魔封都市マツリダ

杏西モジコ

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黒い訪問者

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大きな掃除機を背負った青年、成瀬来太は今日も大皿に大量のおにぎりを並べてあの地下室へやってきた。
「ステビアさーんっ。おはようございます!両手塞がってるので、開けてください!」
地下の廊下に反響する彼の声。ステビアと呼ばれた銀髪の少年は眉を潜めながら言われた通りにドアを開けた。
「朝から煩い」
小さく隙間を開け、外に警戒心剥き出しといったふうなその仕草は小動物のようだ。
「あははっ。すみません、お邪魔します!」
悪びれもしない来太の表情にステビアは呆れた。以前のステビアであればそのドアを開けることは無かったのだが、ここ数日で来太に心を開いてきている。声をかければ玄関を開けてくれる様になっていた。
来太は器用に足だけで大きなブーツを脱ぎ、中に入って小さなテーブルに大皿を置くと、片手に下げていたバッグから大きな魔法瓶を取り出した。
「今日は味噌汁作ってきました」
「味噌汁か。数年ぶりだっ」
嬉しそうに頬を緩めるステビアを見て、来太もふふふ、と笑う。来太はバッグの中から自宅から持ってきたお碗を二つ取り出し、魔法瓶から熱々の味噌汁をよそった。
「熱いので気をつけてくださいね」
ステビアは来太が差し出したお碗を両手で受け取ると、湯気から香る味噌の香りにうっとりとした表情を見せる。
「凄い…懐かしい香りがする」
「どうぞ、冷めないうちに」
来太に勧められると、ステビアは「頂きます」と小さく言ってお碗に口をつけた。
「んまっ!」
「あはは。ありがとうございます。おにぎりもどうぞ」
来太はテーブルに置いた大皿のラップを開けた。以前は塩むすびを作ったが、今日は焼鮭に梅、おかかの三種類を使ったようだった。
「あの、前から聞こうと思っていたんですけど」
「ん、なんだ?」
ステビアは頬に米粒を数個つけながらおにぎりを頬張っていた。
「ステビアさん、俺が来るまでご飯ってどうしていたんですか?さっきも味噌汁見て数年ぶりとか言ってたでしょう」
「あぁ。基本食べないで生きていけるからな」
ゴクンと大きく喉を鳴らし、さも当たり前の様に答える。
「え、そうなんですか?」
来太は大皿に乗っていたはずの大量のおにぎりがもう半分も消えているのを目の当たりにしながら言った。
「あぁ。魔法使いは魔力さえ有れば生きてける。だいたい寝てたら回復するし、人間みたいにわざわざ食べてそれを力にする必要はない。だから数年は何も呑まず食わずでずっとここにいた。倒れたのは…まぁ、誤算だ」
ステビアは最後の方を濁した。
「その割によく食べますよねぇ。それに空腹感はあるみたいだし…」
「美味いものは誰だって美味いと感じるだろ。食べて得られる魔力もある。あとオレは腹が減ったら動けない。でも滅多に空腹にはならないはずだったんだ。今までは…なんとかなってはいたし…」
「そうなんですか。なら、お口に合って良かったです」
空になったお碗に味噌汁のおかわりを入れてやると、ステビアは黙ってそれを受け取った。
「俺、魔法使いってもっと夜に活動して箒に乗って空を飛んだり、魔法の練習したりしているんだと思ってばかりいました。ステビアさんは割と家の中にいるみたいだし…あ、人目につかないように魔法の練習してたんですか?」
来太は瞳をキラキラと輝かせながら言ったが、ステビアは首を振った。
「そんなもの、人間の理想だ」
ステビアは先ほどよりも声のトーンを落とした。
「箒で飛ぶ魔法使いなんて見たことがない。まぁ、出来るやつも中には居ると思うけど…。それに、オレたちは魔法を使うために呪文なんてのは唱えない。これも人間の勝手な妄想だ」
ステビアは味噌汁を啜った。その目の前に座る来太は眉を寄せ、難しい顔をした。
「でも、杖とか」
「持っていない」
「魔法陣とか」
「書いたことない。どれもこれも全部人間の思い込みだ。書くやつもいるかも知れないが、オレはそうじゃない。それにほいほい魔法だって使える訳じゃないし、全魔法使いが共通の能力っていう訳じゃないんだ。人間と同じで、やれることとやれないことがある」
人間と、と言うところを強く言い放った。
「…それじゃ、ステビアさんはどんな魔法を使うんですか?」
ステビアは残り少なくなったおにぎりを取ろうとしてやめた。
「お前、食わないのか?」
「あ、俺は作りながら食べてきました」
ふふん、と鼻を鳴らして来太が答えるとステビアはおにぎりを遠慮なく手に取った。
「それで、ステビアさんは?」
「オレは、自分の持っている魔力を動物や植物の成長を促進させる魔法を使う」
「成長を、促進…」
へぇ、と感嘆の声を漏らした来太はバッグから別のタッパーと水筒を取り出した。タッパーの中にはウサギ型に剥かれたりんごが入っており、水筒には冷たい麦茶が入っているようだった。
「食べれますか?」
ステビアは首を縦に振り、頷いた。あの大皿にあったおにぎりはもう残り一つになっている。
「そ、オレはその力を使って魔草を育て…」
ステビアは最後のおにぎりを手に取ろうとして、ピタリと動きを止めた。
「…やばい」
ステビアは急に立ち上がり、部屋の隅に積み上げられていた本の山から懐中時計を探し出すとわなわな震え始めた。
「え、どうしました?食べ過ぎですか?」
来太が覗き込んだステビアの顔は真っ青だ。冷や汗が出てきており、以前初めて会った際の怯えた様子も思い出す。ステビアの手に握られた懐中時計は来太が初めて見る作りだった。日付と文字盤は通常の物となんら変わりがないが、秒針や分針の上を小さな黒猫がてくてくと歩いていた。
「可愛いですね、その時計」
「な、何を呑気なっ!お、お前のせいだぞっ!お前があの部屋の魔草をそのデカいポンコツで吸い込んだりするからっ!」
「そ、それはもう謝りましたけど…」
「そうだけど、そうじゃなくてっ。オレが怒られるだろっ!」
「えぇっ、誰にですか」
「それはっ」
ステビアが言いかけた時、玄関のドアがノックされる音が響いた。ステビアはローブのフードを目深にかぶり、奥の寝室へと走って引っ込んでしまう。
「え、誰か来ましたけど」
「出るなっ!」
ステビアは声のトーンを出来るだけ小さくした。それに倣って来太も声を落とす。
「でも…」
「絶対に出るなよ…!後、数分で良いから黙ってろ」
ベッドに潜り込み、掛け布団をすっぽりとかぶったステビアは身体を隠した。
「出るなって…そりゃ家主が言うなら出ませんけど…」
来太はため息をつきながら布団をかぶって丸くなるステビアを見つめた。
自分が来た時もこんな感じだったのだろうか。何に対して怯えているのかは分からないが、外部との接触をあまり快く思っていないのだろう。魔法使いだからといって何年もここに一人で籠る程だ。きっと何か…。
来太がステビアに手を伸ばしかけると、玄関の方でバン!という大きな音が響いた。
「な、なんだっ」
来太が慌てて音のした玄関へ向かうと、壊れたドアが転がり、壊された衝撃で起きた埃と、外から入り込んだ霧の粒子がふわりと立ち込めている。驚いた拍子に来太はそれを吸い込んでしまい、思わず咳き込んだ。片腕で口を押さえ、もう一方の手で掃除機を探り、スイッチを入れた。掃除機で部屋に舞った埃を吸引していくと、その隙間から黒い猫が座っているのが見えた。
「えっ!ね、猫っ?」
来太は掃除機のスイッチを切り、壊れたドアと黒猫を交互に見つめる。
さっきの音は…この猫が?いやいやいや、いくらステビアさんが魔法使いでも、そんな不思議な出来事が多発するわけ…。
黒猫は来太をギロリと睨んだ。珍しいことに片方の目は紫でもう一方の目は赤い。瞳孔の開いたその目は強く、猫なのに圧倒される。
黒猫は、ゆっくりと部屋の中に入ると、ステビアのいる寝室へ向かって行った。
「あ、ちょっ、そっちは!」
来太が黒猫を抱き上げようと追いかけるが、身軽な猫はさらりとかわし、ステビアのベッドに降り立った。
その猫が「ニャー」とひと鳴きすると、ステビアが布団をかぶったまま身体を起こし、来太を指差した。
「…こいつが、全部ダメにした」
「す、ステビアさん…?」
すると、黒猫は先ほどよりも強く来太を睨み、前足を引きながら威嚇をとる。
「ね、猫さん怒って」
「あぁ、めっちゃ怒ってる」
「ステビアさんがなんか言ったんでしょうっ!」
すると猫が大きな鳴き声をあげ、ベッドから勢いよく飛び降りた。
「うわっ」
鋭く尖った爪を見て、来太は思わず強く目を瞑り、腕で顔を隠した。
しかし、何も起きない。
「え…」
恐る恐る顔をあげると、そこには黒猫の姿は無く、十代後半ぐらいに見える青年が立っていた。
「お前…人間だな」
黒い短髪だが、毛先は赤い。鋭い眼孔は先ほど目の前にいたはずの黒猫と同じく大きく開き、片目は赤くもう一方は紫色をしている。その赤い色をした右目には大きな傷痕があった。
「えっと…ええっと」
「魔草をダメにしたっつーのは本当か」
驚いて言葉がうまく出てこない来太は、ゆっくりと頷いた。すると、黒髪の青年は来太の胸ぐらをいきなり掴んだ。
「わっ」
「何が目的だ。どこでコイツのことを知った」
「おい、やりすぎだ」
「うるせぇ黙れ。てめぇが人間なんぞ家に入れるから……は?」
青年は掴んでいた手を離した。
「おい、こいつ人間だぞ…お前なんでこいつを中に入れた?」
今度はステビアに詰め寄り始める。ステビアは罰の悪そうな顔をして、青年から離れようとベッドから降りた。
「い、色々あって」
「色々だァ?人間嫌いのお前が」
「嫌いじゃない。苦手なんだっ」
「ならなんでこんなアホ面晒した人間をっ」
「まあまあまあ」
来太は苦笑いをしながら青年とステビアの間に割って入ると、青年からまた鋭い視線を投げられた。
「ステビア、てめぇが言わないならこの人間から力尽くで聞き出すぞ」
「ったく…勝手にしろ」
「え、ステビアさんっ!」
すると青年はまた来太の胸ぐらを掴み、にやりと笑う。
「んじゃ、手っ取り早く吐いてもらうか」
「ええっ!まって、待ってくださいっ!本当にすみませんでしたぁっ!でもこれはステビアさんを助けようとしてっ」
「あぁ?助けようと?どういうことだ、ステビア」
するとステビアはまた溜息をついた。
「だから落ち着けと言ったんだ」
「あのな…。ったく、仕方ない。聞いてやるから話せ」
青年は手を離すと、その場に座り込んだ。







「なるほどな…。ステビア、てめぇのせいかよ」
青年は呆れた声で言い放った。そうと決めつけられ、ステビアは下唇を突き出して不満そうな顔を来太に向ける。
「オレは悪くない」
「はい、ステビアさんは悪くありません」
青年は大きな溜息をついて、胡座をかいていた足を組み直した。
「そうかよ」
じろじろと来太を見つめ、難しい表情を見せる。ステビアといい、改めて魔法使いは人間に対しての警戒心が強いと来太は感じた。
「あのぅ…」
「お前、名前は」
「あ、成瀬来太です」
「ふぅん」
「コイツはノアだぞ」
「バカ、勝手に教えんなっ!」
来太を品定めする様に観察している途中で、ステビアが口を挟んだ。
「ノアさんって言うんですか」
きょとん顔で名前を聞き直す来太に、青年は先程よりも更に深い溜息をついた。
「あぁ。そうだよ…七戸乃亜。『ノア』で良い。ステビアの仕事仲間だ」
「よろしくお願いしますっ」
握手を求め、手を差し出すが乃亜はその手を掴もうとはしない。
「…調子狂うな、お前」
「あれ、魔法使いは握手とかしない感じですか?」
「そんなことねぇよ。まぁ、相手が人間だと別だろうが…」
来太は首を傾げた。ステビアといい乃亜も『人間は』をやたらと強調する。しかし、それが何故なのかは分からない。自分が読んできた絵本にも、古い文献にも、祖父の話にもそんな差別的な話し方をする魔法使いは登場しなかったのだ。
「あの、その人間と魔法使いって…何かあるんでしょうか。昔色々と事件があったのは知ってますけど…あれから何もないはずですし」
来太の発言に二人はピクリと耳を動かすが、何も答えない。
「あのー…」
「あー…まぁ、それはまた今度話す。今は別の問題が先だ」
「あぁ、魔草だな」
「えぇー…」
来太をそっちのけに二人は手を組んでウーンと唸り出した。この様子を見て相当大事なものに余計な手を加えてしまったと、来太は再び居た堪れなくなる。
「よし、ノア。お前が苗木か種をくすねてこい」
「はぁ?ザケンナ、あいつの部屋どんだけ物が溢れてると思ってんだっ」
「仕方ないだろっ!期限内に用意出来なかったら何言われるかっ!あの魔草、オレの力で一ヶ月以上かかってるんだっ、絶対貴重なやつだぞっ」
ステビアの発言に来太の胸に何かがグサグサと刺さっていく。
「あの、本当にすみま」
『もう全部聞こえていますから、隠したところで無駄ですよ』
くすくす、という笑い声が部屋に響いた。来太はキョロキョロとその声の主を探すが、この部屋にはステビアと乃亜、そして自分の姿しか見えない。
「ノア、お前…っ」
「悪い…変化後に通信切るの忘れてた…」
そう言って乃亜は服で見えなくなっていたネックレスを胸から取り出した。 
『こんにちは、ステビアさん。私の大事なノアくんに盗みを働かせようだなんて…聞き捨てなりませんねぇ』
「うっ…」
「変な言い方やめろ…気色悪い」
うげぇ、と言いながら乃亜はネックレスを外した。来太は目をぱちくりと見開きながら、そのネックレスをじっと見つめた。
「凄い…このネックレス、どういう作りになってるんだろう…!」
不思議なそのネックレスを前にして、キラキラと輝く少年の様な瞳に変わっていく。電話や通信機器は人間である来太も使ったことはあるが、こんなものは初めてだった。
「近い近い近いっ」
釘付けの来太から迷惑そうに乃亜が後ずさる。
『ふふふ。こんにちは、私は汐八紫苑と言います。シオンって呼んでください』
「え、あっ、はいっ!来太ですっ」
来太は乃亜のネックレスに向かって頭を下げた。
「シオンはオレに魔草を預ける薬師だ』
ステビアはノアの後ろに隠れて言った。
「へぇ、このネックレスが」
「違ぇよ」
『ふふふ、面白い方ですねぇ。これは魔法道具の一種を埋め込んだ通信機です。人間の方には珍しいでしょうかね』
来太は凄い凄いと嬉しそうにネックレスを観察しているが、何が魔法道具なのかは一切わからないようになっている。
『私は薬師で、魔草が必要不可欠なんですが育てるにはかなりの時間がいるのでステビアさんに頼んでいる…いわば雇用関係ですね。依頼が多い時はなかなか外にも行くことができませんので、主に魔草回収はノアくんに頼んでしまっていますが…』
するとノアが口を開いた。
「お陰で本業をたまに休まなきゃなんねぇんだよ」
「本業?」
「こいつは運び屋兼鯛焼き屋だ」
「あぁ、だから黒猫なんですね!」
「おいコラ」
そのやりとりをクスクスとネックレスの向こう側で聴いている紫苑が笑う。
「シオン、次はこいつのことちゃんと見張るし、花粉も外に出さないように工夫するから」
『ふふふ。では今回は、水に流しましょうか。本当はあの魔草…実がなるのに数百年掛かると言われたので培養したかったのですが』
「ご、ごめんなさい…」
来太が申し訳なさそうに頭を下げると、乃亜はネックレスを見ながら眉を寄せた。
「お前なぁ」
『ふふふ。良い人そうなのでつい。ステビアさん、そうしましたらその方を連れて一度店に来てください』
ステビアは紫苑の言葉に目を見開いた。
「お、オレが外に出るのかっ!」
『ええ。魔草の苗木と種をお渡ししなければいけませんし』
「ノアが運べば良いだろう!」
ステビアはぷくっと頬を膨らませ、納得できないと騒ぎ出した。
『ダメです。倒れたのはあなたの自己責任なんですから。それにノアくんに甘えて良いのは私だけです』
「一言余計だろお前は」
乃亜は溜息をついてネックレスを付け直した。
「なら用済みだな。今日は帰るぞ。いいな、紫苑」
『ええ。良いですかステビアさん。準備できたら連絡しますので。そこの力持ちさんと一緒に、ですよ』
不貞腐れたステビアをよそに、乃亜はその場で黒猫に変化した。先程ネックレスだったものは赤い首輪に変わっている。来太はその変化様子を見て「うわぁ!」と感嘆の声を漏らした。
『それでは、お邪魔しました』
紫苑の声が聞こえると、黒猫になった乃亜は壊れて立てかけられただけのドアの隙間から外に出て行ってしまった。
「さようならーっ」
律儀に挨拶を投げかける来太の横でステビアは小さく舌打ちをした。
「ドアぐらい俺、直せますよ」
機嫌の悪いステビアに来太が優し話しかけるが、ステビアは乃亜が通ったドアの隙間をじっと見つめていた。
「なら…頼む…。それと」
「はい?」
「今日はもう寝るから直したら帰ってくれ」
「はい」
「あっ」
ステビアは寝室に行こうとした足を止めた。
「りんごは置いていけ」
「あはは。わかりました」




黒猫姿の乃亜はステビアの住む部屋から一番近い商店街に入って行った。トコトコと軽やかに歩き、狭い道を駆使してとある小さな鯛焼き屋の前で足を止める。店主のいないその店は暖簾もかかっておらず、ただ殺風景な鉄板が見えているだけのがらんとした店だった。店先に設置している小さなベンチに飛び乗って、そこをジャンプ台にカウンターから中へ入り込むと、奥の方から声をかけられた。
「お帰りなさい」
くすくすっと笑ったその声の主は、藤色の綺麗な長い髪を束ね、大きな眼鏡をかけた長身の男だった。
「あぁ」
素っ気ない声で乃亜が答える。猫の姿の乃亜はその長身男の横を通り居間へあがると、人型の姿に戻った。
「お疲れ様です。お風呂にしますか、ご飯にしますか?それとも…」
「どっちの準備も出来ねぇくせによく言うな」
「もぅ、ノリが悪いですねぇ。そういうことを言うなら教えてくれたって良いんですよ。今日は魔草がないので作業も終わりですし」
フン、と乃亜が鼻を慣らしてその場に寝転ぶ。
「やはり魔法使いと認識された上で、人間と話しをするのは神経使いますか?」
「あぁ。そうかもな」
乃亜は伸びをしながら大きな欠伸をした。移動と変化魔力によって疲れて眠気が襲ってくる。
「ステビアさんは大丈夫でしょうか」
「みたとこ平気だろ、あいつは」
「ふふふ、そうですねぇ。変に色々思い出してしまったら事ですが…暫くは様子を見ましょう」
「そうだな。まぁ、思い出したところで百年以上も前の事だろ。全然あのアホ面には関係ないっつー話だ」
長身の男はくすくすと笑って茶箪笥から湯呑みと急須を取り出した。
「ノアくん、お茶でも飲みませんか?」
「要らね」
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