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長し夜に、ひらく窓
おまけSS それは早川の○○
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俺は追いかけられている。
いや、俺だけじゃない。
俺も天神も悠斗も雨宮も藤枝も追いかけられていた。
「君は慣れているんじゃなかったのかい、早川!」
ああ、そうだ。たしかに俺は慣れている。慣れているけれども、こんなのは予想外だった。
そもそも俺は一人が好きなんだ。
「ねぇねぇ、穂乃果ちゃん。どこかに隠れるとか、ダメかな?」
「ずっと一本道でしたので、それは難しいかと……」
「そっかぁ」
ほわほわとした雨宮に、冷静な藤枝。
この二人は、どこにいても平常運転なのか。いっそ、凄いとすら思う。
「じゃあ、やるしかないね! 大丈夫だよ! みんなは私が守るから!」
「え?」
男前な発言と共に、急に立ち止まった雨宮が敵の方を向いた。彼女の姿はいつもよりも、否、比べようがないほど頼もしく、ゴツい。
「では、僭越ながら私も助太刀致します」
雨宮のほぼ真横で前を見据える藤枝が、スラリと剣を抜く。
なんてカッコよくて頼もしいのか。
「じゃあ、オレは罠や抜け道がないか、重点に調べるわ」と言った悠斗は、飄々と慣れた手つきで壁や地面に触れていく。
これなら助かるかもしれない。
そんな希望を胸に抱いたところで、俺の前を走っていたはずの天神がくるりと方向転換をした。
「それはいけない! 淑女を前に出すなんて」
「は?」
二人の前に出ようとする天神を、俺は言葉で必死に止める。
「待て待て!! おまえはヒーラーだろう?! 前に出るな!」
「案ずることはないさ!」
「案ずるわ! この初心者が!」
そうこう言っている内に、厳つい盾を持った大男が天神の前を塞ぐ。
ナイスプレー、ナイス判断、グッジョブ雨宮。
「心配しないで、天神くん。私もね、慣れてるんだよ?」
「そうなのかい? それならば大変心苦しいが、君に任せよう!」
にこっと微笑む筋肉隆々の大男が、ドンと胸を叩いたかと思えば、盾を地面に打ち下ろす。大きな地鳴りに負けず、雨宮が声を張り上げる。
「それじゃあ、彼らを止めます! 穂乃果ちゃんと早川さん、よろしくお願いします!」
「はい。任せてください」
「あ、うん」
ゆらゆらと不気味に動く、アンデッドの大群。意思統率はないはずなのに、皆一様の動きをする。現実世界で見たら、俺が卒倒すること間違いなしだろう。
その集団のなかを、ポニーテールの剣士が舞う。義経のようにひらりと飛んだかと思えば、敵の肩や壁を踏み台に、躊躇なく首を切っていく。サラサラと灰のように崩れ落ちるアンデッド。
見惚れるほど美しい剣技だ。
だが、見惚れている場合ではない。曲がりなりにも、俺は後方支援。毒矢を補填して弓を引く。アンデッドに毒が効くのかは知らないが、爆発矢よりも良いだろう。
「僕は何をすれば良いだろうか?」
「天神くんは、回復に勤めてくれると嬉しいな」
ワクワクする天神の声に応えるのは、雨宮。「承知したよ!」と答えた天神を中心に緑の輪が広がる。
凛とした声が呪文を唱え、パッと回復する天神。回復量0の表示が虚しく光って消えた。
待て。どうして、そうなった。
大体おまえは、ノーダメージだろう! と突っ込みたいところを抑えて、叫ぶ。
「藤枝さんと雨宮さんの回復だ!」
「これは失礼!」
再び輝く緑色の光。
間違ってデバフでも掛けるのではないかと、めちゃくちゃ不安になりながら弓を引き続けること三十分。最後の方は矢が足りなくなり、弓で相手を殴っていたような気もしたが、とにかく敵は全滅した。
ピロン、となるクリア音。
「さあ、次はどこに行こうか!」
と言う天神に疲労の色は見えない。後攻で逃げる必要もなく、回復に努めていたので当然と言えば当然だ。
雨宮と藤枝は、と思えば彼女たちは息切れ一つなく微笑んでいた。
頼もしい。そして、たくましい。
しかし、天神はとても気に入ったらしい。ワクワクしているのが、アバターからでも伝わる。まったく、たまに子どもっぽくなる彼に、苦笑する。
「そうだな、次は」
そう言いかけたところで、大音量の警告音が鳴った。
敵襲か! と焦ったところで、視界暗転。なぜか意思疎通が困難になった自分の目を懸命に開けると、見慣れた天井が見えた。
手には硬い感触。
どうやら、スマートフォンを握ったまま俺は寝落ちしていたらしい。
「夢でも天神は、天神なのか」
と、ため息を一つ。
アラームを止めてロックを外せば、時刻と共にメッセージの知らせ。
『今日、ランチ食べるですかい?』
「なんで、どこかの小物悪党みたいな口調なんだよ……」
だが、天神らしい文面に笑う。
彼が『未来の機器』を使いこなす道のりは、まだまだ長そうだ。
とりあえず今日の昼は、予測変換に頼らないメッセージの打ち方を教えようと思った。
いや、俺だけじゃない。
俺も天神も悠斗も雨宮も藤枝も追いかけられていた。
「君は慣れているんじゃなかったのかい、早川!」
ああ、そうだ。たしかに俺は慣れている。慣れているけれども、こんなのは予想外だった。
そもそも俺は一人が好きなんだ。
「ねぇねぇ、穂乃果ちゃん。どこかに隠れるとか、ダメかな?」
「ずっと一本道でしたので、それは難しいかと……」
「そっかぁ」
ほわほわとした雨宮に、冷静な藤枝。
この二人は、どこにいても平常運転なのか。いっそ、凄いとすら思う。
「じゃあ、やるしかないね! 大丈夫だよ! みんなは私が守るから!」
「え?」
男前な発言と共に、急に立ち止まった雨宮が敵の方を向いた。彼女の姿はいつもよりも、否、比べようがないほど頼もしく、ゴツい。
「では、僭越ながら私も助太刀致します」
雨宮のほぼ真横で前を見据える藤枝が、スラリと剣を抜く。
なんてカッコよくて頼もしいのか。
「じゃあ、オレは罠や抜け道がないか、重点に調べるわ」と言った悠斗は、飄々と慣れた手つきで壁や地面に触れていく。
これなら助かるかもしれない。
そんな希望を胸に抱いたところで、俺の前を走っていたはずの天神がくるりと方向転換をした。
「それはいけない! 淑女を前に出すなんて」
「は?」
二人の前に出ようとする天神を、俺は言葉で必死に止める。
「待て待て!! おまえはヒーラーだろう?! 前に出るな!」
「案ずることはないさ!」
「案ずるわ! この初心者が!」
そうこう言っている内に、厳つい盾を持った大男が天神の前を塞ぐ。
ナイスプレー、ナイス判断、グッジョブ雨宮。
「心配しないで、天神くん。私もね、慣れてるんだよ?」
「そうなのかい? それならば大変心苦しいが、君に任せよう!」
にこっと微笑む筋肉隆々の大男が、ドンと胸を叩いたかと思えば、盾を地面に打ち下ろす。大きな地鳴りに負けず、雨宮が声を張り上げる。
「それじゃあ、彼らを止めます! 穂乃果ちゃんと早川さん、よろしくお願いします!」
「はい。任せてください」
「あ、うん」
ゆらゆらと不気味に動く、アンデッドの大群。意思統率はないはずなのに、皆一様の動きをする。現実世界で見たら、俺が卒倒すること間違いなしだろう。
その集団のなかを、ポニーテールの剣士が舞う。義経のようにひらりと飛んだかと思えば、敵の肩や壁を踏み台に、躊躇なく首を切っていく。サラサラと灰のように崩れ落ちるアンデッド。
見惚れるほど美しい剣技だ。
だが、見惚れている場合ではない。曲がりなりにも、俺は後方支援。毒矢を補填して弓を引く。アンデッドに毒が効くのかは知らないが、爆発矢よりも良いだろう。
「僕は何をすれば良いだろうか?」
「天神くんは、回復に勤めてくれると嬉しいな」
ワクワクする天神の声に応えるのは、雨宮。「承知したよ!」と答えた天神を中心に緑の輪が広がる。
凛とした声が呪文を唱え、パッと回復する天神。回復量0の表示が虚しく光って消えた。
待て。どうして、そうなった。
大体おまえは、ノーダメージだろう! と突っ込みたいところを抑えて、叫ぶ。
「藤枝さんと雨宮さんの回復だ!」
「これは失礼!」
再び輝く緑色の光。
間違ってデバフでも掛けるのではないかと、めちゃくちゃ不安になりながら弓を引き続けること三十分。最後の方は矢が足りなくなり、弓で相手を殴っていたような気もしたが、とにかく敵は全滅した。
ピロン、となるクリア音。
「さあ、次はどこに行こうか!」
と言う天神に疲労の色は見えない。後攻で逃げる必要もなく、回復に努めていたので当然と言えば当然だ。
雨宮と藤枝は、と思えば彼女たちは息切れ一つなく微笑んでいた。
頼もしい。そして、たくましい。
しかし、天神はとても気に入ったらしい。ワクワクしているのが、アバターからでも伝わる。まったく、たまに子どもっぽくなる彼に、苦笑する。
「そうだな、次は」
そう言いかけたところで、大音量の警告音が鳴った。
敵襲か! と焦ったところで、視界暗転。なぜか意思疎通が困難になった自分の目を懸命に開けると、見慣れた天井が見えた。
手には硬い感触。
どうやら、スマートフォンを握ったまま俺は寝落ちしていたらしい。
「夢でも天神は、天神なのか」
と、ため息を一つ。
アラームを止めてロックを外せば、時刻と共にメッセージの知らせ。
『今日、ランチ食べるですかい?』
「なんで、どこかの小物悪党みたいな口調なんだよ……」
だが、天神らしい文面に笑う。
彼が『未来の機器』を使いこなす道のりは、まだまだ長そうだ。
とりあえず今日の昼は、予測変換に頼らないメッセージの打ち方を教えようと思った。
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