1 / 16
1.
しおりを挟む
「フラウメ・ウォーティスト、君は聖女としての資格を持たないにも関わらず、皆を欺き聖女の地位に就き、その利権を貪った。それは、到底許されることではない!」
私を大胆に糾弾しているのは、婚約者であったオルケン・シュタルド様だ。
この国の第三王子である彼は、嬉々として私を批判する。愚かにも彼は、自らが正義の側にいると酔っているようだ。
とはいえ、それが私にとってとても不利益であることは間違いない。元婚約者であり、王子でもある彼がこのように大々的に非難すれば、情勢がどちらに傾くかは考えるまでないことだろう。
「そんな君の本性に気付けなかった僕も情けなかった。僕がもっと早く気付いてれば、君が罪を重ねることはなかったというのに……」
オルケン様は、身振り手振りを混ぜながら悲しそうにそう言った。
彼は、元々仰々しい人であった。その大袈裟な所作が今は忌まわしい。パフォーマンスとして、かなり有効に働いているような気がするからだ。
元々、私には勝ち目がなかったかもしれない。だが、オルケン様のこれに効果がないという訳でもないだろう。
「君は、偽りの聖女だったのだ。真の聖女ではなかった。その罪を償うべきだ!」
そう考えると、彼は王族として立派なことなのかもしれない。大衆を動かす力がある。それは、上に立つ者としては何よりも得たい才能だろう。
天然でそれができている。オルケン様は、恵まれているのかもしれない。
「聖女フラウメ、今までの証言に全てに誤りはないか?」
「……全てが誤りです、国王様」
「全て?」
「私には、聖女としての才能が確かにあります」
今の私にできるのは、愚直に自分の無罪を主張することだけだろう。
気づかない内にいつの間にか追い詰められていた私に、この状況を覆せるだけの材料はない。
だが、諦めるべきではないだろう。全てを認めてしまえば、私をこの状況に追い込んだ者の天下が訪れてしまう。
「ならば、それを示すのだ。それは、とても簡単なことだということは、お主が一番よくわかっているはずであろう。神器を操る魔力、ここでそれを示すのだ」
「それはできません」
「何故だ?」
「私の聖女の才能は、今はなくなっています。それがどうしてなのかは、私もわかっていません」
シュタルド王国の聖女には、王国を守る神器を操れる者が就任する。それを操ることができる人物が、聖女として認められるのだ。
だが、私はいつの間にかそれが操れなくなっていた。その原因は、未だにわかっていない。わかっているのは、私を追い詰めているのが誰であるかということだけだ。
「国王様、時間の無駄です。彼女が神器を操れないことは、既に証明されていることではありませんか」
「うむ……」
私の主張を遮って、その女性は声をあげた。
アムトゥーリ・フォルバニス公爵令嬢。まず間違いなく、彼女は今回の件の黒幕であるだろう。
しかし、私にそれを証明する方法がなかった。証拠もないし、どうやって私から聖女の才能を奪ったのかもわかっていない。あまりに突然のことに、私には成す術がなかったのである。
「フラウメよ。聖女の才能が消失するなどという話は聞いたことがない。一体、お主の身に何が起こったというのだ?」
「国王様、私がかつて神器を操っていたことはご存知ですよね?」
「無論、それは知っておる」
「仮に私が聖女の才能を持っていないとしたら、それはどうやって行ったのでしょうか? その方法があるなら、それこそ王国の根幹を揺るがすことなのではありませんか?」
「……確かに、それは重要なことだ」
この場において、国王様はそれなりに冷静であった。
流石は国の頂点に立つ人だ。ただ、彼は国の頂点に立つ人であるため、とある影響を考慮せざるを得ないだろう。
「偽りの聖女め……今まで、俺達を騙していたのか!」
「そうだそうだ! 偉大な聖女様だと尊敬していたのに……」
今回の場には、傍聴席なるものが設けられていた。
その意味は、こうして民衆の意思が入るようにするためだろう。
私は、聖女として公の場に何度も立ってきた。民衆からすれば、裏切られた気分。そういう風な筋書きなのだろう。
恐らく、民衆の中にはアムトゥーリが仕込んだ者が紛れているはずだ。ここまで用意していた彼女が、手を抜くはずはない。
誰が口火を切れば、民衆はそれに流されていく。場の流れというものを作られれば、それはもうどうしようもない。
「ふむ……」
民の意思は、国王様の判断を左右することになるだろう。いくら王族とはいえ、民衆の意思を無視することは難しい。
冷静に判断すれば、私を裁くのはおかしいはずだ。だが、民の納得のために判断が下されるということも充分に考えられる。
「……仕方ない。聖女フラウメよ、偽りの聖女として人々を惑わしたお主には、罰を与えなければならない。お主に、国外追放を言い渡す」
「……」
国王様は、結局私にそのような判決を下した。
国を欺いた罰、それはとても重いものだ。国外追放、この国においてかなり重い罰を私は受けることになってしまったのである。
私を大胆に糾弾しているのは、婚約者であったオルケン・シュタルド様だ。
この国の第三王子である彼は、嬉々として私を批判する。愚かにも彼は、自らが正義の側にいると酔っているようだ。
とはいえ、それが私にとってとても不利益であることは間違いない。元婚約者であり、王子でもある彼がこのように大々的に非難すれば、情勢がどちらに傾くかは考えるまでないことだろう。
「そんな君の本性に気付けなかった僕も情けなかった。僕がもっと早く気付いてれば、君が罪を重ねることはなかったというのに……」
オルケン様は、身振り手振りを混ぜながら悲しそうにそう言った。
彼は、元々仰々しい人であった。その大袈裟な所作が今は忌まわしい。パフォーマンスとして、かなり有効に働いているような気がするからだ。
元々、私には勝ち目がなかったかもしれない。だが、オルケン様のこれに効果がないという訳でもないだろう。
「君は、偽りの聖女だったのだ。真の聖女ではなかった。その罪を償うべきだ!」
そう考えると、彼は王族として立派なことなのかもしれない。大衆を動かす力がある。それは、上に立つ者としては何よりも得たい才能だろう。
天然でそれができている。オルケン様は、恵まれているのかもしれない。
「聖女フラウメ、今までの証言に全てに誤りはないか?」
「……全てが誤りです、国王様」
「全て?」
「私には、聖女としての才能が確かにあります」
今の私にできるのは、愚直に自分の無罪を主張することだけだろう。
気づかない内にいつの間にか追い詰められていた私に、この状況を覆せるだけの材料はない。
だが、諦めるべきではないだろう。全てを認めてしまえば、私をこの状況に追い込んだ者の天下が訪れてしまう。
「ならば、それを示すのだ。それは、とても簡単なことだということは、お主が一番よくわかっているはずであろう。神器を操る魔力、ここでそれを示すのだ」
「それはできません」
「何故だ?」
「私の聖女の才能は、今はなくなっています。それがどうしてなのかは、私もわかっていません」
シュタルド王国の聖女には、王国を守る神器を操れる者が就任する。それを操ることができる人物が、聖女として認められるのだ。
だが、私はいつの間にかそれが操れなくなっていた。その原因は、未だにわかっていない。わかっているのは、私を追い詰めているのが誰であるかということだけだ。
「国王様、時間の無駄です。彼女が神器を操れないことは、既に証明されていることではありませんか」
「うむ……」
私の主張を遮って、その女性は声をあげた。
アムトゥーリ・フォルバニス公爵令嬢。まず間違いなく、彼女は今回の件の黒幕であるだろう。
しかし、私にそれを証明する方法がなかった。証拠もないし、どうやって私から聖女の才能を奪ったのかもわかっていない。あまりに突然のことに、私には成す術がなかったのである。
「フラウメよ。聖女の才能が消失するなどという話は聞いたことがない。一体、お主の身に何が起こったというのだ?」
「国王様、私がかつて神器を操っていたことはご存知ですよね?」
「無論、それは知っておる」
「仮に私が聖女の才能を持っていないとしたら、それはどうやって行ったのでしょうか? その方法があるなら、それこそ王国の根幹を揺るがすことなのではありませんか?」
「……確かに、それは重要なことだ」
この場において、国王様はそれなりに冷静であった。
流石は国の頂点に立つ人だ。ただ、彼は国の頂点に立つ人であるため、とある影響を考慮せざるを得ないだろう。
「偽りの聖女め……今まで、俺達を騙していたのか!」
「そうだそうだ! 偉大な聖女様だと尊敬していたのに……」
今回の場には、傍聴席なるものが設けられていた。
その意味は、こうして民衆の意思が入るようにするためだろう。
私は、聖女として公の場に何度も立ってきた。民衆からすれば、裏切られた気分。そういう風な筋書きなのだろう。
恐らく、民衆の中にはアムトゥーリが仕込んだ者が紛れているはずだ。ここまで用意していた彼女が、手を抜くはずはない。
誰が口火を切れば、民衆はそれに流されていく。場の流れというものを作られれば、それはもうどうしようもない。
「ふむ……」
民の意思は、国王様の判断を左右することになるだろう。いくら王族とはいえ、民衆の意思を無視することは難しい。
冷静に判断すれば、私を裁くのはおかしいはずだ。だが、民の納得のために判断が下されるということも充分に考えられる。
「……仕方ない。聖女フラウメよ、偽りの聖女として人々を惑わしたお主には、罰を与えなければならない。お主に、国外追放を言い渡す」
「……」
国王様は、結局私にそのような判決を下した。
国を欺いた罰、それはとても重いものだ。国外追放、この国においてかなり重い罰を私は受けることになってしまったのである。
23
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説
幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね
柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』
王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
お飾りの聖女だと侮っていたら痛い目を見ることになりますよ?
木山楽斗
恋愛
レクンド王国の第一王女であるアルネシアは、聖女と呼ばれる地位に就いていた。
しかし、彼女は普段は働いておらず部屋に籠っているばかりだ。
そのため彼女は噂された。国王が娘可愛さに役職をあてがっただけのお飾りの聖女だと。
だが、実はアルネシアは強大な力を持っていた。
彼女はその力が強大過ぎる故に、国王によって部屋に閉じこもるように言われていたのだ。
しかし、それを知っている者は一部しかおらず、彼女は蔑まれる存在だった。
そしてその批判はいつしか膨れ上がっていき、彼女の実力を証明して、国王の愚かさを大々的に避難しようする者が現れたのである。
「お飾りの聖女だと侮っていたら痛い目を見ることになりますよ?」
そのような忠告も聞かず、アルネシアの元に現れた者達は悲惨な末路を辿ることになったのだった。
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる