鉄道英雄伝説 アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
211 / 319
第二部 第三章

内燃機関

しおりを挟む
「いよいよ、内燃機関の開発に取りかかるぞ」

「内燃機関?」

 すっかり相談役、話し相手になったオーレリーが昭弥に尋ねた。
「簡単に言うとシリンダーの中で燃料を燃やす機関のことだ」

「蒸気機関と違うんですか?」

「蒸気機関は、外のボイラーで発生した蒸気をシリンダーに送り込んで動かす。そのため外燃機関と呼ばれている。大して内燃機関はシリンダーの中に少量の燃料を入れて燃やして膨張させることによって動かす」

「そんなのが必要なんですか」

「ボイラーが不要になるから、小型化することが可能だ。上手く作れば馬車に乗せて馬以上に走らせる事が出来る」

「それは凄い。でもどうやって燃やすんですか?」

「ガソリンを使って、プラグ、電気を使って火花を付けて点火する」

「ガソリンって、危険じゃありませんか」

「いや、ガソリンが一番良いんだ」

 気化しやすく爆発しやすいガソリンを使って動かすのは、危険きわまりないとセバスチャンは反対した。

「内燃機関にはガソリンが最適なんだ」

 熱量が大きく、直ぐ気化してくれるので混合気、燃料と空気が混ざった気体を作り易い。これは良い燃焼を行ってくれるために必要な特性だ。
 危険なのは良く理解しているが少量で十分な働きをしてくれる。

「それにガソリンを有効活用しないとな」

「確かに。でも電気の方が良くありませんか?」

「そうなんだけど、架線を張るのに手間が掛かるし、変電所や発電所の整備と、設備投資が必要になる。乗客数が多い路線じゃ無いと採算が取れない。だが、内燃機関を持つ車両なら、利用者の少ない路線でも最小限の設備投資、車庫や検査のための設備以外必要ないから扱いやすい」

「煤が出ませんか?」

「石炭燃やすより遥かに少ないよ」

 本当ならディーゼル機関を作りたかったが、構造が複雑、特に燃料噴射装置を作るのが難しい。二十気圧の圧力がかかっているシリンダーの中に燃料を千分の一秒単位で噴射停止を繰り返す必要があるのだが、それだけの技術力があるとは思えず、断念した。
 だが発電機が出来た今、点火に必要な電力を確保出来たので、ガソリンエンジンなら実用化出来ると判断した。

「それでもタイミングを合わせるのが大変だけどね」

 ピストンの位置を合わせて点火しなければ回転しない。それどころか逆回転の可能性もある。

「今までの技術を総動員して製造するよ」

 とりあえず発電機を回すために小型の一気筒のガソリンエンジンを作ることにした。

「小さいですね。電車を動かせますか?」

「無理だね。こんな小さいと動かないよ」

 何より動かしたら振動が激しすぎて、乗り心地が最悪だろう。

「さて、ピストンとシリンダーをきちんと取り付けるか」

「あれ上だけしか取り入れ口を作らないんですか」

 オーレリーは疑問を尋ねた。

「ああ、片側だけで十分だ。こっちの方が簡単だ」

 二〇世紀後半から二一世紀初頭において、一般的なガソリンエンジン、ディーゼルエンジンは、ピストンの上側を燃焼室にして下のロッドを介してクランクを回している。
 燃料や空気を取り入れるのはピストンの上だけだ。

「動きますか?」

「高速回転するから大丈夫」

 だが、蒸気機関の場合、ピストン前後にあるシリンダー室に蒸気を入れて走らせている。
 二つのシリンダー室がある事により、左右四つのシリンダー室のどれか二つに確実に蒸気が入る事が出来るため、蒸気機関車は動くことが出来る。
 更に力の加わるタイミングが多いため滑らかな運転が出来る。
 一方、ガソリンエンジンは片側しか無いため、力の入り方がバラバラな上、振動が多いが、構造が単純で動かしやすいという利点がある。

「ガソリンエンジンでも上下に作ったらどうですか」

「考えたけど、難しいからやめておく」

 実際、内燃機関には複動式――上下にシリンダー室を設けて動かしたエンジンはある。日本海軍の潜水艦のディーゼルエンジンや横浜の氷川丸のディーゼルエンジンだ。
 だが、構造が複雑で、扱いが難しく、整備性に難がある。何より、縦置きのため全高が高くなるという欠点があり、今後の大型化を考えると複動式は排除せざるを得ない。

「さて、早速実験だ」

 鋳造工場でエンジンブロック、シリンダーブロック、エンジンヘッド、ヘッドカバー、オイルパン、クランク、シリンダー内筒、ピストン、ロッドなどを鋳造。それらを切削して、表面を滑らかにする部分は滑らかに。接合部分は特に念入りに調整する。
 ここら辺は蒸気機関車用のシリンダーとピストンを作ってきた技術や経験が役に立った。
 バッテリーを作り、プラグを作り、ガソリンを気化させるキャブレターも作って取り付けて行く。
 組み立てが終わると石油化学研究所から送られてきたガソリンを入れて準備完了だ。

「よし」

 ガソリンエンジンの組み立ては学校の実習で習ったことがあるが、自作は初めてだ。
 点火のタイミングが合うと良いのだが。

「回すよ」

 ボタンを押してスタートするタイプでは無く、紐で引っ張る手回しスターターだ。スターターは手間が掛かるので使っていない。
 昭弥は紐の取っ手を掴み一挙に引いた。

「回らないな」

 燃料が回っていないのか。
 昭弥はもう一度、回してみた。

「ていっ」

 ばばばばばっ、という音と共にエンジンが回った。

「よし」

 と思った瞬間、エンジンが止まった。

「どうしてだ」

 昭弥は点検を始める。

「そうか、チョークが無いんだ」

 チョークとは、チョーク弁と呼ばれる吸入口を絞るための弁だ。
 これを使うと空気の流入量が減り燃料の比率が高くなる。エンジン始動時はエンジンが冷たいためガソリンの気化が弱く、燃料を濃くして点火しやすくする。
 現在も使われているが、オートチョークの普及により手動操作の必要が無いので意識されることは少ない。そのため、昭弥も忘れていた。

「吸気口を絞って燃料を増やそう、それとキャブの中にも少しガソリンを垂らしておく」

 いずれも燃料の量を増やす方法だ。
 こうして濃くしておいて、点火しやすくする。

「よし、始動」

 勢いよく紐を引っ張って回す。
 ボボボボボボボッ
 勢いよく、今度は長くエンジンが回り出した。

「おし、成功だ」

 昭弥は、ガッツポーズをして、喜んだ。

「これで売れるんですか?」

「まあ、各駅の発電機や可動式発電機として売れそうだね。けど、重要なのはこれを元に複数のシリンダーで構成されるエンジンを作り出すんだ。そうすれば、もっと大きな力になって動かせる。そして、シリンダーをもっと大きくすれば更に動かせるぞ」

「楽しみです」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...