転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました(完結)

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
117 / 179
第六章 忘却の街で叫ぶ骸

間話 ~ 女同士、夜通しの酒

しおりを挟む


 間話 ~ 女同士、夜通しの酒


 ミランダがドラグルヘッドに移住する十日前の夜。
 ブラウンの髪を束ね、随分とくたびれた寝間着を着たナターシャは、使用人としての制服である、紺色のワンピースを繕っていた。
 洗っても消えない汚れや、当て布で歪になった部分はあるが、洗濯する分を含めて二着しか支給されていない。
 新たな制服を入手するには、借金をするしかない。手直ししてでも、着続けなければならなかった。


「これ以上の借金はできないし……」


 溜息を吐いたとき、家の玄関がノックされた。


「誰だい?」


「あたしだよ! ミランダ! ミランダ・タウリス!」


「ミランダ……って、ちょっと! 本物かい?」


 ナターシャがドアを開けると、結い上げた暗い茶色の髪に暗い青色のドレスを着たミランダが、笑顔で立っていた。


「お久しぶり」


「お、お久しぶりじゃないよ! どこをほっつき――ああ、そんなのあとでいいわ。入っておくれよ」


「いいけど、旦那さんは?」


「酔っ払って寝てるよ。どーせ、朝まで起きないからさ。気にしなくていいよ」


 促されるままに家に入ったミランダは、台所のテーブルに腰を落ち着けた。
 ナターシャは台所の奥から、酒瓶と木製のジョッキを持って来た。なみなみとエール酒を注いだジョッキをミランダに手渡したあと、ナターシャは酒瓶をあおった。


 そこからしばらく、会えなかった数年の隙間を埋めるように、二人は話し込んだ。
 元々が夜半からの酒宴だ。時計こそないが、時刻はもう午前四時近い。ナターシャが持って来た酒瓶も、もう四本目に突入していた。


「なんれ娼婦なんて……らってんのよぉ」


 やや呂律が回らなくなってきたナターシャに、まだ酔ってはいないミランダは苦笑しながら答えた。


「なんでって……まあ? 貴族や男どもから、金をぶんどれるためさ。あたしは、この身体一つで生きていくんだ。男どもを利用してね」


「あんたは、もう……あたしは、そんなふうにはぁ……考えられらいねぇ。危ない目に、遭ったことは?」


「まあ、あるけどさ。でも、助けてくれる人だっているんだよ。この前も盗人を捕まえてくれた人がいてさ。安くするって言ったけど……まあ、来てはくれなかったね。恋人がいるとかいないとかで」


 戯けたように肩を竦めるミランダに、ナターシャは苦笑した。


「それはお気の毒。でもさ……あなたのそういうところ、少し羨ましくもあるわね。あたしはさ……まあ、借金もあるし。手堅く稼いでいかないと」


「借金? いやまあ、珍しくはないけどさ。そこまで言うってことは、どのくらい借金したのさ」


「旦那がさ……事故で入院してね。今の雇い主に借金を」


「あら、そういうこと」


 ミランダは少し考えて、勢いよく立ち上がった。


「よし。あたしが一肌脱ごうじゃないか。これから、前よりも大きな街に移ろうと思ってるんだよ! そこで、借金分を稼いでやろうじゃないか」


「あのミランダ……そこまでしなくたっていいの」


「なにを言ってるのさ、水くさい。あたしらは友だちじゃないか。こういうとき、手助けくらいさせておくれよ。前に……あんたにも世話になったし。その恩返しも兼ねてるけどさ」


 ミランダは満面の笑みで、ナターシャの手を強く握り締めた。


「あたしに任せなよ。借金なんか、ちゃっちゃと返して……あとは平穏に暮らしておくれよ」


「ミランダ……」


 涙ぐんだナターシャは強く頷くと、ミランダの手を解いてテーブルの上の酒瓶に手を伸ばした。
 瞳に涙を浮かべたまま、ナターシャは笑顔を作った。


「よし、今日は飲もう! あたしたちの友情と、ミランダの成功に!」


「ナターシャの幸福、そして変わらぬ友情に」


「かんぱーい」


 ミランダはジョッキを、そしてナターシャは酒瓶をコツン、と合わせた。
 二人は酒を呷ると、大笑いをした。空になった瓶が、一本、二本と増えていき、夜明け近くになったころには、十本あまりの酒瓶が台所に転がっていた。
 朝になり、起きてきたナターシャの旦那に、二人は怒鳴られることになる。


 ナターシャが奉公先のトマス卿の屋敷で事故にあったのは、この日から五日後のことであった。

----------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

21日の火曜日にアップできるか……と頑張ってみましたが、残業で無理でした。
色々とお察し下さいませ。

うちの近所のスーパーが、新聞のチラシを止めまして。その分、価格を下げます宣言をしてました。
こういう流れが増えると、消費者の立場としては助かるな……と思います。

今はネット広告とかありますからね。クーポンがあったりしますし。
卵も値上がってますしね。少しでも安くなると助かります。

食べ物関係ですと、なんかコオロギが流行りみたいですね。会社のドブの下から出てくるコオロギを見ると、これを食べたくはないな……と思います。車の掃除で、汚汁が相当に流れてますし、絶対にヤバイ菌かウィルス持ってそう。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

処理中です...