新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
156 / 163

カルタゴニア大陸のベルケ

しおりを挟む
「西領に置いて来た航空部隊が壊滅した?」
「はい、連合軍の戦闘機部隊の攻撃を受けて全滅したとの報告です」

 南西領に設けた仮設野外飛行場に滞在していたベルケは、エーペンシュタインの報告に驚いた。
 信じられず着信したばかりの電信文を受け取り、再び衝撃を受ける。
 だが、すぐにいつもの冷静さを取り戻して分析を始める。

「現れたのは戦闘機で間違いないのだな」
「確かです」

 エーペンシュタインに言われてベルケは現実を改めて再認識した。
 偵察機ではなく、その偵察機を撃墜するための戦闘機は連合軍にはこれまで配備されていない。
 西領に置いてきた航空部隊のパイロットは実戦経験も豊富であり、航空機を見間違うはずがない。
 油断して奇襲を受けて全滅する失敗を犯したが、報告を偽るような人物でもないことはベルケが一番よく知っている。
 派遣する部隊の人選はベルケ自身が行ったのだから当然だった。
 西領に置いてきた部隊が壊滅した為、新たな増援か彼らを収容する部隊を派遣する必要が出てきて頭痛の種になる。
 だが一番の問題はそこではなかった。

「連合軍に新たな戦闘機部隊を派遣されたようですね」
「だが動きが速すぎる」

 派遣された航空部隊が壊滅すれば連合軍は増援部隊を送り込むのは織り込み済みだ。
 だが、新たな航空部隊を派遣するには準備や船舶による移動、現地での立ち上げなどで二ヶ月、最短でも一ヶ月はかかると考えていた。
 特に船で輸送するには船の足が遅いこともあり、カルタゴニア大陸が遠いこともあって時間が掛かる――、船の移動だけで一ヶ月程度は掛かるとベルケは読んでいた。
 自分たちが西領を攻める連合軍航空部隊を殲滅してから一週間で新たな増援が来るなど想定外だった。

「連合軍の増援部隊がタイミング悪く送られてきたのでは?」
「それは違うだろうな。連合軍にそんな余裕はない」

 旧大陸の前線は消耗戦に陥っており、航空部隊も例外ではない。
 前線に航空機は一機でも欲しがっているだろうから、主戦線から離れた植民地へ航空機を派遣するのは少数に止めたいはず。
 そもそも優勢であったのに、増援を送る必要はない。
 捜索のための偵察機ならともかく、戦闘機を送り込むなどあり得ない。

「第一、早すぎる」

 圧倒的な国力を見せつける連合国なら戦闘機をいずれ送り込んでくるだろう。
 だが、いくら連合国でも一週間ほどで飛行機を、それもなんの設備もない辺境に送り込み運用することなど出来ない。

「……連合も飛行船で持ってきたか」
「まさか」
「自分が出来るのに、相手も出来ないと考えるのは愚かだエーペンシュタイン。事に戦争ではな。しかも相手は我々よりも遙かに上手だ」

 前人未踏の峰に最初に立ったこともあるエーペンシュタインにベルケは忠告し、自分たちが乗ってきた飛行船を見て言った。
 帝国軍カルタゴニア級飛行船。
 全長二〇〇メートルを超す巨大な船体にアルバトロス戦闘機一二機を分解せずに搭載し輸送することが出来る。
 予備として分解状態の戦闘機を二機搭載しているが、念のためだ。
 このカルタゴニア級飛行船によって帝国は植民地の飛行場の適地に派遣し、戦闘機を下ろし発進させる事が出来る。
 平野の多いカルタゴニア大陸で運用するのに、もってこいの飛行船だった。
 カルタゴニア大陸各地の飛行場適地に降下して戦闘機を下ろし発進させるのがこの飛行船の運用思想だった。
 飛行船内部には燃料や弾薬そして爆弾までも搭載しており、繰り返し出撃させる事が出来る。
 カルタゴニア大陸帝国西領で連合軍を殲滅したのもベルケ達、カルタゴニア級飛行船に乗った戦闘機隊による戦果だった。
 他にも補給用の飛行船がいて予備の燃料弾薬と分解した戦闘機を数機搭載している。
 燃料を補給したり、故障機が出ても組み立てて供給したり、各地の植民地軍に配備する事が出来る。
  一番大きな特徴は機動力で、十数機の戦闘機を格納したまま時速百キロ近いスピードで移動できることだ。
 本国から出撃し、数日で帝国領西カルタゴニアに到着し、連合軍航空戦力を壊滅させると、すぐに南西領へ移動。この地の航空戦力を壊滅させつつあった。
 事態を重く見た連合軍は主戦線である旧大陸から航空戦力を分離させ、カルタゴニア大陸へ送り込むだろう。
 そして主戦線の連合軍航空部隊が減って帝国軍航空部隊が優勢になる。
 それがベルケ達と帝国軍上層部の思惑だった。

「そうなると不味いですね。我々のプランが達成困難になります」

 結果的に連合軍の航空戦力を引き抜くことに成功したが、あまりにも早すぎる。しかも、自分たちと同じ移動速度を持つ飛行船による輸送能力と機動力を持っている。
 主戦線を立て直す時間を得るため、他の連合軍戦力を引き抜くため植民地軍にはしばらくは持ちこたえて欲しいが、連合軍航空部隊の進出が早過ぎて劣勢に陥っている。
 しかも相手が自分たちと同じように飛行船で追いかけてきているのでは、いずれ自分たちも追いつかれてしまう。

「確かにな」

 エーペンシュタインの意見にベルケは同意した。

「しかし、好機でもある」

 だが、その顔は困難に直面しつつも楽しんでいるように見えた。

「地図を」

 テーブルの上に地図が広げられ、西領と南西領の間を定規で計る。

「飛行船の速度を我々と同じと推定すると、明後日の朝には南西領の沿岸に到達するな」
「いかが致します?」
「決まっているだろう」

 疑問形で尋ねたエーペンシュタインだった、その声は闘争心に溢れて弾んでいる。
 答えるベルケの抑揚も同じだった。

「我が戦闘機部隊の全力を持って迎撃する。移動準備」
「しかし、我々は見つかり易い存在です」

 エーペンシュタインは自分たちが乗ってきた飛行船カルタゴニアを見て言った。
 戦闘機を多数搭載できる大型飛行船で、非常に使い勝手の良い戦力だ。
 ただ欠点としては、戦闘機が離陸できる適地がなければ、搭載した航空機が発進できないこと――いくら大型の飛行船でも飛行機の滑走路を作るのは当時の技術では無理であり地上に降ろして飛ばすしかなかった。
 そして飛行船の大きさ故に敵に見つかりやすいことだ。
 重要な戦力であり、移動基地である飛行船を危険にさらすことを、エーペンシュタインは危惧していた。
 だがベルケは事も無く言った。

「大丈夫だ。我々の母船である飛行船は発見されることはない」
「どうしてでしょうか」
「エーペンシュタイン、君は戦闘機乗りとしても登山家としても優秀だ。だが、気象に関する知識は心得ておくべきだ」

 目を点にするエーペンシュタインにベルケは不敵に言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...