鉄道英雄伝説 アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
71 / 319
第一部第四章

戦争初期の情勢

しおりを挟む
 夏から秋の空に変わろうとしていたある日、王国に激震が走った。
 北方貴族の反乱。
 それに伴う、ルテティア王国に接するアクスム、周、エフタルの侵略。
 ルテティアは、存亡の危機に立たされようとしていた。

「では閣議を召集します」

 ユリアは、直ちに閣議を召集したが、一部の大臣も反乱に加わったため、席に空席が目立った。

「状況を説明して下さい」

 正規軍の総司令官代理である総主計長ハレック王国軍中将が説明した。
 本来は、キクリヌス大将が務めるべきだが、反乱に加わっているため、急遽彼が代理の総司令官となった。

「現在、我が国への攻撃を仕掛けているのは大まかに四つの勢力です」

 ハレック中将は、地図を広げて伝えた。

「まず、北方の貴族反乱軍。現在確認されただけで総勢一〇万。ルビコン川沿いに南下しています。更に反乱に加わる貴族や正規軍、傭兵が増えれば一五万から二〇万になるでしょう」

「補給の状況は?」

「各領地の備蓄とルビコン川の水運を利用して輸送しており、枯渇する様子はありません。また、正規軍の備蓄倉庫を各地で制圧しており、兵糧は潤沢にあります」

「王都への侵攻の可能性がありますね」

「非常に高いと言えるでしょう」

 ハレックが司令部の予測を伝えた。

「次にアクスム軍ですが、国境を三〇万の軍勢で突破。チェニスを占領したのち、進撃を再開。大半は沿岸部を制圧しつつ、オスティアに向かっております」

「三〇万ですって。虚仮威しでは?」

 戦争では敵に脅威を与える為、怯えさせる為、あえて多めの人数を言って誇張することが頻繁に行われた。

「偵察の報告は、いずれも信頼に足ります。間違いありません」

「……補給はどうしているのです」

「船を出し、海から補給を受けているようです」

「こちらも補給切れがなさそうですね」

「はい、先鋒が船団と合流できず補給待ちを行う事があるでしょうが、留まることはないでしょう。また別働隊五万が王都へ直進しており、こちらは兵の数が少ない上に騎馬を中心としているため、移動が早いです。差し迫った一番の脅威と言って良いでしょう」

 沈黙が重くなった。

「北方のエフタルは、小規模な騎馬集団が中心ですが、総計で一〇万は超えるでしょう。換えの馬に羊を伴い、ゲルも馬車に乗せ、展開したまま進んでいるので、大規模なことは間違いありません。しかし大規模すぎて、少数の略奪部隊を除けば草原地帯を越えた攻撃はないと考えます。またルビコン川を越えることも、著しく王国が劣勢にならなければ大規模侵攻はないでしょう」

 基本的に遊牧民族は馬で迅速移動を基本としているため、草原以外の場所を進むことは少ない。川や山、森などは移動が困難なため避ける傾向があり、よほど優勢でなければ入らない。
 だが、王国は今劣勢に立ちつつあり、予断を許さない。

「続いて周ですが、国境沿いに三個の軍勢、それぞれ二〇万、計六〇万の集結を確認しました。更に、増強される可能性が高いです。また、他にも増援の軍が編成されているという未確認情報がありますが、確度は高いでしょう。後方で新たな軍を編成している兆候があります」

「さすが東の大国周と言うところですね」

「ですが、大軍故に動きが遅く国境の川を越えていますが、急速に進撃する様子はございません」

「それでも大軍である事に変わりはありません」

 ユリアは深刻な顔をして答えた。

「王国軍はどうです?」

「はい、近衛軍は近衛軍団四個師団六万が欠けること無く王都に待機しております。正規軍は一部反乱軍に寝返りましたが、四個軍団一四個師団二〇万が待機しています」

 通常、帝国軍は、一万二〇〇〇人の歩兵師団三個と八〇〇〇人の騎兵師団一個の四個師団に少数の支援部隊が付いて五万で構成されている。
 王国軍も近衛軍が若干人数が多いのを除いて、これに準じた編成となっている。だが、北方に配備した軍団の一部が反乱を起こしたため、一部が離反し抜けている部隊が多かった。

「足りませんね」

「自警団の人達はどうですか?」

 会議に参加していた昭弥が発言した。
 閣僚では無かったがユリアのたっての願いで参加することになった。

「予備役と自警団は一二〇万を超しており現在掌握している地域だけでも一〇〇万はいるはずです。動員すれば短期間で戦列に加えることは出来ますが、動員した後の補給が出来ません。最悪の場合、王国軍の為に国が荒廃します」

 この世界の軍は昭弥の板世界の近代ヨーロッパの軍と同じで、倉庫から得られる場合を除いて、現地調達が主だ。
 ナポレオン軍の場合、最も強かったと言われる一八〇五年の編成でも、総勢二〇万近くいたが、ブローニュの駐留を除いて一箇所に五万人を越える部隊が存在した事はない。
 これは機動力を増すためと、五万以上の部隊だと現地調達に支障を来たし、食料不足から崩壊するからだ。
 当時とこの世界では、軍隊は自国に居る分には軍事倉庫が使えるが、戦地だと現地調達農家などから買い付けたり略奪をすることで賄っているのだが、人数が多いとその土地から食料そのものが無くなってしまう。
 だが、戦力が少ないと撃破されやすくなるので戦力として大きく、現地調達でやっていける兵力が五万人だった。
 勿論、場所によっては更に少なくなったり、増えたりするが、平均して五万が適当とされている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...