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罠
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煌びやかな大広間から離れ回廊に出ると、照明は落ち着いたものになった。
熱気と喧騒から離れほっと一息ついた私は、ターゲットが背後からついてきているのを確認してから、ゆっくりと歩き出す。
私の後ろ、柱1つほどの間隔をあけて人影が歩いている。
大広間の中にいた時も、ずっと粘りつくような視線を感じていた。
後ろをつけてきている人影と視線の主は同一人物であると確信を持ち、歩いて行く。
私が足を止めると、人影も足を止めた。
打ち合わせ通り、私は青いリボンの結ばれた部屋に入った。
人影も私の後を追うように部屋に入ってきた。
バタンと音を立てて扉が閉められる。
「あなたがエレノア・クープマン公爵令嬢ね」
扉が閉じたのと同時に、背後から声をかけられた。
名前を呼ばれ、私は扉の方を振り返る。
「あの、何か?あなたは?」
振り返った先には、薄明りの中、鋭く光るギラリとした視線があった。
「私を知らないの?呆れた。さすが、ついこの間まで庶民だった方は違うわ。私の顔を知らないだなんて。私はバーバラ・ストナンよ。ストナン伯爵令嬢。ハンス様の婚約者」
長身のバーバラは腕を組み、私を見下ろしていた。
「そうでしたか。申し訳ありません。バーバラ様、どういったご用件でしょうか」
私は気弱に見えるように、少し俯き下手に出る。
「ハンス様のことよ」
「ハンス様?」
バーバラを見上げると、彼女の顔は怒りで赤く染まっていた。
「とぼけないで。あなたがさきほどまで踊っていた男性よ。あなたは私の婚約者であるハンス様と、私を差し置いて2曲踊った。一体どういうつもり?」
バーバラは私に詰め寄ってくる。
どういうつもりかと聞かれれば、バーバラを罠にかけるつもりで踊ったのだけれど、本当のことを言うことはできない。
「そんな。知らなかったのです」
私はバーバラの気迫に押された風を装い、肩を震わせ俯いた。
「知らないなんて許されないことだわ。これだから卑しい育ちの方は。いいこと?ここはあなたのようなドブ臭いネズミが来ていい場所じゃないの。分かったらさっさと去りなさい」
顔にハンカチを当て、私は肩を丸める。
「いつまでそこにいるつもり?二度とハンス様に近寄らないで。さっさと肥溜にお帰りなさい!あなたのような下賤な者と同じ空間にいるというだけで吐き気がする。そうだわ!自害なさい。そうしたら世界が綺麗になり皆さん喜ぶわ。さぁ、今すぐ消えて」
バーバラが大声で怒鳴ったので、私は小走りで部屋から出た。
青いリボンの部屋から私が駆け出すと、隣の部屋の扉から白い手がぬっと出て手招きしていた。
手に導かれるまま隣室に入った私は、中で待機していた人物から渡された器具を耳に装着し、器具の先端についた筒を壁に当てた。
改良を重ねた最新式の盗聴器具だ。
『…君がこんなに野蛮な人間だとは思わなかった。下品な言葉を使い、怒鳴る人間だとは。その上、人に自害を勧めるなんて。とても私の妻にふさわしいとは思えない』
男性の声が聞こえてきた。
男性の声は落ち着いているものの、静かな怒りや軽蔑がにじんでいる。
おそらくバーバラの婚約者・ハンスのものだろう。
『ハンス様、なぜここに…』
先ほどとは違い、うろたえ弱弱しいバーバラの声も聞こえた。
『酔って寝ていたんだ。君の怒鳴り声で起きてしまったよ。とにかく、私たちの婚約について考え直す必要があるようだ』
『お待ちください』
『もう私に話しかけないでくれ。やれやれ。ストナン伯爵から貞淑で聡明な女性だと聞いて君に決めたのに、全く違うじゃないか。我が家も舐められたものだ。危うく騙されて悪女を押し付けられるところだった』
足音と扉の閉まる音が聞こえた後、女性のすすり泣きが聞こえてきたのを確認し、私は器具を耳から外した。
「上手く行ったのかしら?忙しくて依頼内容をきちんと確認していなかったけれど、これで成功なの?」
私は隣で器具をしまっている女性・リンダに話しかけた。
「ええ。おそらく。今回の依頼は婚約者の本当の姿が見たい、本音が聞きたいというものでした。依頼人の婚約者・バーバラ嬢は本性を丸出しにしていたので、依頼は成功です」
リンダは片付けの手を止めることなく、淡々と説明する。
ギョッとして私は腰を浮かせた。
「リンダ、本気で言ってる?ちょっと待って。これまずいんじゃない?婚約者の男性が相手の女性の本当の姿を見たいという場合、それってちょっと嫉妬した可愛い姿が見たいってことなんじゃないの?君の素顔が見たいと言われて本当の素顔を見せるとガッカリされるから気をつけろって、よく言われるでしょ?見たいのは本当の姿ではなく、素顔らしく見える可愛い姿であって、本当の素顔を見せちゃだめなのよ。これじゃあ、依頼人を怒らせるんじゃないかしら…」
「何を言っているんですか?素顔を見たいと言われて素顔を見せたらがっかりするってどこの我がまま理不尽野郎ですか?今すぐ成敗してやりたいです。こちらは依頼通り仕事をしたのですから問題ないはずです」
リンダはまじめな表情で毒を吐きつつ片づけを終えた。
「報酬払ってもらえるかしら」
心配になって、私はため息交じりに呟いた。
「債権はきっちり回収します。ご心配なく」
忘れ物がないかチェックし、私たちは部屋を出た。
熱気と喧騒から離れほっと一息ついた私は、ターゲットが背後からついてきているのを確認してから、ゆっくりと歩き出す。
私の後ろ、柱1つほどの間隔をあけて人影が歩いている。
大広間の中にいた時も、ずっと粘りつくような視線を感じていた。
後ろをつけてきている人影と視線の主は同一人物であると確信を持ち、歩いて行く。
私が足を止めると、人影も足を止めた。
打ち合わせ通り、私は青いリボンの結ばれた部屋に入った。
人影も私の後を追うように部屋に入ってきた。
バタンと音を立てて扉が閉められる。
「あなたがエレノア・クープマン公爵令嬢ね」
扉が閉じたのと同時に、背後から声をかけられた。
名前を呼ばれ、私は扉の方を振り返る。
「あの、何か?あなたは?」
振り返った先には、薄明りの中、鋭く光るギラリとした視線があった。
「私を知らないの?呆れた。さすが、ついこの間まで庶民だった方は違うわ。私の顔を知らないだなんて。私はバーバラ・ストナンよ。ストナン伯爵令嬢。ハンス様の婚約者」
長身のバーバラは腕を組み、私を見下ろしていた。
「そうでしたか。申し訳ありません。バーバラ様、どういったご用件でしょうか」
私は気弱に見えるように、少し俯き下手に出る。
「ハンス様のことよ」
「ハンス様?」
バーバラを見上げると、彼女の顔は怒りで赤く染まっていた。
「とぼけないで。あなたがさきほどまで踊っていた男性よ。あなたは私の婚約者であるハンス様と、私を差し置いて2曲踊った。一体どういうつもり?」
バーバラは私に詰め寄ってくる。
どういうつもりかと聞かれれば、バーバラを罠にかけるつもりで踊ったのだけれど、本当のことを言うことはできない。
「そんな。知らなかったのです」
私はバーバラの気迫に押された風を装い、肩を震わせ俯いた。
「知らないなんて許されないことだわ。これだから卑しい育ちの方は。いいこと?ここはあなたのようなドブ臭いネズミが来ていい場所じゃないの。分かったらさっさと去りなさい」
顔にハンカチを当て、私は肩を丸める。
「いつまでそこにいるつもり?二度とハンス様に近寄らないで。さっさと肥溜にお帰りなさい!あなたのような下賤な者と同じ空間にいるというだけで吐き気がする。そうだわ!自害なさい。そうしたら世界が綺麗になり皆さん喜ぶわ。さぁ、今すぐ消えて」
バーバラが大声で怒鳴ったので、私は小走りで部屋から出た。
青いリボンの部屋から私が駆け出すと、隣の部屋の扉から白い手がぬっと出て手招きしていた。
手に導かれるまま隣室に入った私は、中で待機していた人物から渡された器具を耳に装着し、器具の先端についた筒を壁に当てた。
改良を重ねた最新式の盗聴器具だ。
『…君がこんなに野蛮な人間だとは思わなかった。下品な言葉を使い、怒鳴る人間だとは。その上、人に自害を勧めるなんて。とても私の妻にふさわしいとは思えない』
男性の声が聞こえてきた。
男性の声は落ち着いているものの、静かな怒りや軽蔑がにじんでいる。
おそらくバーバラの婚約者・ハンスのものだろう。
『ハンス様、なぜここに…』
先ほどとは違い、うろたえ弱弱しいバーバラの声も聞こえた。
『酔って寝ていたんだ。君の怒鳴り声で起きてしまったよ。とにかく、私たちの婚約について考え直す必要があるようだ』
『お待ちください』
『もう私に話しかけないでくれ。やれやれ。ストナン伯爵から貞淑で聡明な女性だと聞いて君に決めたのに、全く違うじゃないか。我が家も舐められたものだ。危うく騙されて悪女を押し付けられるところだった』
足音と扉の閉まる音が聞こえた後、女性のすすり泣きが聞こえてきたのを確認し、私は器具を耳から外した。
「上手く行ったのかしら?忙しくて依頼内容をきちんと確認していなかったけれど、これで成功なの?」
私は隣で器具をしまっている女性・リンダに話しかけた。
「ええ。おそらく。今回の依頼は婚約者の本当の姿が見たい、本音が聞きたいというものでした。依頼人の婚約者・バーバラ嬢は本性を丸出しにしていたので、依頼は成功です」
リンダは片付けの手を止めることなく、淡々と説明する。
ギョッとして私は腰を浮かせた。
「リンダ、本気で言ってる?ちょっと待って。これまずいんじゃない?婚約者の男性が相手の女性の本当の姿を見たいという場合、それってちょっと嫉妬した可愛い姿が見たいってことなんじゃないの?君の素顔が見たいと言われて本当の素顔を見せるとガッカリされるから気をつけろって、よく言われるでしょ?見たいのは本当の姿ではなく、素顔らしく見える可愛い姿であって、本当の素顔を見せちゃだめなのよ。これじゃあ、依頼人を怒らせるんじゃないかしら…」
「何を言っているんですか?素顔を見たいと言われて素顔を見せたらがっかりするってどこの我がまま理不尽野郎ですか?今すぐ成敗してやりたいです。こちらは依頼通り仕事をしたのですから問題ないはずです」
リンダはまじめな表情で毒を吐きつつ片づけを終えた。
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