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魔剣士と光の魔女 二章『竜の顎で殺意は踊る~ジン・ナイト暗殺計画』
間話 ~ その2
しおりを挟む間話 ~ その2
ユノバサ村の宿屋に、珍しい宿泊客がいた。
街道から離れた場所にあるため、村を訪れる者は行商人か税を徴収しにくる役人くらいだ。このところは、ドラゴンやゴブリンなどの魔物が姿を見せるようになったため、冒険者なども泊まっているが。
その宿泊客はボロボロの外套を着て、フードを目深に被っていた。宿に泊まって五日目になるが、誰も彼の素顔を見ていない。
食事と用足し以外、ほとんど客室に籠もっている。湯浴みをするときも、桶やリネンを宿の主人に部屋まで持ってこさせていた。
その宿泊客が、珍しく昼間に宿の外に出ていた。
外套姿の宿泊客は周囲を見回すと、柵の内側でぼんやりとしている剣士へと近づいた。
「もし――宜しいですか」
「え? あ、はい――なんでしょう?」
少し大人しそうな印象の剣士は、フードを取った顔を見て、少し驚いた。
快活そうな顔立ちに、薄茶色の髪。切れの長い眉――女性、しかもまだ若い。声が落ち着いているので、もう少し上だと思っていた剣士は、女性が差し出した羊皮紙の封蝋を見て、表情を引き締めた。
「――ギルドからですか?」
「はい。従者のあなたにお渡ししておきます。中を検めてから、内容について主様とご相談下さい、ということです」
「確かに承りました」
羊皮紙を受け取ってから、剣士は相貌を崩した。
「それにしても連絡員の方が女性だなんて、驚きました」
「人手不足なんですって。おかげで、こんな面倒くさい仕事を押しつけられちゃった。一応、あたしも冒険者として登録してるのになぁ」
砕けた言葉で――こっちが素なのだろう――肩を竦める女性に、剣士は苦笑いを浮かべた。
「それは大変でしたね。それでは、羊皮紙は預かります。気をつけて帰って下さい」
「ええ、ありがと。いつか一緒に仕事をするときがあれば、一杯奢ってね」
冗談めかして片目を瞑った女性は、再びフードを目深に被った。宿に帰る姿を見送ってから、剣士は羊皮紙を開いた。
「……なんだこりゃ。まるで、暗殺の依頼じゃないか」
ざっと報酬や細かい指示を流し読みした剣士は、羊皮紙を畳んだ。
主の元へ――と駆け出そうとしたところで動きを止めた剣士は、もう一度、羊皮紙を広げた。
(連絡員の言ったこと……もう一度、よく考えなきゃいけないな。なにか――意図があるかもしれない。実行については、再度の連絡を待て――こんな指示、初めてだ。依頼料も相場より高めか――)
剣士はしばらく黙考してから、周囲を見回した。
(報せるのは、夜になってからのほうがいいか)
剣士は誰にも見られないよう羊皮紙を背負い袋に入れると、また柵に凭れてぼんやりと空を見上げた。
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