龍馬の息子 知識チートで海援隊と共に明治を駆け抜け日露戦争を楽勝にする!

葉山宗次郎

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第一部 日露開戦編

砲弾切れ

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「長官、まもなく砲弾が切れます」

 砲撃開始から一時間、沙織が報告してきた。
 皇海の砲弾搭載定数は一門当たり二〇〇発。
 一分当たり一発撃てるので、三時間ほ二〇分ほどで全ての弾丸を撃ち尽くしてしまう。
 さらに砲身の射耗――打ち過ぎて砲身が熱くなりすぎて膨張し隙間が出来たり、砲身内部に刻まれたライフリングが削れて砲弾が安定しなくなって命中率が下がるなどの弊害があるため、全て撃ち尽くすことは出来ない。
 帰路に敵艦隊と遭遇する事も考えると、全ての砲弾を撃ち尽くすことは出来ない。
 だから旅順港への砲撃は搭載定数の半分一〇〇発までにすると計画していた。

「やむを得ないか」

 鯉之助は苦虫をかみしめながら言う。

「撃ち方止め! 艦隊反転、円島の泊地へ帰還する」

 旅順へ砲撃する事で、ロシア太平洋艦隊の基地を使用不能にしようと考えていたのだが、砲弾が足りなすぎる。
 再搭載すれば良いとは言え、砲弾も無限ではない。
 砲撃に耐えきれず、出撃してきてくれれば良いのだが、そうも行かないようだ。

「大勝利です長官」

 気落ちする鯉之助に幕僚達が賞賛の言葉を掛けてきた。

「緒戦で太平洋艦隊を撃破し、旅順港へ追い込み、湾外から砲撃を仕掛けられるなど、幸先の良い戦いになりました」
「そうだな」

 全員が明るい声を出して言う。
 彼らは、鯉之助と同じく北海道・樺太開拓の時代から最前線でロシアと戦ってきた世代だ。
 強大なロシアを相手に終わりの見えない戦いを若い頃に経験し、その強さと脅威を魂に刻んだ世代である。
 恐ろしくも撃退しなければならない敵であるロシアと戦う事は覚悟していたが、恐れは心の底にあった。
 それを、緒戦で一方的に打ち負かし、撃破したことは敵艦を吹き飛ばした以上に、彼らの心の恐怖や劣等感をも吹き飛ばした。
 それだけに、彼らの顔は晴れ晴れとした良い笑顔だった。
 その笑顔を見ただけで鯉之助は、達成感がこみ上げてきた。

「気を抜かないように」

 だがそれをたしなめる高い声が響いた。

「戦いは始まったばかりです」

 参謀長の谷沙織少将だった。

「我々の目的はロシア太平洋艦隊の撃滅でした。満州を占領し朝鮮半島を狙うロシアを一掃するべく朝鮮半島へ兵を送り込むためには制海権と海上輸送路を確保する必要があります。その障害となるのがロシア太平洋艦隊です。そのために開戦劈頭に奇襲攻撃を行いました。しかし、我々は撃滅に失敗しました。損害を与えただけで喜んでいてはダメです。陸軍を安全に大陸へ運ぶためにも敵艦隊を撃滅あるいは封じ込める必要があります」

 理路整然と物怖じせずに言う。

「緒戦で撃滅し損なったため、今後我々はロシア太平洋艦隊が出撃しないよう旅順沖に展開し張り付く必要が出てきます。円島を確保しているとはいえ、長期洋上待機の準備を整えるように各員準備を。我々は補給のために計画通り前進拠点となる円島へ向かいます。よろしいですね長官」

 最後に鯉之助の方を見て言う。
 それは乗艦を見る目ではなく姉がやんちゃな弟を押さえるような目だった。
 実際幼い頃から周囲を無視して突っ走る鯉之助を暴走して大失敗しない程度に押さえることは沙織の仕事だった。
 少なくともこれ以上の攻撃はやり過ぎであり、引かせる必要があると判断していた。
 だから念を押して、目で言い聞かせる。

「ああ、その通りだ。皆よろしく頼む。解散」

 鯉之助は全員に解散を命じた。
 もっとも本当の目的は沙織から逃げ出すことだった。

「あまり浮かれないように手綱を握るのが長官でしょう」

 だが、艦橋の下に設けた休憩室の中にまで参謀長が追いかけてきた。

「済まない姉さん」
「姉さんじゃなくて参謀長。何時までも子供なんだから」

 参謀長の態度も身内のような態度だが鯉之助は咎めなかった。
 何というか仲間を家族のように扱う考え方があり、階級差があってもフレンドリーになってしまう。
 特に事実上義姉である沙織に対してはその傾向が強かった。

「まあ、あなたの事だから仕方ないけど」

 呆れ気味に沙織は言う。
 龍馬の親戚である谷干城が彼女の境遇を哀れんで養女にして引き取って以来、鯉之助と沙織の関係は親戚づきあいから発展し今に至っている。

「沙織姉ちゃんは容赦ないな」
「あなたが無鉄砲だからよ」

 樺太で鯉之助が様々な発明品を生み出した時はまだマシだった。
 失敗して泣きべそをかくくらいなら可愛い弟だ。
 しかし、ロシア兵の暴行に憤って戦闘に加わるのはやり過ぎだ。
 柴家の息子さん共々沙織はハラハラしながら鯉之助を見ていた。
 その後も海援隊に入り、沙織も一緒に入って事業を成功させても鯉之助はやんちゃな弟であった。
 一時は結婚もしたし子供もできたが、離婚したのは鯉之助があまりに破天荒であり、妻として支えるのが不可能、部下となって上官である鯉之助に首に縄を付ける、いや補佐した方が良いという沙織の考えによるものだった。
 しかし鯉之助への愛情は変わらず、写真家である田本研造に撮ってもらった鯉之助の写真をずっと手元に置いている。

「とりあえず、この艦橋にある休憩室ではなく長官私室に戻ってください」
「いや、あそこは遠い」

 イギリスで設計されたためイギリス海軍の何百年もの伝統に従って提督の部屋はビクトリーのように艦尾に設けられている。
 そのため艦橋から移動するのが大変なので、鯉之助は艦橋近くに休憩室を設けていた。

「それだと休めないでしょう。報告が上がる度に起き上がってくるから眠ることもできないでしょう」
「うっ」

 何かと首を突っ込みたがる性格の鯉之助を沙織は知り尽くしており図星を指されて鯉之助は黙った。

「開戦前から行動していて碌に休んでいないでしょう。休みなさい。その間に情報を纏めて奥から」
「でも」
「良いですね」
「……はい」

 鯉之助は叱られた仔犬のように大人しく従った。
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