最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
112 / 123
弟四章『地下に煌めく悪意の星々』

三章-4

しおりを挟む

   4

 俺たちが隊商に戻ると、フレディが駆け寄ってきた。
 あとからオーランもやってきたけど、フレディはそれに構わず、俺に安堵した顔を向けてきた。


「若――ご無事で」


「もちろん? あくまで見張りが仕事だったからね。正面切って戦ってないから、怪我のしようもないよ」


「それで、偽装船は?」


「……逃げたよ。港に降りていた数人を見捨てて……ね」


 俺の返答を聞いていたオーランが、顔を青くした。口元を震わせながら、非難するような目で俺に告げた。


「な、なんてことを……船を襲ったんですか?」


「まさか。奴らが帯剣をしたまま港に降りてきたのが悪いんだよ。衛兵に詰め寄られて、指示に従わなかったから……そこで諍いになったんだ。そこまでは、誰も剣を抜いていなかったのに……偽装船の魔術師らしいヤツが、魔術を使ったんだ」


「魔術……まさか、それが切っ掛けで」


「ああ。斬り合いになった。衛兵から火矢が飛んだ直後に、偽装船は港から離れたんだ」


「ああ、なんてことだ」


 項垂れたオーランの背中を軽く叩きながら、俺は小さく肩を竦めた。


「別に、おまえの情報が原因ってわけじゃない。帯剣をした集団が出てくれば、衛兵たちだって怪しむさ。それに、魔術を使ったのも拙かった。あれさえなければ、戦いにはならなかったはずだ」


「それは……そうですが。でも、まさかこんなことになるなんて」


 オーランは、力なく首を振った。
 落ち込んでいるようだが、俺は慰める気にはならなかった。その代わり、状況証拠を元にした推測を告げた。


「後ろめたいことがなければ、そこで衛兵に逆らわないはずだ。逆らったってことは、恐らくだけど、俺たちの隊商を探し出して――」


「暗殺をしようとしてた、と。その可能性は、否定できませんが……」


「ということだ。オーランの情報の有無に関わらず、結果は同じだよ」


 もっとも、オーランの情報で偽装船の警戒はしてい状況の下で起きたことだ。それに魔術については、俺が阻害し、情報を伝達したわけで。
 オーランからの情報が、大きく関わっているのは間違いが無い。ただ、ここでそれを肯定しても、ややこしくなるだけだ。
 オーランには、なるべく発言の責任を自覚させないほうがいい。
 まだ落ち込んでいる様子のオーランはフレディに任せて、俺はアリオナやクレイシーと、ユタさんのいる馬車へと向かった。
 商売の状況などを聞いている途中で、中年の紳士がやってきた。
 品の良い礼服……執事が着ていそうな服だ。線の細い印象の紳士は、俺を見ると恭しく一礼をした。


「クラネス・カーター様とお見受けいたします。わたくしはナーブルス様にお仕えする者でございます」


「あ、これは御丁寧に。わたくしが、クラネス・カーターです。それで、どのような御用件でしょうか?」


「はい。現在、《カーターの隊商》が率いておられる商人たちの、お引き受け先が決まりましたので、その御連絡でございます。もしよろしければ、わたくしが次の隊商がいる場所まで、御案内いたします」


 ……ついに、来たのか。

 俺から頼んだことではあるが、いざその刻がくると、安堵よりも辛さが表に出てしまう。
 これで最悪、数ヶ月以上は商人として活動ができなくなる……かもしれない。隊商の長で無くなることなんかより、そっちのほうが辛い。
 俺は静かに、深い呼吸を数度繰り返してから、紳士に微笑んだ。


「少しだけ、待って下さい。今、隊商の皆にこの旨を伝えて参ります。それからすぐに、案内をお願いしたいのですが……お時間はよろしいでしょうか?」


「はい。主からも、クラネス様の指示で動いて構わぬと仰せつかっております。クラネス様のご都合で、構いません」


「……ありがとうございます」


 俺は紳士に一礼をしてから、隊商にいる商人たちへ、順に声をかけていった。
 ミロス公爵の一件で、参加していた商人は三割ほど減っていたけれど。それでも七名ほどが残ってくれていた。
 彼らに預かっていた売り上げのすべてを渡しながら、俺は一人一人に礼と謝罪を述べていった。
 完全に、俺の都合で別の隊商へと移って貰うんだ。隊商としての取り分も、貰うことはできない。そして護衛兵たちには、報酬の全額を渡す。
 彼らも商人たちと一緒に、別の隊商に移ることになっていた。
 旅をするには身軽になった――と言えなくもないが、それでもやはり、寂しさを覚えてしまう。
 アリオナさんは……正直に言って迷った。商人の誰かに託そうとも考えたけど、アリオナさんは頑として首を縦に振らなかった。
「あたしは、クラネスくんと一緒に行くから」
 ……なんて言われたら、これ以上の説得は無理だ。でもこれは、説得が不可能という意味ではない。
 俺が照れてしまって、説得を続けることができなくなった――という意味である。誰がなんと言おうと、ここだけはヘタレてしまう。
 そんなわけで、商人たちをナーブルスさんが探してくれた隊商に引き渡すと、俺は厨房馬車の御者台にアリオナさんを乗せた。
 それから、俺は背後にいる馬車へと振り返った。
 なにを言おうか……と悩んでいると、向こうから声をかけてきた。


「長さん、どうかなされましたか?」


 呑気に訊いてくるエリーさんに、俺は溜息交じりに訊き返した。


「……なんで、残ったんです?」


 ナーブルスさんが探してくれた隊商に行って下さい――その予定は伝えてあったし、先ほどの紳士に付いて行くよう言ったのに……何故か、エリーさんは俺の隊し……いや、厨房馬車から離れなかった。
 疑問符だらけの俺の問いに、エリーさんはたおやかに微笑んだ。


「あら。わたくしの魔術は、きっと役に立ちますわ。それに、エルサ姫様は知らない仲ではありませんもの。姫様をお救いするのに、理由などありあせん」


「そりゃまあ……そうなのかもしれませんけど。でも、わざわざ危険の中に飛び込む必要はないでしょう?」


「そうですね。ですがチャーンチに狙われているのなら、どこにいても一緒です。なら、少しでも……その、安心できるところに居たいですわ」


「……いや、俺と一緒に居たって、安心できるとは限りませんけど」


 そこまで、俺の《力》を認めてくれているんだろうか? 万能な能力ではないから、あまり過信をしないで欲しいところだ。
 俺は「わかりました」とエリーさんに答えてから、もう一人に目を移した。
 エリーさんの馬車の隣に、騎馬に跨がったクレイシーがいた。彼も、何故か次の隊商に移らなかった。
 俺のところに居たって、それほど稼げないのに……そんな疑念混じりの視線に気付いたのか、クレイシーは不敵な笑みを浮かべた。


「なんだよ、俺にも同じ質問かい?」


「そりゃまあ……ここにいても、今まで通り稼げないと思いますし」


「まあ、今のままなら……な。だが、長――っと、クラネスはミロス公爵に情報を伝えに行くんだろ? そして恐らく、王城に巣くうチャーンチの討伐にも手を貸すとみてる」


 クレイシーは人差し指を立てながら、俺に片目を瞑ってみせた。


「つまり、貴族に顔を覚えて貰えるかもしれねぇんだ。そこから、稼げる仕事を貰えるかもしれねぇだろ。つまりあれだ。損して得取れってやつだ」


 なんか、前世の世界にも同じ言葉があった気がするけど……まあ、そういう皮算用があるなら、それでもいいか。
 俺が所持しているもう一台の馬車には、ユタさんがいる。その隣にいるのは、騎馬に跨がったフレディだ。オーランは、ユタさんの馬車で大人しくしている。なにかあれば、すぐにフレディが飛び込むことになっている。
 オーランはともかく、ユタさんとフレディの二人は、爺さんからの紹介だから――という理由で残ってくれた。まあ、この二人がいてくれると、なにかと助かることが多いから、素直に助かるんだけど。
 俺は厨房馬車の御者台に乗ると、手綱を手にした。


「出発!」


 隊商のときと同じ言い方で、俺はみんなに号令を出した。
 昼下がりの中、三台の馬車と二頭の騎馬はゆっくりと、港町であるホウを出た。

--------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

さて、隊商が解散となりました。商売よりも国の危機……という感じですね。商売の基盤となった体勢が崩れるのは、商売するにも辛いですし。
それ以外にも、知り合ったミロス公爵やクラネスの祖父母などが被害に遭う可能性がある……となれば、チャーンチ対策が優先。

まあ、タイトル的にも隊商じゃなくても問題はないので……(汗

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。 凛人はその命令を、拒否する。 不死であっても無敵ではない。 戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。 それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

処理中です...