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第一部第四章
戦争初期の情勢
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夏から秋の空に変わろうとしていたある日、王国に激震が走った。
北方貴族の反乱。
それに伴う、ルテティア王国に接するアクスム、周、エフタルの侵略。
ルテティアは、存亡の危機に立たされようとしていた。
「では閣議を召集します」
ユリアは、直ちに閣議を召集したが、一部の大臣も反乱に加わったため、席に空席が目立った。
「状況を説明して下さい」
正規軍の総司令官代理である総主計長ハレック王国軍中将が説明した。
本来は、キクリヌス大将が務めるべきだが、反乱に加わっているため、急遽彼が代理の総司令官となった。
「現在、我が国への攻撃を仕掛けているのは大まかに四つの勢力です」
ハレック中将は、地図を広げて伝えた。
「まず、北方の貴族反乱軍。現在確認されただけで総勢一〇万。ルビコン川沿いに南下しています。更に反乱に加わる貴族や正規軍、傭兵が増えれば一五万から二〇万になるでしょう」
「補給の状況は?」
「各領地の備蓄とルビコン川の水運を利用して輸送しており、枯渇する様子はありません。また、正規軍の備蓄倉庫を各地で制圧しており、兵糧は潤沢にあります」
「王都への侵攻の可能性がありますね」
「非常に高いと言えるでしょう」
ハレックが司令部の予測を伝えた。
「次にアクスム軍ですが、国境を三〇万の軍勢で突破。チェニスを占領したのち、進撃を再開。大半は沿岸部を制圧しつつ、オスティアに向かっております」
「三〇万ですって。虚仮威しでは?」
戦争では敵に脅威を与える為、怯えさせる為、あえて多めの人数を言って誇張することが頻繁に行われた。
「偵察の報告は、いずれも信頼に足ります。間違いありません」
「……補給はどうしているのです」
「船を出し、海から補給を受けているようです」
「こちらも補給切れがなさそうですね」
「はい、先鋒が船団と合流できず補給待ちを行う事があるでしょうが、留まることはないでしょう。また別働隊五万が王都へ直進しており、こちらは兵の数が少ない上に騎馬を中心としているため、移動が早いです。差し迫った一番の脅威と言って良いでしょう」
沈黙が重くなった。
「北方のエフタルは、小規模な騎馬集団が中心ですが、総計で一〇万は超えるでしょう。換えの馬に羊を伴い、ゲルも馬車に乗せ、展開したまま進んでいるので、大規模なことは間違いありません。しかし大規模すぎて、少数の略奪部隊を除けば草原地帯を越えた攻撃はないと考えます。またルビコン川を越えることも、著しく王国が劣勢にならなければ大規模侵攻はないでしょう」
基本的に遊牧民族は馬で迅速移動を基本としているため、草原以外の場所を進むことは少ない。川や山、森などは移動が困難なため避ける傾向があり、よほど優勢でなければ入らない。
だが、王国は今劣勢に立ちつつあり、予断を許さない。
「続いて周ですが、国境沿いに三個の軍勢、それぞれ二〇万、計六〇万の集結を確認しました。更に、増強される可能性が高いです。また、他にも増援の軍が編成されているという未確認情報がありますが、確度は高いでしょう。後方で新たな軍を編成している兆候があります」
「さすが東の大国周と言うところですね」
「ですが、大軍故に動きが遅く国境の川を越えていますが、急速に進撃する様子はございません」
「それでも大軍である事に変わりはありません」
ユリアは深刻な顔をして答えた。
「王国軍はどうです?」
「はい、近衛軍は近衛軍団四個師団六万が欠けること無く王都に待機しております。正規軍は一部反乱軍に寝返りましたが、四個軍団一四個師団二〇万が待機しています」
通常、帝国軍は、一万二〇〇〇人の歩兵師団三個と八〇〇〇人の騎兵師団一個の四個師団に少数の支援部隊が付いて五万で構成されている。
王国軍も近衛軍が若干人数が多いのを除いて、これに準じた編成となっている。だが、北方に配備した軍団の一部が反乱を起こしたため、一部が離反し抜けている部隊が多かった。
「足りませんね」
「自警団の人達はどうですか?」
会議に参加していた昭弥が発言した。
閣僚では無かったがユリアのたっての願いで参加することになった。
「予備役と自警団は一二〇万を超しており現在掌握している地域だけでも一〇〇万はいるはずです。動員すれば短期間で戦列に加えることは出来ますが、動員した後の補給が出来ません。最悪の場合、王国軍の為に国が荒廃します」
この世界の軍は昭弥の板世界の近代ヨーロッパの軍と同じで、倉庫から得られる場合を除いて、現地調達が主だ。
ナポレオン軍の場合、最も強かったと言われる一八〇五年の編成でも、総勢二〇万近くいたが、ブローニュの駐留を除いて一箇所に五万人を越える部隊が存在した事はない。
これは機動力を増すためと、五万以上の部隊だと現地調達に支障を来たし、食料不足から崩壊するからだ。
当時とこの世界では、軍隊は自国に居る分には軍事倉庫が使えるが、戦地だと現地調達農家などから買い付けたり略奪をすることで賄っているのだが、人数が多いとその土地から食料そのものが無くなってしまう。
だが、戦力が少ないと撃破されやすくなるので戦力として大きく、現地調達でやっていける兵力が五万人だった。
勿論、場所によっては更に少なくなったり、増えたりするが、平均して五万が適当とされている。
北方貴族の反乱。
それに伴う、ルテティア王国に接するアクスム、周、エフタルの侵略。
ルテティアは、存亡の危機に立たされようとしていた。
「では閣議を召集します」
ユリアは、直ちに閣議を召集したが、一部の大臣も反乱に加わったため、席に空席が目立った。
「状況を説明して下さい」
正規軍の総司令官代理である総主計長ハレック王国軍中将が説明した。
本来は、キクリヌス大将が務めるべきだが、反乱に加わっているため、急遽彼が代理の総司令官となった。
「現在、我が国への攻撃を仕掛けているのは大まかに四つの勢力です」
ハレック中将は、地図を広げて伝えた。
「まず、北方の貴族反乱軍。現在確認されただけで総勢一〇万。ルビコン川沿いに南下しています。更に反乱に加わる貴族や正規軍、傭兵が増えれば一五万から二〇万になるでしょう」
「補給の状況は?」
「各領地の備蓄とルビコン川の水運を利用して輸送しており、枯渇する様子はありません。また、正規軍の備蓄倉庫を各地で制圧しており、兵糧は潤沢にあります」
「王都への侵攻の可能性がありますね」
「非常に高いと言えるでしょう」
ハレックが司令部の予測を伝えた。
「次にアクスム軍ですが、国境を三〇万の軍勢で突破。チェニスを占領したのち、進撃を再開。大半は沿岸部を制圧しつつ、オスティアに向かっております」
「三〇万ですって。虚仮威しでは?」
戦争では敵に脅威を与える為、怯えさせる為、あえて多めの人数を言って誇張することが頻繁に行われた。
「偵察の報告は、いずれも信頼に足ります。間違いありません」
「……補給はどうしているのです」
「船を出し、海から補給を受けているようです」
「こちらも補給切れがなさそうですね」
「はい、先鋒が船団と合流できず補給待ちを行う事があるでしょうが、留まることはないでしょう。また別働隊五万が王都へ直進しており、こちらは兵の数が少ない上に騎馬を中心としているため、移動が早いです。差し迫った一番の脅威と言って良いでしょう」
沈黙が重くなった。
「北方のエフタルは、小規模な騎馬集団が中心ですが、総計で一〇万は超えるでしょう。換えの馬に羊を伴い、ゲルも馬車に乗せ、展開したまま進んでいるので、大規模なことは間違いありません。しかし大規模すぎて、少数の略奪部隊を除けば草原地帯を越えた攻撃はないと考えます。またルビコン川を越えることも、著しく王国が劣勢にならなければ大規模侵攻はないでしょう」
基本的に遊牧民族は馬で迅速移動を基本としているため、草原以外の場所を進むことは少ない。川や山、森などは移動が困難なため避ける傾向があり、よほど優勢でなければ入らない。
だが、王国は今劣勢に立ちつつあり、予断を許さない。
「続いて周ですが、国境沿いに三個の軍勢、それぞれ二〇万、計六〇万の集結を確認しました。更に、増強される可能性が高いです。また、他にも増援の軍が編成されているという未確認情報がありますが、確度は高いでしょう。後方で新たな軍を編成している兆候があります」
「さすが東の大国周と言うところですね」
「ですが、大軍故に動きが遅く国境の川を越えていますが、急速に進撃する様子はございません」
「それでも大軍である事に変わりはありません」
ユリアは深刻な顔をして答えた。
「王国軍はどうです?」
「はい、近衛軍は近衛軍団四個師団六万が欠けること無く王都に待機しております。正規軍は一部反乱軍に寝返りましたが、四個軍団一四個師団二〇万が待機しています」
通常、帝国軍は、一万二〇〇〇人の歩兵師団三個と八〇〇〇人の騎兵師団一個の四個師団に少数の支援部隊が付いて五万で構成されている。
王国軍も近衛軍が若干人数が多いのを除いて、これに準じた編成となっている。だが、北方に配備した軍団の一部が反乱を起こしたため、一部が離反し抜けている部隊が多かった。
「足りませんね」
「自警団の人達はどうですか?」
会議に参加していた昭弥が発言した。
閣僚では無かったがユリアのたっての願いで参加することになった。
「予備役と自警団は一二〇万を超しており現在掌握している地域だけでも一〇〇万はいるはずです。動員すれば短期間で戦列に加えることは出来ますが、動員した後の補給が出来ません。最悪の場合、王国軍の為に国が荒廃します」
この世界の軍は昭弥の板世界の近代ヨーロッパの軍と同じで、倉庫から得られる場合を除いて、現地調達が主だ。
ナポレオン軍の場合、最も強かったと言われる一八〇五年の編成でも、総勢二〇万近くいたが、ブローニュの駐留を除いて一箇所に五万人を越える部隊が存在した事はない。
これは機動力を増すためと、五万以上の部隊だと現地調達に支障を来たし、食料不足から崩壊するからだ。
当時とこの世界では、軍隊は自国に居る分には軍事倉庫が使えるが、戦地だと現地調達農家などから買い付けたり略奪をすることで賄っているのだが、人数が多いとその土地から食料そのものが無くなってしまう。
だが、戦力が少ないと撃破されやすくなるので戦力として大きく、現地調達でやっていける兵力が五万人だった。
勿論、場所によっては更に少なくなったり、増えたりするが、平均して五万が適当とされている。
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