8 / 38
2・1 王妃からの信頼
***
先日エルーシャに届いた手紙は、王妃からのものだった。
返書した翌日、エルーシャは子どもの世話が得意な12歳の侍女を伴い、離宮を訪問する。
案内された中庭にはお茶の用意がされていた。
静養中とされる王妃は艶やかな銀髪をひとつにまとめ、ゆったりとしたドレスで迎えてくれる。
そして「ふたりで気兼ねなく楽しみましょう」とメイドや侍女をさげた。
ひだまりで過ごすティータイムは優雅なひとときにしか見えない。
エルーシャがロイエを追い返した、あの顛末を説明する会話を聞かなければだが。
「ロイエがそこまでアホ……いえ、愚かだったとは。私の許可を装った偽の面会状を作るなんて」
王妃は公式の場では決してしない多大なため息をつき、心から呆れたように額を手に当てた。
「エルーシャ、あなたが上手く切り抜けてくれたこと、そして速やかに申し出てくれたことに感謝します。ロイエは無能……いえ、不備が多かったため偽証未遂となりましたが、その行為は王家としても看過できません」
王妃はロイエに厳重注意を告げること、そして金銭的な処罰や、エルーシャの住むジュファティー領への立ち入りを禁じると約束した。
そして『見張りの豪鬼』と恐れられる屈強なダンディを監視にあてるようで、ひとまずは安心する。
「アライダ王妃殿下、ありがとうございます」
「当然よ。エルーシャのためだもの」
王妃が王子を身ごもったときのこと。
彼女は重度の魔病を起こして命を落としかけたが、エルーシャの治癒により一命をとりとめた。
しかし悪い噂は無責任に広まる。
王妃は魔病の後遺症に悩まされながら、悪質な誹謗中傷を受けた。
「心身が不安定だった私を、エルーシャは何度も励ましてくれたわね。『王妃殿下とお腹の御子は魔力量が多くて魔力が絡まりやすいだけですから、心配はいりません』って。私が孤独にのみ込まれそうになるたび、まだ見たことのない息子の存在を思いだせたのはあなたのおかげよ」
「こちらこそ光栄なひとときでした。でもつらいときは王妃殿下の素敵なご主人様に支えてもらうこと、忘れないでくださいね」
(王妃殿下へのわずらわしい誹謗中傷の元は、彼女が知らない内に国王陛下が綺麗に掃除してくれたのよね)
王妃に勧められ、エルーシャは色とりどりの菓子と紅茶を楽しむ。
心をくすぐる甘い香りと上品な味をしばし満喫した。
「それでエルーシャ、頼んでいたものは進んでいる?」
「はい、持参しました」
「もうできたの!? すごいわ、さっそく見せてほし――」
王妃の声に反応するように、猫の鳴き声がした。
見ると花の咲き誇る中庭で、銀色の子猫が蝶とじゃれあっている。
王妃は席を立つと、その子猫を愛おしげに抱き上げた。
子猫は片手に収まりそうなほど小さい。
エルーシャはカップを置くと、子猫を驚かせないように静かに歩み寄った。
「アライダ殿下がお手紙でほのめかしたのは、その子についてですね」
「相変わらず察しがいいのね。見ただけでわかるの?」
「私はそうですね。その子猫の持つ魔力から、制御しきれていない違和感が伝わってきます」
王妃から笑顔が消えた。
「エルーシャ、あなたの『魔力浄化』でこの子を助けてほしいの」
「お任せください」
エルーシャは王妃から子猫を預かる。
それから意識を集中して、乱れた魔力の流れを誘導した。
子猫はエルーシャの腕の中で光を放ちながら、本来の姿を取り戻していく。
先日エルーシャに届いた手紙は、王妃からのものだった。
返書した翌日、エルーシャは子どもの世話が得意な12歳の侍女を伴い、離宮を訪問する。
案内された中庭にはお茶の用意がされていた。
静養中とされる王妃は艶やかな銀髪をひとつにまとめ、ゆったりとしたドレスで迎えてくれる。
そして「ふたりで気兼ねなく楽しみましょう」とメイドや侍女をさげた。
ひだまりで過ごすティータイムは優雅なひとときにしか見えない。
エルーシャがロイエを追い返した、あの顛末を説明する会話を聞かなければだが。
「ロイエがそこまでアホ……いえ、愚かだったとは。私の許可を装った偽の面会状を作るなんて」
王妃は公式の場では決してしない多大なため息をつき、心から呆れたように額を手に当てた。
「エルーシャ、あなたが上手く切り抜けてくれたこと、そして速やかに申し出てくれたことに感謝します。ロイエは無能……いえ、不備が多かったため偽証未遂となりましたが、その行為は王家としても看過できません」
王妃はロイエに厳重注意を告げること、そして金銭的な処罰や、エルーシャの住むジュファティー領への立ち入りを禁じると約束した。
そして『見張りの豪鬼』と恐れられる屈強なダンディを監視にあてるようで、ひとまずは安心する。
「アライダ王妃殿下、ありがとうございます」
「当然よ。エルーシャのためだもの」
王妃が王子を身ごもったときのこと。
彼女は重度の魔病を起こして命を落としかけたが、エルーシャの治癒により一命をとりとめた。
しかし悪い噂は無責任に広まる。
王妃は魔病の後遺症に悩まされながら、悪質な誹謗中傷を受けた。
「心身が不安定だった私を、エルーシャは何度も励ましてくれたわね。『王妃殿下とお腹の御子は魔力量が多くて魔力が絡まりやすいだけですから、心配はいりません』って。私が孤独にのみ込まれそうになるたび、まだ見たことのない息子の存在を思いだせたのはあなたのおかげよ」
「こちらこそ光栄なひとときでした。でもつらいときは王妃殿下の素敵なご主人様に支えてもらうこと、忘れないでくださいね」
(王妃殿下へのわずらわしい誹謗中傷の元は、彼女が知らない内に国王陛下が綺麗に掃除してくれたのよね)
王妃に勧められ、エルーシャは色とりどりの菓子と紅茶を楽しむ。
心をくすぐる甘い香りと上品な味をしばし満喫した。
「それでエルーシャ、頼んでいたものは進んでいる?」
「はい、持参しました」
「もうできたの!? すごいわ、さっそく見せてほし――」
王妃の声に反応するように、猫の鳴き声がした。
見ると花の咲き誇る中庭で、銀色の子猫が蝶とじゃれあっている。
王妃は席を立つと、その子猫を愛おしげに抱き上げた。
子猫は片手に収まりそうなほど小さい。
エルーシャはカップを置くと、子猫を驚かせないように静かに歩み寄った。
「アライダ殿下がお手紙でほのめかしたのは、その子についてですね」
「相変わらず察しがいいのね。見ただけでわかるの?」
「私はそうですね。その子猫の持つ魔力から、制御しきれていない違和感が伝わってきます」
王妃から笑顔が消えた。
「エルーシャ、あなたの『魔力浄化』でこの子を助けてほしいの」
「お任せください」
エルーシャは王妃から子猫を預かる。
それから意識を集中して、乱れた魔力の流れを誘導した。
子猫はエルーシャの腕の中で光を放ちながら、本来の姿を取り戻していく。
あなたにおすすめの小説
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
『教育係など誰でもできる』と私を捨てた婚約者だけが、誰にも教わらなかった
歩人
ファンタジー
頭上に才能値が見える加護を持つ伯爵令嬢セシリアは、貴族子弟の家庭教師として十年を捧げた。
「教育係など誰でもできる」——婚約者の侯爵嫡男に捨てられた翌年、異変が起きる。
宰相の息子が「セシリア先生のおかげです」と宣言し、騎士団長の娘が「戦術は先生から」と語り、
第三王子が即位演説で頭を下げた。王国の未来を作った女性が名もなき家庭教師として捨てられていたと
知ったとき——教えを拒んだたった一人の男だけが、取り残された。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
追放されたお茶係の令嬢ですが、辺境で開いた茶館が『本音で話せる唯一の場所』として大繁盛しています
歩人
ファンタジー
「お茶を淹れるだけの令嬢に、婚約者の資格はない」——宮廷お茶会の筆頭給仕だった伯爵令嬢ユーフィリア
は追放された。翌月から宮廷は混乱する。約束は破られ、密約は露見し、外交は紛糾する。
実はユーフィリアのお茶には「真実の一煎」の加護が宿っていた。一煎目で本音がこぼれ、二煎目で嘘が
苦しくなり、三煎目で心の底が溢れ出す。辺境で開いた茶館「一煎堂」は「ここで話すと夫婦喧嘩が
解決する」と評判に。そして最後のお茶会で、三煎目が全てを暴く——。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?