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2・3 敵に回してはいけない人
エルーシャと王妃は再びお茶を再開した。
「私が改良したあの魔力測定石を、展覧会に推薦してもらえませんか?」
この国では年一度、王宮主催の展覧会が開かれる。
選ばれるのは王国で品質が認められた物だけだった。
「展覧会に出品できれば、この魔力測定石の信憑性が約束されます」
エルーシャの説明に、王妃も納得した様子で相槌を打つ。
「そうすればディートハルトの変化が魔病や黒魔術ではなく、彼の天恵の才能だと証明できるわね」
無責任な噂が流れても一蹴できる。
しかし展覧会へ出せる品質だと確認するためには、さまざまな精査をしなければならない。
時間は少々かかるはずだ。
「今年の展覧会の開催は、もうひと月を切っていますが……」
「間に合わせるわ。ランドルフにもお願いしてみましょう」
王妃は夫の名を口にすると、頬を赤く染めて微笑んだ。
「彼は知っての通り、とてもやさしいの。民と子どものためなら、どんなことだって笑顔でこなしてくれるはずよ」
「……そうですね」
王妃は魔病で苦しんだとき、彼女を誹謗中傷した者の末路について知らない。
(国王陛下を敵に回してはいけないわね、うん)
エルーシャは心を新たにした。
(アライダ殿下に頼めたし、魔力測定石の展覧会への出品は間に合いそうね)
「ディートハルト殿下の天恵について、今は伏せておきましょう。この魔力測定石が展覧会に出品されれば、無用な噂を心配せず公表することができます」
「そうね。でもこれからはディートハルトが変化しても、私が不安になることもないわ。エルーシャのおかげよ。本当にありがとう」
「私の方こそ、銀猫なディートハルト殿下をだっこできるなんて、最高の体験でした」
中庭の隅から、かわいい子どもの声が聞こえてくる。
王子は自分より10歳年上のエルーシャの侍女に気づき、なにか熱心に話しかけていた。
その姿が微笑ましい。
「私の侍女に、ディートハルト殿下の相手をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あら、いいの? あの子、大人ではないお姉さんと接する機会がまったくないの。喜ぶわ」
エルーシャはそのことを侍女に伝える。
子どもたちは仲良く散策をはじめた。
王子は普段より張り切った様子で、侍女に自慢の中庭を紹介している。
王妃は紅茶を楽しみながら、息子の姿に目を細めた。
「ふふ、ディートハルトがいつもよりお兄さんっぽく振る舞っているわ」
王妃はしばらく子どもたちを見つめていたが、やがて向かいに座るエルーシャへと目を向ける。
「どうやら噂以上だったようね」
彼女の眼差しには、尊敬と感謝がこめられていた。
「エルーシャの育てる孤児たちは、子どもだと侮れない優秀な使用人だと聞いているわ。あの侍女は振る舞いだけではなくて、子どものお世話まで上手だもの」
「はい、彼女は子どものお世話が得意です。でもメイド仕事全般、料理人、庭師まで一通りこなしてくれます」
王妃は驚いたように目を丸くする。
それから気づかわしげにたずねた。
「エルーシャが輿入れに連れていくのはあの侍女ではなくて、ティアナという名よね? 先日あなたから、そのティアナを夜会に招待してほしいと頼まれたけれど……。ロイエと彼女はその、変な噂になっているようね」
エルーシャは先日、ロイエがティアナの肩を抱いて浮気宣言してきたことを、他人事のように思い出す。
(そうだった。ロイエはまだ私の婚約者なのよね)
エルーシャは先日の夜会で起こった、ロイエの恥ずかしい振る舞いを謝ろうとする。
しかし王妃が先に切り出したのは、エルーシャが思いもしない言葉だった。
「それでね、エルーシャはロイエの代わりに別の婚約者を選ぶなら、誰がいいかしら?」
「私が改良したあの魔力測定石を、展覧会に推薦してもらえませんか?」
この国では年一度、王宮主催の展覧会が開かれる。
選ばれるのは王国で品質が認められた物だけだった。
「展覧会に出品できれば、この魔力測定石の信憑性が約束されます」
エルーシャの説明に、王妃も納得した様子で相槌を打つ。
「そうすればディートハルトの変化が魔病や黒魔術ではなく、彼の天恵の才能だと証明できるわね」
無責任な噂が流れても一蹴できる。
しかし展覧会へ出せる品質だと確認するためには、さまざまな精査をしなければならない。
時間は少々かかるはずだ。
「今年の展覧会の開催は、もうひと月を切っていますが……」
「間に合わせるわ。ランドルフにもお願いしてみましょう」
王妃は夫の名を口にすると、頬を赤く染めて微笑んだ。
「彼は知っての通り、とてもやさしいの。民と子どものためなら、どんなことだって笑顔でこなしてくれるはずよ」
「……そうですね」
王妃は魔病で苦しんだとき、彼女を誹謗中傷した者の末路について知らない。
(国王陛下を敵に回してはいけないわね、うん)
エルーシャは心を新たにした。
(アライダ殿下に頼めたし、魔力測定石の展覧会への出品は間に合いそうね)
「ディートハルト殿下の天恵について、今は伏せておきましょう。この魔力測定石が展覧会に出品されれば、無用な噂を心配せず公表することができます」
「そうね。でもこれからはディートハルトが変化しても、私が不安になることもないわ。エルーシャのおかげよ。本当にありがとう」
「私の方こそ、銀猫なディートハルト殿下をだっこできるなんて、最高の体験でした」
中庭の隅から、かわいい子どもの声が聞こえてくる。
王子は自分より10歳年上のエルーシャの侍女に気づき、なにか熱心に話しかけていた。
その姿が微笑ましい。
「私の侍女に、ディートハルト殿下の相手をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あら、いいの? あの子、大人ではないお姉さんと接する機会がまったくないの。喜ぶわ」
エルーシャはそのことを侍女に伝える。
子どもたちは仲良く散策をはじめた。
王子は普段より張り切った様子で、侍女に自慢の中庭を紹介している。
王妃は紅茶を楽しみながら、息子の姿に目を細めた。
「ふふ、ディートハルトがいつもよりお兄さんっぽく振る舞っているわ」
王妃はしばらく子どもたちを見つめていたが、やがて向かいに座るエルーシャへと目を向ける。
「どうやら噂以上だったようね」
彼女の眼差しには、尊敬と感謝がこめられていた。
「エルーシャの育てる孤児たちは、子どもだと侮れない優秀な使用人だと聞いているわ。あの侍女は振る舞いだけではなくて、子どものお世話まで上手だもの」
「はい、彼女は子どものお世話が得意です。でもメイド仕事全般、料理人、庭師まで一通りこなしてくれます」
王妃は驚いたように目を丸くする。
それから気づかわしげにたずねた。
「エルーシャが輿入れに連れていくのはあの侍女ではなくて、ティアナという名よね? 先日あなたから、そのティアナを夜会に招待してほしいと頼まれたけれど……。ロイエと彼女はその、変な噂になっているようね」
エルーシャは先日、ロイエがティアナの肩を抱いて浮気宣言してきたことを、他人事のように思い出す。
(そうだった。ロイエはまだ私の婚約者なのよね)
エルーシャは先日の夜会で起こった、ロイエの恥ずかしい振る舞いを謝ろうとする。
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