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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
一章-4
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襲撃してきた男たちを衛兵に引き渡したあと、俺たちはすぐにウータムをあとにした。
とはいえ昼過ぎに出てからでは、あまり遠くへ移動はできない。俺たち《カーターの隊商》は、ウータムの北門から近い町に立ち寄った。
アカムンという小さな町だが、宿場町としてそこそこに栄えている。
俺は久しぶりに、馬車の護りを護衛兵らに任せた。夕食を食べるために旅籠屋の食堂に入ると、妙に愛想の良い髭面の男が近づいて来た。
「クラネス!」
「あ、フィーンさん」
髭の下は鼻頭が高い、なかなか渋めの男性だ。この町の商人であり、顔役の一人でもある。顔役ということは、町を統治する領主に近い人物――ということでもある。
俺は愛想良くフィーンさんに近寄ると、固く握手をした。
「お久しぶりです。お元気そうでなにより」
「おまえこそ。旅の毎日だろうに、息災でなによりだ。こっちで一緒にどうだ?」
「もちろん。あ、少し待って下さい」
俺はユタさんに合図を送って、アリオナさんのことを頼んだ。ユタさんでは会話は難しいだろうが、アリオナさんも状況は理解してくれる……はずだ。
直接、俺が説明してもいいが、それだとフィーンさんが気を使ってアリオナさんを同席するように勧めてくる可能性もある。
そうなれば、憑き者であることが明るみになってしまう。それはちょっと――拙いのである。主に、商売として。
俺はフィーンさんと奥の席に移動をすると、果実酒で乾杯をした。
「クラネス、色々と妙な噂を聞いたぜ? 山賊を討伐したり、街を襲う魔物の群れを全滅させたり――」
「噂の程度にもよりますけど……概ね、その通りです。でも、巻き込まれてやむを得ずっていうのが、正確なところですね」
「巻き込まれたって……よくもまあ、無事だったな」
「フレディに剣の修行を受けてますから。長だからって、護られてばかりじゃありませんよ」
俺が肩を竦めると、フィーンさんは半ば呆れ顔で頬杖を付いた。
「商人がやることじゃねぇだろ……でもまあ、無事でなによりだ。それで、これからウータムへ向かうのかい?」
「いえ。今日、ウータムを経ったばかりなんです」
「なんだよ。もうウータムへ行ったのか」
フィーンさんはつまらなさそうな顔をすると、椅子に深く凭れかかった。
ウータムでなにかあるんだろうか――俺が怪訝な顔をしていると、パタパタと手を振りながら、残念そうな顔をした。
「ウータムで、なにか暗殺騒ぎがあったらしいんだが……その噂を調べて、聞かせて欲しいと思ってさ。俺には直接関係なくても、商売のタネになるかもしれないだろ?」
「ああ……」
暗殺者騒ぎといえば、ついこの前に遭遇した、あの覆面の暗殺者のことだろうか? だとしたら、かなり耳が早い。とはいえ、毎日のように隊商や行商人を相手に商売をしてる人だから、近所にあるウータムは話題に事欠かないんだろう。
俺は少しだけ考えて、小さく手を打ってみせた。
「少しだけなら、話を聞きましたよ。ミロス公爵様が、狙われた――とか。といっても、事の顛末までは知りませんけど」
「公爵様が? そりゃあ、一大事だ。ご無事なのかい?」
「いえ、そこまでは……」
俺が首を捻ってみせると、フィーンさんは腕を組んだ。
俺から聞いた話を元に、商売になりそうなネタかを吟味しているんだろう。こういう商売への強い執念は、俺も見習いたいところではある。
そんなとき、俺たちのテーブルに線の細い人影が近寄って来た。
「あの、長さん……少し、よろしいですか?」
振り返ると、蜂蜜酒の瓶を手にしたエリーさんと目が合った。
にこりと微笑むエリーさんに、俺は目を瞬いた。
「どうしました?」
「あの……議会制のことを話されているのなら、わたくしにも聞かせて欲しいと思いまして」
エリーさんの発言に、俺はマジで焦った。
議会制の件については相手を選びつつ、慎重に行うつもりだったのに。じゃないと、王家への反逆と勘違いされる可能性が高い。
そんな心配をする俺に、フィーンさんは好奇心の光を浮かべた目を向けてきた。
「クラネス、なんだその……議会制って」
「ああ、それは、その……」
俺は議会制について、掻い摘まんで説明をした。最初は不安そうな顔をしていたフィーンさんだったが、王制を排除するわけじゃないと話した途端、興味津々という顔つきになった。
一通りの説明を終えたあと、フィーンさんは険しい顔で、俺に顔を寄せた。
「説明が簡単すぎねぇか? もっと考えているんだろ。全部話せよ」
「いやまあ……といっても、議会を構成する議員は、民草による投票で決めます。ですから、独裁はやりにくくなりますし、無茶苦茶な法律も作られにくくなる……という理想論ですね。できれば議長も選挙制にしたほうが、世は荒れにくくなると思います」
「長まで選挙で選ぶのか?」
驚くフィーンさんに、俺は頷いた。
「議会の派閥だけで長を選ぶと、その派閥の独裁になりやすいですからね。それじゃあ選挙制度として中途半端なんですよ。次の選挙痔に評価されるとなれば、あまり無茶はしないでしょうから」
まあ、これも選挙に不正がなければ――という条件が付くけど。
俺とフィーンさんとの会話は、いつの間にか議会制の話題のみとなっていた。だけど三杯目のエール酒が空になったとき、フィーンさんは大きく息を吐いた。
「……ああ、酒が切れちまった」
フィーンさんは店員を呼ぶと、数言だけ会話を交わした。それから四枚の銅貨を俺の前に置くと、小さく手を振った。
「面白い話だったぜ。俺も知り合いに話をしてみるぜ。ソイツは礼だ。ここの飯は、俺に奢らせてくれ」
といっても、基本的に旅籠屋での食事は前金制だ。だからこれは、俺が支払った分の銅貨を渡すことで、奢りとするつもりみたいだ。
……うん。これは儲けた。
「ありがとう御座います。遠慮無く」
「ああ、そうしてくれや。じゃあな。そっちの嬢ちゃんも」
「はい。ごきげんよう」
エリーさんに微笑まれて気分が良くなったのか、フィーンさんは笑顔で去って行った。
あとに残された俺は、隣に座っているエリーさんに苦笑いを向けた。
「あんな話、聞いていても退屈だったでしょう? なんか期待を裏切ったみたいで、申し訳ないです」
「いえ、とんでもないです。大変、面白く聞かせて頂きましたわ」
「……そう言って頂ければ、有り難いですよ。夢物語のような内容かもしれませんが、ちょっと本気で目指してますから。まあ、こんな話をされたら、妄想癖が凄いとか思われそうですよね」
俺が自嘲的に肩を竦めると、エリーさんは優しげに微笑みながら、小さく首を振った。
「そんなこと、ありません。少なくとも、わたくしはいっし――応援したいと感じましたもの」
「それは……ありがとうございます」
「ええ――あ、それより……夕食を早く食べられたほうがよろしいでしょう。冷めてきている気がします」
「え? ああ――すいません、先に食べちゃいますね」
俺は焼きたて(だった)のパンと温か(だった)なシチューを食べ始めた。量が少ないと思われそうだが、芋やタマネギが多くて、腹だけは膨れる。
夕食を食べ終えるまで、横でニコニコと笑みを浮かべるエリーさんに、食事風景を見物されていたわけだけど……なんていうか、その。
なんか羞恥プレイ的な、なにかなんだろうかこれ。
俺は困ったように頬を掻きながら、エリーさんを見た。
「あの……俺の食事なんか見てても、つまらないでしょう?」
「いいえ? なかなか楽しかったです」
……やはり羞恥プレイ的な、なにかなんだろうか。
先ほどの奢りで得た銅貨で、俺は果実酒と蒸留水を注文した。
果実酒をエリーさんに勧めたが、少し悪戯っ子のような顔をされてしまった。
「わたくしを酔わせて、どうなさるつもりですか?」
「いやその……ここの果実酒は、そんなに酔わないですから」
俺が慌てて言い訳をすると、エリーさんはクスクスと笑った。
「でも、先ほどのお話、ウータムで姫様に呼ばれる前に聞きたかったですわ。そうすれば、エルサ姫に、もっと詳しく議員制のことをお話できましたのに」
「え……っと。エルサ姫に議員制の話をした……んですか?」
「ええ。面白い話かなと思いまして。少し興味を持たれたみたいですよ」
……マジか。
いやこれ、拙くないか? 王族に議員制の話を知られるとか……謀反を企んでると疑われてもおかしくない。
サァ――っと血の気が引いていくのがわかる。
なんでそんなことを、気楽に喋っちゃうんだろうか……。
そんなことを思いながら、俺は誤解がなかったことを神と悪魔へ祈りつつ、エリーさんにそのときの状況を詳しく話しをしてくれるよう懇願した。
酒場の端からアリオナさんの視線を感じたけど……うん。今晩あたり、ちゃんと話をしておこう。
そんなことを考えながら、俺はエリーさんからエルサ姫との話を聞いていた。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
議会制の話も出てますが……正直、ここまでしないと民主主義じゃないって思ってます。アメリカとかでは、大統領選挙が国民投票なんですよね。
だからイヤでも国民の生活を良くしないといけない。再選できなくなるから。
だから選挙権も厳しいイメージです。たしか、アメリカ国籍所有で、永住許可者は投票できません。あと自分で投票のための名簿に登録しに行かなきゃだめですね。
被選挙権もアメリカ国内で生まれた国民、移民は三代続けたアメリカ国民、そして何年か国内に住んでいること――だったはず。
それくらい厳しいのが、普通です。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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