消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

十三話 それぞれの軋轢

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 十三話 それぞれの軋轢

 翌朝、僕とレオナは発掘現場への道を歩いていた。
 昨日の映像を視たあとでも、レオナの態度は変わらなかった。それが不思議だったけど、彼女は僕の血のことをどう思っているのだろう?
 気になるけど……その話題をする機会がなくて、そして訊くのが怖くて、先延ばしになってしまってる。
 昨晩は、あまり眠れなかった。目をつぶるたびにコーナル・コーナルの話が蘇ってしまって、眠気がまったく降りてこなかったんだ。
 睡眠不足気味の顔で、僕は周囲の人たちを見回した。
 老若男女が入り交じった発掘技師に、若手の多い護衛兵たち。魔神の血を受け継いでることが知られたら、この人たちすべてが、僕の敵になる――そんな想像が思い浮かぶたびに、背筋に冷たいものが走った。


「あ、アウィン。おはよ」


 急に後ろからファインさんに話しかけられて、僕は声もなく驚いた。恐怖というか、緊張が大きくて、叫ぶに叫べなかったんだ。
 僕の驚いた顔を見て、ファインさんは目を丸くした。


「どうしたの?」


「あ、いえ……なんでも、ないです」


 答えながら、僕は呼吸を整えていた。
 考えていた内容が内容だったから、護衛兵のファインさんに声をかけられたときは、想像が現実になったんじゃないかと緊張してしまった。
 深呼吸を繰り返すうちに、徐々に落ち着いてきた僕は、ファインさんに会釈した。


「改めて、おはようございます」


「うん。おはよ。今日はバイトに行くの?」


「はい……そのつもりです」


「そっか。でも、働き過ぎなんじゃないかな。身体は大丈夫なの?」


 時折、レオナへと視線を向けながら話をするファインさんに、僕はなんでもないと手を振った。


「いえ、大丈夫ですから」


「そう? 世話が増えて大変なんじゃないかと思って。例えば、その魔導器の子なんだけど、ほかで預かってもらうって手もあると思うよ。いいところ紹介しよっか?」


「それは無理なのよ。点検は、アウィンじゃないと無理だし。それに、安心して過ごせるか、わからないじゃない?」


 割って入るように反論してきたレオナに、ファインさんはあからさまに不機嫌になった。
 腰に手を当てながら、レオナへと柳眉を逆立てた。


「あたしが紹介するところが、安心できないっていうの!?」


「少なくとも、分解して調査しようとしたり、魔導器としての扱いしかしてくれないところでは、安心できないんだけど……そんなことをしないって保証はあるの?」


「それは……わからないけど。けど、魔導器として扱うのは当然でしょ?」


「アウィンは、ちゃんと人間扱いしてくれてるから。だから、安心して過ごせてる。今のところは――ね。だからあなたが、そういう気遣いはしなくていいのよ」


 どことなく、睨み合いっぽく見えた僕は、二人を宥めるべく大袈裟に手を振った。


「あの――二人とも落ち着いて。えっと、僕なら大丈夫ですから。その、昨日みたいに休みもちゃんと取るつもりですし」


「アウィンが大丈夫って言うなら、それ以上は言わないけど……」


「す、すいません、気を使わせて。あ、そうだ。ついでに聞いてもいいですか? 昨日、エディンを見ました?」


「エディン? ああ……今は、あまり近寄らないほうがいいと思うよ。なんか、ダントたちと一緒に発掘してるみたいだし。無理矢理かもしれないけどね」


 ファインさんの返答に、僕は不安になった。エディンが好んで、ダントやラントと連むなんて考えられなかった。きっとファインさんの言うとおり、無理矢理なんだろうけど……あの二人の目的は見当がつかなかった。
 エディンの様子をもっと聞こうと思ったけど、ファインさんを呼ぶ仲間の声が聞こえてきた。
 ファインさんは少しムスッとしてから、僕に手を振った。


「ごめん。行かなきゃ。また今度ね」


「え、ああ……はい」


 手を振り返しながらファインさんを見送った僕は、隣で気むずかしい顔をしているレオナを振り返った。


「さっきはどうしたの? なんかムキになってたみたいだけど」


「ムキっていうか……あの子、あたしをアウィンの家から追い出せれば、なんでもいいって思ってたのよ? そんなの断るしかないじゃない」


 先ほどのやり取りに、レオナは少し緊張していたみたいだ。安堵に似た息を吐いてから、小さく「あの子もアウィンのこと――ちょっと困ったな」と呟いていた。
 声は聞こえていたけど、僕は自分の悩み――というか、迷いに近いかも――が頭にこびり付いていて、レオナの言葉を気にする余裕がなかった。


「そろそろ行こうよ。時間に遅れちゃう」


「そうね。でも、ファイン――だっけ。アウィンはどう思ってるの?」


 そんな突然の質問に、鈍くなっている僕の思考は、数秒ほど意味を掴むのを拒んだ。
 ぼんやりと、ファインさんの感想を聞かれてる――と認識した僕は、思ったままの返答をした。


「とても親切だし、お得意さんだと思ってるけど……なんで?」


 僕の返答に目を瞬かせたレオナは、今まで見たことの無い、鉛よりも重そうな溜息を吐いた。


「まったく……予想以上に重傷ね、アウィン。お願いだから、もうちょっと異性に興味を持ってよ」


 なんで? って聞いちゃいけないんだろうか……これ。そんな質問ができる雰囲気じゃなさそうだけど。
 気を取り直して――と言いたいところだけど、それならそれで、今度はコーナル・コーナルのことを思い出してしまう。
 どちらにしても、僕の悩みは終わらない。
 そんな暗い気持ちで再び歩き始めたとき、僕は道の端を歩いているエディンに気づいた。


「エディン!」


 僕が駆け寄ると、エディンはビクッと身体を強ばらせた。


「あ――アウィン……?」


「なんか、ダントたちと発掘をさせられてるって聞いたんだけど。大丈夫なの?」


「あ……うん。なんとか」


 作業着の上から左腕を擦りながら、エディンは頷いた。
 僕が少しホッとしていると、目線を彷徨わせていたエディンが、いきなり俯いた。なにかあったのかな――と、思って周囲を見回そうとしたとき、エディンが顔を上げた。


「あ、あのさ……アウィン。今晩ってバイト……?」


「あ、うん。そのつもりだけど」


「あのさ……バイトが終わってから、少し付き合って欲しいところがあるんだ」


 エディンの声は、どこか震えていた。バイトが終わってからだと、夜も遅い時間だ。そんな時間に、どこにつきあうんだろう?
 僕は怪訝に思いながら、エディンに訊いた。


「それはいいけど……どこに行くの?」


「あ――あの、魔術文字を教えて欲しくて。技師をやってて、わからないところがあって……その、アウィンだけで来てくれないかな。坑道の入り口で待ってるから」


「なんだ、そんなことか。そんなことなら、大歓迎だよ」


 僕がホッとしながら頷くと、エディンはぎこちなく頷いた。


「じゃ、じゃあ……ごめん、頼むよ。僕は少し寄るところがあるから……先に行ってて」


 エディンは僕に何故か頭を下げてから、走り去ってしまった。

 ……友だちなんだから、そんな気を使わなくていいのに。

 エディンと話をしている最中は、自分の心配事はあまり気にならなかった。やっぱり友だちっていうのは貴重な存在だなぁ……。
 僕がそんなことを考えている横で、レオナはエディンが去って行った方角を睨んでいた。


「どうしたの?」


「いえ? 少し……気にしすぎただけかも」


 レオナはそう言うと、首を振った。だけど、その表情は晴れることなく、険しさを残していた。こういうところは、元軍人なんだろうか。警戒心がとても強い――気がする。
 そうこうしているあいだに、仕事の時間が迫っていた。
 僕はレオナを促すと、発掘現場へと急ぐことにした。

   *

 アウィンから離れたエディンは、通りから一本裏に入った路地で立ち止まると、ホッと息を吐いた。
 ここなら、もう安心――そう思った矢先、エディンは二つの影に囲まれた。


「よお、逃げるなよエディン? 俺たちは仲間だろ」


 にやにやと笑うダントが、肩に担いでいた大剣を地面に突き刺した。その横では、ラントが銃口をエディンに向けている。
 その恐怖感から壁に背を付けたエディンに、ダントは見下すような視線を向けた。


「アウィンのやつを誘ったみてぇだな。あとの首尾は、理解してるな?」


「し、してる……けど、これでもう、僕には関わらないでくれるんだよね?」


「なに言ってやがる」


 ラントは吹き出しそうになりながら、エディンに顔を寄せた。


「これで俺たちは正真正銘、真の仲間になるんじゃねぇか。おまえには、俺たちが怪しいことをしてないって、そういう証言もしてもらわねぇとな」


「まったくだ。これからもよろしくな、エディンちゃん」


 馬鹿笑いする二人に、エディンは今にも泣きそうな顔で睨んだ。


「そ――約束が違うじゃ」


「約束ぅ? なに言ってるんだ、おまえは? 俺たちは殺人の共犯になるかもしれねぇんだ。おなじ秘密を共有する、仲間になるんだぜ? 今更、約束とか言っても意味ねぇんだよ」


「殺人――殺人ってなに。アウィンになにをするつもりなの? 酷いことはしないって、言ったじゃないか!!」


「するつもりはねぇが、あいつ次第だ。最後まで俺たちに逆らうようなら、そのときは首でも撥ねて生き埋めにしてやるさ」


「そんな!?」


「なんだ? 逆らう気かよ。大体、さっさと魔導器の人形を見つけねぇ、おまえが悪いんだろうが。あんな人間みたいな戦闘用魔導器が手に入れば、俺たちの失態も帳消しどころか、階級が上がるかもしれねぇんだ。
 見つからねぇなら、奪うほうが手っ取り早い――簡単なことだろうが」


 ダントは声を荒げるエディンの左腕を掴むと、歯を剥き出しにしながら力を込めた。


「う――くっ!」


「おい、どうしたよエディン。ああ、そうか。この前、思いっきりぶっ叩いてやったからなぁ。まだ痛むようだな。悪かった悪かった」


 にやにやと笑いながら、ダントは最後にエディンの左腕を平手で叩いた。
 苦悶の表情で左腕を押さえるエディンの頭を叩いてから、ダントはラントを伴いながら去って行った。
 二人が立ち去ったあと、エディンは絶望感と後悔の念から地面にへたり込んだまま、この場所から動くことができなかった。
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