投与に耐えより効果を見せた者が現れたということで、ギンはもう不要かつ失敗作として処分されようとしていた所、逃げ出しその先で彩音と遭遇した。

「結果論……だけどもう暴走することはない」

 そう彩音が口を開くとギンは視線を向け

「そうですね。実験されるだけ実験されて……生き方を失った俺に、生き方を提示してくれた」
「……」
「なら、この望まない中与えられ、消せない力は……新たに提示された生き方の中で有効活用すべきだと思うんです」

 その時、一瞬の音を彩音聞き逃さなかった。
 何かを感じた彩音がピタリと足を止めるとそれに続いて二人も足を止め

「どうかしました?」

 そう黒い翼を持つ少女が問いかけると、ギンも間もなくなにかに気づき

「人の気配……いや、視線を向けられている?」

 ギンが呟いてから間もなく、三人の前に数人の男達が行く手を遮るように現れた。
 ただの旅人と呼ぶには物騒なものを身につけたり手にしており、国や何らかの軍に属する正規兵にしては野蛮な姿をしている。つまり彼らは

「そこの旅人さんよ、金目のもんを置いてきな」

 数人の中の一人がそう口にすると、その男も含めて男達は野蛮な笑みを浮かべていた。つまり、この男達は賊だ。
 瞬時に身構える三人に対して賊達は近づきながら

「痛い目に合いたくなければ分かるよな?」
「……だから、得体の知れない大陸には近づかない方がいいって言ったじゃないですか!」

 賊が武器をチラつかせ脅してくる傍ら、ギンが彩音に向け投げかけると

「そもそも元から私達が持ってたお金がここでも使えるとは限らないんだけど?」
「…………ってそれどうするんですか!」

 そんなギンは彩音に身体ごと向け

「飲まず食わずで旅どころか生きていけるとでも思ってるんですか!?」
「いや、そこは交渉しながら泊めてもらったり資金を稼いだり……。どうしても限界を感じたら帰る!」
「この地への船はあの通貨で乗れましたし、この大陸でも通用するのでは……?」
「……なーにごちゃごちゃ言ってんだてめーら」

 そう苛立ちを露わにした賊の一人が声を上げると

「おとなしく従えばいいものを……そんなに死にてえのかぁ!」

 そう叫びながらギンへと切りかかっていく。
 が、男が刃を振り下ろした所で視線を向けていなかったにもかかわらず、銀髪の青年はそれを軽やかに避けると男に視線を向け直し

「追い剥ぎだなんて、無害の人を襲って何が楽しいのか」

 そう腰にあったホルダーから短剣を引き抜くと、再び襲いかかる賊の刃を難なく弾き返した。弾かれた短剣は地面に突き刺さり、それに賊のリーダーと思わしき男の形相が険悪なものに変わると

「き……貴様らぁ! 生きて帰れると思うなよ!」

 そう後ろにいる仲間達に告げるように

「そこの生意気な男を殺せ! 女二人は捕まえて売り捌くなり何なり、俺達に楯突いた事を後悔させてやる! てめえら、やっちまえ!」
「おう!」

 リーダーの男の指示と同時に賊達がギンに遅いかかるが、ギンは素早い身のこなしで軽々と攻撃を避けては次々と男たちを倒していく。
 そんな様子を見ていた彩音とシズクの元にも数人の男達が下品な笑みを向けながら短剣や剣、斧といった武器を手ににじり寄り

「…………」

 無言でいた翼の生えた少女もまた、彩音を隠すように前に出ると目を閉じ、やがて全身を覆うように光輝くと瞬く間に黒い鳥となった。

「な、何だこいつ……鳥になった……?」

 その大きさは彩音とさほど大差なく、襲いかかってきた賊からしても

「何だこのバカデカい鳥は!?」

 こんな大きな鳥は見たことがない、と動揺させた。黒い翼を待つ鳥……鴉に化身させたシズクが黒い翼をはためかせれば、賊達はその強風に足を取られ

「こ……の……!」

 そんな中、強風に耐えながら目の前の大鴉に目を向けた賊達は武器を構え向かい出すが、振り下ろした途端空中に逃げられてはくちばしで武器をへし折られていった。



 瞬く間に多くが倒され、または無力化させられ地には賊達が倒れていた。
 リーダー格の賊が額に汗を浮かべ剣を構えている中、ギンの横に降り立った大鴉は人の姿に戻り、男はカタカタと剣を握る手を震わせながら

「この……覚えてろよ!」

 そう背を向け掛け出すと、武装を解除された賊達もその後を追うように逃げ出し、気配が完全に消えるとギンは短剣をしまった。

「あの場所は……何だかんだ軍事力と言うか、兵としての技がしっかり揃えられていたのだと、外に出てからよく感じます」

 そう残された意識のない速達を見ながら

「これも、あの実験の影響なのか、やけに賊の動きが遅く見えました」
「いえ、それは正規法として学んだかそうではないかの差だと思います」

 そうギンに対してシズクが口を開くと

「ギンのその能力の影響もないとは言いきれませんが……賊の多くは、独学……いえ、それらの武器の扱いさえまともに学んだ身ではないでしょう」

 言わば見よう見まねで振り回し、感覚で使っているだけに過ぎない。そう話しながらシズクは彩音に視線を向け

「彩音さん。ご無事ですか」

 そうかける声にギンも視線を向けると

「お怪我などはしていませんか」
「だ、大丈夫」

 そう彩音は若干引きつった表情で答えた後倒れ込んだ賊達に目を向けると

「あの時も遭遇する度に思ったけど、盗賊とか山賊とか、いざ遭遇すると頭が真っ白になっちゃうよ」

 何度遭遇しても慣れないと言いながら

「ギンもシズクも、よくそんなにすぐ対応できるなあって感心しちゃう」
「私は、元より賊側にいた存在なので抵抗は全くありません。それが無差別に襲う悪人であれば、尚更」
「俺は、ご存知の通りずっと実験場にいたので、まともな戦法も実戦経験もないものですが……人間は、信じるものではないという認識なので」

 その言葉に二人が反応すると

「人間を殺す事に罪悪感とか、躊躇いはないと思います」
「「…………」」

 沈黙が流れ、ギンは咄嗟に言い直し

「……で、ですが、全ての人間がそうではないことは俺も理解したつもりです。彩音さんに、出会って……」
「ううん。無理はしなくていいよ」

 と今度は彩音の声にギンの表情が変わると

「過去にギンが人間から受けた仕打ちは揺るぎない事実で、その過去を無にしてまで人を信じることは出来ないことは、私もシズクも、きっと分かってるよ」
「…………」
「無条件に信じる必要はない。ただ全ての人間がそうじゃないって確かな事実を……知って欲しかっただけだから」

 ここから先人という存在をどう捉えていくのかはギン次第だと彩音が話すと、そんな彩音にシズクが口を挟み

「とはいえど、彩音さんは彩音さんで人との戦いには慣れていないのでしょう? こうして賊に襲われたということは、この地も完全な安全はないということになります」

 と彩音に視線を向け

「なので、心配という意見も確かにありますが」

 本来、彩音は戦いのない国にいた。
 しかし外の国で初めて「戦争」というものを目の当たりにし、初めて人が殺される瞬間を何度も見た。
 それは残酷で、決して忘れられるものではなかった。
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