くもりのち

時結莉黒

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光芒

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退屈な人生なんだと思う。

不思議道具を出してくれる猫型ロボットがいるわけでもない
天才的な推理力を発揮できるわけでもない
超能力で人助けができるわけでもない

自分は特別な人間なんかではない,そんなものにはなれない。
大学1年生になった南雲拓也は,どんよりとした空,入学前ガイダンスに行く電車の中で1人考えていた。

進学先は地元の県立大学,なにを学べるかよくわからない文系の学部。
特別なことをしなくても,普通にして入れば受かるごく一般的な大学。

特になりたいものもない,淡々と日々をこなしていけばいい。
そうして今日も言われた通りにガイダンスに行くのである。


「映像研です!見学いかがですか!」
「軽音楽部です!初心者大歓迎ですよ!」
「バレーボールサークルです!一緒に飛びませんか!」

(熱量があっていいことで)
新入生が来るとあって,サークルの勧誘が盛大に行われている。あるサークルはど派手なプラカードを,音楽系であればそこかしこで披露している。そんな喧騒を横目に,勧誘に絡まれたくない南雲は,少し遠回りであるが迂回して,ガイダンスが行われる目的の教室へと向かった。

教室に入るとすでに学生が何人か座っていた。配られた資料を読む者,同じ高校出身だったのかすでに小さなグループになっている者,机にうつぶせになっている者それぞれであった。

特段仲の良いものがいるわけでもない南雲は,すでにいる学生が少ない場所を選び資料を広げた。

資料の中には,学長からの祝いの言葉,大学生活のこと,単位のこと,卒業生の進路のことと大量の紙資料と情報が載っていた。

(まあ,やることは変わらないけど)

今まで通り,淡々とやるべきことをやっていけばいい。
そうしてぼんやりと資料を眺め始めた。

ガイダンス開始時間5分前,南雲が来たときとは打って変わってほぼ満席になるほどの学生がその教室に集まっていた。こうなるといやでも騒がしい空気感になる。

そこに「いかにも大学の先生」といういで立ちの人物が入ってきた。それに気づいた学生からだんだんと静まっていく。

開始1分前,静まり返った空気の中,勢いよく教室の扉が開かれた。

そして息を荒げながら,先生の前をかがみながら通ると,空いている席を探して教室を見回している様子であった。

彼は席を見つけると小走りでそこに向かっていった。

「ねぇ君,ここ空いてる?」
まだ息が整わない彼が,南雲に話しかけ,南雲の隣,彼の荷物で塞いでいた席を指さした。

入ってきた瞬間,ちらりと顔を上げただけだった南雲は,声を掛けられたことに驚きがかくせない様子で目を見開いた。

「あ,はい。どうぞ。」
南雲は荷物をどかし,急いで入ってきた彼のために席を開けた。

「ごめんね,ありがとう。」
そういうと彼は,いそいそと南雲の前を通り,着席することができた。

ガイダンスを聞く準備をする隣の彼を南雲は横目で確認した。
一瞬だけ遠目で見ただけだったため気づかなかったが,彼は手に抱えきれない(実際は持つことができているが)ほどの勧誘チラシやサークルの製作物を持っていた。おそらくひっきりなしに渡されたためか,上下左右がバラバラであったり中にはくしゃくしゃになっている物もある。

カバンの中からガイダンスの資料を取り出そうにも,1人分の机だけでは今までもらってきたチラシたちを整理し資料を出すのが大変そうに見えた。
少し慌てている隣の彼を見ていたたまれなくなった南雲は「あの…」と小声で声を掛けた。

「机半分くらいならはみ出ても大丈夫っすよ,俺特に広げるものないんで。」
そうして南雲は今まで広げていたものを机の端に寄せた。すると隣の彼も小さな声で「ありがとう」と返し,南雲の分の机も使いながら準備を続けた。

ガイダンスを始めます,といかにもな先生が話し始めてから,南雲が落ち着いて話を聴くことができるようになったのは,ガイダンス内容2「わが大学の学生としての心構えについて」になってからである。


少し気怠いガイダンスが終わり,再び教室が騒がしくなりみんなが帰り支度をする。
南雲も,帰り支度を始めると,隣の彼が話しかけてきた。

「さっきはありがとう!良ければ,学食一緒に食べない?」
彼は広げていた資料を,配布された大学のデザインがあしらわれたファイルに入れている。南雲は,回答に迷っていた。特に予定があるわけでもないが,初対面の人物と飯を食べれるほど,人がいいわけでは無い。
南雲が答えに迷っているのを察してか,彼はさらに続けた。
「あぁ,ごめん。まだ自己紹介がまだだったね,僕は,稲葉千晴。人間発達学科所属になります,よろしくね。君は?」
「南雲拓也,地方行政学科。よろしく。」
稲葉は満足げな顔で「じゃあ,学食に行こう!」と言い立ち上がると,通路側に座っていた南雲を押すように教室を後にした。


教室の喧騒から一転,他学年の授業が本格的に始まる前であるためか,学食は案外空いていた。
メニューを一通り見る。うどん,そば,カレー,定食ときっとどこにでもあるようなものが並んでいる。
その中から,南雲はうどんを,稲葉は定食(魚)を券売機で購入する。
学食のおばちゃんから,注文したものを受け取ると,手近な4人掛けのテーブルに座った。

稲葉は丁寧に手を合わせて「いただきます」と言うので,南雲もそれに合わせて少しぎこちなく「いただきます」と言った。

「そういえば,予定とかなかった?半分無理に連れてきたみたいになっちゃったけど」
無理に連れてきた自覚をもっていたんだと,うどんをだらだらとすすりながら,南雲は目の前に座る彼を見た。

「いや,大丈夫。特に予定ないし。」
「そうか,ねぇ,君…,南雲君は一人暮らし?」
「いや,実家。」
「そうなんだ!いいなぁ,大学までは何で通うの?」
「電車,ここから2駅くらいだから。」
「結構近いね,歩いてでも通えそう。サークルとか,南雲君は気になるところあった?」
「あの集団は避けたから,まだよくわからない。」

目をキラキラさせながら質問攻めにする稲葉に対し,淡々とそれに答えていく南雲。
いつの間にか,ご飯もなくなり,じゃあ帰ろうかとどちらからともなく,準備を始めた。


食器を片付けて学食の外に出ると,稲葉が「うわぁ」と空を見上げながらつぶやいた。
それを聞いた南雲も,稲葉に倣い空を見上げてみた。

「空なんか見てどうしたんだ?」
南雲が声を掛けると,稲葉は空を指さした。
「見てよ,天使のはしごだ。」
改めて,南雲が空を見上げると,確かに朝からもやっとしていた分厚い雲の隙間から,陽の光が差し込んでいる。

先ほど自分を質問攻めにしたときと同じ目をした稲葉を見て,南雲は柄にもなく,これから何かが始まりそうな気がすると,そう思ってしまったのである。
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