上 下
32 / 34
第三章

停戦

しおりを挟む
「あなたの奴隷にして下さい。
もう元の部隊に戻る事も許されない。ミッション失敗の上すべて白状したのでは死が待つのみ。
異国に逃れても、追手が次々と来るだろう。
私がもし生き残れるとしたら、あなたの元に居るしか無い。」

「奴隷には成らなくてもいいよ。仲間になるならね」

「取り入っておいて寝首を掻くかも知れんぞ。
あなたの首を手柄に、戻ろうとするかも知れないと思わないのか?」

「思わないよ。いつでも襲って来ていいから。」

「それでは、私にばかり都合が良すぎる。
命を繋ぐ為に、私の全てを捧げて初めて釣合いがとれるのだ。」

「恋の奴隷でいいにゃん。
面倒くさいのはいらニャいわ。
レイに抱いて貰えば、そうなるにゃ~」

「そう言えば名前を聞いて無かったな、ぼくはレイだ」

「ゴローナちゃんにゃ~」

「アンジェリカです」

「メラニー」

「私はララ、大将軍の密偵でした。レイ様にこれからは、尽くします。」

ララのことを『鑑定』で見てみると

『投網』『隠れ蓑』『短剣術』

が有るようだ。

ゴローナがララをベッドに連れて行く。
アンジェリカさんとメラニーさんに、ぼくは服を脱がされて………








その日の真夜中に大将軍の私邸にゴローナとララとの三人で向かった。

「ララのことを殺そうとする人は、大将軍以外何人いる?」

「密偵は命令が有れば全員そうです。18人です」

「大将軍一人始末したら、密偵は襲って来ない?」

「たぶん」

「それなら簡単だね。」

「警護の兵士の他に、密偵も常にガードしてるはずです。」

ララの手引きで屋敷には簡単に侵入できた。

「この廊下の先を右に曲がった奥に大将軍の部屋があり、部屋の前には、護衛の兵士が見張ってるはずです。」

「眠れ!
よし、いいよ」

「今のは?」

「眠らせる魔法を使った。」

「レイは大賢者にゃ。眠らせる位簡単なのにゃ~」

廊下を曲がると、奥の部屋の前で二人の兵士が寝ている。

ララがドアをノックする。
「ララです。ただいま戻りました。」

ドアの直ぐ向こうに二人の気配が有る。

〈ゴローナ、中の護衛に幻術かけてくれ〉

ララがドアを開けると、二人の護衛は、大将軍の前に移動した。
その時、直ぐにゴローナの幻術が彼らを捉え、二人共ボーッと放心した状態で立っている。

「ララ これはどういうことだ!
こいつらを殺しに行けと命じたはずだぞ。
連れて来いとは言ってない」

「タロはなすすべもなく自爆して果てました。
私も何もできないまま捕縛されました。
とてもかなう相手では無いと悟り、私は降伏し、レイ様の奴隷となりました。」

「な なんだと!
それで、何しにここへ来た!
まさかワシを殺しにか?」

「はい。お別れを申し上げようと参りました。
これまで、お世話になりました。」

「貴様らそんなことが………」

「眠れ!」

レイは寝ている大将軍に毒を打ち込んだ。

「この毒は心臓発作を引き起こすんだ。
護衛たちに、僕らが来たことを忘れさせておけば、大将軍は病死ってことになるから、心配無いよ」







翌日
大将軍急死の報が王宮を駆け抜けた。

レイに嫌疑をかける者も居たが、死因が心臓発作で他殺ではないと決定された。






そして停戦会議当日となった。
レイは、転移を使いアスミ、シビレン、センズイの三魔将とゴローナを伴い会議に出ている。

副将軍のカルビ伯爵が問う
「それでは、コーフーの町の消滅は、あくまでも事故と言うのか。
都合のいい詭弁では無いか?
レイ殿が行く迄、そのヒール・デ・フンデは、次の砲撃用に魔力を集めていたと言うではないか。
事故の責任者が、お咎め無しでそれまでいたと言うことはどういうことだ!」



「それには魔将のシビレンがお答えします。
その時点で、あれだけの数魔物を既に向かわせており、ヒール・デ・フンデに取り込ませないと人間の国へと溢れ出るからです。
また、ヒール・デ・フンデは魔人の中でも魔将の一人です。
魔王とその配下の八魔将は、完全に滅ぶことは有りません。
レイ殿に討たれたヒール・デ・フンデはもうすぐ復活します。
つまり、処刑しても余り意味が有りません。」

「ならばその者を封印してはどうか?」

「魔物の間引きはしなくてもいいと言う事ですか」

「そうは言ってない
魔物の間引きなど我らとて魔人に頼らずとも出来ると言ってるのだ」

「何の被害も無くそれが行なえますか?」

「そ それは………」

「この停戦は、魔人国側よりも人間国側により大きなメリットがあるはずです。
この際に一儲けを目論んでいた武器商人や武功をあげて立身出世を目指す武人は停戦を望まない事でしょう。
ですが、流さないで済む血が有るのなら、より多くの人々を悲しませない為には、停戦が最善策と私は思います。」

「停戦を持ちかけ、我々を油断させておいて、こちらの武装がゆるくなったところで、攻め込むつもりだろう」

「その必要がどこにあるのでしょうか?
コーフーの町をたった一発で消滅させたことをお忘れですか?
人間が、幾ら数で圧そうとしても無駄だと言ってるのです。
わざわざ数多くの犠牲者を出す必要がどこにありますか?魔族はその気になれば人間側の何十万の兵士を跡形もなく消滅出来るのですよ。」

「今度は、脅しか!」

「いいえ、事実を申してます。
戦いは無意味です。
沢山の命を捨てることになります。」

「では、停戦に応じるとして、コーフーの町消滅の責任はどう取るのだ。」

「我ら、アスミ、シビレン、センズイ三魔将の首でいかがでしょうか?」

「くっ そこまでか!
しかし貴様らは首を取った所で復活するのであろう」

「復活しますが、その復活したものは、今目の前にいる我々とは別の個体です。
同じ能力を備えた者が新たに生まれるんです」

「貴様らでは無く、魔王の首を差し出せと言ったらどうだ!」

「次代の魔王様が、当代の魔王様同様に平和を望む方が生まれるかどうかは、分かりません。
当代の魔王様が亡くなれば、停戦自体意味を為しません。」

「その時は、改めて戦うまでよ。我らの強さを知らしめてやる」

その時王が、すくっと立ち上がり
「副将軍カルビ伯爵、そなた魔王軍三魔将のうち一人と戦ってみよ。
どちらか勝った方の意見を取り入れる。」

「お待ち下さい王様。
魔将とタイマンでは、私に勝ち目が有りません。
我らが軍を持って攻めることで」

「黙れカルビ!この方たちは自らの首を差し出す覚悟の上で和平をに臨んでいる。
お主は、我が臣民を駒として死地に向かわせようとしている。
その上自らは、安全な所に身を置きたいとは、甚だ遺憾だ。」

そのまま会議は、王主導の元、魔王の謝罪のみで停戦とし、和平への道筋ができた。
しおりを挟む

処理中です...