2 / 2
1
光芒
しおりを挟む退屈な人生なんだと思う。
不思議道具を出してくれる猫型ロボットがいるわけでもない
天才的な推理力を発揮できるわけでもない
超能力で人助けができるわけでもない
自分は特別な人間なんかではない,そんなものにはなれない。
大学1年生になった南雲拓也は,どんよりとした空,入学前ガイダンスに行く電車の中で1人考えていた。
進学先は地元の県立大学,なにを学べるかよくわからない文系の学部。
特別なことをしなくても,普通にして入れば受かるごく一般的な大学。
特になりたいものもない,淡々と日々をこなしていけばいい。
そうして今日も言われた通りにガイダンスに行くのである。
「映像研です!見学いかがですか!」
「軽音楽部です!初心者大歓迎ですよ!」
「バレーボールサークルです!一緒に飛びませんか!」
(熱量があっていいことで)
新入生が来るとあって,サークルの勧誘が盛大に行われている。あるサークルはど派手なプラカードを,音楽系であればそこかしこで披露している。そんな喧騒を横目に,勧誘に絡まれたくない南雲は,少し遠回りであるが迂回して,ガイダンスが行われる目的の教室へと向かった。
教室に入るとすでに学生が何人か座っていた。配られた資料を読む者,同じ高校出身だったのかすでに小さなグループになっている者,机にうつぶせになっている者それぞれであった。
特段仲の良いものがいるわけでもない南雲は,すでにいる学生が少ない場所を選び資料を広げた。
資料の中には,学長からの祝いの言葉,大学生活のこと,単位のこと,卒業生の進路のことと大量の紙資料と情報が載っていた。
(まあ,やることは変わらないけど)
今まで通り,淡々とやるべきことをやっていけばいい。
そうしてぼんやりと資料を眺め始めた。
ガイダンス開始時間5分前,南雲が来たときとは打って変わってほぼ満席になるほどの学生がその教室に集まっていた。こうなるといやでも騒がしい空気感になる。
そこに「いかにも大学の先生」といういで立ちの人物が入ってきた。それに気づいた学生からだんだんと静まっていく。
開始1分前,静まり返った空気の中,勢いよく教室の扉が開かれた。
そして息を荒げながら,先生の前をかがみながら通ると,空いている席を探して教室を見回している様子であった。
彼は席を見つけると小走りでそこに向かっていった。
「ねぇ君,ここ空いてる?」
まだ息が整わない彼が,南雲に話しかけ,南雲の隣,彼の荷物で塞いでいた席を指さした。
入ってきた瞬間,ちらりと顔を上げただけだった南雲は,声を掛けられたことに驚きがかくせない様子で目を見開いた。
「あ,はい。どうぞ。」
南雲は荷物をどかし,急いで入ってきた彼のために席を開けた。
「ごめんね,ありがとう。」
そういうと彼は,いそいそと南雲の前を通り,着席することができた。
ガイダンスを聞く準備をする隣の彼を南雲は横目で確認した。
一瞬だけ遠目で見ただけだったため気づかなかったが,彼は手に抱えきれない(実際は持つことができているが)ほどの勧誘チラシやサークルの製作物を持っていた。おそらくひっきりなしに渡されたためか,上下左右がバラバラであったり中にはくしゃくしゃになっている物もある。
カバンの中からガイダンスの資料を取り出そうにも,1人分の机だけでは今までもらってきたチラシたちを整理し資料を出すのが大変そうに見えた。
少し慌てている隣の彼を見ていたたまれなくなった南雲は「あの…」と小声で声を掛けた。
「机半分くらいならはみ出ても大丈夫っすよ,俺特に広げるものないんで。」
そうして南雲は今まで広げていたものを机の端に寄せた。すると隣の彼も小さな声で「ありがとう」と返し,南雲の分の机も使いながら準備を続けた。
ガイダンスを始めます,といかにもな先生が話し始めてから,南雲が落ち着いて話を聴くことができるようになったのは,ガイダンス内容2「わが大学の学生としての心構えについて」になってからである。
少し気怠いガイダンスが終わり,再び教室が騒がしくなりみんなが帰り支度をする。
南雲も,帰り支度を始めると,隣の彼が話しかけてきた。
「さっきはありがとう!良ければ,学食一緒に食べない?」
彼は広げていた資料を,配布された大学のデザインがあしらわれたファイルに入れている。南雲は,回答に迷っていた。特に予定があるわけでもないが,初対面の人物と飯を食べれるほど,人がいいわけでは無い。
南雲が答えに迷っているのを察してか,彼はさらに続けた。
「あぁ,ごめん。まだ自己紹介がまだだったね,僕は,稲葉千晴。人間発達学科所属になります,よろしくね。君は?」
「南雲拓也,地方行政学科。よろしく。」
稲葉は満足げな顔で「じゃあ,学食に行こう!」と言い立ち上がると,通路側に座っていた南雲を押すように教室を後にした。
教室の喧騒から一転,他学年の授業が本格的に始まる前であるためか,学食は案外空いていた。
メニューを一通り見る。うどん,そば,カレー,定食ときっとどこにでもあるようなものが並んでいる。
その中から,南雲はうどんを,稲葉は定食(魚)を券売機で購入する。
学食のおばちゃんから,注文したものを受け取ると,手近な4人掛けのテーブルに座った。
稲葉は丁寧に手を合わせて「いただきます」と言うので,南雲もそれに合わせて少しぎこちなく「いただきます」と言った。
「そういえば,予定とかなかった?半分無理に連れてきたみたいになっちゃったけど」
無理に連れてきた自覚をもっていたんだと,うどんをだらだらとすすりながら,南雲は目の前に座る彼を見た。
「いや,大丈夫。特に予定ないし。」
「そうか,ねぇ,君…,南雲君は一人暮らし?」
「いや,実家。」
「そうなんだ!いいなぁ,大学までは何で通うの?」
「電車,ここから2駅くらいだから。」
「結構近いね,歩いてでも通えそう。サークルとか,南雲君は気になるところあった?」
「あの集団は避けたから,まだよくわからない。」
目をキラキラさせながら質問攻めにする稲葉に対し,淡々とそれに答えていく南雲。
いつの間にか,ご飯もなくなり,じゃあ帰ろうかとどちらからともなく,準備を始めた。
食器を片付けて学食の外に出ると,稲葉が「うわぁ」と空を見上げながらつぶやいた。
それを聞いた南雲も,稲葉に倣い空を見上げてみた。
「空なんか見てどうしたんだ?」
南雲が声を掛けると,稲葉は空を指さした。
「見てよ,天使のはしごだ。」
改めて,南雲が空を見上げると,確かに朝からもやっとしていた分厚い雲の隙間から,陽の光が差し込んでいる。
先ほど自分を質問攻めにしたときと同じ目をした稲葉を見て,南雲は柄にもなく,これから何かが始まりそうな気がすると,そう思ってしまったのである。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
竜華族の愛に囚われて
澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。
五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。
これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。
赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。
新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。
そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。
※某サイトの短編コン用に書いたやつ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる