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第六章 忘却の街で叫ぶ骸
間話 ~ 女同士、夜通しの酒
しおりを挟む間話 ~ 女同士、夜通しの酒
ミランダがドラグルヘッドに移住する十日前の夜。
ブラウンの髪を束ね、随分とくたびれた寝間着を着たナターシャは、使用人としての制服である、紺色のワンピースを繕っていた。
洗っても消えない汚れや、当て布で歪になった部分はあるが、洗濯する分を含めて二着しか支給されていない。
新たな制服を入手するには、借金をするしかない。手直ししてでも、着続けなければならなかった。
「これ以上の借金はできないし……」
溜息を吐いたとき、家の玄関がノックされた。
「誰だい?」
「あたしだよ! ミランダ! ミランダ・タウリス!」
「ミランダ……って、ちょっと! 本物かい?」
ナターシャがドアを開けると、結い上げた暗い茶色の髪に暗い青色のドレスを着たミランダが、笑顔で立っていた。
「お久しぶり」
「お、お久しぶりじゃないよ! どこをほっつき――ああ、そんなのあとでいいわ。入っておくれよ」
「いいけど、旦那さんは?」
「酔っ払って寝てるよ。どーせ、朝まで起きないからさ。気にしなくていいよ」
促されるままに家に入ったミランダは、台所のテーブルに腰を落ち着けた。
ナターシャは台所の奥から、酒瓶と木製のジョッキを持って来た。なみなみとエール酒を注いだジョッキをミランダに手渡したあと、ナターシャは酒瓶をあおった。
そこからしばらく、会えなかった数年の隙間を埋めるように、二人は話し込んだ。
元々が夜半からの酒宴だ。時計こそないが、時刻はもう午前四時近い。ナターシャが持って来た酒瓶も、もう四本目に突入していた。
「なんれ娼婦なんて……らってんのよぉ」
やや呂律が回らなくなってきたナターシャに、まだ酔ってはいないミランダは苦笑しながら答えた。
「なんでって……まあ? 貴族や男どもから、金をぶんどれるためさ。あたしは、この身体一つで生きていくんだ。男どもを利用してね」
「あんたは、もう……あたしは、そんなふうにはぁ……考えられらいねぇ。危ない目に、遭ったことは?」
「まあ、あるけどさ。でも、助けてくれる人だっているんだよ。この前も盗人を捕まえてくれた人がいてさ。安くするって言ったけど……まあ、来てはくれなかったね。恋人がいるとかいないとかで」
戯けたように肩を竦めるミランダに、ナターシャは苦笑した。
「それはお気の毒。でもさ……あなたのそういうところ、少し羨ましくもあるわね。あたしはさ……まあ、借金もあるし。手堅く稼いでいかないと」
「借金? いやまあ、珍しくはないけどさ。そこまで言うってことは、どのくらい借金したのさ」
「旦那がさ……事故で入院してね。今の雇い主に借金を」
「あら、そういうこと」
ミランダは少し考えて、勢いよく立ち上がった。
「よし。あたしが一肌脱ごうじゃないか。これから、前よりも大きな街に移ろうと思ってるんだよ! そこで、借金分を稼いでやろうじゃないか」
「あのミランダ……そこまでしなくたっていいの」
「なにを言ってるのさ、水くさい。あたしらは友だちじゃないか。こういうとき、手助けくらいさせておくれよ。前に……あんたにも世話になったし。その恩返しも兼ねてるけどさ」
ミランダは満面の笑みで、ナターシャの手を強く握り締めた。
「あたしに任せなよ。借金なんか、ちゃっちゃと返して……あとは平穏に暮らしておくれよ」
「ミランダ……」
涙ぐんだナターシャは強く頷くと、ミランダの手を解いてテーブルの上の酒瓶に手を伸ばした。
瞳に涙を浮かべたまま、ナターシャは笑顔を作った。
「よし、今日は飲もう! あたしたちの友情と、ミランダの成功に!」
「ナターシャの幸福、そして変わらぬ友情に」
「かんぱーい」
ミランダはジョッキを、そしてナターシャは酒瓶をコツン、と合わせた。
二人は酒を呷ると、大笑いをした。空になった瓶が、一本、二本と増えていき、夜明け近くになったころには、十本あまりの酒瓶が台所に転がっていた。
朝になり、起きてきたナターシャの旦那に、二人は怒鳴られることになる。
ナターシャが奉公先のトマス卿の屋敷で事故にあったのは、この日から五日後のことであった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
21日の火曜日にアップできるか……と頑張ってみましたが、残業で無理でした。
色々とお察し下さいませ。
うちの近所のスーパーが、新聞のチラシを止めまして。その分、価格を下げます宣言をしてました。
こういう流れが増えると、消費者の立場としては助かるな……と思います。
今はネット広告とかありますからね。クーポンがあったりしますし。
卵も値上がってますしね。少しでも安くなると助かります。
食べ物関係ですと、なんかコオロギが流行りみたいですね。会社のドブの下から出てくるコオロギを見ると、これを食べたくはないな……と思います。車の掃除で、汚汁が相当に流れてますし、絶対にヤバイ菌かウィルス持ってそう。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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