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第一部 第五章
皇帝との謁見
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ユリア達が王都に帰投した二日後、ようやく帝国軍本隊が到着した。
セント・ベルナルドの復旧が終わり、大軍の通行が可能となったため、帝国鉄道を通り、王都に到着しつつあった。
黒地に金縁の制服を包んだ帝国近衛軍団が皇帝を護りつつ王城に入って行く。
それを迎えるのは王国近衛軍団と王国の正規軍だが、非常に対照的だった。
王国側は、余裕の笑みをたたえ堂々としているのに、帝国側は、精一杯胸を張ろうとしている。
無理も無い。
王国は短期間の間に脅威を全て撃破した勝者に対し、帝国は彼らの後見人、守護者でありながら、来援出来できず、今ようやくやって来たのだ。
心理的な余裕がどちらにあるかよく分かる。
「皇帝陛下、ご入場!」
王城の謁見の間に儀典長の声が響いた。
普段ならユリアが座る王座に、皇帝フロリアヌスが向かう。
上位者である皇帝が来訪した場合、王は玉座を皇帝に譲るのが習わしであり、皇帝の臣下である王は、臣下の礼を取って迎える。
この時もユリアは玉座の前で閣僚と共に臣下の礼を取っていた。
「面を上げよ」
皇帝が玉座に座ると一同に命じた。
「はい」
皇帝とユリアの間で視線が合った。
一方は見下すように、一方は気圧されるような表情をしていたが。
「この度の帝国への侵略に対する行動、誠に大儀であった」
「はっ、ありがとうございます陛下」
今回の事は諸外国が帝国の領土である王国に攻め込んできたのをユリア達王国が撃退したことになっている。
互いに真相は違うことを知っているが、白々しい芝居を続けた。
「しかし、一つ見落とせない点がある」
「何でしょうか?」
「九龍王国の事だ」
予想された質問でありユリアは冷静に聞いた。
「帝国皇帝の承認無く国を認めるとは、越権行為では無いか」
「は、恐れながら陛下。私は非常時においては皇帝陛下の代理として行動することを許されております。セント・ベルナルドが塞がれ連絡が取れない状況において、切迫した事態に対処する権限を与えられております。それを行使したまでのこと。何より戦場においては火急の事態を迅速に処理することが肝要。それらに対処する権限は与えられています」
「う、うむ」
流れるような解答に皇帝は何も言えなかった。
「ですが、独断であったことは事実。お詫び申しわげます。しかし帝国にとって不利とは言えません。どうか皇帝陛下に九龍王国の承認をお願いします」
「……分かった」
隣にいた帝国宰相のガイウスが耳打ちして皇帝は認めた。
「それで反乱に対してはどのような処置を行うのだ」
「はい、処断者名簿と共にお伝えいたします。名簿を」
そう言って、ユリアは名簿を持ってこさせたが、持ってきた人物を見て帝国の一同は戦慄した。
「アントニウス!」
反乱の首謀者であり、皇帝が使嗾したアントニウスがリストを持ってやって来たのだ。
「どういう事だ! 反乱の首謀者が何故ここにいる!」
「はい、反乱首謀者のアントニウスは、反逆の罪により私の奴隷として使っております」
「帝国貴族を奴隷にだと」
王国貴族でも帝国から爵位を貰っている人物は大勢檻、帝国開闢以前からの名門出身のアントニウスも帝国公爵の称号を持っている。
そんな人物を奴隷とするなど聞いたことは無い。
何より帝国市民を奴隷とするのは、よほど性格が悪いか異常者と見られていた。自分と同じ地位、市民にいた者が奴隷となって使われる屈辱が分からないのか、と。更に奴隷から解放されたときどのように付き合えるというのか。
故に元市民を奴隷として使うことはない。
特にプライドの高い貴族に対する仕打ちとしては酷く、死よりも過酷だ。
「正気なのか!」
「反乱の首謀者に対する処罰として妥当と判断しました」
「アントニウス! 良いのか、このような屈辱を受けて! 何か申すことは無いか! 皇帝として聞き入れるぞ」
皇帝の言葉にアントニウスは穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「ありがとうございます。しかし反逆した身としては、どのような処罰も受ける所存。異議はございません。ただ、申す事あるときは直ちに申し上げます」
「あ、ああ。そうか、皇帝として帝国貴族の言葉を聞くのは義務だ」
皇帝が更に促そうとしたとき、ガイウスが止めた。
問いただそうとしたとき、ガイウスは耳打ちした。
「お止めください。これ以上は相手の思うつぼです」
「事を知るアントニウスをユリアの元に置いておけるか」
「最早不可能です。あの態度からして既にアントニウスはユリア陛下に付いております。それどころか。真相を話せば、おしまいです」
「奴は反乱の首謀者だぞ。話しを聞く人間がいるのか」
「帝国貴族としての地位はまだあります。公の場で話されては真実として語られます」
「!」
ようやく皇帝は自分の失言に気が付いた。
先ほど、皇帝として言葉を聞き入れる、皇帝として真実と認めるという言質を与えてしまった。
もし、アントニウスがこの場で皇帝により反逆を使嗾された、と言えばそれは真実となり、皇帝を弾劾する声も上がるだろう。
王国は帝国に対抗する手段をまた一つ手に入れた。
「暗殺できないか」
「最強の番人が近くにいます。一個軍団でも無理でしょう」
勇者の血を引く主人の下にいては、手出しが出来ない。
「ユリアめ」
皇帝はユリアを睨み付けたが、彼女は何処吹く風、という体で笑みまで浮かべている。
「……分かった。王国の反乱については王国の処断をよしとしよう」
「ありがとうございます皇帝陛下」
白々しく頭を下げたユリアを見て、苦虫をかみつぶした。
「ところで、この度の大戦、あれほどの苦境を乗り越えたのだ。苦境の際には多くの英雄が現れるものだ。さぞ多くの英雄が生まれたのではないか?」
「はい、各戦域の司令官を始め将兵は活躍してくれました。なかでも総司令官ラザフォード伯爵、軍務大臣ハレック、鉄道大臣昭弥の三人が特に活躍してくれました」
最後の人物の名前を聞いて皇帝は、あざとく尋ねた。
「ほう、昭弥とは珍しい名前だ。どこから来た人物だ」
「はい、東国の扶桑から来たと聞いています」
「辺境とは言え、帝国の一翼を担う王国の大臣に怪しい異邦人を登用するのはどうかと思うが」
「昭弥は怪しくなどありません。王国の恩人です」
反射的にユリアが反論した。
「出自の定かでは無い人物では無いのか?」
「ですが、王国に多大な貢献を」
「今は、だが、後々災いをもたらすかもしれん。王国、ひいては帝国に仇を為すかどうか見なくては。そのためには、その人物の出自を見るのが最も、簡単だ」
「なっ」
これにはユリアも困った。
こじつけだが一理はある。
帝国は、寛容な国だが出自はかなり気にする。特に高位の人物には市民、それもリグニア開闢以来の名門を求める事が多い。
最近はそのようなことは少なくなったが、未だに根強い。
「皇帝陛下、問題はありません」
そこに助け船を出したのは、ラザフォードだった。
「何かな、ラザフォード伯爵。昭弥なる人物の出自を明らかにしてくれるのか」
「はい」
自信たっぷりにラザフォードは、請け負うと謁見の間に響き渡るように大声で宣言した。
「玉川昭弥をジョン・ラザフォードの息子とする!」
『……え!』
謁見の間に居たラザフォードを除いた全員、昭弥を含めて全員が驚いた。
「皇帝陛下を始め皆さんが証人です。玉川昭弥は我が息子です。彼は王国伯爵にして帝国伯爵、ラザフォード家の出身です。何ら問題ありませんね陛下」
「ぐっ」
ラザフォードに問われて皇帝は黙り込んだ。
いくら皇帝とは言え無定見に権力を行使することは出来ない。特に貴族の家の内部の事は訴えが無い限り、手を付けることは出来ない。養子縁組の申し出があれば、認めざるを得ない。
王国建国時の新参者とはいえ、ラザフォード家は帝国にも認められた貴族だ。十分、出自は保証される。
玉川昭弥の身分は保障された。
「……あい分かった」
それだけ言うと皇帝は謁見の間から出て行ってしまった。
「あ、あの」
混乱した昭弥はラザフォードに尋ねた。
「何だね息子よ」
「いや、そうじゃなくて。そのことなんですけど」
下手に言えば自らも認めてしまうような気がして、言葉が出ずどう言えば良いのか昭弥にはわからず混乱した。
「何だ私の息子になるのは嫌なのか」
「そう言うんじゃ無くて」
「今ならエリザベスが妹になるぞ」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、年上の女性に甘えたいのか。何年齢を一つ二つ下にごまかして書類に記入すれば姉に出来るから問題無い。書類は結構いい加減でごまかしが効く」
「そうでもなくて」
「ああ、女兄弟は嫌なのか。兄は無理だが弟なら今からでも製造できる。これから再婚するなり妾を迎えるなどすれば一年ほどで弟が……」
「話しを聞けや」
勝手な事を言うラザフォードに苛立った昭弥は、彼には珍しく荒い言葉で突っ込んだ。
「どうして私を息子に」
「なに、言ったとおり身分を保障するだけだよ。何時までも異邦人という訳にはいかないからね。閣僚ともなると」
「そうですか」
「君のお陰で鉄道が国を支えてくれているが、そうなったからには身分不肖の人物が鉄道の中心ではいささか問題だしね」
「まあ、そうでしょうね」
現代で言えばJRグループの社長に国籍不明の人物が就任するようなものだろうか。国民の移動手段の中枢が、不可解な人物に握られることはそれだけで不安だ。
「あと、さっきからユリアがこちらを睨んでいるんですが」
「まあ、エリザベスとは兄妹になったからね。兄か弟かはともかく、義兄妹だからね。今まで以上に触れ合うことになる。いずれは結婚しても良いからね、義兄妹なら」
「け、結婚!」
思わぬ言葉に昭弥は驚いた。
「そんなの」
「まあ、決めるのは、当人同士だ。無理強いはしないよ。けど、陛下にとっては一大事だろうね」
「なぜです」
「言って欲しいか?」
「やめて下さい」
昭弥は強く言った。
「まったく。折角偉業を為し終えた息子なのにこのようなヘタレとは、情けない。陛下も陛下だ。あそこで昭弥は私の物だ、と宣言すれば私が息子宣言する必要も無かったのだが」
「じゃあ、何で宣言したんですか。陛下を促した方が良かったのでは」
「こっちの方が面白いからだよ」
真顔で答えたラザフォードを見て昭弥は思った。
最悪な人だ。
とんだトリックスターだと思った。
セント・ベルナルドの復旧が終わり、大軍の通行が可能となったため、帝国鉄道を通り、王都に到着しつつあった。
黒地に金縁の制服を包んだ帝国近衛軍団が皇帝を護りつつ王城に入って行く。
それを迎えるのは王国近衛軍団と王国の正規軍だが、非常に対照的だった。
王国側は、余裕の笑みをたたえ堂々としているのに、帝国側は、精一杯胸を張ろうとしている。
無理も無い。
王国は短期間の間に脅威を全て撃破した勝者に対し、帝国は彼らの後見人、守護者でありながら、来援出来できず、今ようやくやって来たのだ。
心理的な余裕がどちらにあるかよく分かる。
「皇帝陛下、ご入場!」
王城の謁見の間に儀典長の声が響いた。
普段ならユリアが座る王座に、皇帝フロリアヌスが向かう。
上位者である皇帝が来訪した場合、王は玉座を皇帝に譲るのが習わしであり、皇帝の臣下である王は、臣下の礼を取って迎える。
この時もユリアは玉座の前で閣僚と共に臣下の礼を取っていた。
「面を上げよ」
皇帝が玉座に座ると一同に命じた。
「はい」
皇帝とユリアの間で視線が合った。
一方は見下すように、一方は気圧されるような表情をしていたが。
「この度の帝国への侵略に対する行動、誠に大儀であった」
「はっ、ありがとうございます陛下」
今回の事は諸外国が帝国の領土である王国に攻め込んできたのをユリア達王国が撃退したことになっている。
互いに真相は違うことを知っているが、白々しい芝居を続けた。
「しかし、一つ見落とせない点がある」
「何でしょうか?」
「九龍王国の事だ」
予想された質問でありユリアは冷静に聞いた。
「帝国皇帝の承認無く国を認めるとは、越権行為では無いか」
「は、恐れながら陛下。私は非常時においては皇帝陛下の代理として行動することを許されております。セント・ベルナルドが塞がれ連絡が取れない状況において、切迫した事態に対処する権限を与えられております。それを行使したまでのこと。何より戦場においては火急の事態を迅速に処理することが肝要。それらに対処する権限は与えられています」
「う、うむ」
流れるような解答に皇帝は何も言えなかった。
「ですが、独断であったことは事実。お詫び申しわげます。しかし帝国にとって不利とは言えません。どうか皇帝陛下に九龍王国の承認をお願いします」
「……分かった」
隣にいた帝国宰相のガイウスが耳打ちして皇帝は認めた。
「それで反乱に対してはどのような処置を行うのだ」
「はい、処断者名簿と共にお伝えいたします。名簿を」
そう言って、ユリアは名簿を持ってこさせたが、持ってきた人物を見て帝国の一同は戦慄した。
「アントニウス!」
反乱の首謀者であり、皇帝が使嗾したアントニウスがリストを持ってやって来たのだ。
「どういう事だ! 反乱の首謀者が何故ここにいる!」
「はい、反乱首謀者のアントニウスは、反逆の罪により私の奴隷として使っております」
「帝国貴族を奴隷にだと」
王国貴族でも帝国から爵位を貰っている人物は大勢檻、帝国開闢以前からの名門出身のアントニウスも帝国公爵の称号を持っている。
そんな人物を奴隷とするなど聞いたことは無い。
何より帝国市民を奴隷とするのは、よほど性格が悪いか異常者と見られていた。自分と同じ地位、市民にいた者が奴隷となって使われる屈辱が分からないのか、と。更に奴隷から解放されたときどのように付き合えるというのか。
故に元市民を奴隷として使うことはない。
特にプライドの高い貴族に対する仕打ちとしては酷く、死よりも過酷だ。
「正気なのか!」
「反乱の首謀者に対する処罰として妥当と判断しました」
「アントニウス! 良いのか、このような屈辱を受けて! 何か申すことは無いか! 皇帝として聞き入れるぞ」
皇帝の言葉にアントニウスは穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「ありがとうございます。しかし反逆した身としては、どのような処罰も受ける所存。異議はございません。ただ、申す事あるときは直ちに申し上げます」
「あ、ああ。そうか、皇帝として帝国貴族の言葉を聞くのは義務だ」
皇帝が更に促そうとしたとき、ガイウスが止めた。
問いただそうとしたとき、ガイウスは耳打ちした。
「お止めください。これ以上は相手の思うつぼです」
「事を知るアントニウスをユリアの元に置いておけるか」
「最早不可能です。あの態度からして既にアントニウスはユリア陛下に付いております。それどころか。真相を話せば、おしまいです」
「奴は反乱の首謀者だぞ。話しを聞く人間がいるのか」
「帝国貴族としての地位はまだあります。公の場で話されては真実として語られます」
「!」
ようやく皇帝は自分の失言に気が付いた。
先ほど、皇帝として言葉を聞き入れる、皇帝として真実と認めるという言質を与えてしまった。
もし、アントニウスがこの場で皇帝により反逆を使嗾された、と言えばそれは真実となり、皇帝を弾劾する声も上がるだろう。
王国は帝国に対抗する手段をまた一つ手に入れた。
「暗殺できないか」
「最強の番人が近くにいます。一個軍団でも無理でしょう」
勇者の血を引く主人の下にいては、手出しが出来ない。
「ユリアめ」
皇帝はユリアを睨み付けたが、彼女は何処吹く風、という体で笑みまで浮かべている。
「……分かった。王国の反乱については王国の処断をよしとしよう」
「ありがとうございます皇帝陛下」
白々しく頭を下げたユリアを見て、苦虫をかみつぶした。
「ところで、この度の大戦、あれほどの苦境を乗り越えたのだ。苦境の際には多くの英雄が現れるものだ。さぞ多くの英雄が生まれたのではないか?」
「はい、各戦域の司令官を始め将兵は活躍してくれました。なかでも総司令官ラザフォード伯爵、軍務大臣ハレック、鉄道大臣昭弥の三人が特に活躍してくれました」
最後の人物の名前を聞いて皇帝は、あざとく尋ねた。
「ほう、昭弥とは珍しい名前だ。どこから来た人物だ」
「はい、東国の扶桑から来たと聞いています」
「辺境とは言え、帝国の一翼を担う王国の大臣に怪しい異邦人を登用するのはどうかと思うが」
「昭弥は怪しくなどありません。王国の恩人です」
反射的にユリアが反論した。
「出自の定かでは無い人物では無いのか?」
「ですが、王国に多大な貢献を」
「今は、だが、後々災いをもたらすかもしれん。王国、ひいては帝国に仇を為すかどうか見なくては。そのためには、その人物の出自を見るのが最も、簡単だ」
「なっ」
これにはユリアも困った。
こじつけだが一理はある。
帝国は、寛容な国だが出自はかなり気にする。特に高位の人物には市民、それもリグニア開闢以来の名門を求める事が多い。
最近はそのようなことは少なくなったが、未だに根強い。
「皇帝陛下、問題はありません」
そこに助け船を出したのは、ラザフォードだった。
「何かな、ラザフォード伯爵。昭弥なる人物の出自を明らかにしてくれるのか」
「はい」
自信たっぷりにラザフォードは、請け負うと謁見の間に響き渡るように大声で宣言した。
「玉川昭弥をジョン・ラザフォードの息子とする!」
『……え!』
謁見の間に居たラザフォードを除いた全員、昭弥を含めて全員が驚いた。
「皇帝陛下を始め皆さんが証人です。玉川昭弥は我が息子です。彼は王国伯爵にして帝国伯爵、ラザフォード家の出身です。何ら問題ありませんね陛下」
「ぐっ」
ラザフォードに問われて皇帝は黙り込んだ。
いくら皇帝とは言え無定見に権力を行使することは出来ない。特に貴族の家の内部の事は訴えが無い限り、手を付けることは出来ない。養子縁組の申し出があれば、認めざるを得ない。
王国建国時の新参者とはいえ、ラザフォード家は帝国にも認められた貴族だ。十分、出自は保証される。
玉川昭弥の身分は保障された。
「……あい分かった」
それだけ言うと皇帝は謁見の間から出て行ってしまった。
「あ、あの」
混乱した昭弥はラザフォードに尋ねた。
「何だね息子よ」
「いや、そうじゃなくて。そのことなんですけど」
下手に言えば自らも認めてしまうような気がして、言葉が出ずどう言えば良いのか昭弥にはわからず混乱した。
「何だ私の息子になるのは嫌なのか」
「そう言うんじゃ無くて」
「今ならエリザベスが妹になるぞ」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、年上の女性に甘えたいのか。何年齢を一つ二つ下にごまかして書類に記入すれば姉に出来るから問題無い。書類は結構いい加減でごまかしが効く」
「そうでもなくて」
「ああ、女兄弟は嫌なのか。兄は無理だが弟なら今からでも製造できる。これから再婚するなり妾を迎えるなどすれば一年ほどで弟が……」
「話しを聞けや」
勝手な事を言うラザフォードに苛立った昭弥は、彼には珍しく荒い言葉で突っ込んだ。
「どうして私を息子に」
「なに、言ったとおり身分を保障するだけだよ。何時までも異邦人という訳にはいかないからね。閣僚ともなると」
「そうですか」
「君のお陰で鉄道が国を支えてくれているが、そうなったからには身分不肖の人物が鉄道の中心ではいささか問題だしね」
「まあ、そうでしょうね」
現代で言えばJRグループの社長に国籍不明の人物が就任するようなものだろうか。国民の移動手段の中枢が、不可解な人物に握られることはそれだけで不安だ。
「あと、さっきからユリアがこちらを睨んでいるんですが」
「まあ、エリザベスとは兄妹になったからね。兄か弟かはともかく、義兄妹だからね。今まで以上に触れ合うことになる。いずれは結婚しても良いからね、義兄妹なら」
「け、結婚!」
思わぬ言葉に昭弥は驚いた。
「そんなの」
「まあ、決めるのは、当人同士だ。無理強いはしないよ。けど、陛下にとっては一大事だろうね」
「なぜです」
「言って欲しいか?」
「やめて下さい」
昭弥は強く言った。
「まったく。折角偉業を為し終えた息子なのにこのようなヘタレとは、情けない。陛下も陛下だ。あそこで昭弥は私の物だ、と宣言すれば私が息子宣言する必要も無かったのだが」
「じゃあ、何で宣言したんですか。陛下を促した方が良かったのでは」
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