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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
二十四話 大崩落
しおりを挟む二十四話 大崩落
ファインが地上に戻る途中、大広間のところで顔見知りの警護兵に出会った。
木箱を支柱の近くに木箱を置いていた警護兵は、ファインを見て目を丸くした。
「あんた――ファインか。無事だったんだな!」
「あ、あの……軍の人たちを奥へ! あの魔神が復活してて、世界を破滅させるって……アウィンたちが戦ってるんです!」
「な――と、とりあえず、地上に戻ろう。今、魔神を討伐するための作戦の準備中だ」
「ホントですか!?」
ファインは促されるまま、護衛兵とともに地上へと向かった。
今なお残る恐怖心のせいか、ファインは地面に這わされている導火線には、ついに気がつかなかった。
地上に戻ったファインは、そのままジョージ中佐のところまで通された。
ジョージ中佐は鷹揚に応じながら、ファインからの報告を聞いた。
「……ならば、一刻を争うな」
「は、はい! アウィンたちの応援に――」
「いや。彼らが魔神の足止めをしてくれている、この好機を逃す手はない。苦渋の決断ではあるが、討伐作戦を決行する。坑道にいる護衛兵らを呼び戻せ。予定区域からの撤収後に作戦を開始する」
ファインは、ジョージ中佐の言っている意味が、すぐには理解できなかった。まるで、アウィンたちを見殺しにするように聞こえた。
ファインは作戦の内容を聞こうとしたが、ジョージ中佐の部下に半ロクト(約九二〇メートル)ほど離れた、第二坑道の近くへと避難させられた。
それから十数分後、第三坑道に入っていた警護兵らが全員撤収した連絡が入った。
なにかを思うように目を閉じてから、ジョージ中佐は告げた。
「作戦開始」
「はっ! 作戦を開始します」
命令を復唱したジョージ中佐の部下が照明で合図を送ると、第三坑道にいた護衛兵の一人が導火線に火を点けた。
*
僕らと魔神アイホーントの戦いは、ひと言で表すなら防戦一方だった。
結界で熱線の威力を削ぎながら、慎重に躱すだけで精一杯だった。すでに、最深部の中は魔造動甲冑やアイホーントが身体を擦ったあとで、ボロボロになっている。
ここはもう、いつ崩落してもおかしくない。
「レオナ、ここはもうやばいよ!」
「あいつに、言ってよ!」
アイホーントの前足を避けたレオナは、魔力砲を構えるが、すぐにやめた。
なにせ、アイホーントが動く度に最深部の天井や壁が抉れていく。今まで崩落していないのが、不思議なくらいだ。
不用意に飛び道具を使えば、弾けた魔力によってどこが崩れるか予測がつかない。
となれば――。
レオナは再び振り下ろされる前足を避けると、アイホーントの懐に飛び込んだ。右腕から生み出された光の刃で、脚の関節を狙った。
しかし――その一撃は外皮によって防がれてしまった。
それどころか、腹部にある出っ張りが前顎のように動き、魔造動甲冑を狙ってきた。
「くそっ!」
レオナは攻撃を防いだ前脚の外皮を蹴って、後ろに跳んだ。燃焼炉の近くに着地した魔造動甲冑に、アイホーントの腹部にある前顎が迫ってきた。
その突進そのものを横に跳んで躱し、寸前のところに移動してきた前脚を軸に、レオナは方向転換をした。
アイホーントは燃焼炉を押しつぶしつつ、近くにあった金属製の燃料用の容器を飲み込んでしまった。
って、あれって口なの?
僕の集中力が切れかかったとき、レオナの愚痴が聞こえてきた。
「……ったく、もうちょっとほかの武装も用意しときなさいよ。崩落を気にして、なんの攻撃も出来ないじゃない!」
多分、コーナル・コーナルに対するものなんだろうけど――この状況を考えれば、その気持ち僕にも理解出来た。
でも武器か――と、熱線を結界で防ぎながら、レオナの愚痴を頭の中で反芻させていた僕は、ふと思い出したものがあった。
「……あるかも、武器」
「どこに!?」
「アイホーントが復活した《大広間》の少し地上側」
僕の返答に、レオナはアイホーントの前足を躱しながら、「もうっ!」と小さく叫んだ。
「そこまで、この身体じゃいけないよね!?」
「途中までは、行けると思うけど。動甲冑で行けなくなったところで、通路を崩して時間を稼ぐ。そこから大広間まで行ければ、あとは動甲冑ですぐだよ」
僕の出した案に、レオナは僅かに沈黙した。
アイホーントとの間合いを広げたところで、大きく息を吐いたレオナは、溜息交じりに言った。
「このままじゃ、じり貧だし……やってみましょ」
「あ、うん。了解」
僕の返答と同時に、レオナは魔造動甲冑を浮遊させ、滑るように地上方向に後退していった。
〝おのれ――逃げるかっ!!〟
アイホーントは僕らを追ってくるが、天井を崩しながらのためか、その進みは遅々としていた。
そのあいだに、僕らは距離を稼いだ。すぐ先は、この魔造動甲冑では進めない。レオナは人間の姿に戻ると、僕を抱えて着地した。
魔造動甲冑から降りると、視界が真っ暗になる。
僕らは記憶を頼りに、高さ三リン(約二メートル七〇センチ)の坑道に入ると、レオナが後ろの天井に向けて魔力弾を撃った。ある程度天井が崩れると、レオナは光の刀身を出した。
その明かりを頼りに、僕らは全速力で駆けた。
背後から、岩盤が崩れる音が響いてくる。時折、背後を見ながら走っていると、天井の一部が灼熱化し始めた。
ヤバイ――と思った瞬間、熱線が僕らから約一〇リン(約九メートル二〇センチ)離れた場所に降り注いだ。
火傷しそうなほどの熱風が、僕らを襲った。
「防御!」
背中にかなりの熱が残っているけど、結界で身を護りながら、僕とレオナは《大広間》へと急いだ。
《大広間》に入った僕らの前に、魔神を封印していた巨大な箱が、朧気な姿を見せた。
ここで再び魔造動甲冑になったレオナは、僕を中に入れると、出入り口へと急いだ。その途中、火花みたいなものが見えた気がしたけど、気にしてる余裕はなかった。
「武器って、どこにあるの!?」
「もう少し先!」
《大広間》から、岩盤の崩れる音が響いてきた。あの前足で掘るヤツで追って来てるのか、坑道に崩落する気配はなかった。
天井から、あの柄のような物体が見えてくると、僕は指をさした。
「レオナ、あれだ!!」
「この――」
左手で柄を握ったレオナは、引き抜こうと引っ張った。だけど、柄はびくともしない。
「これ、抜けないわよ!?」
「作動させてみて! その威力で引き抜こう。僕の魔力で動かせたんだから、きっと動くよ!」
レオナは持ち方を変えて、柄に緑色の光が灯るのを確認した。すると柄の先で、まるで掘削するような音が響いてきた。
左腕で引っ張ると、天井の一部が崩れ落ちた。
《大広間》からは、また前足で掘削をする音が響き始めていた。ここまで来るのも、それほど時間はかからない。
「ひき――ぬい、たっ!!」
魔造動甲冑の左手に握られていたのは、矛の部分だけで四リン(約三メートル六〇センチ)もある、突撃槍――ランスと呼ばれる形状の武器だった。
突撃槍には中心線のような溝があり、そこに光の刃が拘束で回転していた。
レオナは突撃槍を構えると、タイミングを計るように、ゆっくりとした歩みで《大広間》へと近づいていく。
大広間と坑道を繋ぐ出入り口――その壁が崩された。
土煙が舞う中、レオナは魔造動甲冑を突撃させた。頭部は見えなかったが、前顎のある胴体へ、突撃槍を喰らわせた。
回転する刃がアイホーントの外皮を貫き、濁った緑色の体液を周囲に撒き散らした。
〝なんだと――〟
初めて、魔神アイホーントの怯んだ声が聞こえてきた。
僕らから離れるように後退すると、右腕を突き出してきた。熱線を撃つようだが、レオナはすでに、アイホーントの右側面へと移動していた。
後ろの脚の一本へ、薙ぐように突撃槍を叩き付けた。光の刃が外皮に食い込んだのが見えた瞬間、その脚は関節から下の部分が切断された。
〝馬鹿な――人間の分際で、この魔力量はありえぬはずだ〟
体勢を崩したアイホーントを目掛けて、レオナは魔造動甲冑を跳躍させた。
こちらを見るアイホーントの顔は、表情が浮かんでいない。その首筋へ、レオナは突撃槍を構えたまま跳躍した。
脹ら脛から出る魔力は、ほぼ限界値だった。
跳ぶ勢いをそのままに、突撃槍の先端が魔神アイホーントの首に突き刺さり、そのまま突き破った。
アイホーントの首が地面に落ちるのと同時に、僕らも着地した。
斃した……いや、斃せた!
そう思った瞬間、僕らは後ろからの衝撃で吹き飛ばされた。
〝おのれ――よくも〟
首のない巨体が、僕らのほうへ振り返った。
アイホーントは、まだ生きていた。脚を震わせながら、身体を僅かに浮き上がらせたアイホーントは、僕らへ右手を突き出した。
〝貴様らを殺したあとは、そのまま地上を焼き尽くしてやろうぞ。同胞の封印も解放し、この大地に生きるものすべてを滅ぼしてやる〟
その言葉が言い終わるのが早いかというとき、《大広間》の至る所で爆発が起きた。いや、振動からして、上層のほうや周囲でも爆発は起きているらしい。
大広間の天井から、土砂や岩が降り注ぎ始めた。
「なに?」
「わ、わからない――」
急いで結界を張った直後、坑道内が崩落を始めた。
僕らの周囲やアイホーントの姿も、土砂や岩で埋め尽くされていく。やがて、《大広間》の床も崩れだした。
驚くとか、そういう感情を抱く余裕もない。僕らは土砂とともに、地底の奥深くへと落ちていった。
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