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前編

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「おはよう佐藤ちゃん。あれ? 田中くんは?」



「鈴木さんおはよう。あいつは、知らないわ。いつもみたいに家に迎えに行ったらいなかったもの。全く……どこほっつき歩いてるのよ。少しは連絡の一つも欲しいくらいなんだけど」



 プンスカと彼女に愚痴る。



 彼女はそんな私のことを見て、



「へぇー、そうなの。お熱いわね」



 にやにやしながら言った。



「ちょ、なんでそうなるのよ」



「いつもみたいに……ねぇ。それってもう彼氏彼女の関係じゃないの?」



「ち、違うわよ。ただの幼馴染ってだけだから。勘違いしないでよね」



 すると彼女が、



「へえ~。じゃあ、私がもらっちゃおうかな~」



 とさらににやついた顔で返してきた。



「ちょ、冗談きついよ」



 心がチクリとする



「あら? 私は本気だよ」



「っ……それも、どうせいつもの嘘なんでしょ」



 彼女は少し悩んで、指を鳴らしながら、



「正解。さすがはわが幼馴染。じゃあ先に教室行ってるよ」



 そういって、早々と立ち去って行った。



 ……嘘か……。彼女は……鈴木は嘘つきだ。ほんと、誰にだって平気で嘘を付く。出会ったときから、昔からそうだ。



 でも……、



 でも、あの時の目はとてもそうには見えなかった。



 心にモヤモヤを違和感を感じながらも、私は教室に向かおうとた。すると、



「あんた」



「ん? おう、左藤か。おはようさんって、そんな暗い顔してどうしたんだ? 風邪か?」



 さっき鈴木が来たところから、田中が現れた。







「さっきから黙っているけど、何かあったのか? 。風邪とからなら今から、



「あんたには関係ない。ほっといてよ」



「関係ないけど。でも、幼馴染だろ。相談くらいは



「関係ないって言ってるじゃん。だいたい、私に連絡も入れないでどこほっつき歩いてるのよ。心配したじゃない」



「? あっ!!! 、連絡するの忘れた。すまん。今日、先生に手伝い頼まれてさ、言うの忘れてた」



「そ、そう。ならよかったけど。でも、今後はちゃんと連絡入れなさいよね」



「おう」



 ……



「じゃあ、自分の教室に行くから。また放課後」



「おう。あ、あと、体調が悪いなら保健室行けよ」



「もう、別にそんなんじゃないんだってば」



 そういって私は教室に向かった。



 ……いないよね。



「はあ~」



 ……まただ。



 またやってしまった。



 ここ最近、私はいつものこうだ。彼に強く当たってしまう。



 溜息まじりに、とほほと歩いていく。



 さっきも、お門違いとは言え彼はただ、私のことを心配してくれただけなのに、



 それなのに



「もうちょっと素直になれたらなあ」



 廊下で一人むなしくつぶやく私であった。







 放課後になった。



「じゃあ、私は先生に用事があるから」



「わかった。じゃあまた明日ね」



「そっちも、彼に言いたいことはちゃんと言うんだよ。72時間の法則って言葉もあるくらいだからね」



「72……何それ? ていうかそれどういうこと?」



「72時間以内に行動を起こさないと、一生しないって感じの言葉だね。



 早く自分の思いを伝えなきゃ、いつの間にか取られちゃうよ。誰かにね」



 ウィンクして、こっちを見る



「もう、からかうのはやめてよ」



「あら? こっちとしては結構真面目な、本気のアドバイスなんだけど」



 キョトンとした顔でこっちを見る。



「だいたい、思いを伝えるって誰に伝えればいいのよ。皆目見当もつかない「まあ、嘘なんだけど」



 イラッ(#^ω^)



「あんたねええええええええええええ」



 立ち上がって追いかける



「キャッ、怖ぁい。佐藤さん怒ったあ」



「アンタがいけないんだろうがああああああああああああああ」



「ふふっ、じゃあね」



「おま、ちょ、ま」



 どーんと勢いよくドアにぶつかってしまった。



 顔ぶつけた。



「っててえ~」



 あいつ、ドアを直前で閉めやがった。



「あいつ絶対許さん。明日覚えてろ~」



 ……はあ……



 ……早く合流して帰るか。



 そう思った私は、彼がいつも待っている待ち合わせ場所に駆け足で向かった。



 向かおうとした。



 この声……あいつの声じゃん。



 2組……彼の教室からだ。



 でもまた、なんで? 



 わけがわからなかった。



「てか、遅れるなら連絡のひとことよこしなさいよ」



 あいつ朝から何も学んでねえ。



 ……まあ、私も人のこと言えないけど。



 もう一人の声? 



 女の声? 



 聞いたことのあるというかさっき、



 この声……鈴木!? 



 ……気になる。



「まあ、ちょっとくらいは聞き耳立ててもいいよね」



 そういって私はドアに耳を当てようとした。でも、それも必要ないくらいの声で、



「田中君、好きです。付き合ってください」



 ────────────────────ー



 え? 



 どういうこと? 



 好きって、



 あいつのことが好きって、



【「早く自分の思いを伝えなきゃ、いつの間にか取られちゃうよ」】



 ふと、さっき彼女が言った言葉を思い出す。



 え? でも、そういう、わけじゃ。



 それに、あいつも、



「いいぜ。わかった」



「っ」



 走り出した。



 そこから逃げ出すように。



 走った



 走った



 走った



 走った



 走った……



 どこかわからない知らない所にまで走った。



 そんな時スマホから通知音が鳴る。



 彼女だ。彼女からのラインが来た。



『私たち付き合うことになったから』



 ご丁寧に画像付きだ。



 ああ、くそ。



「せっかく現実逃避したのに」



 その日私は、



「最悪だ」



 失恋した。
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