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「フラウメ・ウォーティスト、君は聖女としての資格を持たないにも関わらず、皆を欺き聖女の地位に就き、その利権を貪った。それは、到底許されることではない!」
私を大胆に糾弾しているのは、婚約者であったオルケン・シュタルド様だ。
この国の第三王子である彼は、嬉々として私を批判する。愚かにも彼は、自らが正義の側にいると酔っているようだ。
とはいえ、それが私にとってとても不利益であることは間違いない。元婚約者であり、王子でもある彼がこのように大々的に非難すれば、情勢がどちらに傾くかは考えるまでないことだろう。
「そんな君の本性に気付けなかった僕も情けなかった。僕がもっと早く気付いてれば、君が罪を重ねることはなかったというのに……」
オルケン様は、身振り手振りを混ぜながら悲しそうにそう言った。
彼は、元々仰々しい人であった。その大袈裟な所作が今は忌まわしい。パフォーマンスとして、かなり有効に働いているような気がするからだ。
元々、私には勝ち目がなかったかもしれない。だが、オルケン様のこれに効果がないという訳でもないだろう。
「君は、偽りの聖女だったのだ。真の聖女ではなかった。その罪を償うべきだ!」
そう考えると、彼は王族として立派なことなのかもしれない。大衆を動かす力がある。それは、上に立つ者としては何よりも得たい才能だろう。
天然でそれができている。オルケン様は、恵まれているのかもしれない。
「聖女フラウメ、今までの証言に全てに誤りはないか?」
「……全てが誤りです、国王様」
「全て?」
「私には、聖女としての才能が確かにあります」
今の私にできるのは、愚直に自分の無罪を主張することだけだろう。
気づかない内にいつの間にか追い詰められていた私に、この状況を覆せるだけの材料はない。
だが、諦めるべきではないだろう。全てを認めてしまえば、私をこの状況に追い込んだ者の天下が訪れてしまう。
「ならば、それを示すのだ。それは、とても簡単なことだということは、お主が一番よくわかっているはずであろう。神器を操る魔力、ここでそれを示すのだ」
「それはできません」
「何故だ?」
「私の聖女の才能は、今はなくなっています。それがどうしてなのかは、私もわかっていません」
シュタルド王国の聖女には、王国を守る神器を操れる者が就任する。それを操ることができる人物が、聖女として認められるのだ。
だが、私はいつの間にかそれが操れなくなっていた。その原因は、未だにわかっていない。わかっているのは、私を追い詰めているのが誰であるかということだけだ。
「国王様、時間の無駄です。彼女が神器を操れないことは、既に証明されていることではありませんか」
「うむ……」
私の主張を遮って、その女性は声をあげた。
アムトゥーリ・フォルバニス公爵令嬢。まず間違いなく、彼女は今回の件の黒幕であるだろう。
しかし、私にそれを証明する方法がなかった。証拠もないし、どうやって私から聖女の才能を奪ったのかもわかっていない。あまりに突然のことに、私には成す術がなかったのである。
「フラウメよ。聖女の才能が消失するなどという話は聞いたことがない。一体、お主の身に何が起こったというのだ?」
「国王様、私がかつて神器を操っていたことはご存知ですよね?」
「無論、それは知っておる」
「仮に私が聖女の才能を持っていないとしたら、それはどうやって行ったのでしょうか? その方法があるなら、それこそ王国の根幹を揺るがすことなのではありませんか?」
「……確かに、それは重要なことだ」
この場において、国王様はそれなりに冷静であった。
流石は国の頂点に立つ人だ。ただ、彼は国の頂点に立つ人であるため、とある影響を考慮せざるを得ないだろう。
「偽りの聖女め……今まで、俺達を騙していたのか!」
「そうだそうだ! 偉大な聖女様だと尊敬していたのに……」
今回の場には、傍聴席なるものが設けられていた。
その意味は、こうして民衆の意思が入るようにするためだろう。
私は、聖女として公の場に何度も立ってきた。民衆からすれば、裏切られた気分。そういう風な筋書きなのだろう。
恐らく、民衆の中にはアムトゥーリが仕込んだ者が紛れているはずだ。ここまで用意していた彼女が、手を抜くはずはない。
誰が口火を切れば、民衆はそれに流されていく。場の流れというものを作られれば、それはもうどうしようもない。
「ふむ……」
民の意思は、国王様の判断を左右することになるだろう。いくら王族とはいえ、民衆の意思を無視することは難しい。
冷静に判断すれば、私を裁くのはおかしいはずだ。だが、民の納得のために判断が下されるということも充分に考えられる。
「……仕方ない。聖女フラウメよ、偽りの聖女として人々を惑わしたお主には、罰を与えなければならない。お主に、国外追放を言い渡す」
「……」
国王様は、結局私にそのような判決を下した。
国を欺いた罰、それはとても重いものだ。国外追放、この国においてかなり重い罰を私は受けることになってしまったのである。
私を大胆に糾弾しているのは、婚約者であったオルケン・シュタルド様だ。
この国の第三王子である彼は、嬉々として私を批判する。愚かにも彼は、自らが正義の側にいると酔っているようだ。
とはいえ、それが私にとってとても不利益であることは間違いない。元婚約者であり、王子でもある彼がこのように大々的に非難すれば、情勢がどちらに傾くかは考えるまでないことだろう。
「そんな君の本性に気付けなかった僕も情けなかった。僕がもっと早く気付いてれば、君が罪を重ねることはなかったというのに……」
オルケン様は、身振り手振りを混ぜながら悲しそうにそう言った。
彼は、元々仰々しい人であった。その大袈裟な所作が今は忌まわしい。パフォーマンスとして、かなり有効に働いているような気がするからだ。
元々、私には勝ち目がなかったかもしれない。だが、オルケン様のこれに効果がないという訳でもないだろう。
「君は、偽りの聖女だったのだ。真の聖女ではなかった。その罪を償うべきだ!」
そう考えると、彼は王族として立派なことなのかもしれない。大衆を動かす力がある。それは、上に立つ者としては何よりも得たい才能だろう。
天然でそれができている。オルケン様は、恵まれているのかもしれない。
「聖女フラウメ、今までの証言に全てに誤りはないか?」
「……全てが誤りです、国王様」
「全て?」
「私には、聖女としての才能が確かにあります」
今の私にできるのは、愚直に自分の無罪を主張することだけだろう。
気づかない内にいつの間にか追い詰められていた私に、この状況を覆せるだけの材料はない。
だが、諦めるべきではないだろう。全てを認めてしまえば、私をこの状況に追い込んだ者の天下が訪れてしまう。
「ならば、それを示すのだ。それは、とても簡単なことだということは、お主が一番よくわかっているはずであろう。神器を操る魔力、ここでそれを示すのだ」
「それはできません」
「何故だ?」
「私の聖女の才能は、今はなくなっています。それがどうしてなのかは、私もわかっていません」
シュタルド王国の聖女には、王国を守る神器を操れる者が就任する。それを操ることができる人物が、聖女として認められるのだ。
だが、私はいつの間にかそれが操れなくなっていた。その原因は、未だにわかっていない。わかっているのは、私を追い詰めているのが誰であるかということだけだ。
「国王様、時間の無駄です。彼女が神器を操れないことは、既に証明されていることではありませんか」
「うむ……」
私の主張を遮って、その女性は声をあげた。
アムトゥーリ・フォルバニス公爵令嬢。まず間違いなく、彼女は今回の件の黒幕であるだろう。
しかし、私にそれを証明する方法がなかった。証拠もないし、どうやって私から聖女の才能を奪ったのかもわかっていない。あまりに突然のことに、私には成す術がなかったのである。
「フラウメよ。聖女の才能が消失するなどという話は聞いたことがない。一体、お主の身に何が起こったというのだ?」
「国王様、私がかつて神器を操っていたことはご存知ですよね?」
「無論、それは知っておる」
「仮に私が聖女の才能を持っていないとしたら、それはどうやって行ったのでしょうか? その方法があるなら、それこそ王国の根幹を揺るがすことなのではありませんか?」
「……確かに、それは重要なことだ」
この場において、国王様はそれなりに冷静であった。
流石は国の頂点に立つ人だ。ただ、彼は国の頂点に立つ人であるため、とある影響を考慮せざるを得ないだろう。
「偽りの聖女め……今まで、俺達を騙していたのか!」
「そうだそうだ! 偉大な聖女様だと尊敬していたのに……」
今回の場には、傍聴席なるものが設けられていた。
その意味は、こうして民衆の意思が入るようにするためだろう。
私は、聖女として公の場に何度も立ってきた。民衆からすれば、裏切られた気分。そういう風な筋書きなのだろう。
恐らく、民衆の中にはアムトゥーリが仕込んだ者が紛れているはずだ。ここまで用意していた彼女が、手を抜くはずはない。
誰が口火を切れば、民衆はそれに流されていく。場の流れというものを作られれば、それはもうどうしようもない。
「ふむ……」
民の意思は、国王様の判断を左右することになるだろう。いくら王族とはいえ、民衆の意思を無視することは難しい。
冷静に判断すれば、私を裁くのはおかしいはずだ。だが、民の納得のために判断が下されるということも充分に考えられる。
「……仕方ない。聖女フラウメよ、偽りの聖女として人々を惑わしたお主には、罰を与えなければならない。お主に、国外追放を言い渡す」
「……」
国王様は、結局私にそのような判決を下した。
国を欺いた罰、それはとても重いものだ。国外追放、この国においてかなり重い罰を私は受けることになってしまったのである。
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