新米公爵令嬢の日常

国湖奈津

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翌日、私を起こしに来たリンダの手には1通の手紙があった。

「エレノア様、ピーター様から昨日の襲撃についての報告が届きました」

「読み上げて」
眠い目をこすりながら、私はベッドから起き上がった。

「はい。“公爵家に累が及ばないよう、今回の襲撃に対する処分はこちらで決めることにした。お前は私がよいと言うまで屋敷から出ないように”だそうです」

「黒幕が誰だったかも教えてくれないわけ?」

「そのようですね」

「なにそれ。“私がよいと言うまで”っていつよ?屋敷から出られないなんて最悪だわ」

私はぶーぶー文句を言って数日過ごしたけれど、1週間もたたないうちに外出を許可する手紙がピーターから届いた。

私はさっそくバーバラに手紙を書き、リリー先生に会いに行こうと誘った。

同じタイミングでリリー先生にもバーバラを連れて訪問する旨を伝える。


◇◇◇◇◇◇◇



約束の日、クープマン公爵家にやってきたバーバラは、私の部屋で街娘の格好に着替えると、私と共に簡素な馬車に乗り込んだ。

小柄な私の服はバーバラには小さかったため、リンダの服をバーバラは着ている。

馬車の小窓から外の景色を見るバーバラの目はキラキラ輝いていた。

「こんな格好をして街に出るのは初めてよ。すごくいけないことをしている気がするのに、なぜか胸が高鳴るわ」

バーバラの明るく弾んだ声が車内に響く。

「緊張してる?」

「昨日の夜は、母がどんな人か、どんな話をしたらいいのか夜通し考えていて眠れなかった。あなたの屋敷に向かう馬車の中でも緊張していたと思うわ。でもこの服に着替えて髪をセットしてもらってからはワクワクする気持ちが勝っているの」

バーバラは嬉しそうだ。

「そう、よかった。お家のほうは大丈夫?今回のことは秘密なんでしょう?」

軽くストナン伯爵家について探りを入れてみた。

リンダが考えたように、私を襲撃した黒幕がストナン伯爵夫人ならピーターが伯爵夫人に何らかの報復をしているだろうと思ってのことだ。

「もちろん秘密よ。ちょうどタイミングが良かったの」

「タイミング?」

「急に義母が領地の別荘に行くとわがままを言い出して、ここのところ屋敷はバタバタしているの。一昨日義母は先に旅立ってしまって、今は荷物をまとめるために屋敷の中を使用人たちが走り回ってるわ。みんな忙しいから、私がどこへ行こうとだれも気にしなかったみたい」

「それはよかったわね」

バーバラの話を聞いただけでは、ストナン伯爵夫人が黒幕なのか違うのか判断がつかなかった。

ただ、社交シーズンがまだ続く中、社交好きな伯爵夫人が領地に帰るというのは不自然に感じられた。


◇◇◇◇◇◇◇


ゲリュック校に馬車が到着し、私はバーバラと共にリリー先生の執務室に向かった。
時刻はお昼前、子供たちは授業中だ。

音楽の授業が行われているようで、元気な歌声が聞こえてきた。

馬車の中では非日常を楽しんでいたバーバラだったけれど、ゲリュック校についてからは口数が減り、緊張した表情を浮かべている。

バーバラの緊張は私にも伝染してしまい、私も緊張した面持ちでリリー先生の執務室
の扉を叩いた。

「どうぞ」
中からリリー先生の声が届き、私は扉を開けた。

私に続いて室内に入ったバーバラを見て、リリー先生は感極まったように口に両を当てた。

バーバラは緊張と戸惑いで少し俯いている。

「リリー先生、こちらがバーバラ・ストナン伯爵令嬢です。バーバラさん、こちらがリリー先生。ここゲリュック校の校長をしてらっしゃいます」

まだぎこちない2人をテーブルに導き、動ける私はお茶とお菓子を準備した。


準備を終え、私も椅子に座る。
黙ったままバーバラを見つめるリリー先生と、うつむきながらも時折リリー先生に視線を送るバーバラ。

そんな2人を私は“上手くいきますように”と祈りながら見守っていた。

2人と別々に会っていた時には気づかなかったけれど、2人が一緒にいるところを見ると、2人の横顔はよく似ていた。
特にあごのラインなどはそっくりだ。

「バーバラさん、リリー先生は博識でいらっしゃるけれど、特にピアノの腕はプロも認めるほどなんですよ」
私は仲人役を買って出ることにした。

「そうなんですね」
バーバラは部屋に入って初めて声を出した。

「リリー先生、バーバラさんの得意なことは…得意なことは、えーっと…」
バーバラの情報も何か言おうと話し始めたけれど、何も知らないということに、話し始めてから気づいた。

「私の得意なことはダンスです。父もダンスが得意で、たまに相手をしてもらいます」
バーバラが緊張した面持ちで話し始めた。

「そうですか」
リリー先生が緊張を解き話をはじめ、私はホッと息をつく。

少しだけ2人を見守り、私はそっと部屋から出た。
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