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第二部 第二章
ダンジョンに鉄道を敷くのは間違っているだろうか? 4
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「ここが俺たちの家だ」
昭弥達が案内されたのは生け垣で仕切られた広い庭のある小さな家だった。こぢんまりとしているが、ログハウス風の過ごしやすそうな家だった。
「全員入れるかな」
「奥にゲストハウスがあるから使ってくれ」
「ありがとう。しかし、大きいな」
「遠くのパーティーがやって来る事があるからな。泊まって貰うこともあるから、大きめのパーティーはゲストハウスを持つのが普通だ」
「宿に泊まると幾らなんだ?」
「大体一晩一人金貨十枚が普通だな」
「高いな」
ルテティアの相場の数倍だ。
「そうか? 結構安い方だと思うぜ。それにそれぐらいタダみたいなものだろう。金貨が有り余っているんだから」
そう言って、自分の腰にある袋を見せた。中には大量の金貨が詰まっていた。
「凄い」
だが、よく見ると金貨は幾つもの種類がある。
「見たことのない金貨があるな」
「ああ、古代の文明とか、滅びた国の金貨とかだ。妖魔やドラゴンが集めて貯めるんで、巣の周りにはそういうのが多い」
「一寸待て、ドラゴンとかいるのか?」
「ああ、奥に巣を作っている。侵入した連中の話が無ければ何時討伐しようかと他のパーティーと話していたところさ」
そう言ってレホスは家に入って昭弥達に説明した。
「どうも住処として過ごしやすいようでね。入り口付近に巣を作ることが多い。」
大迷宮はかなりの大きさであり幾つもの通路があり、ドラゴンが通れる場所も多い。
そんなところに巣を作って宝物を集めて溜め込んでいる、という話しだ。
「そういえば、ここは誰が治めているんだ?」
確か昭弥が領主を務めるチェニス公爵領のはず、測量で大きな間違いをしていなければまだ公爵領内のはずだ。
「有力パーティーの合議制だ。ここまで来れる役人なんていないしな」
「そうなのか」
疑問に思った昭弥だったが、彼女たちも一時苦戦する程のモンスターや罠のある大迷宮の通路だ。普通の役人が入って来たら殉職するに決まっている。
「外との連絡はどうしているんだ」
「殆ど無いな。自給自足で済ませているから」
その時、彼の相棒のピニョンがやって来て渡したのは、食事だった。
「なんか見たことのないものが多いな」
「ああ、外の世界の物なんて入ってこないからな」
「どうやって生活しているんだ?」
「周りに居る生物を食べている」
「これは?」
昭弥は寒天のような物を指して尋ねた。
「スライムの干物」
レホスが言った瞬間、調査団の女性陣が一斉に引いた。
「凄いな」
「いや、普通に美味しいぞ。感触が面白い」
と言ってレホスが食べたので、昭弥も食べてみた。
「意外といいな」
寒天ゼリーに旨味が凝縮したような味と感触で中々美味しかった。
「こいつもどうぞ」
渡された瞬間、女性陣が逃げ出した。
「鼠の姿揚げか」
丸ごと油で揚げられた姿は、こんがりきつね色になりながらも鼠の形を残しているのでシュールだ。
「あんまり驚かないな」
「似たような料理がある事を知っているんで」
南米のアンデスの鉄道を調べているとき、動物が育ちにくい高地のご馳走は鼠の一種を使った料理で姿焼きが一番と聞いたことがあったからだ。
その姿を知っていたので昭弥はさほど驚かなかった。
「まあ、美味しそうだね」
「俺の好物だからな」
そう言ってレホスが食べるので昭弥も肉の部分を選んで食べた。
「結構、筋張っていて噛みにくいな、まあ歯ごたえはあるけど」
「だろう。そこが好きなんだ」
レホスは満足しながら食べる。
「ところでどうしてそんな大人数でしかも女性陣を連れて歩いているんだ?」
「鉄道を通すためだ」
「鉄道? なんだそれは?」
「鉄の棒の上を鉄の車輪で走る乗り物だ。主に蒸気機関で走る」
「想像出来ねえな。そんな物、通してどうするんだ?」
「アルプスを越えてレパント海とインディゴ海を結び貿易を盛んにする」
「出来るのか?」
「ここにレパント海側に抜ける通路があると聞いている。そこへ行きたい」
レホスは少し、考えてから答えた。
「あるけどな。ドラゴンの巣があって抜けることが出来ない」
「案内して欲しい」
「案内してどうする気だ?」
「倒して、鉄道を敷けるように安全を確保する」
「新参者が倒すのを助けるのはどうもな。それに、鉄道を敷いて俺たちになんのメリットがあるんだ?」
尋ねられて、昭弥は黙り込んでしまった。
これまでレホス達が討伐しようと準備をしていたドラゴンを、外から来た新参者に取られる。しかも得体の知れない物を自分たちの領域に通そうとしている。
そんな連中に、女王随行だとしても認める訳にはいかないだろう。
その時、レホスの視線が昭弥の荷物に固定されているのを見た。
「なにか?」
「いや」
どうも昭弥の荷物に興味を持っているようだった。
「あ、宜しければこちらの食事も取りますか?」
「良いのか?」
「はい」
そう言って昭弥は、中身を取り出した。
「そういえば、僕たちをどうやって見つけたんです? 大迷宮は広くて出会う可能性は低いと思うんだけど」
「あー、いや、なんか美味しそうな匂いがして」
「そうか」
インスタントラーメンの匂いに釣られたか。
外の世界との交流が無いのでは、調味料の調達は難しいはず。嗅いだことの無い匂いに釣られたか。
ならば、料理で釣る。それほど料理は得意じゃないが、レストラン部門の人間と共同開発したインスタント食品は十分に胃袋を捕らえることが出来るはず。武器は何も剣や魔法だけじゃない。
昭弥は、茶色いペミカンを取り出した。そして鍋に入れて、小麦粉と一緒に煮込み始める。
その間に深皿ついでにガラスコップを用意する。
「結構頑丈な食器とコップだなだな」
激しい戦闘で転がったはずなのに、白い陶磁器の食器は数枚を除いて割れていなかった。
「陶磁器とガラスの会社も経営していてね。頑丈な磁器とガラスを開発して売り出している」
とある目的のために頑丈な磁器とガラスが必要だったのだが、列車内で落としても割れにくい食器として売っている。
やがて、鍋から美味しそうな匂いが漂ってきた。
辛い中にも美味そうな匂いが漂い、食欲を刺激する。
「これは何だ?」
待ちきれずレホスが尋ねた。
「カレーだ」
アクスムで手に入れた香辛料を、何種類もブレンドして作ったカレー粉を混ぜ合わせた物だ。あまりに種類が多く、組み合わせが膨大でどれが良いのか試行錯誤の繰り返しだったが、何とか物になるカレーを作り出した。
カレーが良いのはほどよい辛さだ。辛さが食欲を刺激して、食べたいと思わせる。そのためカレーを嫌いと思う人は少ない。
長旅で疲れて、食欲が無い人でもカレーの匂いをかぎ取って食べて体力を付けて貰えるように作り上げたのだ。
その威力を目の前にいる冒険者にぶつけた。
「さあ、食べてくれ」
本来ならご飯と福神漬けを加えたいが、ないのでビスケットや堅パンで代用する。
旨さが半減ぐらいするが、今までに無い味のハズだ。
「じゃあ、いただくぜ」
そう言って、レホスは一口食べた。
「うまあああい」
完全に虜になったようだ。パンをカレーに浸けては食べ浸けては食べを繰り返し、最後には皿を舐めるように食べた。
「美味かった」
「鉄道が通れば、それを毎日食えるよ」
「よし、案内しよう」
「ちょっとレホス。そんなこと簡単に決めて良いの?」
ピニョンが抗議した。胸のことをまだ根に持っているのだろうか。
「なに、平気だよ。誰が倒しても文句を言わないのが冒険者だ。それにこいつを食えるなら皆納得するはずだ」
「そうだけど」
ピニョンはちらちら、カレーの鍋を見ながら曖昧に答える。
「宜しければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って昭弥からカレーを受け取ると、目を輝かせ、一心不乱に食べた。
「はっ」
再び喋ったのはカレーが無くなったあとだった。
「協力して貰えません?」
「……はい」
顔を紅く染めながら、ピニョンは承諾した。
昭弥達が案内されたのは生け垣で仕切られた広い庭のある小さな家だった。こぢんまりとしているが、ログハウス風の過ごしやすそうな家だった。
「全員入れるかな」
「奥にゲストハウスがあるから使ってくれ」
「ありがとう。しかし、大きいな」
「遠くのパーティーがやって来る事があるからな。泊まって貰うこともあるから、大きめのパーティーはゲストハウスを持つのが普通だ」
「宿に泊まると幾らなんだ?」
「大体一晩一人金貨十枚が普通だな」
「高いな」
ルテティアの相場の数倍だ。
「そうか? 結構安い方だと思うぜ。それにそれぐらいタダみたいなものだろう。金貨が有り余っているんだから」
そう言って、自分の腰にある袋を見せた。中には大量の金貨が詰まっていた。
「凄い」
だが、よく見ると金貨は幾つもの種類がある。
「見たことのない金貨があるな」
「ああ、古代の文明とか、滅びた国の金貨とかだ。妖魔やドラゴンが集めて貯めるんで、巣の周りにはそういうのが多い」
「一寸待て、ドラゴンとかいるのか?」
「ああ、奥に巣を作っている。侵入した連中の話が無ければ何時討伐しようかと他のパーティーと話していたところさ」
そう言ってレホスは家に入って昭弥達に説明した。
「どうも住処として過ごしやすいようでね。入り口付近に巣を作ることが多い。」
大迷宮はかなりの大きさであり幾つもの通路があり、ドラゴンが通れる場所も多い。
そんなところに巣を作って宝物を集めて溜め込んでいる、という話しだ。
「そういえば、ここは誰が治めているんだ?」
確か昭弥が領主を務めるチェニス公爵領のはず、測量で大きな間違いをしていなければまだ公爵領内のはずだ。
「有力パーティーの合議制だ。ここまで来れる役人なんていないしな」
「そうなのか」
疑問に思った昭弥だったが、彼女たちも一時苦戦する程のモンスターや罠のある大迷宮の通路だ。普通の役人が入って来たら殉職するに決まっている。
「外との連絡はどうしているんだ」
「殆ど無いな。自給自足で済ませているから」
その時、彼の相棒のピニョンがやって来て渡したのは、食事だった。
「なんか見たことのないものが多いな」
「ああ、外の世界の物なんて入ってこないからな」
「どうやって生活しているんだ?」
「周りに居る生物を食べている」
「これは?」
昭弥は寒天のような物を指して尋ねた。
「スライムの干物」
レホスが言った瞬間、調査団の女性陣が一斉に引いた。
「凄いな」
「いや、普通に美味しいぞ。感触が面白い」
と言ってレホスが食べたので、昭弥も食べてみた。
「意外といいな」
寒天ゼリーに旨味が凝縮したような味と感触で中々美味しかった。
「こいつもどうぞ」
渡された瞬間、女性陣が逃げ出した。
「鼠の姿揚げか」
丸ごと油で揚げられた姿は、こんがりきつね色になりながらも鼠の形を残しているのでシュールだ。
「あんまり驚かないな」
「似たような料理がある事を知っているんで」
南米のアンデスの鉄道を調べているとき、動物が育ちにくい高地のご馳走は鼠の一種を使った料理で姿焼きが一番と聞いたことがあったからだ。
その姿を知っていたので昭弥はさほど驚かなかった。
「まあ、美味しそうだね」
「俺の好物だからな」
そう言ってレホスが食べるので昭弥も肉の部分を選んで食べた。
「結構、筋張っていて噛みにくいな、まあ歯ごたえはあるけど」
「だろう。そこが好きなんだ」
レホスは満足しながら食べる。
「ところでどうしてそんな大人数でしかも女性陣を連れて歩いているんだ?」
「鉄道を通すためだ」
「鉄道? なんだそれは?」
「鉄の棒の上を鉄の車輪で走る乗り物だ。主に蒸気機関で走る」
「想像出来ねえな。そんな物、通してどうするんだ?」
「アルプスを越えてレパント海とインディゴ海を結び貿易を盛んにする」
「出来るのか?」
「ここにレパント海側に抜ける通路があると聞いている。そこへ行きたい」
レホスは少し、考えてから答えた。
「あるけどな。ドラゴンの巣があって抜けることが出来ない」
「案内して欲しい」
「案内してどうする気だ?」
「倒して、鉄道を敷けるように安全を確保する」
「新参者が倒すのを助けるのはどうもな。それに、鉄道を敷いて俺たちになんのメリットがあるんだ?」
尋ねられて、昭弥は黙り込んでしまった。
これまでレホス達が討伐しようと準備をしていたドラゴンを、外から来た新参者に取られる。しかも得体の知れない物を自分たちの領域に通そうとしている。
そんな連中に、女王随行だとしても認める訳にはいかないだろう。
その時、レホスの視線が昭弥の荷物に固定されているのを見た。
「なにか?」
「いや」
どうも昭弥の荷物に興味を持っているようだった。
「あ、宜しければこちらの食事も取りますか?」
「良いのか?」
「はい」
そう言って昭弥は、中身を取り出した。
「そういえば、僕たちをどうやって見つけたんです? 大迷宮は広くて出会う可能性は低いと思うんだけど」
「あー、いや、なんか美味しそうな匂いがして」
「そうか」
インスタントラーメンの匂いに釣られたか。
外の世界との交流が無いのでは、調味料の調達は難しいはず。嗅いだことの無い匂いに釣られたか。
ならば、料理で釣る。それほど料理は得意じゃないが、レストラン部門の人間と共同開発したインスタント食品は十分に胃袋を捕らえることが出来るはず。武器は何も剣や魔法だけじゃない。
昭弥は、茶色いペミカンを取り出した。そして鍋に入れて、小麦粉と一緒に煮込み始める。
その間に深皿ついでにガラスコップを用意する。
「結構頑丈な食器とコップだなだな」
激しい戦闘で転がったはずなのに、白い陶磁器の食器は数枚を除いて割れていなかった。
「陶磁器とガラスの会社も経営していてね。頑丈な磁器とガラスを開発して売り出している」
とある目的のために頑丈な磁器とガラスが必要だったのだが、列車内で落としても割れにくい食器として売っている。
やがて、鍋から美味しそうな匂いが漂ってきた。
辛い中にも美味そうな匂いが漂い、食欲を刺激する。
「これは何だ?」
待ちきれずレホスが尋ねた。
「カレーだ」
アクスムで手に入れた香辛料を、何種類もブレンドして作ったカレー粉を混ぜ合わせた物だ。あまりに種類が多く、組み合わせが膨大でどれが良いのか試行錯誤の繰り返しだったが、何とか物になるカレーを作り出した。
カレーが良いのはほどよい辛さだ。辛さが食欲を刺激して、食べたいと思わせる。そのためカレーを嫌いと思う人は少ない。
長旅で疲れて、食欲が無い人でもカレーの匂いをかぎ取って食べて体力を付けて貰えるように作り上げたのだ。
その威力を目の前にいる冒険者にぶつけた。
「さあ、食べてくれ」
本来ならご飯と福神漬けを加えたいが、ないのでビスケットや堅パンで代用する。
旨さが半減ぐらいするが、今までに無い味のハズだ。
「じゃあ、いただくぜ」
そう言って、レホスは一口食べた。
「うまあああい」
完全に虜になったようだ。パンをカレーに浸けては食べ浸けては食べを繰り返し、最後には皿を舐めるように食べた。
「美味かった」
「鉄道が通れば、それを毎日食えるよ」
「よし、案内しよう」
「ちょっとレホス。そんなこと簡単に決めて良いの?」
ピニョンが抗議した。胸のことをまだ根に持っているのだろうか。
「なに、平気だよ。誰が倒しても文句を言わないのが冒険者だ。それにこいつを食えるなら皆納得するはずだ」
「そうだけど」
ピニョンはちらちら、カレーの鍋を見ながら曖昧に答える。
「宜しければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って昭弥からカレーを受け取ると、目を輝かせ、一心不乱に食べた。
「はっ」
再び喋ったのはカレーが無くなったあとだった。
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「……はい」
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