16 / 43
15
しおりを挟む
私は恐る恐る部屋から出て、浴室に向かった。
部屋から出るとそこは廊下になっていた。
廊下には日除けがついて、廊下から庭にすぐ出られるようになっていた。
庭の真ん中には丸い建物があった。
浴室がどこなのか聞かなかったし、いつもの男性も話してくれなかったけれど、塀の中ならどこでも出入り自由だと言うのなら、探検してみようという気持ちで出かけた。
廊下に面してたくさん部屋が並んでいたが、部屋には鍵がかかっていたり、開いていても中は埃だらけだったりと、男性が言っていたように使われていないようだ。
一通り廊下を歩き終えた私は、庭の丸い建物に行ってみた。
思った通りここが浴場だった。
浴室、というには豪華すぎるその場所は、プールのように広い浴槽の周囲に、化粧台やソファが配置された空間だった。
湯舟は金色だ。
室内は灰色の大理石で覆われていて、ピカピカに輝いていた。
この場所は後宮の部屋と違い、念入りに手入れをされているようだ。
ここを1人で使えるなんて、なんとも贅沢だ。
私は服を脱ぎ、久々のお風呂を楽しんだ。
今日探検して塀の中の構造が分かった。
とてもシンプルな構造だ。
まず一番外側を高い塀が囲っている。
ほとんど正方形に近いようだ。
そしてその内側に浴場を囲んで建物が建っている。
敷地の中心には中庭と浴場がある。
漢字の「回」という字の形が近いだろう。
外側の□が塀で、内側の□が建物、中心に浴場だ。
浴場から出て着替えた私は、すっかり生き返った気分だった。
沈んでいた気分もすっきり晴れやかになっている。
昼食の時、私はここがどこなのか聞いてみることにした。
「ここはアルラシード宮殿です」
「ということは、ここはスワイマン殿下が治めるラドワン州の宮殿ですね。なぜ私はここにいるのでしょうか?もしかして、リナレイとタモハンの間に何か紛争が起こったのでしょうか?何かご存じだったら教えてくれませんか?」
私は数日間考えていたことを、男性に聞いてみた。
スワイマン殿下には皇帝陛下の即位式典の時に挨拶させて頂いたけれど、残念ながら慣れないヴェールのせいでお顔は全く覚えていない。
会話の内容もありふれた挨拶だった。
「さぁ、リナレイ国とのことは聞いていません。それから、私のことはアクラムとお呼びください。敬語も結構です。私は妃殿下にお仕えする立場ですので」
”妃殿下”なんて、呼ばれ慣れてないから、なんだかソワソワする。
「ここにいる理由は、スワイマン殿下に見初められたからではないでしょうか?」
「見初められた?」
「はい。ここはスワイマン殿下の後宮ですので」
「後宮?」
「はい」
後宮…!?いやいやいやいや。おかしいでしょう。
私は既に人妻なわけで。
それに人さらいのように連れてこられたわけだし。
第一その殿下とやらも来ないじゃない。
“人違い”という言葉が頭をよぎった。
そうだ。きっと人違いで連れてこられたに違いない。
部屋から出るとそこは廊下になっていた。
廊下には日除けがついて、廊下から庭にすぐ出られるようになっていた。
庭の真ん中には丸い建物があった。
浴室がどこなのか聞かなかったし、いつもの男性も話してくれなかったけれど、塀の中ならどこでも出入り自由だと言うのなら、探検してみようという気持ちで出かけた。
廊下に面してたくさん部屋が並んでいたが、部屋には鍵がかかっていたり、開いていても中は埃だらけだったりと、男性が言っていたように使われていないようだ。
一通り廊下を歩き終えた私は、庭の丸い建物に行ってみた。
思った通りここが浴場だった。
浴室、というには豪華すぎるその場所は、プールのように広い浴槽の周囲に、化粧台やソファが配置された空間だった。
湯舟は金色だ。
室内は灰色の大理石で覆われていて、ピカピカに輝いていた。
この場所は後宮の部屋と違い、念入りに手入れをされているようだ。
ここを1人で使えるなんて、なんとも贅沢だ。
私は服を脱ぎ、久々のお風呂を楽しんだ。
今日探検して塀の中の構造が分かった。
とてもシンプルな構造だ。
まず一番外側を高い塀が囲っている。
ほとんど正方形に近いようだ。
そしてその内側に浴場を囲んで建物が建っている。
敷地の中心には中庭と浴場がある。
漢字の「回」という字の形が近いだろう。
外側の□が塀で、内側の□が建物、中心に浴場だ。
浴場から出て着替えた私は、すっかり生き返った気分だった。
沈んでいた気分もすっきり晴れやかになっている。
昼食の時、私はここがどこなのか聞いてみることにした。
「ここはアルラシード宮殿です」
「ということは、ここはスワイマン殿下が治めるラドワン州の宮殿ですね。なぜ私はここにいるのでしょうか?もしかして、リナレイとタモハンの間に何か紛争が起こったのでしょうか?何かご存じだったら教えてくれませんか?」
私は数日間考えていたことを、男性に聞いてみた。
スワイマン殿下には皇帝陛下の即位式典の時に挨拶させて頂いたけれど、残念ながら慣れないヴェールのせいでお顔は全く覚えていない。
会話の内容もありふれた挨拶だった。
「さぁ、リナレイ国とのことは聞いていません。それから、私のことはアクラムとお呼びください。敬語も結構です。私は妃殿下にお仕えする立場ですので」
”妃殿下”なんて、呼ばれ慣れてないから、なんだかソワソワする。
「ここにいる理由は、スワイマン殿下に見初められたからではないでしょうか?」
「見初められた?」
「はい。ここはスワイマン殿下の後宮ですので」
「後宮?」
「はい」
後宮…!?いやいやいやいや。おかしいでしょう。
私は既に人妻なわけで。
それに人さらいのように連れてこられたわけだし。
第一その殿下とやらも来ないじゃない。
“人違い”という言葉が頭をよぎった。
そうだ。きっと人違いで連れてこられたに違いない。
12
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる