転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました(完結)

わたなべ ゆたか

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第二章~魔女狩りの街で見る悪夢

間話 ~ 騎士の魂は死なず

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 間話 ~ 騎士の魂は死なず


 夕暮れどきの空は、どこか物寂しさを思い出させる。橙色に染まった空や雲から視線を下げると、ボルト隊長は小さく溜息を吐いた。
 大通りを歩いていたボルト隊長は、クレストンやサーシャらと、工房を廻っていたときのことを思い出していた。
 メダリオンのことを訊ねて廻っていた九件目で、若い職人が「ああ、あれか」と頷いたのだ。
 やっと手掛かりが――と思った矢先、年老いた親方らしき男が、若い職人が喋るのを止めたのだ。


「悪いが、話せることはなにもない」


 若い職人を工房の中へと押しやりながら、親方は背を向けた。


 そのあと、サーシャの案で工房の会話を盗み聞きしたところ、親方が意外なことを口にした。


「いいか? 教会の法に従っていれば、間違いがないんだ。それが例え、国や領主が造った法と違っていても、教会の法を大事にするのがいい。殺すな、奪うな、騙すな――人の法なんか、この程度でいいんだ。なにやら面倒くさくてややこしい法なんか、俺たちには必要ねぇ」


 ボルト隊長にとって、親方の発言は衝撃的過ぎた。法は厳守すべきもの――と信じていたのに、民は国や領主の法より、教会のほうを重視しているのだ。


(そのようなこと、あってはならぬ)


 憤りとは違う、胸の底から沸き起こる感情によって、ボルト隊長は突き動かされていた。
 法律のこととはいえ、警備隊にも無関係な話ではない。この話は同時に、国の法を守る自分たちへの信頼も薄いということだ。
 そんな想いと共に、ボルト隊長は警備隊の建物へと入っていった。
 ボルト隊長は隊員たちの詰め所に入ると、出動の依頼を出した。


「――ええっと、ボルト・メルボン隊長……だったか? ドラグルヘッド市の。もう一度、言ってもらっていいか?」


 この街の警備隊を束ねる隊長が、信じられないという顔をしていた。
 ボルト隊長は、その要望に応じて、先ほどとほぼ同じ内容を繰り替えした。


「教会の関係者に犯罪者、またはその協力者がいるのです。彼らを捕らえるために、協力をお願いしたい」


 ボルト隊長の発言に、隊員たちは困ったように互いの顔を伺っていた。
 警備隊の隊長は咳払いをしてから、首を横に振った。


「それは無理だな、ボルト隊長殿。教会には教会の法があり、彼ら自身を護っている。我々の法など、立ち入る余地などない」


「あなたは――いや、あなたがたは、それでいいのですか?」


 ボルト隊長は、警備隊の隊長や隊員を見回してから、言葉を継いだ。


「教会だから、そして貴族だから取り締まらない――我々がそんな忖度をしてしまったら、法など存在意義を失ってしまうでしょう。
 我々は、元騎士の家系である者が多数ではありませんか? 排斥された者もいるでしょうが、騎士の家系に産まれ、育ってきたはず。その中で育まれた騎士としての魂は、失われてしまったのか?」


「お、落ち着きなさい、ボルト隊長。なぜ、そこまでなさろうとするのか? 我々とて、権力に逆らえばただでは済まないのですぞ?」


 警備隊の隊長は、まるで諦めさせようとしているような口ぶりだった。そんな彼に、ボルト隊長は表情を引き締めながら、まっずぐに彼を見た。


「わたくしは……とある事件でさる貴族に催眠術――というのでしょうか。意識を操られてしまい、罪無き市民を殴ってしまいました。意識を取り戻したあと、わたくしは思ったのです。わたくしは法を守ると誓っておきながら、結局のところ法よりも権力者を護っていただけなのだと。
 騎士の誓いを護れず、法を守れず――わかくしは、なんのために警備隊をしているのだろうと、そう思ったのです」


 ボルト隊長は、今一度、隊員たちを見回した。


「諸君らに、お願いしたい。我々は、教会に入り込んだ犯罪者を捕らえようとしている。悪魔崇拝者と偽って、罪無き市民を拘束する教会ではなく、昔のように安心して礼拝できる存在に戻したいのだ。是非、協力して頂きたい」


 ボルト隊長の言葉を黙って聞いていた隊員たちだったが、やがて一人の隊員が立ち上がった。


「あの――わたくしは、あなたに協力致します」


「お、おい――」


 警備隊の隊長は慌てるが、隊員はボルト隊長に敬礼を送った。
 そして、自分の胸板に拳を当てた。

「わたくしも騎士の家系の出です。騎士の魂は、まだここで燻っておりますよ」


「あの――わたくしも協力しましょう」


 もう一人の隊員が、手を挙げつつ立ち上がった。
 結局、総数二十名の警備隊隊員のうち、八名が名乗りをあげた。ボルト隊長は彼らに礼を述べてから、警備隊の隊長へと身体を向け、敬礼を送った。


「彼らをお借りいたします――宜しいでしょうか」


「あ、ああ……わかった。許可しよう」


 力なく頷いた警備隊の隊長に礼を述べたボルト隊長は、志願した隊員たちを集めると、改めて敬礼をした。


「諸君の勇気と、そして身体に宿している騎士の魂に感謝する。誰がなんと言おうと、君たちこそ騎士の末裔だと、わたしは思う」


 ボルト隊長が敬礼を収めると、隊員たちはどこか恥ずかしそうに、しかし背筋を伸ばしながら、敬礼を返した。


「俺たちで、騎士団を復活させますか?」


 隊員の一人が冗談交じりに言うと、他の者たちから苦笑が漏れた。
 ボルト隊長も苦笑をしていたが、妙に芝居がかった表情で、隊員たちの顔を見回した。


「……いや、悪くない。この一時だけではあるが、我々は騎士の気概を持って進むとしよう。さて、色々とこれからのことを詰めねばならん。付いてきて欲しい」


 ボルト隊長は、八名の隊員たちを引き連れて、トトたちと別れたスレトンの家へと向かった。

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本作を読んで頂き、ありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。


ボルト隊長回となりました。


健康診断も終わりました……結果がちょっとだけ怖いです。はい。
血圧→同室で採血だったんですが、血圧の上が80前半、下が60前半。採血の時に血管がうまく見つからなかったのか、手間取る看護師さん(女性)。
血管が細めだと、献血の時にもいわれたりしますが……右の腕から左の腕に変更した直後、看護師さんの「この人、ほんとに生きてる?」という呟きが聞こえました……。


……生きてるやろがい。


そこはできたら、「この豚野郎」とか「変態」という方面でなじtt……いえ、なんでもないです。忘れて下さい。

まあ、採血は無事に終わりました。

次回は完成次第。これから、バリウムとの戦いです。近況は、また色々と落ち着いたらということで。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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