鉄道英雄伝説 アルファポリス版

葉山宗次郎

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第一部第三章

橋が出来るまで

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 順調に路線を増やしコルトゥーナ大橋の建設も終わり、いよいよルビコン川に架ける大橋の建設準備を始めていた。
 だが、厄介事が舞い込んできた。

「建設を早めてくれ?」

「はい、王国政府から要望が入っています」

「早くと言われてもな」

 セバスチャンの言葉は昭弥にとって心外だった。
 計画や仕事に手は抜いて居らず、その中で最大限の速度で仕事を進めていた。
 故に、早くしろというのは仕事が遅い、怠け者と言われているような気がして、昭弥は腹が立った。

「現状でも最大限の速度で建設を進めているんだぞ。金を出したって早くはならない」

 鉄道は技術集約の巨大組織だ。
 金を出して資金的に余裕が出来たとしても、基礎を作る土木技術者、レールを敷く作業員、機関車を動かす運転士、駅を運営する駅員、彼らの人事、給与、福利厚生を行う事務員などなど、様々な人間が必要だ。
 それらの人員を育てる鉄道学園を創設し育成に努めているが、現状の拡大計画の前には不足していると言って良い。

「金銭的にもこちらで何とかしてくれと言っているんですが」

「金も人も出さないが口は出すか……最低だな」

「ほんまにな。けど、王国だけじゃないんやで」

 セバスチャンの側に控えていたサラが恐る恐る言った。

「どういうことです?」

「いやあ、商人の方からも建設を急いでくれと急かされとるんや。鉄道のお陰で色々と運べるんで」

「まあそうですけど」

 ルテティアはルビコン川の水系を利用することで王国を繁栄させてきた。
 なので通商網が発達しており何処にどんな商品があり需要があるかが解っている。
 船よりも速度のある鉄道は場合によっては、船以上に利益をもたらす。

「建設を求めるのは良いけど、労力がね。で、何処を早くやって欲しいと」

「北東方向や」

 ルテティアの北東は草原地帯で乾燥しているはず。灌漑を行えば豊かな穀倉地帯になる可能性が有るが、今は余力が無い。

「それほど利益が入るとは思えませんけど」

「いや、あるんやよ。貿易品が」

「何です?」

「馬や、エフタル産の馬や」

 ルテティアの北方に広がる国エフタル。
 国と言っても遊牧民族の連合体で国主がしょっちゅう代わる事で有名だ。

「そんなに売れるの?」

「売れるわ。馬は鉄道が出来ても、立派な運搬手段や。店の軒先まで鉄道で結ぶわけにはいかないやろ」

「確かに」

 全ての人の家の前に鉄道を結ぶことは現実的ではない。駅と顧客を結ぶための運搬手段が必要だ。

「船ではダメですか?」

「船だと時間がかかるやろ。鉄道であっちゅう間に運びたいんや」

「まあ、方法は考えていますが」

 最近、肉の需要が高まっており、生きたまま牛や豚、鳥を運び貨物駅近くの屠殺場で処理して王都に供給しようと考えていたので、それ用の貨車を改造すれば簡単だろう。

「北東方向ですか」

 昭弥が躊躇ったのは、鉄道がまだ進出していない北東方向へ建設を進めることだ。
 王都は帝国との連絡を考えて西岸に建設されている。
 帝国に近い西側が人口も多く、経済力もあるのでここに鉄道を敷けば早期に投資を回収できると考え建設していた。
 なので東側の建設はルビコン川に橋を建設してからにしようと考えていたのだが。

「そんなに必要?」

「そうや、物を運ぶのに馬車がいるやろ。鉄道の駅まで馬車で運ぶ必要があるんで馬の需要はうなぎ登りや」

 確かに貨物の需要が増えいる。
 遠くから駅に荷物を運ぶ人が多くなっているのだろう。
 ルテティアは川が多いので、船で運ぶことが多いと考えていたのだが、馬車も意外と多いようだ。

「馬が手に入らんと鉄道会社にも支障がでるで」

「そうですね。増収が鈍るのは良くないですね。解りました何とか建設しましょう」

「大丈夫ですか?」

 言いずらそうにセバスチャンが尋ねた。

「建設の準備は進めていたからね。後は資材と作業員の手配が済めば大丈夫だよ」

 安心させるように昭弥は言った。

「接続はどうします?」

 問題なのは東側と西側の接続をどうするかだ。いくら準備を進めているとはいえ、橋は簡単には架けられない。特にルビコン川は数リーグにもなる巨大な川だ。準備は慎重に行ってきていた。
 それを短縮するのは無理に近い。

「連絡船を作る」

「連絡船?」

「うん、前から考えていて、準備をしていたんだけど。実行しようと思う」

 昭弥は一枚の書類を見せた。

「西岸と東岸、大橋を作っている場所の近くに駅と港を作って、その間を連絡船で結ぶんだ。これなら最小限の投資と時間で橋が出来るまで運用できる」

「積み替えに時間がかかりませんか?」

「そこで荷物の載った貨車ごと船に載せる」

「船に貨車ごとですか!」

 突拍子もない答えにセバスチャンは驚きの声を上げたが、昭弥は何事もないように答えた。

「そう、それなら手間もそんなにかからないでしょう」

「しかし、大掛かりになりませんか?」

「そうだけど、橋を作るより簡単だよ」

「でも定時運行できますかね。それに漕ぐ人が何人必要か」

「ああ、船に蒸気機関を積み込むんだ。それを動力源にする」

「船に積み込むんですか?」

 再びセバスチャンは驚いた。蒸気機関は陸上設置型が殆どであり、船の上に載せることなどない。

「機関車に乗せることが出来るんだから簡単だよ。それに船の方が大きいから大きな蒸気機関を搭載することが出来るよ」

「まあ、それなら出来そうですね。でも短期間の運行だけなのに勿体なくないですか?」

「大橋が出来ても他の橋が出来るまでに時間がかかるから。特にオスティアあたりで使えそうだからね。船だから、移動させるのは簡単だし」

「すべての橋の建設が終わったらどうするんですか?」

「改造して貨物船か遊覧船にするよ。まだ使えるならね」

「楽しそうですね」

「そういうわけで、政府のお歴々や商人達に計画実行の手伝いを頼みましょう」

「何を?」

「資金は銀行から得られるから、資材。特に輸送や食べ物の調達などを格安で行って貰いましょう」

「あまりやり過ぎると、恨みを買いますよ」

「向こうから求めてきたんだ、全力で協力して貰う」

 昭弥は意地の悪い笑みを浮かべながら答えた。

「失礼します。お茶が張りました」

 その時、ロザリンドがお茶を入れて入って来た。

「ああっ、またサラさんを連れ込んでいるのです」

「仕事の話だよ」

 苦笑しながら昭弥は答えた。

「女性と話をする事がですか」

「仲間と話をする事だよ」

「言い訳に聞こえます」

「オスティア土産の金平糖があるんだけど」

「頂きますう」

 紅茶を置いたロザリンドは昭弥から金平糖を受け取ると口にほおばった。

「美味しいですう」

「残りもあげるからこれを持って行って」

「はあいい」

 喜色満面でロザリンドは出ていった。

「扱い方が分かってきたみたいやね」

「ええ、何か甘い物を上げると喜ぶし語尾も変化するんです」

「可愛いな」

「はい」

 小動物を飼っている気分だが、あんな可愛い妹のようなものがいるのも良いかもしれない。 
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