【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
29 / 32

29・敵に回して怖いのは

しおりを挟む
 颯爽と現れたジェイルにリセが声を返す間もなく、魔術の詠唱が左右から紡がれる。

 護衛の二人は優秀な魔術師の証拠として素早く、絶妙に合わせたタイミングだった。

 彼らからほぼ同時に、ごうと燃えさかる火炎の息吹が上がると、二方向から渦巻く灼熱がジェイルに迫る。

 しかし当人は動じる様子もなく、リセへの歩みを緩めなかった。

 紅蓮の渦はジェイルへ届くことなく、じゅうと音を立て霧散する。

 紛れもなく高度な術が蹂躙されると、国内でも指折りの魔術師たちは信じられない光景に顔を歪めた。

「身振りすらなく打ち消しただと!?」

「常識外れだ……ありえない」

 消し潰された炎の渦の威力で強風が巻き起こり、ジェイルのかぶっていたフードがめくれる。

 目を見張るほどの美貌があらわになり、護衛の魔術師たちは驚愕した。

「まさか……!」

「俺のことを知ってるのか? それなら動かない方が良いのも知ってるな? 色ボケ王子の命が最優先なら特に」

 護衛たちは相手との力量差を全身で理解し、身じろぐことすらできずにジェイルの動向をうかがう。

 ジェイルは騒がれ慣れているのか、全く動じることなくリセのそばまで来てその頭を抱いた。

「あのな。どうして黙って遊びに行くんだ? 変な奴に絡まれないように、俺を置いて出歩くなよ」

 ジェイルの感触と言葉に、リセはそれまでの緊張で強張っていた心細さがほぐれていく。

「ごめんなさい。少し話をする約束をしていたの。だけど私が出かけることを聞いたら、ジェイルは護衛するって譲ってくれないと思って……。外に出て、また人に見られてしまったらきっと困るのに」

「無理する癖、また出てるぞ。少しは頼れよ。危なっかしいと、ああいうのに目を付けられる」

 ジェイルが視線を向けた先には、先ほど白い閃光で弾かれたサヴァードが地面に座り込んでいた。

「本当に……ジェイルなのか?」

 以前護衛に付けていたこともあり、ジェイルの規格外の強さを良く知っているサヴァードの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。

「だけどお前、ずっと行方をくらませていたはず……」

「ああ。お前らの顔を見るのが嫌だからな。でも気が変わった」

 ぞくりとさせる声色だった。

 サヴァードが恐怖で目を見開くと、ジェイルは冷酷に美しい眼差しを向けた。

「お前もリセのことを心配してくれているみたいだけど、俺が護衛すれば安心だろ? ほら」

 言葉と同時に、サヴァードと彼の護衛たち、それぞれの足元に人より大きな黒い球体の結界が浮かび上がる。

 結界の丸い表面には細かな古代文字がぎっしりと書きこまれていて、気づいたときには三人とも、その中にすっぽりと囚われていた。

 三人は状況に気づくと、古の術から脱出しようと魔術や身体を使ったが、むなしいほど何も起こらない。

「どうだ? 古代でも禁断とされる亜空間の拘束魔術、珍しいだろ」

 淡々としたジェイルの言葉に、サヴァードは蒼白な顔を歪めて叫んだ。

「やめろ、一体何をする気だ!」

「不吉なことは聞かないほうが良くないか?」

「……ジェイル、冷静になれ。王族の僕を葬るのは国を敵に回すことだぞ! その意味の恐ろしさ、僕の護衛をしたこともあるお前ならわかるはずだ!」

「そういうの、本当にくだらないよな。俺、お前みたいな奴に邪魔な国を亡ぼしてくれないかって、あちこちから頼まれるんだよ。敵に回して怖いのは国か? 国を亡ぼせる俺か? お前はどっちだと思う?」

「ジェイル……」

 リセが不安そうに見上げると、ジェイルの冷たい眼差しは溶かされたように柔らかくなる。

「そんな顔するな。俺に任せてくれるだろ?」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

処理中です...