100 / 123
弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
一章-6
しおりを挟む6
翌朝の早朝から、隊商は商売を始めた。
護衛兵たちの警備は、強化してある。人数は増やしてないけど、休憩をする人員を減らし、交代のスパンを増やした――という感じだ。
白昼堂々と侵入を試みる者がいるのか。当然のようにそんな意見もあったけど、人混みの中だからこそ、侵入工作はしやすい。人の多さで意識が散ってしまい、侵入者に気づけない可能性が大きいからだ。
敵の狙いはエリーさんである可能性が大きいが、隊商全体である可能性だって捨てきれない。
少し卑怯だけど昨日の侵入者騒ぎは、商人たちには盗人の侵入という話にしている。もちろん護衛兵には、しっかりと口止めをしてある。
商人たちが商売をする声が市場を賑わせる中、俺とアリオナさんは厨房馬車の中で、エリーさんとメリィさんと話をしていた。
厨房馬車の前後には、フレディとクレイシーの二人を見張りにつけている。これで、盗み聞きをされる心配はないはずだ。
俺は並んで座る二人に、単刀直入に訊いた。
「お二人に質問です。ここで商人として働く前、なにをしていましたか?」
「……いきなりな質問ですね」
メリィさんが表情を険しくしたが、今回ばかりは俺も退くわけにはいかない。なにせ未遂とはいえ、麻薬まで使った潜入工作を受けたんだ。隊商の長として、これ以上は有耶無耶にできない。
俺は迷いを捨てると、エリーさんとメリィさんを交互に見た。
「昨晩、賊が侵入しようとしてました」
「その話は、今朝――」
「彼らは、エリーさんたちの馬車に潜入しようとしたんです。それも、御禁制の麻薬を持って。恐らく、エリーさんたちの馬車に麻薬を仕込んだあと、密告する計画だったんだと思います。これが偶然か、それともエリーさんたちを狙ったものか――それを判断するために、お二人のことを聞かせて欲しいんです」
俺が話した事実――極一部、状況証拠による推測も混じってるけど――を聞いて、エリーさんとメリィは揃って驚きの色が浮かんだ。
視線を彷徨わせるメリィさんの横で、エリーさんは静かに目を閉じた。膝の上で組んだ手が、少し震えていた。
なにかに怯えるような、そしてどこか不安げな様子だったけど、エリーさんはゆっくりと決意に満ちた目を上げた。
「……長さんの考えは、わかりました。ですが事実を知ったあと、あなたはどうなさるつもりなのでしょうか?」
「聞いてから考えます……と言いたいのですが。今考えているのは、どうやって奴らの手から隊商を護るかということです。もちろん、エリーさんとメリィさんも含めて。だから敵を知るためにも、エリーさんたちのことが知りたいんです」
俺の返答に、エリーさんは小さく肩を上下させた。どこか嬉しげに目を細めながら、鷹揚に頷いた。
「……そんな嬉しい言葉を頂けるなんて。それでしたら、お話をしてもいいかもしれませんね」
「お嬢様!?」
驚くメリィさんに、エリーさんは小さく首を振った。
「これまで、わたくしたちのことを何度も護って頂きました。そんな方々に対し、誠実さを失っては、それこそ不義理というものでしょう」
「それは……そうですが」
メリィさんが項垂れるように、反論を止めた。
そんなメリィさんと手を重ねると、エリーさんは俺に頷いてみせた。
「……それでは、お話をしましょう。ですが……できれば、他言無用でお願いをしたいのですが」
「わかりました」
俺が頷くと、エリーさんは声を落としながら語り始めた。
「わたくしはファレメア国、フォンダント侯爵家の末娘です」
「ファレメア国……ええっと、どのあたりの国でしょう?」
前世における中世期ほどの文化、文明しかない世界だ。情報が広く伝わっていないから、遠方の国になると一般人では知らない国も多い。
俺の問いに、エリーさんはふと右を向いた。厨房馬車の壁で見えないが、その先には海がある。
エリーさんの視界の先を目で追った俺は、しばらくしてから顔を戻した。
「……海の向こうの国ですか?」
「はい。魔術が盛んで、平和な国でした」
エリーさんの説明は、過去形だった。
その意味に気付いて言葉を失った俺に、エリーさんは僅かに目を伏した。
「以前、魔物寄せの香を暗殺者に売ってた集団について、お話をしたと思います。わたくしが何故、彼らのことを知っていたのか……」
「実際に、国を奪われた……から」
俺が出した結論に、エリーさんは大きく頷いた。
「その通りです。わたくしは国が奪われる一部始終を、目の当たりに致しました。王や貴族のほとんどは殺され、国民たちは奴隷とはいいませんが、高い税や多くの義務を強いられていると――風の噂で聞きました」
「それじゃあ、奴らは生き残りのエリーさんを、ここまで追ってきた?」
「いいえ。それはないでしょう。それならばきっと、わたくしはこの国まで来られませんでしたわ」
小さく揺らすように首を左右に振ってから、エリーさんは人差し指を頬に添えた。
「どうして彼らに、わたくしのことが知られたのか……それは、わかりません。ですが恐らく、ウータムで襲って来た者は物盗りの類いではなく、彼らの刺客かもしれません」
「それ以前に、奴らから襲撃を受けたことは――」
「……ありませんわ」
エリーさんは短く、しかもキッパリと否定した。
ここにきて、エリーさんが狙われ始めた……となると、問題はどこで存在が知られたか――だ。
「可能性があるのは、ミロス公爵がアジトを襲撃したこと……でしょうか?」
「それも、確かなことは言えません。可能性がないわけではありませんが……たとえば、そのときから監視されていた……とか」
「監視……」
移動中、俺は〈舌打ちソナー〉などで周囲を警戒している。それに監視らしい者の反応はなかったはずだ。魔術で監視されていたら、どうにもならないけど……。
俺はここで、思考を打ち切った。
ここでは推測のみで、結論は得られない。なら今は、できることを考えたほうがいい――。
〝魔術での監視は、ちょっと難しいな〟
いきなり背後から野太い声がして、俺は悲鳴をあげそうになった。
後ろを振り向けば、そこには半透明の男が佇んでいた。筋骨逞しい、無骨な印象を受ける大男だ。
しかし意外なことに、彼は大昔の死霊術師だ。マルドーという名のゴーストで、ひょんなことから知り合い、今は俺の長剣に宿っていたりする。
死霊術とはいえ、元は魔術師だ。魔術の知識は、この中でも随一である。
マルドーは腕を組みながら、俺の前へ出た。
〝魔術による監視は、対象の名や存在を詳しく知っていなければならん。例え、エリーのことをよく知る敵が近くにいたとしても、あそこに偶然いたっていうのは、あまりにもできすぎている〟
「それは……そうかもしれませんけれど。でも可能性は考慮すべきですわ」
〝ああ。だが、それでほかの可能性から目を逸らしてはならんぜ?〟
マルドーの指摘に、エリーさんは首を傾げた。
「ほかの可能性……ですか?」
〝ああ。例えば、どこかで名乗ったことはないか? 昔の知り合いに会ったことは? そういった事例を洗い出して、対象を絞ることだってできる〟
マルドーの指摘に、エリーさんとメリィさんがハッと顔をあげた。
「その心当たりは……あります」
「どこです?」
俺の問いに、エリーさんはメリィさんと顔を見合わせた。
先に口を開いたのは、メリィさんだ。
「あの油の情報を手に入れた相手……彼女は、お嬢様のことを知っています」
「あと、もう一件。エルサ姫には、色々とお話を――」
前者は二重スパイ的な理由だとすれば、納得ができる話だ。だが……後者だとしたら最悪だ。
国の中枢――しかも王家直系の姫が奴らに協力していたとしたら……この国はもう、手遅れだといっていい。
ある種の絶望感を覚えた俺は、事態の深刻さに気が重くなっていた。
「ところで……アリオナさんは、どうしてここに?」
会話が出来ないのに――というメリィさんの疑問は、当然だろう。現に、この会話にアリオナさんは一度も発言をしていないし。
……嫉妬心から、ここにいます。
そんな返答ができるわけもなく、俺はただ肩を竦めただけだった。
--------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、まことにありがとうござします!
わたなべ ゆたか です。
久しぶりのマルドー登場回です。
べ、別ニ忘レテイタワケデハアリマセンヨ? 単に魔術の話がなかっただけです(滝汗
第三者からの意見って、あまり探偵者のドラマでは見ないかな……とか思ってみたり。まあ、海外ドラマがメインですが。
大体が、映像とか手紙とか――そういったやつから、「ハッ!」的な要素が多いかもです。まあ、正解かどうかは、別の話ですが。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
2
あなたにおすすめの小説
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。
そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。
だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。
凛人はその命令を、拒否する。
不死であっても無敵ではない。
戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。
それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。
女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。
これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる