【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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5 天使なんですけど!?

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   ◇

 最寄りの教会で離縁申請書を提出し、受理の知らせを待つ。
 それから馬車で、に招待された迎賓城に向かう。

 清々しい青空の中、私はのんびりと街のカフェテラスで紅茶を楽しんでいた。

 若い女性客が二人、近くの席に腰を下ろす。
 赤髪を隠すためのつば広帽子をかぶっていたので、私のことは気に留めていない。

「ねぇ聞いた? この間の馬車事故で亡くなった女性、聖女様だったらしいのよ」

 私は思わず、紅茶を飲み込んだ。

(ちょっと待って。それって『スミレに誓う禁断の愛』の、ラストのその後?)

 小説の終盤では、帝都が凶獣に襲われて大聖堂が崩落。
 間一髪で脱出したステラが、恋人と馬車の中でいちゃつきながら幕を閉じていた。

(車体の軋む音で終わったあの描写……まさかの馬車事故オチ!?)

「でも、聖女様が馬車に乗るなんて不自然じゃない? 本来なら大聖堂で守られてるはずでしょ」

「療養中なら、特別な許可が下りるんですって」

 その仕組みを悪用して、ラウルドはステラを極秘で出産させたのよね。

 でも噂が「大聖堂の崩落」じゃなくて「馬車事故」ってことは、帝都は無事なんだろう。
 
 ステラは不義の子の存在がバレかけて、その断罪から逃げようとしたけど、結局は事故で亡くなった。
 でも、彼女に捨てられた子は……静かに暮らしているのだろう。
 あの孤児院なら、きっと大丈夫。

 街の時計台が鳴る。
 私は離縁の受諾確認のために教会へ向かい、そこで身に覚えのない事実を突きつけられた。

   ◇

(私が……継母!?)

 ラウルドは勝手にステラの隠し子を養子にし、私の署名まで偽造していた。
 都合の悪い事実が露見したとき、性悪の妻が子を誘拐したように見せかけて、自分の罪をなすりつけるつもりだったのだ。

(離縁しておいて大正解すぎるわ)

 なにせ『スミレに誓う禁断の愛』の中で、アルージュは夫の命令に従い、凶獣に襲われて死ぬ運命なのだから。

 確か、あの展開は……

 アルージュが嫉妬して、ステラの隠し子を虐待。
 その子が魔力暴走を起こし、異界から凶獣を呼び出す。
 結果、アルージュは凶獣に襲われて自滅、帝都も壊滅。

 ――そうよ私! 物語では最悪の事態を引き起こす悪役だった!!

 って、ちょっと落ち着け私……!

 今の私は、前世の記憶を取り戻している。
 虐待なんて、ありえない。

 どちらにせよ、申請を無効にするには孤児院に行くしかない。

(期限は明日まで……こうしてはいられないわ!)

 私は紅茶代を置き、スカートを翻して馬車停留所へ駆け出した。

   ◇

 山の麓に佇む孤児院が見えてきた。
 外では子供たちが走り回り、笑い声が響いている。

 ここは私がかつて暮らし、養父と出会った場所だ。

「ラウルド様から『ご内密に』と承っております。エトワールを引き取ってくださる……ええと」

「お久しぶりです、院長。以前お世話になった、アルージュです」

 帽子を取ると、赤い髪が現れる。
 院長は目を丸くしたあと、懐かしそうに笑う。

「……アルージュ!? いやぁ、気付かなかったよ。その髪、ずいぶんと……」

「安心してください。魔力を奪ったりしませんよ。真っ赤ですけど」

「ははっ、私も見ての通り真っ白髪、似たようなもんだな。せっかく来たんだ。ゆっくりしていきなさい」

「ありがとうございます。ところで――」

「いんちょー、たいへんだ! かくれんぼしてたら、エトがいなくなったー!」

(……えっ!?)

 孤児院の大人たちと手分けして、山中を捜すことになった。
 もし迷い込んだら、帰ってこれなくなるかもしれない。

 私は悪喰の感覚を研ぎ澄まし、かすかな魔力の流れを追う。
 しかし、小川のあたりで気配が途切れてしまった。

「エトくーん!」

 呼びかけても返事はない。
 まさか、魔力暴走で凶獣を呼び出している……なんてこと、ないわよね?

 背筋がぞくりとしたそのとき。背後の茂みで何かが蠢いた。

 ガサガササッ

「ヒッ」

 振り返ると、木々の合間に立っていたのは凶獣ではなく――幼い男の子だった。
 三歳ほどの、紫の髪。

 ……間違いない。
 私が取り上げた、ステラの赤子と同じ色。

 魔力暴走すれば、帝都を壊滅させる力を持つその子は――

(天使なんですけど!?)

 ふっくらとした、赤いほっぺ。
 私をじっと見つめる、潤んだ紫の瞳。
 すこし困ったように首を傾げる姿も、なんてかわいい……!

 ……って、見惚れている場合じゃない!

「エトくん?」

 名前を呼ぶと、こくりと頷く。

「……あい」

 よかった、無事だ。

 私は驚かせないようにしゃがみ込み、目線を合わせる。
 つぶらなスミレ色の瞳がパチパチと瞬き、不思議そうに見つめ返してくる。

「帰り道がわからなくなっていたの?」

 ふくふくのほっぺが、恥ずかしそうに赤くなる。
 きっと心細かったのだろう。

「もう大丈夫よ。一緒に帰りましょう」

 エトワールはこくりとうなずき、「あっ」と小さく叫んで、両手で口を抑えた。

「おねえしゃん……いつものおじちゃんの、おともだち?」

「いつもの、おじちゃん?」

「あい。エト、いつものおじちゃんと、やくそくちたの。おむかえしゃんが、エトおむかえしゅるって」

『いつものおじちゃん』って……ラウルドのことよね。
 自分の不正を隠すため、この子を孤児院に預けた後も、コソコソ様子を見に来ていたのだろう。

「おねぇしゃん、エトのおむかえしゃん、ちたの?」

 言葉が詰まった。
 継母なんて、できるはずがないと思っていた。
 でもこの子は、私を待っていたのだ。

 そして、本当は私だって。
 五年間ずっと、願っていた。

 恐る恐る、手を差し出す。

「……一緒に、来てくれる?」

「あいっ!!」

 エトワールは満面の笑顔で駆け寄り、胸に飛び込んできた。
 その小さな腕は、驚くほどしっかりと私を抱きしめた。

   ◇

 院長に事情を話し、彼の立会いでラウルドの偽造を無効化する。
 もちろん、その不正も聖騎士団に報告する。

 こうして正式な里親書に署名し、私はエトワールを養子として迎えた。

 手を繋いで馬車に乗り、向かう先は隣国の王太子夫妻が滞在する、豪華絢爛な迎賓城。

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