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第一章

冒険者パーティ

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村から早馬を出してちょうど一週間後、依頼を受けた冒険者パーティがやって来た。

「ぼくらAクラスパーティが来た以上、この村はもう大丈夫です。
皆さん安心していいですよ。」

イライザは、たった5人の冒険者が来たからといって、そんな簡単に、状況が変わるとは思えなかった。

しかし、彼らの活躍はイライザの予想に反して凄まじかった。

村を取り囲むたくさんのゴブリンの中に、彼らは討って出たのだ。
自殺行為かと思えた。

しかし彼らの魔法であっという間に、ゴブリンは半分以下になった。
剣士が駈け抜けて行くと、まるでドミノ倒しのようにゴブリンが倒れて行く。

ひときわ体の大きなゴブリンは身体に防具を着けていたが、剣士に防具ごと斬り伏せられた。

魔法使いは、結界を作り一匹も逃さない構えだ。

一方的に、ゴブリンは狩られて、やがて静かになった。

「それでは、僕たちは、コイツラの巣を探しに行きます」

そう言い残して、森の中へと入って行った。

こんなに圧倒的な力があるんだ。
イライザは驚きとともに、彼らを尊敬した。

次の日になって彼らは村に戻って来た。

「残念ですが、連れ去られた女性はみな亡くなっていました。
とてもお見せできるものではなかったので、巣穴ごと埋めて来ました。」

「この度は、皆さんのご活躍で村が救われました。
依頼料とは別にこれは感謝の印です。
どうぞお納めください。
そして、今夜は祝いの宴をご用意させていただきますので、どうぞお楽しみ下さい。」

「それは、ありがたい。
遠慮なくいただきます。
それと、宴をひらくなら、ぼくらからもオーク肉3頭分を差し入れましょう。」

「太っ腹な!楽しい宴としましょう」

イライザは、もう尊敬というより憧れをもって冒険者たちを見ていた。

魔法使いの女性のそばに行って、色んな話を聞いた。
これまで旅してきた村や町の話、駆け出しの頃苦労した話、このパーティ結成のいわれなど。
イライザは、むねを躍らせて彼女の話を聞いた。

宴が終る頃にはイライザは

「わたしも冒険者になる!」と言い出していた。







「イライザさん、私たちの馬車はもう定員いっぱいなの。連れて行ってあげたいけど、ごめんなさいね。
町へ出るのはまた別の機会にね」

「大丈夫です。わたしは走って行きます」

「走って?そんなの無理よ。やめなさい。」

「私 足には自信が有ります。三日三晩休まず走れます。本当です。」

「そうなの?それはあなたのスキル?」

「多分、スキルだと思います」

「途中でへばったら、そのまま置いていくわよ」

「構いません」

「強情ね」

「ハハハ、昔のヒラリーと同じだな。こりゃ言っても聞かないな」

「なんでそこにわたしを引き合いに出すのよ!」

「まあ、特別急いで帰らないといけない訳じゃなし、付き合ってあげようよ。
どうせ1日走ればへばって帰るだろ
もし走り通せたら、ショートソードをプレゼントするよ」

少々不満そうなヒラリーさんも許してくれたので、イライザは、冒険者パーティに走ってついて行くことになった。

走り出してみると、イライザは余裕で馬車についてきた。
街道沿いある薬草や花を摘んでみたり、少し馬車から離れて果物を採ってきたりして、馬車が停まるとやって来た。

「馬車について来れるのは、本当だったのね。驚いたわ。
本気で冒険者になるつもり?
わたしが焚き付けちゃったのかな?
楽しいことばかり話したせいかな?
本当は大変よ。こんなはずじゃなかったって思う時がくるわ」


「大丈夫です。
駄目だと自分で思ったら、その時はキッパリ諦めます」


「そう それならいいんだけれど……
イライザは好きな人とかいないの?」

「わたしは………」

「ごめんね、言わなくて言いわ。
わたしの好きだった人は、死んじゃった。
髪は茶色で目はブルー、背も高くて優しくてハンサムだったのよ。
あの頃今の力があれば、彼を死なせはしなかったのにね。
それからはわたし、好きな人は作らないことにしてるのよ。
辛いのは、もう嫌なのよ」

「ヒラリーさん
ありがとうございます。
私のこと心配して、辛かった話までしてくれたんですね。」

「ハハハ 気の使い過ぎよ、さぁまだまだ先は長いわよ」






「よく走り通したね。
君はいい冒険者になれるよ。ぼくからの約束のプレゼントだよ」

パーティリーダーのマーチンがショートソードを目の前にだしてくれた。
ショートソードは柄に宝石が埋め込まれ、刀身は青白い光を放っていた。

「こんな、こんな凄いものいただけません。できれは、もっと普通の鉄の剣とか…」

「遠慮しないでくれよ、ぼくの見立てでは君はきっと強くなる。
そしたらぼくは、自慢するのさ、彼女の持ってる剣はぼくがプレゼントしたんだぞ ってね」

「イライザ、もらっときなさい。でもマーチンには気を付けてね『女たらし』だから」

「おいおい ヒラリー、それはないよ。ぼくは真面目な恋多き男だよ。」

「おかげで、出入り禁止の店や宿はあるし、アサシンに殺されそうにもなったわよね」

ヒラリーはマーチンからショートソードを奪うように取り上げ、イライザに押し付けるように渡した。

「イライザ、次行くわよ」

ヒラリーが、わたしの手をひいた。

「マーチンさん、ありがとうございます。大事にします。
ヒラリーさん
ど 何処へ?」

「革の工房がある武器・防具の店よ。
その剣つねに持って歩くんじゃあ邪魔になるでしょ、その腰に巻いてるナイフのホルスターを加工して貰うのよ。
走っても邪魔にならないよう背中に背負うといいんじゃない?」








武器・防具の店につくと、体を採寸されて、ホルスターと剣は預けることになった。

「それから、これは私からのプレゼント」

ナイフ用の太腿に着けるホルスターだ。

「そんな、何から何までやってもらったら、申しわけないわ」

「気にしない 気にしない
私が好きでやってるんだから。
次はギルドで登録ね」

ヒラリーにまたまた手を引かれて、冒険者ギルドへとやって来た。

「おっ ヒラリーじゃねぇか。今日は娘連れかい?」

「その口閉じないと、アホ面のまま首が飛ぶよ。
この娘は私の妹分だからね。手出しするんじゃないよ。」
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